EX5 魔王と勇者5
「ギアか、来てくれたのか」
「この世界がなくなったら仕事もクソもねぇからな」
「ギアがタダで働いてくれるの!」
「チッ、俺も一度は世界に敵対しちまったからな、何回か世界救っとかねぇと割に合わねぇだろ」
チート勇者は我からギアに視線を移す。
「この世界の絶者か」
「っていうと、お前は別世界の勇者か、なら知ってんだろ、俺は勇者殺しに特化したデザインになっている、どうする、今やめんなら穏便にぶち殺してやるが」
「ふん、俺は自分の世界の絶者も葬った、俺クラスのチート勇者と対を成す絶者をな」
「そっか、そいつは仕事を失敗したわけだ、なら元締が同じ下請けの俺が尻拭いをしてやる」
ギアの身体はまたしても変わっている。見る度に姿が変わるヤツだ。
「このキラーキラーキラーキラーキラー、いい加減長ぇな、通称勇者殺しでな」
「大層な名を語るな、外神の木偶が」
「仕事が出来りゃあ木偶でも歯車でも、なんにだってなってやる」
静寂そして。
「殺戮結界」
ギアから球状の結界が広がる。
「概念溶解!」
チート勇者は結界の中に入る。
「反魔法結界発動」
またしても球状の結界が広がる。チート勇者は存ぜぬ顔だ。
『ギア!』
ポラニアの声だ。ギアに内蔵されたスピーカーからだ、本体は地上にいるのだろう。
『気をつけるポメ! ターゲットが触れたところから結界の効果が弱まっていっているポメ!』
「やつの技能か、なら白兵戦だ」
「死ねガラクタが!」
絶対無敵勝利剣を繰り出す。ギアはキルソードを展開する。チート勇者の斬撃。危ない!
「回避しても斬られる斬撃だ! 気をつけろ!」
ギアは即座に反応、その身で剣を受ける。
「迷わず受けるとはな」
「避けても意味ないんだろ」
「普通は恐怖に支配されるんだがな」
「俺を支配できるのは仕事だけだ」
お返しにギアのキルソードがチート勇者を突き刺す。
「キルソード展開!」
精神力で作られた刀身が巨大化、チート勇者を切裂く。しかし即座に再生した。鎧すらも。
「自動回復持ちか」
「いいや、傷ついていないことにしただけだが?」
これには我も驚かざるを得ない。我らのような魔力生命体ならいざ知らず、やつは生身だ。
「事象の否定、結果を選択したというのか」
「ふん、そこの魔王の言う通りだ。ほら、オレに斬られたフィードバックが来るぞ」
ギアの身体にヒビが入る。
「耐えるか、『溜め衝撃(|ラグ)』のタイミングを見誤ったか、もう少し待ってからやればよかったな」
斬ったダメージのフィードバックを遅らせただけダメージが増加する技能か。
「学んでも無駄だ、こんな雑魚技能、一度の戦いで何度も使わん」
「それでも無限じゃないんだろ、なら貴重なデータが取れた」
「そんなことをしてなんになる、絶者ごときが俺に勝てるわけがない」
「いいか、仕事ってのはな、そんなことの積み重ねだ」
キルソードで斬る。しかし今度は鎧で止まる。
「鎧の強度を書き換えた、お前の斬撃はもう通らない。凍結時間付与」
ギアの動きが一瞬固まる。
「行動に硬直時間を設けた、これからの行動にはリスクが付きまとう」
ギアの全身が入念に斬り叩かれる。強い、ギアでも勝てないというのか。しかしギアは、
「やるしかねぇか、あれやるぞポラニア」
『ポメ!』
諦めない。なんという精神力だ。ギアの身体が拡張していく。内部に凄まじい魔力が渦巻いている。
ギアは膨大な魔力を持っている、しかしそれに耐えうる身体がなかった。昔は暴走していた魔力が今は完全にコントロールされている。
「おい魔王、星を全力で守れ」
「何からだ」
「俺からだ」
凄まじい魔力がチート勇者に向けられる。照準を合わせるだけでこれほどか。
「……驚いたな、因果律を操作しても回避は不可能か、それほどの魔力量、この世界の魔力量よりも多い。ならば俺のチート技能を解放するまで」
「この一撃は俺の会社の技術力が全て詰まっている、食らって死ね。絶望の咆哮!!」
「勇者の斬撃!!」