第17話 モノマ村6
「敵も死に物狂いでくる。気をつけて」
「はい!」
ジゼルがアイナに激を飛ばす。
俺はエリノアが拾って挟んでくれた骸骨兵士の骨から魔力を補給して力を取り戻す。
エネルギー補充の済んだ俺は再び作戦を練る。
最後にモーちゃんの声が聞こえたのが透明龍の切断された下半身からだ、今は聞こえなくなっている。一刻も早く助けなければならない。それにはやつを倒さなければ、どうやって消えている奴の居場所を知る? モーちゃんの助けはもう無い。
考えろ! 考えろ! 考えろ!
行き詰まった時は最初から考えるんだ。俺たちが初めに村を訪れた時、幻影大鷲が下級の魔物を従えて宿屋を囲んだ時、どうして透明龍は出てこなかった?
あの時、そうあの時だ、あの時は雨が降っていた。雨が降るとどうなる? 知らん、試せ!
「ジゼル! 雨を降らせることはできるか!?」
「トラストミー」
ジゼルは天にマイクを向ける。
「始まりはヘイズ! 時点でミスト! 更なるフォッグ! 集いてクラウド! 飽和しレイン! 乱れるサンダー! 急襲せしはゲリラレイン!」
ジゼルの歌詞魔法に合わせて、空に発生した霧が急成長していく、あっという間に大きな雨雲へと変わり、局所的なゲリラ豪雨が吹き荒れる。
「奴が雨の日に襲ってこなかった理由がわかったよ」
雨粒が不自然な動きをしている箇所がある、まるでそこに何かがいるかのように、そう透明龍のシルエットを雨粒一つ一つが描き出しているんだ。
雨で透明龍の姿が顕になる、幻影大鷲がジゼルに迫る、魔法の発生源であるジゼルを倒そうというのだ。
「はぁ!」
「やぁ!」
アイナとキッドが間に割って入り、幻影大鷲を斬りつける。しかしAクラス魔物の体は硬く切断には至らない。
幻影大鷲は避けるでもなく、地に足をつけて、その巨体を活かして押し切ろうとしてくる、二人がかりでも押されてしまう。
そこでキッドが大声をあげた。
「剣技、炎熱圧斬!」
キッドの叫びに呼応するように、剣についていた雨粒が蒸発する、熱気がここまで伝わってくる、真っ赤になった刀身は、見るからに相当な熱を帯びている。
そこから先は速かった。
幻影大鷲の左の翼を熱で切断したのだ。
その時すでに距離をとっていたアイナが、目に何本もの矢を射て幻影大鷲にトドメを刺す。
幻影大鷲は断末魔をあげる、巨体が地に伏した。
「隊長! 魔物の数が多いです! 突破されます!」
聖騎士たちの包囲を突破して魔物が雪崩込む。まだこんなに残っていたのか、多めに見といて正解だった、ざっと見てその数300と言ったところか。
「エリノアは透明龍に専念してくれ、雨で視界が悪い、十分に注意してくれ」
「誰に言ってるんだ、ミーにゃら余裕だよ」
エリノアは軽口を叩きつつも、その動きは紛うことなきSランク冒険者のものだ、魔法巻物を手に取り透明龍に向かって駆け出した。
俺は迫り来る魔物の処理に集中する、矢啄木鳥が鋭い嘴で突撃してくる。
「『骸骨武装』」
青白い光を放つ骨の外骨格に包まれた俺は、骨の左手で矢啄木鳥の突撃を受け止める。手の甲の骨が折れたが痛みは共有されていない。そのまま矢啄木鳥の頭を骨の両手で握り潰してトドメを刺す。
それと同時に骸骨武装が解除される、急いで手に入れた嘴の破片を挟む。こうしなければ俺は魔力不足ですぐに動けなくなってしまう。さて、解析開始だ。『矢啄木鳥から魔法矢を検出、5回使用可能』お、5発か、優秀な能力だな。続いて向かってくるのは人喰い鬱金香だ。おい、人喰いならハンバーガーを狙うなよ!
「『魔魔魔魔魔法矢』」
正面の口から、魔力生成された光の矢が五射放たれる。人喰い鬱金香をズタズタに引き裂く、吹き飛んだ蕾の肉厚な花弁を素早く挟む。解析開始!『人喰い鬱金香から消化液を検出、1回使用可能』
俺は名前から魔法の効果を想像しつつ、次の敵に備える。お次は泥人間か、物理には強いんだよな、ちょうどいい。
「『消化液』」
俺の口から液体が放出される。液体は酸の性質を持っていた、液体を浴びた泥人間は苦しみ悶えとけていく、暴れれば暴れるほど、液体が混ざり合うのが早まる、南無南無。
泥人間から垂れた泥を挟む。流石にここまで雨や泥で汚れてしまうと、落ちたパンと遜色ないが、そうも言っていられまい、解析だ解析! 『泥人間から泥状化を検出、1回使用可能』解析をしていると、軍鶏剣士が早足で俺を斬りつける。避けられない!
「『泥状化』」
真っ二つにされるが、泥となった俺は斬られたそばからくっついて再生する、躍起になって剣を振るってくる、ご覧の通り細切れにされても元通り、硬くなるとは別のベクトルで物理に強くなった。あ、でもこれ攻撃方法がないぞ。
······いや、あるな。
俺は軍鶏剣士の顔に飛びかかる、人形なら口と鼻を塞げば窒息死させることができる。どんどん侵入していく、女神の魔法陣が傷つかないか心配だが、斬られても平気なところを見るに、この魔法を使っている間は物理的な攻撃に対してかなりの耐性を持つようだ。肺を泥で満たす、あっという間に息の根を止めることができた。口から這い出でる、うぷ。この魔法は······使用禁止かな。後味が悪すぎる。
俺は泥状化の能力が解除される前に軍鶏剣士のトサカを短剣で切り取り挟む、解析開始。『軍鶏剣士から斬撃を検出、1回使用可能』これは飛ぶ斬撃を放つ魔法だったな、回数は1回だが、なかなか優秀な魔法じゃないか
これで辺りの魔物は片付いたか。それにしても雨が強い、ふやけてしまう前に、透明龍を倒さなくてはならない。
「バーガー」
「バーガー様!」
周囲の魔物を片付けたジゼルとアイナが俺に駆け寄る。
「雨でふやけてませんか?」
「問題ない、まだいける」
「よかったです、魔物の素材を持ってきました!」
アイナは両手一杯に魔物の素材を抱えている。血だらけの腕や骨、泥や花、この絵だけ見たらサイコパスにしか見えない。ま、それを挟む俺は更なるサイコパンなんだけどな!
「助かる!」
全部挟んでいるとジゼルがマイクを向ける。
「強化呪文を掛ける。何がいい?」
「バ〇キルト」
「バ〇キルト?」
「あ、いや、なんかこう、アガるやつで」
「分かった。君に幸あれ」
体に光が灯る、力がみなぎる、なんだこれは。
「単体に掛ける全能力上昇魔法の中でも最上級のもの」
「サンキュー!」
「オウイエー!」
俺は踵を返して跳ね出す。うおっ! 体が軽い! スーパーボールを思いっきり投げたような、そんな動きだ、口いっぱいの具材も難なく挟めている。移動しながら具材を確認する、知っているものは解析を端折る。
斬撃3回。
魔法矢25回。
消化液1回。
骸骨武装2回。
他のは初めて挟むものだ、解析開始。
軽業猿の尻尾を調べる。『軽業猿から軽業を検出、1回使用可能』。これは聞いたことのない魔法だな、名前的に回避に使えそうか? 大体の魔法は名前から予測できるが。
次は巨大蝙蝠の羽根3枚か。『巨大蝙蝠から超音波を検出、3回使用可能』3枚挟んでるから3回使えるんだな。ルフレオいわく、頭が痛くなるほどの音らしい、超音波は聞こえないはずでは? と、疑問に思うが、おそらく魔法攻撃のことをいってるのだろう。
さて、ここまで挟んでしまうと、よくわからんな。全部一気に使っちゃおう!
「俺がとどめを刺す!」
「あいよ!」
エリノアは後ろを見ずに合わせてくれる。俺が横切るタイミングで、舌を大きく弾いて道を作ってくれた、しかし透明龍も俺の脅威を知っている、1本の舌が俺に迫る。
「『骸骸骨武装』」
魔法を二重詠唱して2倍の外骨格を作り出す、骨の腕も4本魔力生成された。舌攻撃を受けて、粉々に砕け散る、だが攻撃を凌ぐことはできた。
さらに2本の舌が俺に迫る。
「『軽業』」
俺のお尻に黄色い尻尾が魔力生成される、勝手に体が軽業師のように動く、尻尾を使った不規則な動きで、2本の舌を回避する。尻尾は想定外だ、期待していた以上の魔法だ、失敗してもなんとかするつもりだったが賭けに勝った!回避行動が済むと尻尾が消滅する。
水滴が映し出す巨大な龍のシルエット、透明龍は目と鼻の先だ。俺は、君に幸あれの効果が切れる前に奴の口に向かって飛ぶ。
「バーガー! 血迷ったか!」
エリノアの叫びを無視して俺はそのまま透明龍の口に飛び込む、舌による妨害を先読みして、魔法を発動させる。
「『消化液』」
黄色い消化液が舌に掛かる、透明龍は悲鳴をあげて舌をのたうち回らせる、口を大きく開いた、今だ!
「食えるもんなら食ってみろ!」
自ら食われに行くんだがな! そして喰らわせるのもこの俺だ! 喰らえ!
斬撃を3発、
魔法矢を25発、
超音波を3発、
これらの魔法をほぼ同時に唱える。女神の声が忙しそうだ。カセットテープだからいいだろう。
透明龍の口腔内が刻まれてシェイクされていく、やはり体内は比較的柔らかいようだ。さあ!飽和した魔法がどうなるか知ってるか? 俺にもわからん!透明龍の胸部が急激に膨らみ、そして爆発する。
あれ? これって俺もやばくない?
「ぐわああーーッ!!」
「······」
俺はまたしても白い空間にいた。周りを見渡すが、あのチート転生者の姿はどこにもない、空も見るが戦っている者もいない。
俺は視線を正面に戻す、コタツで居眠りしている女神を見る、どてらを着て幸せそうに眠っている。
「おーい」
「んふ、むにゃむにゃ、あはは」
なにわろとんねん。
呆れた俺はコタツの前に置かれた薄型テレビを見る、薄型ってことは俺のかな? リアルタイムで見て、寝落ちしたのか?
年越し番組を最後まで見ようとして結局寝ちゃうタイプか、もしくは夏にやってるジ〇リ映画を最後まで見れない現象か?女神の鼻ちょうちんが割れる。
「むにゃ! んお! お? またきたのぉ?」
「口調が変わっておりますわよ」
女神は袖で涎を拭う、眠そうな目を擦り、指を鳴らしてお茶を出して口に運ぶ。
「あっちぃ! 温度を間違えたああああ!」
「寝ぼけてるのか?」
「貴様が来るのはしばらく先の事かと思っとったのじゃー」
俺を除いて、ここに人はほとんど来ないらしいからな。寝て過ごすのも頷けるか。コタツは人どころか神すらダメにする。
「貴様も入るか? この神器すごいんじゃぞ!」
「神器だらけだな」
俺はコタツに入る。む、小さいな、否、コタツは普通サイズだ、俺の体がデカすぎるのだ。
「こうして見ると、山のようにでかい男よ」
「おい、足でチョンチョンするな」
「ふふ、童貞が慌てておるわ」
「ど、童貞ちゃうわ!」
「違うのか? どれ魔法の鏡に聞いてみようかの」
「はいすいません」
小休止。
「1日に2回も死にかける者がおるとはの」
「この黄金の肉体ならなぁ」
「聞こえないのぉ」
「でもさ、ハンバーガーの体で頑張ってるほうだろ?」
「頑張られても困るのじゃ、惨めったらしい無残な残虐ショーを期待しておったのに、思ってたジャンルと違うのじゃ」
「悪趣味な。残念だったな、俺は精神力でも現代最強のようだな」
「それは違うぞ」
「え?」
「いや、まぁ、それは、関係の無い事じゃ、もう殺して転生させるのは控えることにしたからな」
「なんのことかよくわからないが、それがいい。あのチート転生者みたいにここまで来る奴が出てくるぞ」
「そうじゃな」
女神は深いため息をついてこう続けた。
「貴様が来てから余の調子が狂い始めておる気がしてならんのじゃ」
「というと?」
「優しくなった気がするのぉ」
「それはない」
小休止。
「ほれ、みかん食うか?」
「ああ、あむ」
悔しいけど美味いな。······って、なんでハンバーガーでもないこの体で悔しがってるんだよ、食い物目線で考えるのはハンバーガーの時だけにしてくれ。
「うまいか?」
「あ、ああ。ハンバーガーのままじゃ飯も食えないからな」
女神はお茶をすすっている、まだ熱いらしくペッペッと吐く。
「そういやさ、ブラウン管の砂嵐増えてるよな」
「ん? そうかの?」
女神は後ろを振り向く。ブラウン管の山を目を細めて見つめる。そしてカッと見開く。
「ホントじゃ! なんじゃこれ!」
女神は慌てた様子でコタツから飛び出す。否! コタツをカタツムリみたいに被ってやがる! 行儀の悪い奴め! くッ!? なんて力だコイツ! 俺がッ! 寒いだろうがッ!
「む! 引っ張るでない!」
女神はコタツを手放して、ブラウン管の山に近づくとマジマジと観察する。
「何が起きておる? むむぅ? この短時間で一斉に死んだというのか? まぁそういう事もあるかー?」
神でもわからないことがあるんだな。てか呑気だな。
「俺以外はチート転生なんだろ?」
「うむ、死んでおるのはチート揃いじゃな」
ハンバーガーにされた俺でも生き残れているのに、チート貰って死んでしまうとは情けない。
「チート転生者といっても、どの世界にも神クラスの実力者はおるからな。無謀が過ぎれば死ぬこともあるぞ」
そうか、神はチート転生者より強いこともあるのか。あのスーとか、魔王をやってるスーの兄弟とかは神だよな。はたして俺はそんな人に勝てるのだろうか。
「どうした? 浮かない顔をしおって」
「俺、あの世界だと勇者だからな。魔王が神龍らしくて勝てるのかなって」
「ハンバーガーの体で何が出来るか、チート転生者でも神クラス上位を相手にすれば下手すれば死ぬぞ」
「女神は異世界にいる神たちより強いのか?」
「ふふふ、無知じゃのぉ、どう思う? 貴様の世界でやってやろうか?」
「俺の世界で〇Bはやめてください」
願いを叶える7つのボールもないんだからな。さて、そろそろ戻るか。
「貴様、いま戻ろうと思ったろ?」
「え、なんでわかったの?」
「いや、心を読んだまでじゃが」
「プライバシー心外だ!」
「ふん、知るか!そして帰れると思っておるのか?」
「まさか······ッ!!」
油断していた、俺は死にかけているんだった。そのまま死ぬことだってありえる。
「やっちまったのか、俺は」
「ふふふのふ、残念じゃったな!」
「くそっ!」
でも、アレなら透明龍は倒せただろう、皆無事だ、そう信じたい。
「悔しいが、潔く成仏してやる!」
「キャハハ! 引っかかりよったな!」
「ファ!?」
「嘘じゃ! またしても貴様は生きておる」
「はぁー!?」
「いやぁ、最近の貴様は余裕綽々じゃったからな、ちょっと脅かしてやろうと思っての!」
「······シャレになってないからな」
「何をいまさら」
女神は俺の前に躍り出て振り向く。
「貴様はいつ、どこで、何を成して、どんな風に死ぬのかのぉ」
「愚問だな。俺は、異世界で、魔王を倒し、世界を救い、誰にやられることなく老衰してやる」
女神は妖艶な笑みを見せ指を鳴らす。俺は光に包まれて消えた。
「はっ!!」
俺は意識を取り戻す。そこは戦場ではなく部屋だった、クラウンを急速回転させて周りを見渡す、部屋は暗く月明かりだけが頼りだ、この間取りには見覚えがある、ここはジンニン村の宿屋だ。
外から音は聞こえない、時刻は深夜のようだ。
俺はテーブルの上に置かれた皿に乗っている。布は被せてないが、ホコリがかぶっていないところをみるに、手入れされているようだ。次に具材を確認する。む!? これは上薬草か! 魔力濃度が高いところにしかないはずだが。体は······よし、ちゃんと動くな、千切れたりしたんだろうが、無事に再生してくれたようだ。
「バーガー」
「ジゼル?!」
部屋の隅にいたから気が付かなかった、目にくまをつけてどうしたんだ?
「他の皆は?」
「無事」
よかった。······ならなんでそんなに暗いんだ?
「あれから一週間が経過」
「一週間も」
「みんな無事というのは嘘。バーガーは細切れのパンくずになってた」
「パンくず······か」
俺の体は欠片からでも再生できてしまうのか、たぶん女神の魔法陣が僅かにでも残っていれば再生出来るんだな。
「この一週間」
「うん?」
ジゼルの様子がおかしい、そりゃそうだろうな、普通ならパンくずからの再生なんて不可能だ。
「魔法陣を調べていた」
「え?」
俺が女神のところにいる間にバンズをめくっていたってわけか、それでくまを作っているのか?
「アイナたちには治療と言っておいたけど。内緒で魔法陣を少しづつ傷つけて。バーガーが覚醒するのを遅らせた」
「······なんでそんなことを?」
だから再生に一週間もかかったのか。
「······どうして」
「魂の実体化」
あの魂を具現化する魔法がどうしたんだ? 皆には勇者の魂と嘘をついているが。
「あの魔法を知らないと言ったのも嘘。あの魔法は術者の魂を具現化する魔法」
「し、知っていたのか!?」
「本来なら術者と同じ姿が魔力生成される。なのにバーガーの魂はハンバーガーで具現化されなかった。あの姿が本来のバーガーの姿」
「······」
ミステリーもので犯人が探偵に追い詰められるような······そんな嫌な感覚に襲われる。
「前に魔法陣を写しきれなかったって言ったのも嘘。暗記しているから。皆が寝ている時に写しは完成させてある。そして頭の中で考えて。この一週間。現物を改めて見て理解した」
「何が言いたいんだ」
「バーガー。君は誰?」
ジゼルはそれとなく構えている。マイクは右手に持っているし。既に立ち上がって俺を見下ろしている。臨戦態勢だ。
「俺は勇者だ」
「それは生まれた後の役目。生後一ヶ月で人の言葉を解した理由にはならない」
「それは。人とは違う学習能力がだな」
「嘘。バーガーは普通の人間程度の知能しかない」
これでも記憶力は良くなったんですけど!?
「物に怨念が宿って魔物化することがある。稀に生前の記憶を持ったまま転生するケースも」
「だから何が言いたいんだ」
「バーガーは転生者。あの魔方陣のほとんどは今の道具じゃ解析不能だけど。それだけは断言」
······ここまで来てしまったか······。
だが半分正解と言ったところか。転生元が別の世界だとは気づいていないようだ、黙っていよう。
「バレたか。他の皆には言ったのか?」
「······前に黙っていると約束した。だからこうやって一人の時に話した」
「そうか······俺が悪い魂を持っていたら、ジゼルに危険が及んでいたかもしれないぞ?」
ジゼルは俺の顔をじーっと見ている。
「準備。しておいた」
ジゼルがそう言うと、床一面が薄らと光る、これ全部が魔法陣かよ!
「バーガーが変な気を起こしても。足の裏から魔力を流すだけで。拘束魔法が発動できるようにしておいた」
「用意周到だな」
「万全を期すのは魔導師の役目」
「じゃあ、もう分かったろ? 俺は魔王を倒すために転生してきた筋肉ムキムキの好青年って事が」
「結構。歳いってた」
「だ、だまらっしゃい!」
秘密がバレたところで(まだバレてないこともあるが)俺はジゼルからこの一週間の事を聞いた。
「モーちゃんは生きているのか?」
「生きてる。透明龍の胴体を切断するのがあと少しでも遅れていたら、モーちゃんは死んでいた」
「よかった、······催眠は解けたのか?」
「催眠解除で解いた」
「そうか、ありがとう」
「礼には及ばない。私はバーガーを疑った」
「俺が隠し事をしていたからな、それに慎重なのはいいことだ。それで戦死者は······出たのか?」
「出てない。村人を早めに下げたのはいい判断」
「大勝利か」
「うん。この一週間。お祭り騒ぎだった。私はここに篭っていたけど······ふぁ。眠い。バーガーが起きたことは明日の朝一番に報告する。だから眠っていい?」
「ああ、俺も起きたてだが、寝ていたわけじゃないからな」
ジゼルは首を傾げる。緊張の糸が切れて気だるそうにしている。
「いや、ほら、普通に寝ていたわけじゃなくて、意識が飛んでいたわけだからな。疲れているって意味だよ」
「そう。ならいい。おやすみなさい」
「ああ、おやすみなさい」
翌朝、宿屋の一室に勇者パーティが集まっている。寝起き姿のままのアイナが俺を抱き上げる。
「バーガー様! 目を覚ましたのですね!」
「心配かけた!」
「ホントだよ、アイニャにゃんて、近くの山菜が取れるポイントまで行って上薬草を取ってきたんだよ」
「ありがとう、アイナ」
「えへへ」
「バーガーも起きたことだし、これでやーっとモノマ村の戦いも終わったにゃ」
「あれ、そういやスーは?」
「んにゃ、馬小屋でモーちゃんと眠っているよ」
現状確認をしていると、外が騒がしくなる、燃え盛る真っ赤な炎部隊、隊長のキッドが駆け足で部屋に入る。
「勇者御一行! おはようございます!」
朝から元気なキッドの声に各々が返事を返す、部屋の平均温度が上がるのを感じる。
「宿屋の主人から聞きました、勇者様が目を覚まされたようで」
「ああ、少し居眠りしすぎた」
「もし勇者様がこのまま目を覚まさなかったらどうしようと、こうしてお目覚めになられて何よりです」
その後、俺は広場にて村人たちから祭り上げられた。村で祭事に使われる台に乗せられて、神輿のように担がれた。ジゼルからは、病み上がりでやめたほうがいいとも言われたが。病み上がりなんてハンバーガーには関係ないからな、病み上がる肉体がないのだから。
丸一日、村の中を練り歩き(運ばれた)、帰る頃には日が沈み始めていた、俺は宿屋に帰るとその足で、村長の家に向かった。キッドにも来るように言ってある、今後の話をしておく必要があるだろう。
「バーガー様、私も行きます」
「頼む」
村長の部屋には、俺とアイナ、向かいの席にはジャ〇おじさん似の村長とキッド、床にはスーが寝転がっている。
まず村長が口を開いた。
「勇者様、改めてお礼を言わせてください。村を救っていただき有難うございます、誰一人として戦死者が出なかったのはバーガー様のご決断によるものと聞いております」
「勇者として当然のことをしたまでだ。それに生き残れたのは各自の頑張りだ、俺はそこまではしていないさ」
キッドが興奮した様子で割り込む。
「いやぁ、それにしてもですよ! 透明龍を討伐するとは······凄まじい火力でしたよ勇者様!」
あのカメレオンって小龍より強いんだよな。でもそれは消える能力があるからで、それを封じてしまえばSクラスの中でも下の方だろう。
「そうですよ、バーガー様はすごいんですから!」
「なんでアイナがドヤ顔しているんだ」
「アイナさんもあの弓の腕前、惚れ惚れしました。聖騎士としても働けますよ」
「本当ですか!?」
アイナは目をキラキラさせている。そりゃそうか、聖騎士ってのは冒険者に次ぐ子供の憧れの職業だしな。野球選手やユーチューバーみたいなものだ。
「引き抜きはやめてもらおう、アイナは俺のパーティメンバーだ」
「まさかそんな、勇者様のお連れの方を連れていくわけにはいきませんよ」
「それで本題だがモノマ村はどうするつもりだ?」
「はっ、国王様に報告後、村々に軍を配備することになるかと」
「あの村をそっくりそのまま奪ってしまったらどうだ?」
「モノマ村をですか、それはいい案ですね。魔力濃度が高いのは気になりますが、生息していた魔物は今回の作戦で全て討伐してありますからね、奪うとすれば今が絶好の好機でしょう」
「ならば、その方向でも考えていてくれ。国王には勇者からの案と言っても構わない」
「はっ! その際の村の名前はどういたしましょうか?」
村の名前か、モノマネ村は魔物がつけた名前だもんな、縁起が悪そうだ。そうだな、周りの村の名前を考慮するとこれかな。
「サイコン村かな」




