EX5 魔王と勇者4
「スーはそこで待っていろ」
「ネスはどうするの?」
「あれが落ちる前に、宇宙で迎え撃つ」
魔力を身体に纏い飛び上がる。大気圏を出たあたりでそれと対峙する。
「……人なのか?」
信じたくはないが生身で宇宙空間を移動している。そこにいるのは血のような赤黒い鎧に身を包んだ青年だった。
「お主は何者だ」
返答はない。
「もう一度聞く、お主は何者だ」
2度目の言葉に重い口を開く。
「……すべてかりそめだ。女神の作ったかりそめの世界で何を楽しそうにしている……!」
「……ッ!?」
凄まじいプレッシャーだ。眼前の脅威は剣を抜く。剣は根元から折れている。しかしその威圧感は本物だ。これは間違いない。
「お主……『女神』のなんだ?」
「壊れろ! 星斬り!」
「ッ!?」
我は宇宙空間中の暗黒魔力を凝縮させて斬撃を防ぐ。重い。この斬撃には本当に星を一刀両断する威力がある。斬撃の衝撃を闇で飲み込む。
「作り物ふぜいが」
「もう聞かぬ、この星に仇なす存在であるならば『神々の誓約』に法ってお主を粛清する」
「やってみろ、魔王ふぜいが!」
青年から放たれるあの魔力は……。
「勇者属性の魔力だと!?」
「ウガアアアアアアアッ!!」
荒々しい剣筋だ、勇者魔力が折れた剣を再現している。あれをまともに受けるわけにはいかない。闇の篭手でいなす。いなしているのにも関わらず身体が散り散りになりそうにだ。
「寄りにもよって我の天敵属性持ちとはな」
「この魔力によって、俺は転生先では無敵だった!」
「ぐ……っ、お主、女神によって殺されたという転生者たちの一人か」
「唯一苦戦したのは外神の使徒だったが、それも俺のチートスキルの数々で滅ぼしてやった!」
無数の斬撃をいなす。しかしいなしたはずの斬撃が我を斬り裂いていた。
「『俺の剣は対象を斬り裂く』」
「これは……ごふッ!」
勇者魔力が体内を巡る。闇がうまく纏えない。
「雑兵ふぜいが」
これでも昔は世界3位にまで来ていたのだがな……
イズクンゾ、ブラギリオン、そしてバーガー、世界には我よりも強いものがたくさんいる。我の視野の狭さに嫌気がさす。偽りの玉座で王さまを気取っていた我が恥ずかしい。
だが。
「だが、ここで我が易々と負けるわけにはいかん!!」
龍の姿に戻る。
「我こそは星を覆う暗黒の龍、魔王龍ダークネスドラゴン!」
「チート勇者の奇跡パワー!!」
激烈な光が我を照らす。あの掲げている剣から凄まじい力を感じる。我も手を打つ。
「『心の闇』解放! ダークネスオーラ!」
我の心の闇を増幅させて魔力量を大幅にアップさせる。
「その程度のバフで、このチート剣こと絶対無敵勝利剣に勝てるわけがない!」
こんなときに昔のことを思い出す。我の増幅された心の闇が勇者魔力と混線してしまっているせいか。
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この宇宙は炎龍プロミネンスノヴァドラゴンによって熱せられ動き出した。
はるか昔、我が母である聖母龍シングルマザードラゴンは、その能力によって概念から我ら四神龍を生み出した。聖域龍セックスレスドラゴンは『聖域』、転移龍ドラゴンカーセックスは『次元』、我、魔王龍ダークネスドラゴンは『闇』、そして弟の不滅龍スーサイドドラゴンは『死』だ。
生物の進化を見てきたのが我ら『龍族』なのだ。
我らの魔力に当てられた生物がそれぞれを神とし君臨する『神々の時代』に突入した。そこで原初の悪魔、イズクンゾが生まれた。人間も出てきた。
いつしか魔族と人間は、龍と並ぶ存在になった。魔王が『神々の誓約』を結び、国王が人々を導いたのだ。
そしてこの間の大戦争で、我は人間を切り捨てようとした、この長い戦いが続けば更なる犠牲が生まれてしまう、これ以上の犠牲を生まないために、スーの苦しむ姿を見ないように。この判断をするのに一万年もの時間を要してしまった、スーの反対があったのも大きかった、それほどまでに我は悩んでいた、龍族と魔族が組めば、この拮抗した三つ巴は一方的な虐殺に変わると思っていたからだ。
だが違った。人間は諦めなかった。我らの侵攻に全力で足掻いてみせた、龍族にフィジカルで負けても、魔族に魔力で負けても、決して生きることを諦めなかった。
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この星を守りたい、いや守らなければならない。我にはその責任がある。
一度はこの国を滅ぼそうとした我がこんなことを思うのは厚かましいが、我はバーガーたちに敗れてよかったと本気で思っている。
「感謝するぞ、チート勇者とやら。心置きなくこの星のために戦えるのだからな!」
「守れずに霧散するだけだ。俺に勝利を授けろ!! 絶対無敵勝利剣!!」
我は闇の剣を魔力生成して受ける。チート勇者が驚愕の声をあげる。
「なぜ耐えられる!」
「お主の心の闇がお主を蝕んでいる!」
「俺の心の闇だと」
「やっと相性のいい部分が見えてきたぞ!」
バーガーもアイナも、心の闇が微塵もなかった、我の付け入る隙がなかった。
「我の天敵である勇者属性を持っていようと、持ち主が扱い方を間違えればその力を真に発揮することはない!」
「いい気になるなよ。コマンドオーダー。俺の魂を守れ!」
心の闇が消えて、いや、プロテクトされた。
「デバフ使いならこれで終わりだ。全盛りブッパ斬を喰らえ!」
「ぐ……おお!!」
防御に全集中しても防ぎきれぬとは。……こ、ここまでか。
「さっさと諦めろ! 星ごと真っ二つになれ!」
我ていどの気合いではどうにもならないか、一度は世界を諦めてしまったのだから……。その時だ、背中が押される。この温もりは。
「スー……」
「助けに来たの!」
「待っていろと言っただろう!」
「待てるわけないの!」
「……だが、これは2人でもとめられないぞ、せめてお前だけでも逃げろ」
「そんなの死んじゃうよりツラいの! いやなの!!」
「では、どうしろと……ぐ、もう持たんぞ」
「うん……僕たちだけじゃどうしようもないの、だから呼んだの」
「……まさか」
何かが我の横を高速で通過する。それはチート勇者を弾き飛ばす。斬撃が消える。
「いい仕事したな、魔王」
そこにはギアがいた。