EX5 魔王と勇者3
街を歩く。人々の喧騒が聞こえる。肩で風を切る冒険者、商人の呼び声、子供たちの騒ぎ声。
「いい街を作ったなバーガー」
「バーガーはここにはいないの、言っても聞こえないの、会ってから言うの」
「その前に行っておきたい場所がある」
「どこなの?」
エリノアからもらった街のマップをみる。
「冒険者ギルドだ」
ギルドは街の中心区画にあった。木製で大きな作りをしている。中に入ると視線が集まる。冒険者たちのざわつきが聞こえる。
「おい、あの角、魔族か?」
「なんて禍々しい魔力だ……」
「後ろのは……弱そうだな」
そういうのはもう聞きなれた。無視して依頼書の貼られたクエストボードをみる。
「ネスは冒険者になりたいの?」
「いや、どれほどのものかと思ってな」
「クエストの難易度を見てるの?」
「ふむ、どれもA以下のクエストばかりか」
「上の階に難しいのがあるの」
「ならば行こう」
我らが階段を登ろうとすると大男に止められる。
「おい、魔族が何の用だ? 冒険者でもないだろ、それに上はSクラス冒険者だけしか入れねぇぜ?」
「見るくらいいいだろう、それともお前に我をとめる権利があるのか?」
「そんな小さい体でよく言えるな、見たところ剣の一本も持ってねぇじゃねぇか、魔法使いなら剣士と組んでから出直すんだな」
この体になっているときはこういう輩に絡まれることがある。
「権利がないなら通るぞ」
「魔族はお呼びじゃねぇって言ってんだ!」
殴りかかってくる。血の気が盛んだな、魔王城の城下町を思い出す。
「待て!」
凛とした声がドアの方から聞こえる。大男がビクンと体を震わせ停止する。聖騎士の鎧を身につけた青年だ。
「それ以上はやめておけ、死にたくなければな」
「こ、こんな、小僧に俺はやられませんぜ」
「相手の力量を背丈でしか判断できないお前はEクラス冒険者に格下げだ、受付嬢、彼のためにもそうしてやれ」
「は、はい!」
大男の眉間に青筋が立つ。
「さすがに聖騎士大隊長でも言っていい言葉と悪い言葉がありますぜ、俺はSクラスクエストを控えたAクラストップですよ」
「その程度で浮かれているところも3流だ」
「く、聖騎士だからっていい気になりやがって! やってやるぜ! 岩棍棒!!」
岩魔法で棍棒を魔力生成する。見かけによらず魔法戦士か。
「立ち会ってやろう。俺は王国聖騎士、大隊長が一人、スパイン・ペッパー」
ほう、王国聖騎士大隊長か。その席数は十、四騎士を抜けば王国でも十の指に入る実力者というわけか。大隊長格は『聖剣』を賜るというが、どれ、見させてもらおうか。
「聖騎士大隊長って言えばビビると思ってんのか!」
「力あるものには敬意は示せ、常にだ」
大男が振りかぶる、スパインは聖剣を取り出さない、取り出したのは一枚の紙だ。
「そんな紙切れでどうしよってんだ!!オラ!!」
「ペッパーブレイド」
すれ違うように2人が交差する。
「へ、上手く躱したな、だが次は──」
棍棒がスライスされた。
「なっ! 斬ったのか! そんな紙切れで!」
「これこそが俺の聖剣、『紙聖剣』ペーパー・ソードだ。」
大男は戦意喪失、呆然と立ち尽くしている。スパインは我らのほうに近づく。
「騒がせたな、旅の者か?」
「隠す必要も無いか」
フードを脱ぐ。スパインが目を見開く。
「……黄金の角でまさかとは思ったが、魔王龍・ダークネスドラゴンがこの街に何の用だ」
「もう魔王ではない、そして敵意もない、ここに来た理由も完全にプライベートだ」
スパインは言葉を飲み込む。そしてややあって再び口を開く。
「この街はアイナさまの勇者の矢によって護られている。気をつけることだ」
ほう、あの娘、随分と勇者魔力を使いこなしているようだな。
「では行くが構わんな?」
「大隊長クラスからは個人の判断での裁量が認められる。そして俺は戦争での罪は戦争時に清算されたと見ている、いくがいい」
階段を上がる。下の賑やかな雰囲気とは変わって、冷たい視線を感じる。猛獣が強かに獲物を狙うときのような雰囲気だ。彼らがSクラス冒険者、歴戦の冒険者たちというわけか。
「最近は世界の魔力も多くなってきてるから、全体のレベルも上がってきてるの」
「原因は?」
「魔力バーストなの」
「なるほどな、10年前に多数の神クラスが消えたことにより、その神が蓄えていた魔力が世界に返されたというわけか。すなわち魔力の世代交代」
「そうなの、宇宙の魔力は巡っているの」
「魔力とはなんなのか、我ら魔力生命体はどこから来たのか」
「隙を見せるとすぐに哲学するの!」
適当にSクラスクエストをみる。
「Sクラス魔物の討伐、上位魔人の討伐、魔獣の討伐。そして龍の討伐か」
紙の劣化の仕方からみて数ヶ月は貼られたままだろう。
「下のクエストとは違って作戦期間が長く設けられているの。すぐに片付けられるクエストなら下に行くの」
「ふむ、ならば我がこれら全てをことごとく片付けてやろう、我なら夜までには終わるぞ」
「仕事を取っちゃだめなの!」
「ふ、それもそうだな───────……!?」
なんだ、この魔力は……発生源は宇宙か。スーもこれに気づいたのだろう、青ざめた顔をしている。
「な、ななななんなの!?」
「予知にはなかったか?」
「ないの!」
「ならば『女神』絡み」
あのイズクンゾですら、女神絡みの事象は予測出来なかったという、ならばスーの中のものが使う予知でも察知できなくてもおかしくはない。
「しかしこのとてつもない魔力はなんだ」
「落ちてくるの」
まだ街のもの達は気づいていない。闇を支配する我と、感知系の能力を持ったものを内包するスーのみが気づいているだけだ。
「このままだと街に落ちてくるの!」
「我がいこう」
「ネス!?」
「あれなら我が手を下しても構わないだろう」
冒険者ギルドの外に出る。肉眼ではまだ見えないか。しかしこの放射能のような魔力はどんどん強くなっていっている。