EX4 人類最強の七人16
「邪悪龍、エビルドラゴンだと」
「クゥさま、知っているんですか?」
「太古の昔に猛威を振るったとされる伝説の神格だ」
「それがカセキくんの正体、通りで骨なのに手強かったわけですね!」
「伝説通りなら、こいつはこの世界を滅ぼすだけの力を持っていることになる」
エビルドラゴンもといパロムが嘲り笑う。
「そういうことさ! 神々が跋扈した旧世界の覇者なのさ!」
「どうして他人の体なのにそんなに偉そうにできるんですか!」
「なんとでもいうがいい、さて、まずは呼んでみようじゃないか!」
両手を広げると、空間に亀裂が四箇所発生する。
「四天王招来!」
それぞれの亀裂から黒泥を纏った何者かが出てくる。それをみたサガオが驚く。
「なんなのだ、あの者たちは!」
「あはは! こいつらは見栄えは悪いけどボクの作った真四天王だよ! ブラギリオンは除くとして、それ以外の四天王より遥かに強力な下僕さ!」
パロムが翼を鳴らす。真四天王たちがスカリーチェに襲いかかった。
「これはこれは、手厚いっスね」
「キミさえ抑えておけばボクが敗れることはないからね! 全員で抑えさせてもらうよ」
人類サイドからすれば一人で真四天王を抑えられるのは嬉しい誤算だ。スカリーチェは死んでも近くに転生する、因果転生の能力者だ、殺され続けるなら彼らを長時間足止めすることが可能だ。しかし。
「勇者の矢!」
「旋風烈閃!」
「真実の牙!」
アイナ、サガオ、そしてファングがスカリーチェに加勢する。
「あれ、助けてくれるんスか?」
「貴女は悪い人です!でも助けない理由にはなりません!」
「右に同じなのだ!」
「俺はパロムの思惑通りにいかない真実を見つけただけだ」
残ったクゥ、クロスケ、グレイブの3人はパロムを見上げる。クゥが歩み出す。
「若者たちが開いた道だ、堂々と行くぞ」
「カカカ! 誰に言ってやがンだよ!」
「まだ俺たちにも役目があったとはな」
気合武装を固める。
「行くぜ!」
駆け出したのはクロスケだ。黄金大剣を背負って空を駆ける。
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7日後。ギア・メタルナイツは崩壊したチョウホウ街にて復興作業をしている。
「半球状だった街が更地になってやがる、俺が異世界にいないときに限って色々起きやがるな」
ギアの呟きに隣にいるレイが即座に反応する。
「いいじゃないですかー」
「バカ言え、魔王候補同士の戦い、龍族どもの内乱、三代目魔王の誕生、どれも異世界の存続に関わりそうなもんだろ」
「だからいいじゃないですか、こうして仕事が増えたわけですから」
「俺が言うのもなんだが、だいぶ俺に影響受けてねぇか?」
「さて、どうでしょう」
「ち、ここは任せるぞ」
「どこに行くんですか?」
「全体を見て、復旧方法の効率化ができねぇか見てくる」
ギアは一瞬にして空に飛び上がる。上空から街全体を見る。
「球体が台無しだ、いい仕事だったんだが、これなら一から建設した方が早いな、次はもっと効率的な街に───────」
あるものに気づき街に戻る。
「どうでした?」
「ここで転移魔法陣を使ったか?」
「いえ、ていうか最寄りの転移ゲートからギアに乗ってきたじゃないですか」
「じゃあ、他のやつが使った記録はあるか?」
「ないですね、みんな宙船に乗ったり、別の移動手段で来てます、転移魔法陣は悪用をされやすいので、カーさまから使用許可を頂いた現在でも使ってる場所はメインインフラに限られてます、この間みたいな緊急事態のときは別ですけど」
「使用者不明の転移魔法陣の使用痕がある、ついてこい」
「え、どこに」
「地下だ」
ギアは右手をドリルに変形させる。
「そんなことも出来たんですか!?」
「日々ポラニアに弄られてるからな」
ドリルで掘削、どんどん掘っていく。
「センサーで地中を透過した、ビルディは地下までしっかり作ってやがった、半球じゃなくてちゃんと球状につくってやがったんだ」
「嬉しそうですね」
「いい仕事をするやつはいいやつだ、あれだけの戦いが起きたのに全壊ではなく半壊で済ませやがった」
通路に出たギアはドリルをしまう、ここからは徒歩だ。ギアのセンサーは地下の空洞を正確にスキャンする。入り組んだ通路に上下する階段、大きな吹き抜けにギミックも散りばめられている。
「センサーで透視するなんて、せっかくの隠し通路が台無しです、ズルっこですね」
「見えるもんは仕方ねぇだろ」
ドアの前で立ち止まる。
「ここですか? あ、ノックもしないで入っちゃった」
「誰もいねぇよ」
小部屋だ。
「地下にこんな所が……」
レイの言う通り、ベッド、イス、机、本、魔光石のライトまである。
「設備が充実してるっぽい、ここで誰かが生活してたっぽいですね。むむ」
レイが目を凝らすと小部屋の中心に痕跡を見つける。
「あ、ここで魔法陣を使ったっぽいですね」
「ぽいぽいうるせぇな、どのくらい経ってるか、わかるか?」
「ええ、だいたい1週間前ってところですね」
「例の戦いのときか」
「避難に使用したんですかね」
「行先はわかるか?」
「流石にそれはちょっと、書いてあった内容も魔力を流したときに焼ききれてしまうので、魔法陣の劣化の具合しか分からないですよー」
「そうか、これは」
ギアは本を手に取る。
「珍しい、ギアが本なんか読んでる」
「うるせぇ、これ見てみろ」
渡された本を見る。驚きの声を上げる。
「これって新世界の本ですか!?」
「間違いねぇ、向こうの小説だ」
「王都でもやっと流通し始めたのに、なんで人類の最前線の危険なこの街で?」
「ここにいたやつは新世界に行った可能性があるな」
「だとしたらルール違反ですね」
「ああ、まぁ、それだけわかりゃいい」
「あれ捜査は打ち切りですか?」
「俺たちは刑事じゃねぇ、主がいねぇならその方が都合がいい、勝手に立ち退いてくれたんだ、改装工事がしやすいってもんだ」
「うわぁ、すごいモヤモヤしますよ」
「勝手にしてろ、建設には問題ねぇだろ、それより石像は7体でいいんだな」
「え、あ、はい、人類最強の7人が三代目魔王パロムを討伐した、その記念に石像を建ててほしいそうです」
「デザインは任せるぞ、俺は復興工事に専念する」
「ええー」
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帝国地下牢獄。その最深部。
ファングが目を光らせる。
「お似合いの姿だな、スカリーチェ」
「クスクス。さっさと殺さないんスか?」
独房で拘束されているスカリーチェは相も変わらず笑っている。
「殺さにゃいよ、英雄にゃんでしょ?」
「クスクス、自分で言うのもなんでスが、英雄っスね」
「でも王国の民を大勢殺したからにゃ、王国には置いておけにゃいんだよ」
「ここの民も殺しまくったはずでスが?」
「ミーの決定に従ってくれてるだけだよ」
「帝王さまのおうせのままに、それが俺の真実、この国の真実です」
「うるさいよ、ファング、下がってていいって」
「なりません、こいつがまた暴れだしたらどうなされるおつもりですか?」
「そのための封印施設でしょ? この施設高かったんだから」
株式会社絶望が制作した封印装置入の独房だ。
「ああ、通りで技能の調子が悪いわけっスね」
「魔力も封じてある、存分に笑ってればいいよ」
「そうさせてもらうっス」
エリノアの後ろにいたオディットが横に並ぶ。両目は包帯で隠している。エリノアがさりげなく支える。
「具合悪そうっスね」
「ちょっと脳がショートしただけだわ、それよりあのことについて聞いてもいいかしら?」
「普通に断るっスよ、好きなだけ嬲るといいっス」
「必要とあらばするけれど、貴女には意味ないでしょう。では黙りで構わないからジュの推理を聞いてくださるかしら」
スカリーチェは笑顔を湛えたまま軽く傾げる。
「貴女が唯一愛しているもの、それはイズクンゾ、それは普遍的だと信頼しているわ」
「もちろんっス」
「でもあのときチョウホウ街にいたのはイズクンゾであってイズクンゾではない」
「イズクンゾは女神とやらに力を削ぎ落とされた、あんな形状を取れるはずがないのよ」
「でも確かにお父さまだった、強靭な肉体も無尽蔵な魔力もないのに、あれは確かに圧倒的にお父さまだった」
「だからおかしいの、いないのにいる」
「でも人の感覚で考えると辻褄が合う、ジュたちのように個が神を目指すのとは違う、人は紡ぐ」
「貴女も人なのね。人類に仇なす四天王になろうと、消滅の魔女と恐れられようと、貴女はどこまでいっても人なのよ」
オディットは含みを持たせる。
「何が、言いたいんスか」
「産んだわね、イズクンゾの子を」
それにエリノアが反応する。
「そんにゃ馬鹿にゃ! スカリーチェは自分の胎児を自分ごとMソードで貫いて殺したんだよ!?」
「死んだら別の場所に少しズレて転生する異能、因果転生を使ったのよ」
「それは他人には使えにゃいんじゃにゃい?」
「胎児がまだ自分の肉体である判定のうちに殺したとすれば可能じゃないかしら?それで命をストックしておいたのよ」
「にゃるほど。それなら……でもあれは完全にイズクンゾだったよ」
「魔王因子を打ち込んだんじゃないかしら」
エリノアの顔が凍りつく。
「自分の子供をイズクンゾの依代にしたのか!?」
「人であるから人でなしという言葉が使えるけれど、こうもその言葉が似合う人はそうはいないわね」
「クスクス、憶測で軽蔑しないでほしいっス」
「どうかしらね、そうでないと辻褄が合わないもの」
「貴女は自分の子供を使ってイズクンゾを転生させた」
「でも残念ね、お父さまに昔のような力はもうないわ、あれは長い年月を掛けて手に入れた気合いの賜物なのだから、ただの複製体にしかならないわ」
スカリーチェは笑顔を崩さない。
「それでも最大限の警戒はさせてもらうわ、ジュたちは油断しない、貴女たちのように慢心しないわ、だって人間じゃないもの」
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新世界のどこか。
「ギャハハ、とか思っているんだろうなぁ〜〜〜〜、俺様になんの力もないだとぉ〜〜〜〜〜〜、オディットめ、すっかり立派に育ってよぉ〜〜〜〜〜〜〜」
路地裏で蠢く影が収束する。
「そうだスカリーチェは人だ。だから『愛してる』文字通り愛とは行動なんだぜ、思うだけじゃダメだ。神は独りよがりだし、魔族じゃ愛を理解できねぇ、亜人のはねじ曲がっている。やっぱり人間に限るぜ、ギャハハ……ち、時間か」
影は子供の姿になる。
「……」
街に消えた。