EX4 人類最強の七人13
「ごはっ」
エリノアの魔爪とオディットの一角がカセキくんを貫く。
「『また』負けた、俺は……またしても……絶滅けた……」
カセキくんの窪んだ眼窩に灯っていた光が消えていく。それを見届けた2人が苦しみ出す。
「グニャアアアアア!」
「エリ……ノア……ッ」
2人は漆黒線状魔力に支配されかけている。
「自分ヲ強ク持ッテッ」
オディットがエリノアにまとわりつく漆黒線状魔力を引き剥がそうとする。
「ヴァアアア!!」
「世話ノ焼ケル……姉妹ナンダカラ……」
暴れるエリノアを抑えながらも漆黒線状魔力を引き剥がす。ブチブチブチ。肉体と同化しているため激痛を伴う。僅かに皮膚が見える。プシューっと魔力が抜けていく。
「コレデ……魔力ハコモラナイ……」
『あーあ、勝手だよね』
「ッ!?」
完全に停止していたカセキくんがカクカクと不気味に動き出す。
『勝手に戦って、勝手に負けちゃうなんて、勝手が過ぎるよ。そんなだから絶滅しちゃうんだね』
カセキくんの『中』に何かがいる。
「パロム……ッ」
「ボクがどこにいるか探ってたみたいだけど、ずっといたんだよ、ここにさ。ただ確定事象にするにはそれなりのリスクがあってね」
パロムだ、カセキくんを鎧のように纏っている。
「カセキくんの受けたダメージはもちろんボクには入っていないよ、シュレディンガーシステムさ。さて、まだ20分も経っていないけど、急ごう」
パロムの高速移動、オディットは目で追うも身体がついていかない。
「オーバーヒートしちゃってるからね、もうまともに動くこともままならないでしょ」
2人の目の前に現れたパロムは手をかざす。
「プレゼントだ」
光が放たれる。
身構えるも何も起こらない、怪訝そうにするも、すぐに気づく。
「ウッ!」
「2人にボクの魔力をプレゼントしたよ。気に入ってくれるといいけど、どうかな?」
「ク、ウウウ!!」
抑え込めていた漆黒線状魔力が再び暴走する。
「ギニャアアーーーーッ!!」
「エリノアッ!」
「苦しいだろう?大量の魔力を得た漆黒線状魔力が主導権を奪いに来ているんだ、あはは!」
「……コンナコトヲシテ……何ヲスルツモリ……?」
「共鳴さ」
パロムは指揮するように両手を動かす。
「魔王因子である魔王さまの漆黒線状魔力を探すのに、キミたちの漆黒線状魔力を利用させてもらうのさ」
エリノアとオディットの身体が赤と青に発光する。
「漆黒線状魔力の共鳴が、このチョウホウ街に隠された魔王因子を照らし出す」
抗おうにも注ぎ込まれた魔力は膨大だ。漆黒線状魔力が2人の意識を縛りつけようとしてくる。
「おいおい、もってくれよ、壊れたら反応が弱くなってしまう」
「もうすぐだ、これだけ強く反応させれば、神性物質に囲まれたこの空間の中だろうと必ず見つけられる。さぁ、このチョウホウ街のどこに隠したんだ、スカリーチェ!」
「見えてきた見えてきた!わかるよ、魔王因子のその場所は!」
「ギャハーハ!」
エリノアとオディットの背後に誰かがいる。聞きなれた笑い方。
「はぁ!? そんな馬鹿な……」
「オ父サマ……?」
パロムはハッとする。そこに立っているのは漆黒のローブを目深まで被った人物だった。
「魔王さま……ですか?」
「ギャハハーーッ!! 俺様を見間違えるのか?パロム、えぇーー?」
「いや、そんなはずはない、あのとき確かに魔王さまはーー」
「おいおい、パロム、自分の計算に浸るのもいいけどよぉ、結果をちゃんと受け入れねぇと進歩はねぇぜーー?」
パロムは身動ぎしている。
「おーおー、魔王になろうという奴らが集まっとるのぉ〜、どいつもこいつも俺様繋がり、俺様の影響めちゃくちゃ受けてんじゃねぇか〜、ギャハハーーッ!!」
「魔王さまが復活なされたということは、魔王としてまた君臨していただけるんですね?」
「おーー、もちだぜ、俺様が復活したんだもう奴らのーー」
パロムはカセキくんの頭蓋骨を飛ばす。ローブの人物は手を合わせる、するとエリノアとオディットにまとわりついていた漆黒線状魔力が頭蓋骨を一瞬で縛り付けた。
「なんのマネだぁ、パロム?」
「他者の漆黒線状魔力まで思いのままか」
「それがどうした?」
パロムはふるふると震えている。
「魔王さまはエリノアたちの漆黒線状魔力には干渉したことがなかったんだ」
「やらなかっただけだぜぇ、パロム、ええ?おい。俺様の新たな一面が見れて嬉しいかぁ?」
「それを使わなくてもいくらでも防げたはずだよ」
「勇者以外に俺様が直接手を下すなんてことはそんなしねぇだろ〜〜」
「ならそのローブをとってください、ボクにあの魔王然とした、お姿を見せてください」
「そういうわけにはいかねぇなぁ」
「……やはり偽物か、漆黒線状魔力を操作したのも何かのトリックだね」
「ならお探しの漆黒線状魔力の在処はどこなんだよぉ?」
「くっ……」
「俺様はここだ。パロムよ、魔王目指すってんならよぉ〜〜、俺様の正体がどっちであれつっかかてこねぇとダメだろぉ?それをなんだ?俺様が俺様ならどうするんだ? ここまで頑張ったのにまた四天王に逆戻りするってぇのぉ?そいつぁお笑い草だぜぇ〜〜、ギャッハハハハハハハハハハーーッ!!」
「うるさい!」
パロムは自称魔王に手を向ける。
「魔王さま、下克上です!」
「それはどうかな?」
「逃がしませんよ」
「少しは自分の心配をしたほうがいいぜぇ、パロム」
パロムは振り返る。
「よぉ、パロム!」
「クロス──」
現れたのはクロスケだ、パロムの頭を掴むと地面に叩きつける。地面を舐めながらパロムが怒鳴る。
「そんな! まだ30分も経っていない! ボクの計算では1時間は掛かる──」
クロスケはパロムの顔面を思いっきり蹴飛ばす。
「ああ? そんなもん全力を超えて走ってきたに決まってンだろうが、つまンねぇこと聞くなよ」
よく見ればクロスケの全身から血が滴っている。漆黒線状魔力の呪縛から開放されたオディットがドン引きしている。
「身体を破壊しながら走ってきたというの?」
「俺は回復力だけが取り柄だからな、千切れた筋繊維を再生しながら走っただけだ」
「なんて人、どうしてそこまで」
「お前らが困ってそうだから助けに来ただけだ。オラ!クソネコ、生きてンのか?」
「にゃんとかにゃ……」
「やられた分しっかり返しといてやるからよく見とけ」
パロムが起き上がる。
「クソ、見失った……まぁいいさ、まさか魔王因子が人型になっているとは思わなかったけど、そういうことなら、いくらでも探し出せる」
「何の話だか知らねぇが、てめぇの悪逆非道もここで終わりだぜ!」