EX4 人類最強の七人12
「魔王因子は見つかったのかしら?」
『駆け引きはもういいのさオディット、キミですらボクの手のひらの上なんだからね』
エリノアは距離をとる。オディットに小声で話す。
「ミー『やってみるよ』」
「ええ、ジュもただやられるくらいなら『やるわ』」
エリノアはカセキくんに噛まれた傷に手を当てる。
「痛む?」
「ちょっと致命傷っぽくてにゃ、にゃはは、オディットはまだ無事だから、こんにゃことしにゃくても時間稼げるでしょ」
「……何を言ってるの、そのていどでらしくないことを──」
「さよなら、オディット」
「エリノア!」
エリノアは全身を漆黒線状魔力で包み込む。さらに赤い精神力を混ぜこませる。
『ほぉ、まるで赤黒い血にまみれた猛獣だ。ふむ、これは『魔獣化』だね』
「フシューーッ!!」
口角から赤い煙が吹き出す。カセキくんは大きく構える。
「来い、小娘!」
「ヴアアアアアアアアアアアアア!!」
エリノアの超スピードタックル、カセキくんはそれを受け止める。しかし押され続ける。
「なんたるパワー!」
『カセキくん、その状態のエリノアをまともに相手してはダメだよ、なにすぐにバテる、ここは回避に専念して──』
カセキくんは力任せにエリノアを地面に叩きつける。
「俺は強者だッ! いついかなる時もッ! 圧倒的強者なのだッ!! GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」
噛みつこうと大口を開ける、エリノアはカセキくんの口に腕を突っ込む。
「ほがが!」
「ジャアアアアアアアアアア!!」
そのまま壁に殴りつける。壁は発泡スチロールのようにいとも容易く削れる。
「恐竜翼!」
カセキくんは変形して空中に逃れる。
「ヴアッ!!」
エリノアの尾から漆黒線状魔力が伸びてカセキくんを捉える。魔力出力を上げても逃れられない。
「バカな! 引きちぎれん!」
引き寄せられる。
「ヴォラッ!!」
魔爪でカセキくんの胴体を貫く。
「がふっ!!」
『カセキくん! 何をしているんだ!』
「こいつは! 骨が折れるぞ!」
砕けた骨をパージ、新たな骨が加わり直る。
「恐竜組手!」
カセキくんが使うのは古代の組手だ、現代の洗礼されたものではなく、力と力のぶつかり合いに特化したもの。洗練され削られたものでは無い純粋無垢な混合物たっぷりの健全なる暴力の型だ。
エリノアの爪撃の連撃を当たりながらも致命は避ける。削られた分だけ近づき、ついにエリノアの両脇を掴む。腕がアギトに変形する。
「恐竜口撃!」
技の決まり具合にカセキくんは頬骨を歪ませる。しかしそれはすぐに引き攣る。
「硬い……!」
エリノアの全身を覆う繊維状の漆黒線状魔力が鎧の役割を果たしているのだ。
「そんなはずはない、俺の──」
手を離せない、漆黒線状魔力が絡まって両手が抜けなくなっている。
キリキリキリキリ。
エリノアは両腕を背中に回して限界を超えて引き絞っている。ブシュッ!ブシュッ!っと引き絞られた肉から血が吹き出す。
「恐竜──」
「ヴァアアアアアアアニャ!!」
破壊力とは緊張からの弛緩のギャップほどに威力をあげる。カセキくんの頭部に魔爪が突き刺さる。
「ドリヴァ!!!」
魔爪が高速回転、カセキくんの固定された両腕が引き契れる。魔爪を発射して壁に叩きつけた。爆風、砂埃が舞う。
「フー!! フー!!」
エリノアの荒い呼吸だけが残る。
「ギニャアッ!!」
頭を抱えて苦しみ悶える。漆黒線状魔力が暴走しているのだ。
「どうした! もうお終いかッ!」
瓦礫を吹き飛ばしながらカセキくんが現れる。エリノアはそれどころではない様子だ。
「ふん!」
両腕の骨を新たに生やす。
『カセキくん、好きにやらせてあげたんだからそろそろボクの言うことも聞いてほしいな』
「いいだろう」
『オディットを狙って』
「わかった。弱いものから死ぬ、大自然のマナーだ!」
カセキくんはオディットを探す。
「いない、逃げたか」
『上だ!』
オディットは落ちながら漆黒線状魔力を全身に纏う。青い魔力が隙間から盛れだしている。
『エリノアと同じだ!』
「来い!」
オディットの目が光る。
「砲撃ではないぞ!」
『水晶目から迸るエネルギーを絞ってビームソードにしているんだ!』
まるで一角のようにオディットの瞳から角めいた水晶魔王砲が出ている。纏う漆黒線状魔力が金魚のヒレや尾を思わせる。人魚のドレスだ。
カセキくんの身体を大きく削る。
「ぐおおおお!!」
『このままじゃ、いくらアンデッドとはいえ、魂が剥がれてしまうよ』
「小癪な、たとえこの場は勝ったとしても、あとに続かなければ命の本懐を遂げることは叶わんぞ!」
カセキくんの猛攻をドレスの袖を使って防ぐ。
「呆れるほどの強度、漆黒線状魔力恐るべし!」
カセキくんはオディットの一角に齧り付く、動きを封じた状態で頭部を狙う。だが持ち直したエリノアが特攻してくる。
「……クソ」
大爆発。