第16話 モノマ村5
俺は白い空間にいた、何度かきたが見慣れない、地平線まで真っ白だから長時間いたら気が狂いそうだ。目の前にはニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべた女神が腰に手を当てて立っていた。
「よ、久しぶりじゃな」
「ああ、生きてんなら早く戻してくれ」
「まぁ、待て。時間は止めてある」
「そっか。今日はリアルタイムで見てたのか?」
「まぁ、そんなところじゃな」
「ん? なんだ? 今日はやけに素直だな」
「まぁ、な」
「まぁまぁって、まぁまぁおばさんかよ」
「誰じゃそれ?」
「知らん」
「知らんのかい! はぁ、萎えるから、あまりつまらぬ事をぬかすでない」
「すまん」
「んんー? なんじゃあ? やけに素直じゃのぉー? ええ?」
「意趣返しはやめてくれ」
「ふふん」
女神は満足そうにひらりと身を翻す。そういや服装が違うな、赤と白の巫女のような服だ。女神のファッションは会う度に変わっているから、別段気にすることでもないか。
「なんじゃ、ジロジロ見つめおって」
「後ろに目玉でもついてんのかよ」
「ついておるぞ」
女神がうなじを見せる。なんとそこには目玉が、
「ねぇじゃねぇか!」
「あるわけないじゃろう」
たく、綺麗なうなじを見せつけただけかよ、ふざけやがって、網膜に焼き付けとこう、よし焼き付いた。俺が呆れて女神から視線を外すと、白い世界に1点だけ赤黒くなっている所がある。
「なぁ女神」
「なんじゃ」
「あれなんだ?」
「あれ? ああ、あれはなんじゃったかなぁ。コーヒーをこぼしちゃったのかな?」
「いや、俺に聞くなよ。コーヒーのシミには見えないな。もっと大きいものだ。なんか人が倒れているようにも見えるが」
「まぁ、人じゃな」
「また殺したのか?」
「まぁな」
「なんで」
「貴様を殺した時と同じ理由じゃ」
暇つぶしかよ、可哀想に女神の毒牙にかかったのか。南無三。
「転生させてやらないのか? というか、ここで死んでるのはおかしくないか?」
「アレは余がまだチート転生にハマっていた時の負の遺産ならぬ勝の遺産じゃ」
「造語を作るな」
「神じゃからな、言葉くらい作るぞ」
「はぁ。それで、そのチート転生者がどうしてここで死んでるんだ?」
「アレはチートの中でも選りすぐりの特別製じゃ、余が与えた超絶チートを駆使してここまで辿り着いたのじゃ、すごかろう!」
「わざわざ女神に会いに来たのか?」
「何を言うか、この領域に到達するだけでもじゃなぁ。貴様のように易々と余のところに来れる者なぞ他におらんという事じゃ」
易々じゃないけどな、このまま死ぬかもしれないんだから。
「アレは余に復讐するために、ここまで来たのじゃ」
復讐ね、そりゃあ殺された挙句、命を弄ばれたら復讐の一つや二つも誓うだろうよ。
「貴様は余に復讐とかしないのか?」
「なんで?」
「最近知ったのじゃが、人は殺されると怒るらしいのじゃ」
「はん、万能な女神らしい思考回路だな。俺の場合は『そこまで』って感じだな」
「そこまでか」
「ああそうだ、現代で何かを達成したわけでもないし、ましてや幸せだったわけでもない。ただ······」
「ただ?」
「やり直すならどこでも一緒だなって。異世界で10年ちょっと過ごした、今の俺はそう思ってるよ」
「ふん。カッコつけてはおるがの、貴様はまた夢半ばで死にかけておるのだぞ、今度は戦い足掻いてみせよ」
「最初に俺を夢半ばで殺したお前に言われてもな」
「す、過ぎたことじゃ」
「せやな」
さて、そろそろ戻るか、あのダメージ程度なら意識が飛んだくらいだろう。エリノアか、さっき助けた聖騎士が具材を挟み直してくれれば、あ、そうだ、薬草使い切っちゃったな、大丈夫かな。ちゃんと復活できるかな。
「お、復活したみたいじゃ」
「え?」
赤黒い物体がむくりと起き上がる。鋭い目つきで女神を睨みつけている、うん、アレは次元が違うや。
「勝てるのか?」
「意外じゃな、余に勝ってほしいのか?」
「いや、別に」
「余が死ねば世界が滅ぶ、とか思っておらぬか?」
「え、違うの?」
「滅ぶわけないじゃろう。余が死ぬ······想像もできぬが、余が死ねば殺した者が、また神になるだけのことじゃ」
「神ね、たしかに神より強かったら神を名乗ってもいいだろうな」
「そういうわけじゃ、まぁ未来永劫そんな事は起きないのじゃがな」
俺は魂だけとはいえ現代の姿をしているので、余裕たっぷりに周囲を観察する。あれ、あの遠くにあるブラウン管テレビの山って前に見たやつだよな、んん?砂嵐の数が増えてないか?
「なぁ、女神。!?」
女神とチート転生者が消えていた。否、空中で高速戦闘を繰り広げている! 俺の動体視力でなければ視認することすら不可能だっただろう。
「〇ラゴンボールかよ!!」
なんて派手なエフェクトとSEだ。この白い世界全体が揺れている!
金属バットで鉄の柱を殴ったのような音を立てて、チート転生者が地面に叩きつけられる。その後を女神はゆっくりと降下する、普通に浮いてるよ。
「ほとんどの能力を壊してやったのに、仲間を全員葬ってやったのに、まだそれだけ動けるとはのぉ。ま、これで10回目の死じゃ、あと何回復活できるかのぉ? それとも、そろそろ貴様自身を壊してしまおうかなぁ? キャハハハ!」
「さては、まったく反省してないな」
「う、うるさい」
「お前、悪役みたいだよな」
「黙っておれ、いまいいところなんじゃ」
「たくよ、恨まれるような事をすると、ひどい目にあうぞ」
「貴様も、この空間に居ればわかるじゃろうな。暇なんじゃ」
「そうだ、俺さ、人に戻りたいんだけど」
「唐突になんじゃ、嫌に決まっておろう。ハンバーガーの姿でちこちこ足掻いておる姿はなかなかの見物じゃぞ。······というかマジで戦闘中にゴチャゴチャ喋りかけるでない興が削がれるわ!」
「だよな、聞いてみただけだよ。さ、そろそろ戻してくれ」
「あ、待て待て」
「なんだよ」
女神はモジモジと後ろ手に手を組んで頬を赤く染めている。
「まぁ、なんだ、その、あれじゃ、殺して、悪かったな」
「ホントになんだよ、急にデレんなよな。なんかフラグ回収したか?」
「いやぁ、ほら、狙って下ネタを言うのは恥ずかしくもなんともないけど、意図せずに下ネタを言った時って赤面するくらい恥ずかしいじゃろ? それと一緒の現象にいま陥っているのじゃ」
「······ああ、人を殺すことが悪い事じゃないと思ってたのか」
「そ、そうじゃ、でも生き返らせるのもなぁ。他の神どもにも目を付けられてての」
「これからはあんまり殺すなよ」
「前向きに善処するぞ」
政治家みたいな事を言ったしおらしい女神を置いて俺は光に包まれる。ちょうど赤黒い執念の炎が再度立ち上るところだった。
それを女神は嬉しそうに見ている、邪悪に顔を歪ませて指を鳴らす。頑張れチート転生者、最強は目の前だ。
「······ぅうっ、ここは」
俺が目を覚ますと聖騎士にテイクアウトされていた。全速力で走っている、周りを見るとジゼルやスー、そして俺と同じく聖騎士に担がれたアイナもいる。
虚脱感や、空腹感といったものはない。俺は現在の具材を確認する。殺人蜂の毒針に、不滅龍の羊羹皮か、ちゃんと回収してくれたようだ。
体の傷は、うん、治っているな。羊羹皮の厚みが僅かに薄くなっている、薬草でなくとも具材の魔力を吸収してちゃんと修復してくれた。隣を走るジゼルが俺に近寄る。
「バーガー。起きた?」
「助かった、今の状態は?」
「最悪には程遠いい。透明龍から逃走中。エリノアがあの場に残って抑えている」
「そうか、早く戻らないとな、アイナは?」
「治癒魔法を掛けた。気を失っているけど命に別状はない」
「よかった、モーちゃんは?」
「見つかってない」
「······そうか」
モーちゃんは透明龍に吹き飛ばされて瓦礫の下敷きになっているのか、それとも驚いて逃げてしまったのだろうか。
エリノアは強い、小龍を単騎で屠れるんだからな。だが透明龍の方が同じSクラスでも格上らしい、一刻も早くあの場に戻らなければならない。
「聖騎士さん、下ろしてくれ」
「はっ! よろしいのですか?」
「構わん、俺は戻ってエリノアを援護する」
「それは愚策。敵は透明龍だけじゃない」
眼前に現れたのは魔物の群れ。巨大蝙蝠が、巨大蛇を掴んで空を飛んでいる。魔物同士で協力プレイしている、けしからん。
「『毒針』」
バンズの隙間から細剣ほどの太い針が突き出る。危うく俺を抱えている聖騎士に当たりかけた、あぶねぇ。ん? 俺は直感的にこの魔法を理解する。この針は出し入れできるのか。俺は針を収納する。この体に収まる長さでは無いのだが、何故か収まる。出す瞬間に魔力生成しているっぽいな。
さらには長さや太さも思いのままだ。最大で大根程度の太さになるし、長さも2mほど伸びる。Aクラスの魔物の素材は優秀なものばかりだな。
「おい、俺を投げろ!」
「は、はい、どちらに?」
「敵に向かってだ!」
「ええ······」
「早くしろ!聖騎士の肩を見せてやれ!」
「は、はっ!」
さすが聖騎士、なかなかの剛腕だ。俺は空を飛ぶ敵の群れの中心部まで飛ばされる、そしてランダム回転しながら毒針を素早く出し入れする。魔力を込め最大の太さと長さでだ。
巨大蝙蝠と巨大蛇のペアを6組を串刺しにしてから自由落下する。聖騎士が走って俺をキャッチする。
少し間を置いて、刺された魔物たちに毒が周り血を吐いて落下する。
「さすがは勇者様だ、魔物の群れを一蹴なさるとは」
「ふっ、この程度で勇者を止められるものか」
「バーガー。調子に乗らない。次が来る」
次は泥人間の群れだ。物理に強いんだよな。
「私がやる。ヘイ! メーン!」
ジゼルが泥人間たちを指さす、どういうわけか泥人間たちの視線がジゼルに集中する。
「俺が放つ魔法の氷花、ドブ川の泥の体で評価」
ジゼルの歌詞魔法を受けて泥人間の動きが油をさしていないブリキの人形のように鈍くなる。
泥人間の体のあちこちから氷の花が咲く、泥の体が凍りついて最後は動かなくなった。軍馬に轢かれて粉々に砕け散る。
「相手の水分を奪って咲く氷花を全体魔法にした」
「さ、さすが勇者パーティです!」
俺たちは疾走した。
魔物に阻まれたが失速せずに村の入口に辿り着く。
エリノアが一人で頑張ってくれている、早く戻らねばならない。入り口にいる連絡係の聖騎士に俺は声を掛けた。
「戦況は!」
「はっ! 負傷者は百名ほどです」
「死者は!」
「出ておりません!」
「よし! 敵はどれだけ倒した?」
「すでに大半の敵は倒しています!」
「わかった、村人たちを下げさせろ。聖騎士は村の入口に固めろ!」
「はっ! ですがどうしてですか?」
「幻影大鷲がここのボスではなかった、透明龍が出たんだ」
「そ、それは! わ、わかりました! 前線で戦っている隊長に伝えてきます!」
連絡係の聖騎士は他の聖騎士にここの留守を頼むと、馬に跨り前線に走っていった。
「アイナはまだ起きないか?」
「今起こす」
ジゼルはバケツに魔法で水を入れると、ベンチに寝かせてあるアイナに水をぶちまけた。
「げほっ! げほっ! な、なんですか!」
「ほら起きた」
「アイナ、大丈夫か!」
「バーガー様こそ!」
俺とアイナは安否確認する。ひしっと抱き合い体をぺたぺた触って互いに頷き合う。
「エリノアが一人で持ちこたえてくれている。精鋭部隊を結成して最後の戦いに行くぞ!」
「はい!」
十分後、聖騎士が勢ぞろいした。先頭に立つキッドが俺に走り寄る。
「遅くなりました。ですがほとんどの魔物は討伐できました」
「そうか、ならすぐに馬を出してくれ」
「透明龍ですね。かなり苦しい戦いになります、ですが焼き倒して今晩の飯にしてやりましょう!」
「その粋だ、行くぞ! 奴に人の恐ろしさを教えてやろう!」
「はっ! 突撃ぃ!!」
エリノアとスーを抜いた勇者パーティと聖騎士が戦場を駆け抜ける。村人たちは村の前で待機させている。十名の聖騎士を残して後は全員出撃だ。
透明龍は中央に移動していた、あの巨体で激しい戦闘を繰り広げているので騒音と砂煙ですぐに場所が特定できた。
「すでにジゼルが看破の魔法を掛け、姿を暴いている」
「おお! それなら我々でも剣を当てることができます!」
「幻影大鷲は追い詰めたが、中央部に逃げた。アイナの毒矢を受けてはいるが、生存していれば落ち合う可能性が高い」
「はっ! 総力戦ですね、望むところですよ!」
村の中央に着く。広々としていて、透明龍くらいの巨体が暮らせるようになっている。勘のいい探偵ならこれを見ただけで、ここが魔物村だと推理できたかもしれない。
家の影から巨大な龍が現れる、透明龍だ。俺たちには目もくれず、エリノアと戦闘を繰り広げている。
それは激闘だった。透明龍の鞭のような舌の攻撃をエリノアは剣で弾く。エリノアの背後から襲いかかる軽業猿を投げナイフを頭部に当てて始末する。
辺りには魔物の死体がゴロゴロしているが、それでもまだ魔物が多い。隠れていた伏兵だろう。
「聖騎士たちは周りの魔物の相手を、俺たち勇者パーティは透明龍を倒す」
「はっ! 行くぞお前たち!」
俺はいち早くエリノアの近くに跳ね寄る。エリノアは俺の方を見ないで話し出した。
「待ってたよ、バーガー、皆は無事か?」
「エリノアのお陰でな」
「そうか、にゃあバーガー」
「どうした?」
「あの透明龍の口の端からから出てるの見えるか?」
「口の端っこ? ······あれは!?」
「透明龍の腹を刺激した時に出てきたんだけど、あれって」
「······ああ、見間違えるものか」
斧牛の角だった。
俺は戦慄した、モーちゃんは透明龍に食われてしまった。モーちゃんが見つからないのもそう考えればうなずけてしまう。クラウンを素早く一周させる、俺の動体視力ならそれだけで全体の状況を把握できる。勇者パーティの面々は、俺の指示がなくともそれとなく陣形を作ってくれている。エリノアと俺が前衛、アイナとジゼルが後衛だ。
聖騎士たちは他の魔物が近寄らないように戦ってくれている、皆やれることを全力でやってくれている、今は感傷に浸っている場合じゃない。
「エリノア、やっちまおう」
「もちろんだよ」
俺とエリノアが二手に分かれて駆け出す。俺が右側でエリノアが左側だ(エリノアが右手に剣を持っているためだ)。エリノアの方が速いがそれがかえって波状攻撃になる。
透明龍の攻撃方法は全てあの高性能な舌によるものだ。いくら速いとはいえ、左右から攻撃を受ければ反応が鈍るはずだ。
「ぐっ!!」
俺は毒針を魔力生成して舌の攻撃をギリギリで防いだ。俺の方に舌が来た、それでいい、その分エリノアがフリーになる。しかしエリノアが後退していた、舌の攻撃を防御したのだ、どういうことだ、さすがに舌の攻撃が速すぎる。俺は目を凝らす。
驚くべき事実が判明する。
「こいつ舌が2本あるのか!」
左右の目を別々に動かすのと同じように2本の舌を別々に動かしている、二枚舌とはまさにこの事。
アイナの矢と、ジゼルの氷の玉が着弾する。しかし目に当たった矢は瞼に弾かれてしまう、瞼も鱗で覆われていて硬いのだ。氷の玉も効いていないように見える。
透明龍はカメレオンのような独特の前後に揺れる動きで迫ってくる。最後の素材を使う時が来たようだ。
「『魂の実体化』」
俺から溢れる青いオーラが人の形になる、三角巾を頭に巻いた、青い筋肉の精霊が現れる。それを見た透明龍の雰囲気が変わった、どうやら俺の勇者感が伝わったらしいな。
透明龍が口を大きく開く、ゾロゾロと舌が現れる、その数計7本。それら全てをマシンガンのように打ち出す、本気なんだな、ならば壁ドンだ!
拳と舌突きのラッシュ合戦だ、だが透明龍の敵は俺だけじゃない。俺に集中している隙をエリノアが突く。
エリノアは魔法巻物を親指で弾く。魔法巻物は青白い光を放ち煙をあげて消滅する、代わりにエリノアの持つ片手剣に魔力生成された外装が装着される。あれは打撃属性付加だ。
大きな槌となった片手剣をエリノアは両手で振り回す、遠心力を活かした豪快な一撃を透明龍の左脇腹に加える。ちょっと宙に浮く程の威力だ、口から斧牛の角が落ちる。角は折れていてモーちゃんの姿はない。
やはり食われてしまったのか。わかったよ、モーちゃん、いま仇を討つからね。
俺は舌の動きが鈍ったタイミングを見計らって、7本全ての舌を両脇に挟んでホールドする。
「かーらーのおおおおお!」
筋肉の精霊のジャイアントスイングだ、エリノアは地面に這いつくばって回避してくれた。スピードが乗ってきた、横回転から縦回転へ移行する、後ろから前へ、背負い投げの動きで透明龍を背中から叩きつける。
砂埃が舞う。今のは手応えがあった。
「やりましたね!」
アイナ、あかん、それは言っちゃっダメ!
砂煙が晴れる、透明龍の姿が消えていた。しまった、消える魔法を使われた、あいつがSクラスの理由はこれだったのに俺はなんという悪手を、
「ぐっ! これじゃ、やつの位置がわらがない!」
衝撃が走る、見えない舌の攻撃だ、筋肉の精霊が防御してくれなかったら、また意識を失っていただろう。
またジゼルに看破を掛けて、姿を暴いてもらうか? 否、同じ手は二度通用するとは思えない。ならどうする?
「モーー!」
······今の声は······まさか······。
「モーちゃん······?」
モーちゃんの鳴き声が何度も聞こえる、そして聞こえる位置が毎回変わる。まさか、モーちゃん、俺たちのために奴の腹の中から位置を知らせてくれているのか?
「ンモーー!!」
ああ、分かる、分かるぞ奴の居場所が。ありがとう、モーちゃん。
筋肉の精霊が左手だけで、見えない舌を掴んだ。右手に魔力生成した毒針を振り下ろす。舌はなかなかの硬度だったが切断できた。
牛タンならぬ龍タンを手に入れた俺はすぐにそれを挟み、解析する。
『透明龍から透明化を検出、1回使用可能』よし。
「『透明化』」
俺の姿が消える。挟んである素材や装備、筋肉の精霊も透明になっている。これは優秀な隠密魔法だ。
「見えないということがどれだけ恐ろしいか教えてやる」
俺はモーちゃんの角を挟む。ズッシリと重く動きにくいが、筋肉の精霊の補助もあり、動くことが出来る。解析開始だ。
『斧牛から会心の一撃を検出、1回使用可能』。
俺はモーちゃんの鳴き声を頼りに跳ね上がる。狙うは透明龍の真上だ。高さが足りないので、最大まで跳ねた後に、筋肉の精霊に最後の力を振り絞らせて投げてもらった。魂の実体化と毒針が解ける。
モーちゃんの位置を最終確認する。さぁ、モーちゃん一緒に戦おうぜ。自分の姿が消えていると魔法がどのようなものか分からなくなるので俺は龍タンを吐き出して透明化を強制解除する。俺は縦に回転しながら魔法を発動させる。
「『会心の一撃』」
魔力生成された巨大な斧が俺の口から出現する。俺は凶悪な遠心力のなすがままに、力の奔流を透明龍の背中に叩きつける。衝撃のせいか透明化が解除されて透明龍の姿が現れた。耐えている、やはり龍鱗、硬いな、だがな!
「俺のモーちゃんの角をなめるなぁ!!」
勢いが勝りブツ切りにした。俺は勝利を確信する、そして魔物の素材をすべて使い切ったことによる脱力感に襲われる。落下する俺をエリノアがキャッチしてくれた。
「······薬草を······挟んでください······お願いします」
「少し耐えてほしいにゃ」
「何を······言っているんだ、エリノア、早く具材を······なっ!?」
透明龍の上半身が再び消える。さらに民家の1軒から幻影大鷲が空に飛び出す。魔物の残党も、ゾロゾロと現れた。総力戦、最終決戦だ。




