EX4 人類最強の七人9
クゥはカセキくんの身体を斬りつけながら駆け上がっていく。頭蓋骨を踏みしめて跳躍する。カセキくんの身体が月白に光る。
「この光は!?」
魔法陣だ、身体を駆け巡りながら魔法陣を書いていたのだ。クゥが月白の剣を鞘に収める。同時に魔法陣が発動する。
「連鎖爆裂!」
いたる所が爆発する。
「ただの爆裂魔法じゃないな、内側に連鎖するタイプか!」
「骨粉になっても再生できるか?」
合理的だ、これならあとは魔法がカセキくんを討伐してくれる。クゥがこの魔法を選んだのも次の相手が控えているからだ。見届ける時間も勿体ないのか、爆裂の途中で亜空間を開いて移動しようとする。
「!?」
急激な魔力上昇反応を感知して振り返る。爆裂は健在だ、次々に砕けた骨が辺りに散らばる。異様なのはその容姿だ。
「受肉しようとしているのか」
骨の中から肉がモリモリと血飛沫をあげ盛り上がり始めた。
『あはは! 答えは再生のほうが早い、だね! お待ちかねのフェーズスリーだよ!』
『これは補足だけど、キミの計算は正しかった、骨だけなら何とかなったよ。でもね、これ神だから!世界を支配したことがある個体だから!』
「自分のことのように嬉しそうだな、パロム」
『ああ、嬉しいさ、最高の気分だよ』
カセキくんの進行スピードが上がっていく。
『肉がつくということは筋肉がつくということ、推進力は骨の比じゃないよ!』
『気づいてるよね? 他の個体も同時に受肉したよ、仮にここを押えられたとしても誰かが抜かれるだけで人間界は終わりさ!』
『ねぇ? いまどんな気持ち?呪い対策して来たのにね! 小細工なしのボクならいけると思った? あはは! 残念でした! フィジカルでも勝てませーん! あっははははははははははははははは!!』
クスクス。
突如、照射された光に照らされたカセキくんが『消滅』した。現れたのは消滅の魔女。
『何してくれちゃってるのかな、スカリーチェ!』
「クスクス、どれだけ再生しようとも元を消しちゃえば意味ないっスよね?」
「どうして貴様が我々の手助けをする?」
スカリーチェは首だけをクゥに向ける。
「私情っスよ、私も人間なんスから、仲良くしてくださいっス」
「戯けたことを抜かすな、貴様のせいでどれだけの人が狂い死んだと思っている」
「興味ないっスね、その死んだ人たちが束になっても私に勝てませんよ?」
「強さでしか物事を見れないのか、やはり貴様は人類の敵だ」
「まーまー、今はパロムを潰すのが先決じゃないっスか? 私は逃げも隠れもしないっスよ」
『いいね!』
2人はカセキくんのいた場所を睨みつける。
『昔から人間が僕と同じ場所にいるのはストレスだったんだよね、ただの慰みものの分際で魔王さまに取り入ってさ! あの必死なアプローチ、思い出すだけで笑えてくるよ!』
「愛が欠如してるっスね」
「貴様のは歪んでいるぞ」
クゥは亜空間を開く。
「着いてこい、ノルマはあと一柱ある」
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アイナのところ。
「やー!!」
腕に装着されたクロスボウから無数に緑色に光る矢が放たれ続ける。それらは消えることなく、魚群のように集まる。
「勇者矢!」
空から降り注ぐ矢の雨がカセキくんを貫く。
「これが、勇者属性の魔力、俺の時代にはなかったもの、か」
カセキくんの耐性を無視して削りきる。
「ふー! 勝てました!」
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サガオのところ。
「うおおーーーーッ!!」
合体したサンザフラを掲げる。
「勇者斬超光ォッ!!」
巨大なカセキくんを真っ二つにする。その後、数秒間を置いて大爆発をおこす。
「勝ったのだ!」
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チョウホウ街、野外会議場。オディットが水晶魔王砲の放射をやめる。
「カセキくんの反応が次々に消失。終わったわ」
「ふぅーー」
エリノアが机に体を預ける。
「スカリーチェが協力してくるにゃんて、どういう風の吹き回しにゃんだ?」
「これは仮説だけれど」
「いつもみたいに断言しにゃいのか?」
「ちょっとスランプ気味なのよ」
「気を落とすにゃよ、オディットは凄いんだから」
「……カセキくんの進行方向のことなのだけれど、7柱ともここを通るようになっていたわ」
「どうして?真っ直ぐ海を目指せばいいのに、ここで集まっちゃうにゃらバラバラに顕現した意味がにゃいでしょ」
「理由は分からない、でもスカリーチェはここを『守った』のよ」
「にゃんで?」
「さぁ」
『あっははははははははははははははは!!』
「にゃ!?」
地響きがする。チョウホウ街前の大地が盛り上がり始める。
「その声はパロム!」
『やぁ、魔王の娘たち!ご機嫌はいかがかなー?』
根を引き抜くように先の見えないほど巨大な7本の骨の尾を持つカセキくんが現れる。
「にゃんてこった、あれは8柱目か!」
「一つ違うところがあるとすれば、あれがカセキくんの本体ということよ」
「どうしてわかるんだ?」
「あの根のような尻尾が7柱たちに繋がっているからよ」
「ヤバいにゃ!」
「大丈夫よ、すぐに転移魔法陣でみんな集まるわ」
「あはは! それ!」
カセキくんの背に巨大な骨が出現する。何かを放つ。
「にゃかにゃか来にゃいにゃ」
「……反転移結界だわ」
オディットが歯噛みする。
『あはは! そうさ、これはギアの反魔法結界を参考にして作った、転移だけを封じる結界さ!』
「初めからここが狙いだったということね」
『確信を持ったのは今さっきさ!』
巨大カセキくんの胸が開き中から子供サイズのカセキくんが飛び出す。
『オディット、キミはこう考えているね。転移魔法陣なしでここまで奴らが帰ってくるのに、奴らなら何分掛かるか。ボクはこのことを計算していたから答えを教えてあげよう!』
降り立った子供サイズカセキくんが指を1本立てる。
『1時間だ、どれだけ頑張っても1時間は掛かるよ』
カセキくん相手に1時間、それは絶望的な時間と言える。しかしオディットはそれでも魔王然とした態度を崩さない。オディットは戸惑うエリノアに優しく語りかける。
「巨大カセキくんで一思いに踏み潰さないのは、それが出来ない理由があるからよ、ここを壊せない理由がある以上、派手な動きはできないわ」
「にゃるほど、にゃらやることは一つだにゃ!」
エリノアは足に『魔爪』を発生させると地面をくり抜き穴に入る、オディットは水晶魔王砲を放ち牽制しつつ、それに続く。カセキくんはそれを難なく弾く、頭をポリポリ掻く。
「一応聞くがどうすればいいパロム?」
『追うんだ!』
カセキくんは地面を軽く踏みしめる。するとクッキーを砕くようにいとも容易く砕け下に落ちていった。
「ジュたちに知られたくない情報らしいわね、目的を果たす前にジュたちを始末するつもりよ」
「1時間も逃げるのは不可能だよ、どこかでやり合わにゃきゃにゃらにゃいよ」
「そうね、でもしばらくは鬼ごっこでもして時間を稼ぎましょう」
「そうだ、にゃ!」
エリノアが手に纏った『魔爪』で壁に穴を開ける。
「入り組んでて迷うにゃ!」
「それは彼らも同じーーっ!」
オディットがエリノアの腕を強く引っ張る。
「にゃ!?」
壁からカセキくんの腕が飛び出す、エリノアの頭があった空間に鋭利な爪が爆速で通過する。間一髪だ。
「たしかに頭を取ったと思ったんだがな!」
「このっ! 魔獣王斬!」
引かれながらもエリノアは折れずの剣から紅蓮の獅子を放つ。カセキくんに食らいつき押し出す。
「時間稼ぎにしかにゃらにゃいよ!」
「わかってるわ!」
「こんなもの!」
乱雑に振り払う。煙がはれる。
「鬼ごっこは終わりーー」
エリノアとオディットの姿が消えていた。
「ふはっ! 次はかくれんぼか!」
『カセキくん、楽しんでるね?』
「久しぶりの余興だからな、たまには狩りを楽しむのも悪くはなかろう!」