EX4 人類最強の七人7
グレイブの説明を一通り聞いたクゥがマントを翻す。
「状況は理解した、これより私が指揮する」
異論なく、すんなりと受け入れられる。
「スカリーチェよりもパロムのほうを優先すべきだ」
「はい! でもパロムはどこにいるのでしょう?」
「カセキくんは魔王討伐戦でも使っていた、言わばパロムの切り札だ、まずはやつを討伐する。必ず手掛かりがあるはずだ」
「わかりました!」
「ちょっと待って、当たり前のようにカセキくんを討伐できるって流がれににゃってるけど、あんにゃのどうやって倒すの?前とサイズが違うよ」
「大きな相手だからどうした、大きければ細分してやればいい、そうだろう」
「脳筋だにゃ」
「質問はそれだけか?」
「ジュもいいかしら」
「なんだ」
「先制攻撃しても?」
「かまわん、あれはどう見ても敵だ」
オディットは優雅に振り返る。
「じゃあ、エリノア、少しの間、ジュ無防備になるから」
「あいよー」
それを聞いたオディットは両膝をつき、両手を地につけ、空を見る。
「水晶魔王砲、展開」
右の水晶のような目から、魔法陣が展開していく、複雑な魔法陣が幾重にも重なる。それを見たクゥが驚いた声を出す。
「ここから『狙う』というのか」
「そうだよ、オディットにゃらできるよ、でも演算時は無防備ににゃるから守ってあげにゃいといけにゃいよ」
「つまりどこからでも砲撃することが出来るということだな?たとえ星の裏からでも」
「……今は多めに見てよ、オディットもリスクを負ってるんだ、覚悟は本物だよ」
「準備が出来たわ、一応言ってくれる?」
「ほら、クゥ」
「世界最高の砲撃の号令か、悪くないな」
クゥはバッと月白の剣を突き出す。
「撃て!!」
「照射」
オディットの放った水晶魔王砲が魔法陣を通るたびに大きくなる。そして瞬く間に大気圏を突破、弧を描き、目標目掛けて落ちる。僅かな間をおいて爆発の光がここからでも見える。
「命中」
「ダメージは」
「……まさか、そんな」
「ノーダメージか」
「そんなはずは……ジュの水晶魔王砲が……なるほど」
「冷静ににゃるの早いにゃ」
「水晶魔王砲を解析して表面で分散させる加工が施してあるわね」
「対策済みか、パロムらしい」
「ジュの水晶魔王砲が対策済みということは、今までに使った手は対策されていると見たほうがいいわ」
「ふむ、それでも撃ち続けよ、もちろん足元狙いだ、進行を妨げよ」
「わかったわ」
次々に照射していく。
「グレイブ、私たちも出るぞ」
「おう!」
サガオが前に出る。
「俺たちも行きます!」
「ダメだ」
「どうしてですか! 俺たちも戦えます!」
「ここが最終防衛ラインだからだ」
「!」
「ここは魔界で唯一の人類の街、言わば最前線の砦だ。この先の海に入られれば戦いにくくなる、つまりここを突破された時点で王国領域圏内への侵入を許したことと同意義となる」
「ここを死守すれば王国の民に血は流れないのですな……?」
「そういうことだ、アイナも同じだ、いいな」
「そういうことでしたら、わかりました!」
「じゃあ、征ってくる」
クゥは空間を裂き中に入っていく。グレイブもそれに続く。見届けたあとファングが皮肉めいて笑う。
「昔みたいな展開ですな、真実は繰り返すものということですかな」
「にゃに言ってんだ?」
「パロムと三騎士といえば有名な話が一つ」
「あ」
「昔、パロムの策略にハマり、三騎士は呪いをかけられた。人族の戦力は大幅ダウンしてしまったという真実があります」
「ファング」
「はっ」
「頼めるか」
「帝王さまのご命令とあらば」
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カセキくん進行ポイント。
オディットの水晶魔王砲が次々に着弾する、まるで近代戦争のようだ。カセキくんの足元に落ち進行を妨げる。
「こんなもので俺を止めることは不可能だ」
山の数十倍はある巨体をズンズンと進めていく。
「ケッ! 骨だけのくせにとンでもねぇ推進力じゃねぇか」
カセキくんの身体を乱雑に斬りまくるクロスケが悪態をつく。
「俺の攻撃なんて屁でもねぇってか!」
カセキくんは一切の抵抗をせず進み続ける。
「王国を目指す、これがパロムとの唯一の約束だ、だから俺は行かねばならんのだ」
「支配されてンじゃねぇか」
「頼みを聞いてやっただけだぞ、あんな者でも俺を現世に復活させた功績があるからな」
「義理とかあンのかよ」
「神は荒唐無稽な存在故にそういうところがある。精々足掻くがいい、どちらにせよ同じことだがな」
「ちぃ!」
クロスケの力を持ってしても、このサイズは分が悪い、いや相性のいい人類がそもそもいるのかという話になる。サイズは力。あの龍脈龍、タートルネックドラゴンもそのサイズを持ってして龍界の序列9位となったほどだ。超パワーを持っていても、それを超える質量があればそれは超パワー足りえない。
「だからって諦めると思ってンのかよ!」
「クロスケ」
「クゥとグレイブか!」
空間を裂いて2人が現れた。
「手を焼いてるようだな」
「まぁな」
「疲労がある敵ならクロスケと相性がいいが、アンデッドには疲労がないからな」
「物理的に壊そうにも、こうもデケェとな」
「ならば俺が行こう」
グレイブがカセキくんの前に飛ぶ。
「おいグレイブ、やれンのか」
「愚問だな」
両手を合わせる。胸の中心で2種類の魔力が反発する。
「消滅魔法」
放たれた光線はカセキくんの胴体に風穴を空ける。
「お! 削れたぞ!」
「ふむ、だが規模が足りんな」
そう、グレイブの消滅魔法は、スカリーチェのものと比べると小さい。
「これを数千、数万発喰らわせれば討伐できるだろう」
「カカカ!そのまえに日が暮れちまうぜ、それにその魔法は疲れるだろ」
「見抜いていたか、クロスケ」
「おう、それはただの魔法じゃねぇ、スカリーチェと殺り合ってわかったぜ」
常人ならばどうすることも出来ないと判断する状況の中。3人とも不敵な笑みを浮かべている。
「カカカ!」
「ククク!」
「フフフ!」
クゥが月白の剣を掲げる。
「これよりカセキくんの討伐を開始する!」
「3人でやるのは久しぶりだな!」
「ふん! パーティを組んでいた時を思い出す!」
全員が前に出る。3人とも前衛なのだ。同時に叫ぶ。
「気合武装『月白装甲』!」
「気合武装『黄金装甲』!!」
「気合武装『紅蓮装甲』ッ!」
月白の美しい全身鎧、黄金の機動性を重視した装甲、紅蓮の武者鎧。グレイブが杖をかざす。
「全身全霊全属性全力斬!!」
全属性を網羅する魔法を照射する。大爆発が起きる。
「無駄だ、どれだけ爆発を起こそうと俺は止まらない」
「溶かし、沸かし、分解するーー」
「この詠唱はまさか」
「ふ、知っているのか、さすがは旧支配者」