EX4 人類最強の七人4
オディットがアイナたちのほうを向く。
「報告可能なレベルの予知計算が出来ましたわ」
「オディットさん」
アイナがオディットに近づく、やや近いように感じる。
「もう少し離れてくださいません? 貴方の纏っている勇者魔力が不愉快なので」
「いえ、このままで話してください」
「オディット、ミーからも頼むよ」
「ふーー、わかったわ。この作戦、さっさと終わらせましょう。スカリーチェを倒した場合、王国、帝国の双方に出る利益は非常に大きいわ、逆にスカリーチェを倒しても損害はほとんどないと言える」
「ほとんど? 全くないの間違いですよね?」
「薄情なのね、あれは人間なのだから、人類の数が−1されるでしょう?」
「魔女です、人じゃありません!」
「感情に綻びがあるのに気づいているかしら。はぁ、頑固な勇者属性と話すと疲れますわね。ジュの参謀としての報告はこれでお終いです、あとはあなた達が決めてくださいまし」
オディットは席を立ち離れていった。アイナは全員を見渡し、最後にスカリーチェのいる方を向く。
「行きましょう! 全員でスカリーチェを討伐します!」
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ところ変わってスカリーチェたちのところ。周辺の地形は戦闘の激しさで変わり果てていた。いくつものクレーター、木々はなぎ倒され、山だった場所が更地になっている。
「カカカ!」
黄金大剣を振るうクロスケはすでに気合武装『黄金装甲』を纏っている。対するスカリーチェは未だに能力を発動していない。
「クスクス、2人同時に攻めてきたらどうですか?」
ファングはクロスケが乱入してきたタイミングで戦うのをやめた、今はやや離れた場所で待機している。
「アンタの魔法は一対複数でこそ真価を発揮する、2人まとめて消滅させられたらエリノアさまが困ってしまう」
「そういうこった!」
スカリーチェはクロスケの猛攻をひたすらに躱す。怒涛の攻めに息付く暇もないはずだが胸の前で合掌する。
「消滅魔法」
懐中電灯のように放射された消滅の光がクロスケを照らす。黄金大剣の影に隠れる。大剣が消滅する。二度目の合掌。その間にクロスケは飛び出して距離を詰める。消滅光線を放つ、だがタメもなく、さらに当たるように放射状にしたためクロスケを完全に消滅させるに至らない。黄金装甲を犠牲にスカリーチェに急接近する。ここからは徒手空拳だ。
「獣臭い流派っスね」
「そっちは魔女臭ぇぜ!」
クロスケの戦闘は実践的だ。常に殺し合いの中で鍛えられたその身体は、相手をいかにして殺すかが染み付いている。聖騎士たちのような方にハマったモーションは一つも無い、被ることも無い。決め手になるなら武器すらも盾にする。
「せっかくの気合武装も消滅させられたら意味ないっスよ」
「何が気合武装だ! それがなきゃ戦えねぇってンなら気合いが足りねぇんだよ!」
気合武装とは魂の強さ、精神力が具現化したもの。魔力とは別のエネルギーであり、その性質上『覚悟の決まり具合』が勝敗に直結する。
「ジレンマっスね、割り切れてないというか、気合武装に至ると、気合武装を軽視するようになる。それまで鍛錬して目指してきたのに、いざ得るとなると乱雑に扱う」
「何言ってんだ、お前だってそうだろ! 灰界装甲使ってギアに敗れたって聞いたぜ! あの気合武装に至ってない若造によ!」
「アレの『覚悟の決まり具合』は異常っス、気合武装に至らないのが不思議っス」
「あっさり認めんだな!」
「私の愛を侮辱したのは許さないっスけどね、結果は受け止めなきゃならないっスよ。まぁ今ならーー」
負けないっスけどね。
「お!?」
「気合武装『黒白装甲』」
スカリーチェの体が白と黒の鎧で覆われる。それと同時に世界の色が無くなっていく。白と黒の世界に染まっていく。
「同色では破壊できず異色では強く叩いた方が壊せる、さらには魔法を使えなくなる。だったな。随分とややこしい気合武装を持ったもンだな、おい」
「クスクス」
「ただまぁ、手の内が知れてればそう怖いもんでもねぇ、むしろ対等なままじゃねぇか」
「そっスね、クロスケのような超回復や、そこの弟弟子のような野生の力を得るといった、装甲本来の力はないっス。ただ」
クスクス。
「平等な武力でやり合った時に、私が負けるなんてことはそんなにありませんから」
「ギアに負けてなけりゃ、無敗で通ってたのにな!」
「くどいっスね!」
両者構える。
今にも第2ラウンドが始まるその時。地響きが轟く。かなりの揺れだが、この場に焦る者はいない。ファングが呑気そうに地べたに手をやる。
「地震の揺れじゃないな、これは何かが蠢いている揺れ方だ」
「こンなときに、なんだってンだ」
『やっぱり間に合わなかったね』
「その声はパロムか!」
またしてもどこからともなく声がする。もちろん声の主は不在、しかしその小馬鹿にした口調だけで容易に声の主が特定できる。
「この揺れはお前の仕業だな!」
『半分正解で半分不正解だよ』
「ああ?」
『元凶はボクだけど、コレは完全に制御出来なかったんだよね』
「何言ってんンだ!」
『ほら出てくるよ』
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
大地を割って地下から現れたのは、巨大な化石の化物だ。クロスケが叫ぶ。
「あいつはカセキくんか!」
『そうさ、あれはあの時のカセキくんさ』
「前に見た時はもっと小さかったぞ」
『だからちゃんと制御出来なかったんだって、あのときはよかったけど、いくら都合のいいように改造しても、骨だけになっても、旧支配者を本当の意味で支配することなんて出来ないのさ』
ファングが立ち上がる。
「パロム、お前が今回の件を仕組んだ、それが真実だ」
『さすがブラギリオンの鍛えた牙だね、そうだよ、王国と帝国に使者を送ったのはボクさ』
「だが理解できないな、わざわざ魔界に戦力を集めさせるとは」
『あはははは!! そんな『姑息』なことするわけないじゃないか、だってボクはーー』
『魔王』なんだから。