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EX4 人類最強の七人1

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



 魔王討伐から10年後。


 魔界にしては珍しい穏やかな山岳地帯。茂みからスコープを覗かせる男の姿があった。命令を思い出す。


『10キロ先からターゲットを狙撃しろ、お前の能力なら容易いだろう』


 たしかにそれ自体は容易い事だ。男は撃った弾を狙った場所に的確にヒットさせる、いわいる『着弾補正』の異能力者だからだ。


 報酬は孫の代まで遊んで暮らせる富。このトリガーを引けばそれで終わりだ。


 10キロ先からの狙撃。安全地帯からの簡単な作業だ。


 なのに、


「ふーー! ふーー!」


 走り込んだあとのような荒い呼吸だ。かれこれ数時間はうつ伏せのままスコープを覗いているのにも関わらずだ。


「なにを焦っているんだ、俺は」


 彼に道徳はない、汚い仕事も家族のためなら厭わないタイプだ。命令されれば迷いなく引き金を引くことのできる男だ。


「来た……」


 10キロ先の湖で水浴びをしていた女性をスコープに収める。本日何度目になるだろうターゲットを視認した。美しい女性だ。髪が左右で白黒に分かれているという独特なファッションをしているが、それも彼女の美貌を際立たせているように感じる。弾を防ぐような防具は愚か衣服も着ていない、動きもゆっくりとしている。


「他に人間はいない、外見も情報と一致する。あれがターゲットで間違いない」


 絶好の狙撃チャンスだ。男は普段なら軽く引くトリガーを、初めて人を撃ち殺したときよりも慎重に指を掛ける。そして。








 タァン。







 放たれた弾丸はターゲット目掛けて飛んでいく。異能の副次効果により射程距離も大幅に伸びている。加速した弾丸がターゲットの頭部を貫いた。青い湖の一部が真っ赤に染まる。


「ふーー」


 額から流れる汗が目に入るがそれを拭う余裕が無いくらいに安堵した。


「そうだ、殺せるに決まっている。こんな異世界の魔界と呼ばれる場所に来させられて動揺していただけだ


 男は無線機を取り出す。


「ミッションコンプリートだ。狙撃は成功した」

『了解した、ただちに迎えに行く、現場で待機せよ』


 無線を終えて一息つく、これで終わったのだと。


「あれはなんだったんだ……」










 クスクス。










「ッ!?」


 長年、戦地に身を置いた者だけが持つ直感が、再び男の目をスコープに戻した。


「……なぜ……生きている……」


 ターゲットは先程の場所から数メートル離れた場所にいた。破壊された頭部も元通りだ。撃たれたのが嘘のように佇んでいる。


「一体どうなっているッ!!」


 無線機に怒鳴る。


「失敗だ! ターゲットはまだ生きている!」

「クスクス」

「なッ!?」


 スコープで覗いていた相手が目の前に立っている。


「いつの間に……10キロ先にいたはずだ!」

「クスクス、貴方、新世界から来た人ですよね」

「何故それを」

「魔力が全くないから見れば分かりまスよ。それでこれが新世界の武器ですか?」


 スナイパーライフルを取り上げると物珍しそうに眺める、少しして男に返した。


「魔力の宿っていない武器でここまでの精度と威力を出せるなんてやっぱりどの世界の人間も狡賢いでスね」

「お、俺を殺さないのか?」

「元を断たなきゃ同じじゃないでスか、誰の差し金でスか? 教えてくれたら見逃してあげまスよ」


 本気だ。断れば即座に殺しにくる。10キロの間合いを一瞬で縮めてくる相手だ。こうなってしまっては万に一つも勝ち目はない。


「教えられない」


 そうだ。答えて見逃してもらったとしても、帰った後に始末される、家族も無事では済まない。ここで喋らずに死ねば家族は助かる。前金だけでも十分な稼ぎだ。


「じゃあ、消えるっス」


 元四天王、魔女スカリーチェが両手を胸の前で合わせると、男は消滅した。



『随分と気が立っているじゃないか、スカリーチェ』


 どこからともなく声がする。


「パロムっスか」


 元四天王、パロムの声だ。


「また本体はどこかに隠れてお喋りっスか」

『まぁね、さっきの彼みたいに消滅させられたら困るからね』

「私をなんだと思ってるんスか。で、あれ差し向けたのはパロムっスか?」

『いやー、信じられないと思うけどボクじゃないよ。あれは新世界から派遣された刺客だね』

「違うっていう割には詳しいっスね」

『そりゃそうさ、ボクの悪魔の脳みそに計算違いはないからね』

「それで何の用っスか。なんかあるから来たんじゃないんスか?」

『いやー、魔王さまの因子を渡してもらおうと思ってさ』

「は?」


 周囲の魔力が渦巻く。スカリーチェの精神状態を表しているようだ。


『いやいや、臨戦態勢(おこ)らないでよ』

「無理っスね、いまどこにいるんスか?」

『ふふ、言うわけないじゃないか。それに魔王因子はキミが嫌がろうとも回収させてもらうよ』

「私を倒せると思ってんスか?」

『内心ビビってるんじゃない? 勝算があるときしか来ないよ、ボクは。まぁ、仕込むのに10年も掛かってしまったけどね』


 スカリーチェは素早く振り返る。見知らぬ男がいる。男は驚いた顔をしながら歩み寄ってくる。


「完全に気配を消していたんだが、流石は人類最強……いや、それは100年前の話か」

「今度は誰っスか?」

「俺は帝国聖騎士部隊大隊長 、真実の牙(トゥルーファング)。現代で最も真実に近い男だ!」


 剣を抜き払い斬り掛る。スカリーチェはそれを容易く右腕で受け止めてみせる。


「力関係が対等になるという苛烈平等(かれつびょうどう)の右腕か。こちらの世界では特異体質と呼ばれていたが、今となっては新世界の異能と考えるのが真実」

「うっさいスねー」


 スカリーチェは周囲の魔力を操作して乱雑に撃ち出す。トゥルーファングは微動だにせず、自身の周りに魔力を纏い防いでみせた。


「あれ? おかしいっスね、雑魚じゃないんスか?」

「一つ教えてやろう。俺はアンタの弟弟子だ」

「あー、ブラギリオンのペットっスか、首輪はちゃんと付けといてほしいもんスね、見境なしに噛み付いてくるなんて狂犬じゃないっスか」

「ふ、俺が狂犬だと。それは間違いだ……『黒狼装甲』!」


 トゥルーファングの気合武装を見たスカリーチェが細い目を見開く。


「へぇ」

「俺は帝王さまの忠犬、それが真実だ」



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