EX3 グリムリーパー20
「おい!! 何やってんだよ!!」
「静かにするでござる」
「あっ……ああ……!」
グリムの体がブルブルと震え、そして倒れた。
「力を斬り離し封をしたでござる。これを罰とし『神々の誓約』は終わりとするでござる。ってことでどうでござろう?」
「ブラギリオンが言うのであれば、それ以上のことを求められるわけがない。ウチの役目もこれで終わった。おいカー」
空に魔法陣が浮かび上がる。
「片付いたぞ、ウチらを元の世界に戻せ」
『ダメだ』
魔法陣の中からカーの声が聞こえる。ノヴァが訝しむ。
「なに? 罰が足りないというのか?」
『グリムは異世界に戻せない』
「何故だ? 力を失ったのならば問題ないはずだ。まさかイズクンゾの匂いがするから嫌だとか、そんな私情で言っているんじゃないだろうな」
『そんなこというわけがねえだろう……まず俺はアイツに負けてねぇ、あのときはスカリーチェの気合武装の力が世界に及ばなければ……』
口ごもる。
「負けは負けだ、今のウチなら分かるが、奴はそこまで『計算づく』だった」
『……その話はまぁいいだろう、とにかくグリムは異世界に置いておけない』
「理由をいえ。ウチは執行人だ、理由なき罰は与えられない」
『言う必要がない』
「何故だ、ウチの判断を曲げるということか? 制裁は終わった、ならば許すべきだ。それを分からぬお前じゃないだろう」
『確かに『神々の誓約』の執行者はノヴァだ。だが『行先』の決定権は俺にある。そいつは新世界行きだ』
「新世界? あの新しく繋がったディメンションのことか」
『その娘の素性は明かせないが、そいつには新世界が相応しい』
「それで納得できるウチだと思うか?グリムはウチとやり合って生き残った、どこに行こうともグリムの自由だ。執行が終わったいま、ここからはウチの判断でこの子を守る」
ノヴァの体に炎が灯る。
『選ぶ? ならば尚更だ』
「グリムが新世界を選ぶというのか?それも言えないことに繋がっているというのか?」
『お前相手にこれ以上の話をすると気づかれるな、それにお前もそろそろ限界だろう』
「何を言って……ぐ」
ノヴァが膝を着く。
「どうしたんだ、やっぱり俺の攻撃が効いていたか?」
「馬鹿をいえ……知恵熱が上がってきた、また知恵の焼却炉に叡智をくべねば世界が融解してしまう」
「時間はないか……おいカーさま!」
『マグネットドラゴンとグラビティドラゴンの息子か』
「マグラってんだ」
『ようやく働く気になったか』
「ああ、これからは俺も序列持ちとして頑張る」
『レスに報告しておいてやろう』
「それで本当に殺さないんだな」
『序列2位の誇りにかけれて誓おう』
「あっちの世界の方が幸せになれるのか?」
『それはそいつ次第だ』
「そうか、わかった」
「いいのか、マグラ」
「ああ、結局のところこいつしだいだし、記憶を無くしたのなら、別れるのに丁度いいだろ……それに、生きてればまた会えるしな」
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「ここが新世界でござるか」
キルデッドタウン近くの森に転移したブラギリオンが周囲を見渡しながらそう言う。
「マジで魔力が一切ないでござるなー、さてグリム氏は……起きるでござるよ」
背負っていたグリムを立たせる。瞼は空いているが虚空を見つめている。
「拙者が面倒を見るのはここまででござる。それではーー」
そう言って去ろうとするブラギリオン、何かを感じて立ち止まる。
「グリム氏?」
「……」
ブラギリオンがグリムから感じ取った感情は正しく『憤怒』そのものだった。
(一体何に怒っている?)
グリムの姿が消える。駆け出したのだ。
「力を奪われてもあれだけの膂力、少し着いていってみるでござるか」
ブラギリオンは一瞬で追いついた。そこに拡がっていた光景を見て初めて驚いた声を出した。
「ほぉ、これはまさか……」
そこにあるのは一面の血の海。グリムが人間を惨殺した光景だった。
「まさかただの人間に手を掛けるなんて、ん?」
ブラギリオンは死体を見る。
「転生者、それも能力持ちでござったか。転生者に対して激怒しているでござるか?」
「……す」
「ござ?」
グリムは誰にも聞かせるつもりもないような小声を発する。
「……転生者は全員殺す……許さない……殺す……殺し尽くす。尽く殺す……」
「これがグリム氏が魔王さまから賜った『憤怒』」
(ああ、やはり魔王さまは怒っていたのでござるね。なるほど、それでカー氏は新世界に行かせたのでござるな)
「『異世界にいる転生者』と出会わせないために」
グリムは駆け出していった。新たな獲物を見つけたのだろう。
(この森は特異点でござるな、転生者のスポーンポイントにでも設定されているのでござろう)
「マグラ氏に見られなくてよかったでござるな」
(しかしこれがなんの布石になるのやら、見飽きた高みで見物させてもらうでござるよ)
もう見えなくなったグリムを一瞥すると、ブラギリオンは闇へと消えていった。