EX3 グリムリーパー18
時間に熱が戻る。
「動いた」
「静止に対応出来る相手に使い続ける必要もない。それにちょうど場所を変えたかったところだ」
「それはどういうーー」
空間に巨大な魔法陣が描き出される。マグラが叫ぶ。
「あの魔法陣はカーさまの転移魔法陣!?」
「ウチが正気を取り戻した場合に飛ばすように頼んでいたのだが、覚えていてくれてよかった」
「おい、どこに転移させるつもりだ!」
「行けばわかる」
4人揃って転移する。
投げ出されたのは見慣れない大地。
(……ここは、私のいた星と違う……)
「ここは別の宇宙。それも生物のいない世界だ」
「ここなら思う存分暴れられるってことかよ」
「そういうことだ。この星はとても固くて熱にも強い」
重力も数百倍に膨れ上がっているが、それを気にするものはこの場にいない。
「グリム、もう一度ノヴァの頭を破壊するぞ」
「……うん」
グリムは重装備に切り替える。
「出し惜しみはするな、全力で行くぞ」
2人が駆け出した瞬間。世界が『溶けた』。
「静止の次は全ての物質をがむしゃらに動かしてみたが、どうだ?」
「ぐ、危ないないところだった」
「重力と磁場によってグリムを守ったか、だがそれもウチの目論見通りだ」
「ぐはっ!!」
マグラの胸から炎が吹き出る。
「魔力生命体はその性質上、非常にタフだが、別に不死身なわけではない。魔力と自分を分ける明確な『個』がある、それは扱える性質と似通るものだ」
「がっ!」
「熱膨張、圧縮して留めるのが重力ならば好都合だ。溜め込んだものを膨らませ、吐き出させてやろう」
マグラが大口を開ける。吐息の構えだ。
「重力の吐息!!」
「火炎の吐息!!」
圧縮と膨張。見事に相殺する。
「ウチとお前の明確な差はなんだと思う?」
マグラの胸から吹き出す炎がより強くなる。
「それは質量だ。お前はその身体に取り込んだものしか圧縮できない。だがウチは隙さえ作ればそのようにお前の中の兵糧に火を放つこともできーーる?」
ノヴァの胸が膨張した。
「どれどけ賢くなろうと考えることは一緒だな」
「何をした」
「ノヴァが『ノヴァ』だったときに仕込ませてもらった……ホワイトホールのゲートをな」
「お前の身体の中にあるものがウチに逆流して来ているのか」
「はぁ、はぁ……へ、圧縮するのは苦手だろ?今だ!グリム!」
グリムはクナイブレードを2つ合わせて大鎌を作り出す。ノヴァに急速接近。
「ノヴァの力は俺が抑える、今なら殺れる!」
ノヴァはヌンチャクを魔力生成する。デスサイズとヌンチャクがぶつかり合う。星が砕け、余波で周囲の惑星が粉々に砕け散る。それを何発、何百、何千回と繰り広げる。
「火ッ火火火火ッ!」
ノヴァが大口を開ける。マグラが重力でその口を塞ぐ。
「ノヴァの炎は俺が封じてやる! ぐわ!!」
マグラを炎が包み込む。
(このままでは届かない)
『グリムさま、私をお使いください』
幻聴か? 否、確かにそれはグリムの脳内で鳴った。クモの声だ。ノータイムで動き、デスサイズで『ノヴァの髪』を狙う。ノヴァは全身が魔力生命体だ。どこを切ろうとも効果が薄い。だが。
『髪を絡め取り』力ずくで地面に叩きつけた。地に顔をつけるノヴァが目だけを向ける。
「なるほど、その鎌に対象を実体化させる魔法が組み込まれているのか」
(万物の実体化)
バーガーの使う(正しくはスーのだが)魂の実体化は自身に掛ける魔法だが、グリムは狩る側、形のないものにすら形を与え殺す。その姿は紛れもなくーー
「死神」
「おおおおおおおお!!」
グリムの一撃が星を割る。
「星は斬れても、ウチの首は切断できないか!」
ノヴァは起き上がると炎棒を魔力生成。
「それは」
「ウチのマイ武器、如意棒という」
焔の如意棒が目まぐるしく回転する。
「白兵戦なら勝てるという、その淡い信仰を燃やしてやろう」
如意棒がパッと消える。
(どこにーーッ!?)
後頭部に衝撃、背後に出現した如意棒の突きをもろに喰らう。
「驚け、実際に消えてるし、実際に出現してる、出現するまでないから、実体化させて防ぐことも出来ない」
ノヴァの手にあると思ったら消えている、デスサイズを振ろうとするとそこに出現してる止められる。
「使うものの叡智がそのまま機動力になる。知恵の焼却炉がある時はその存在すら忘れていたゴッドアイテムだ」
(しかし、このグリム、ウチの如意棒を喰らっても、瀬戸際で耐えている。マグラもそろそろ復活するし、ここらで一つーー)
「グリム! 待たせたな!」
ノヴァが仕掛ける前にマグラが叫ぶ。
「計算より復活が早い、立ち直っていないお前に何がーー」
ノヴァの体が2つ折りになる。右腕と左腕が、右脚と左脚が、右胸の左胸がピッタリとくっ付いた。
「俺が操作するのは重力だけじゃない、なんたって俺はあのマグネットドラゴンとグラビティドラゴンの息子! マグネットグラビティドラゴンだからな! グリム以外の全てのものに磁気を付与した!」
マグラの顔は青ざめている、ノヴァの読み通り復帰が早すぎたのだ、ノヴァの炎は確実にマグラを蝕んでいる。それでもその目は生気を宿している。
「この宇宙中の星に磁気を纏わせて高速回転させる!」
「バカか、そんなことをすればお前が先に力尽きて死ぬぞ」
(マグラ)
グリムの視線を受けてマグラは照れくさそうに笑う。
「楽しかったな、グリム」
「うん、楽しかったよ、マグラ」
マグラが龍の姿を取り戻す。自ら潰した角が再生される。コイル状の見事な角だ。宇宙中の星が高速回転。磁気を、重力を増大させていく。
「燃やして広がる炎が始まりなら、集めて潰して終わらせるのが俺だ!」
磁石に集まる砂鉄のように、グリムたちのいる星を中心に宇宙中の星が集結する。
「超磁力大黒穴!!」




