EX3 グリムリーパー13
龍宮城、玉座の間。部屋に続く扉は開かれていた。
「あれ、扉閉まってないですよ、不用心ですね」
「……ノーさまから直に聞くがいい、ノーさま、連れてきました」
「入れ」
部屋に入る。玉座には誰も座っていない。
「玉座もからです、まるで留守のようですが」
横を見る、巨躯の龍騎士がいる。
「儂がノーマライズドラゴンだ」
「私はグリムリーパー、そしてこっちが師匠のブラギリオンさまと、付き添いのマグラくんです」
「急に君付けすんな」
「って、え、あれ。この城の主なのに玉座に座らないんですか? まるで側近の立ち振る舞いですが」
「その席もこの城も、すべてはレスさまのものだからだ」
「でもいないんですね」
「今はご隠居なされている」
「ふぅん、隠居してるのに世界最強なんですか?」
「我らが主は最強無敵、その気になればこの三つ巴に終止符を打つくこともできるお方だ」
「へぇ、じゅるり、序列1位、楽しみです」
「報告は聞いているが、本当に儂と殺し合うつもりか?」
「もー、みんな私を舐めすぎですよ、もっと警戒心を持ってください」
「ふん、警戒するも何も儂は戦わん」
「なんでですか!?」
「レスさまの命令外での戦闘行為なんぞ言語道断だ、まぁレスさまから預かりしこの城が落とされるような危機が迫れば戦うがな!」
「じゃあ、この城を落としますよ!」
「よし、殺るぞ!」
「ちょろいな!ノーさま!」
「マグラはブラギリオンさまと離れてて」
「毎回このパターンだな!」
「ワシを舐めるなグリムとやら、殺す相手を間違えるようなことはせんわい!」
「じゃあ二人はここにいてください!」
ノーは柱に手をかける。
「柱なんかに寄りかかって、立ってて疲れたんですか?」
「転換」
柱が刀身が円錐状をした巨大な槍に変換された。
「……!」
「お嬢ちゃん、ずいぶんと嬉しそうな顔をするな」
「この城自体が魔力変換された素材でできていて、さらにそこから変換して武器にした、ってことですか?」
「ああ、魔力生成したものをさらに別のものに変化させる。再魔力化させずにそのまま変化させた、そして」
ジャベリンを振るい担ぐ。
「レスさまの魔力で作られたこの『龍宮城』の変換権を持つのはレスさま以外で儂だけだ」
「レスさまの魔力……?」
「不思議か?」
「威圧感を感じません」
「そうだろう。レスさまの魔力の特徴は洗練された穏やかさにある」
(本当に微塵も脅威を感じない、武器の形をしているのに、どうしてこんなに落ち着くんだろう)
「戦意は?」
「……正直揺らぎました、というかこの世界を包む魔力を敵視するかという質問に似ていますね」
「そうだ、レスさまの魔力はこの世界の秩序そのものだ」
「でも振るうのは貴方ですよね」
「ふ、そうだ、授かり賜ったこの武力を行使するのは他ならぬ儂の役目だ」
「じゃあ、やりますかー」
グリムは背中のクナイブレードを抜きながら即座に間合いを詰める。
(長物は懐に入られるのを嫌うはず)
「小賢しい」
ノーはそれに合わせて突進する、グリムがクナイブレードを振りきる前に強烈なタックルを食らわせた。しかし。
(この小娘、剥がれない)
吹き飛ぶと思われたグリムはノーの膝にピッタリとくっついている。
(あの状態から後方に飛び、引っ付いたか)
(今だ!)
ゼロ距離となり、グリムは得意とする超至近距離戦闘に持ち込む。
剣戟の嵐だ。
(こっちか有利なはずなのに!)
「槍が不得手とする環境で戦ってやっているんだぞ、どうした」
(腕力で無理やり振り回しているわけじゃない、これは技だ)
「極められた槍使いは近づかれたとしても柔軟に対応できるものだ、むしろお前が根を上げてそこから一歩でも引くことがあれば、命を差し出してもらう」
(槍さばきも凄いけどステップも凄い。振るときに的確な場所になるように……ダメだ追いつかない、ノーさまのほうが技量がある……もっと武器を使わなくちゃ)
ポシェットに手を入れ爆弾を生成する。抜き出すまでの僅かな間を片手で受けることになった。無論、無傷で済むはずもなく槍で体が削られていく。
(僅かな行動でも身を削られる)
「身を削ってまで出したものはそれに見合うものか?」
グリムは表情で返事をする。爆弾を抜き出した瞬間に爆発させた。
「いっ……」
(無理やり距離をとってみたけど……)
翼を広げ煙を払う、無傷だ。
「ノーダメージですか」
「この鎧もこの城と同様にレスさまから賜りしものだからな。それでグリムの得意な距離で戦ってやったがもう来ないのか?」
グリムはポシェットからロープを取り出す、先にはクナイブレードが取り付けられている。
(ふむ、あの道具、ポシェットよりも大きいな、中で魔力生成しているのか、外で行わないところを見るに、中で作ることにより、より精密な魔力操作を行っていると見るべきだな。それに魔力生成するところを相手に見られればどんな物を作っているかバレてしまうからそれも防いでいる。そもそも儂の槍を受けて五体満足で立っている時点で脅威度はSは下らない。ふ、この高揚感、久しく忘れていたわい)
グリムは周囲にクナイブレードつきロープを投げて、クナイブレードを突き刺していく。
「あれ、城に傷をつけても怒らないんですね」
「怒りなんぞは内に秘めておけばいい、いかなる時も動揺せず、冷静に迅速に行動すれば済むことだ」
(うへー、一番やりにくいかも。でもやっぱり今までの人達より弱く感じる、初動から全力で来てくれる人は中々いないものなんですね。本気を出されたらまた評価が変わるんだろうなぁ)
グリムはロープの上に乗る。玉座の間がロープだらけになる、まるで蜘蛛の巣のようだ。
「小賢しい真似を、こんなもので動きが制限されるとでも思っているのか」
「思っていません!」
ポシェットから煙玉を5つ取り出して地面や壁に叩きつけた。
「またしても小細工、儂を馬鹿にしているのか?」
ジャベリンを『投擲』した。
壁を突き破り、廊下に出ていたグリムの右足を貫いた。
「ぎっ、いっ……」
グリムは歯を食いしばる。転倒せずに受身を摂る。ノーが壁を破壊しながら接近する。
「ロープに煙幕、それにより仕掛けられた側は不意打ちを警戒して動かなくなる。そうして時間を稼いでいる間に距離を取り、自分に有利な環境に移動、または作り出そうとしていたな」
(右足は……よかった膝は無事だ、でもそれより下はどっかいっちゃった)
激痛で額から脂汗をかき、呼吸が細かく早くなる。
(義足を付けている間に、残りの四肢がバラバラにされるよね……)
「儂は丸腰だぞ?」
「そんなわけがーー」
背後から壁を突き破って帰ってきたジャベリンを間一髪で回避する。しかしノーがその隙にグリムを踏みつける。手にはジャベリンが戻っている。
(抜け出せない!)
「ふん!」
ジャベリンがグリムの胸に突き立てられた。