EX3 グリムリーパー8
数日後。
「……生物がいない……」
動物、魚。魔物までもがいなくなっている。さらには草木も食べられるようなものもない。
「兵糧攻め、ですか……」
グリムはネックの身体の五合目辺りに差し掛かっている。ここまで不眠不休、飲まず食わずで進み続けている。
(疲労が激しいです……周囲の魔力濃度も著しく低くなっています。魔力も操作している?)
「ござっざっざ、魔力操作ではなく龍脈そのものを操作しているでござる」
「グリムはどうだ?」
「苦戦してるでござるね」
「そっか、よく生きてるもんだ」
「そろそろ仕掛けないと持たないでござるな」
(瀕死になった時に出てきたあの人格、あれがなんなのか見定めさせてもらうでござるよ)
「わかっちゃった! この身体はネックさまのもの、だから魔力を別の場所に移したり、背中にいる動物を他所に移動させることも出来るんだ!」
(かといって降りれば登り直しになる、今は耐えて身体にくっついて進む他ない。空路はダメ、また山をぶつけられる、地中を掘って進むのも得策じゃない、相手の手のひらに行くようなもの)
「うわわわーーん!! 考えてもこうするしかないよーー!!」
ひたすらに走る。土石流、濁流、地割れ、岩雪崩、山火事、ゲリラ豪雨。さらに高所に行けば酸素も薄くなる。昼は灼熱、夜は極寒。そんな中を進み続ける。
だが、進み続けるということは、いつかは目的地に着くということ。さらに半月が立った。
「つ、着いたぁーー」
ついに頭頂部に辿り着いた。
「さすがに疲れましたよ。横に登るなんて初めての経験でした」
頭部に着いたとはいえ、巨大なため本当に頭なのかも分からない、だが先がないのと魔力の流れがこの先に集約されていることから頭だとわかった。
「山を被っているのかな?恥ずかしがり屋さんなんですね」
(亀のように山の中に頭を隠している。中に入れば相手の思う壺、だからといってここで出来ることはない)
「行くしかないようですね、身体も限界が近いし、ここからは短期決戦です!」
クナイブレードを山肌に突き刺して崖を移動する。
(こんな戦いもあるんですね。逃げるながら攻めるという手、勉強になります。射程外から一方的に攻撃されるのがこんなにも困ることだなんて知りませんでした)
巨大な空洞に入る。
「かなり遠くに引きこもってるけど、巨大すぎてここからでも丸見えです。ネックさま、初めまして! 私、グリムっていいます!聞こえますかー?」
(意思疎通が出来ない相手との戦闘、主導権を握らなきゃ)
「挨拶もそこそこに! いきます!!」
走り出す。直線距離、山5つ分。足場は滑らかで進みやすい、瞬く間に距離を詰める。
「もうちょっと!! ……ッ!!?」
寒気が襲い、背筋が凍りつく、汗が滝のように流れる。
(え?)
ネックの頭が一瞬にして消えた、いや、グリムを凌ぐ速さであの巨大な頭がさらに奥へと移動したのだ。直後、風が奥の方へ引っ張られる。グリムは地面にクナイブレードを突き刺して耐える。
「くううううーー!!」
ピタリと止む、静寂が訪れる。
「や、ヤバい……これ、あれだ」
奥が輝き出す。
「吐息だ!!」
気づいた時にはもう遅い。回避しようにもここは山の中、超巨大空洞だ。唯一の出口は山5つ分離れている。苦し紛れにクナイブレードで地面を掘るも、それよりも盛り上がる方が早い。
(間に合わない、耐えられるかな……)
ネックが放った吐息、それは噴火だった。
「あれは、ネックさまの噴火の吐息!」
「おー、絶景でござるなー」
「呑気にしてる場合かよ!」
「あれは龍脈を操作できるネック氏だからできる技でござるな、大地に根を張る魔力を溜めて噴射する、まさしく大噴火! 最近は元気な活火山を見てなかったでござるから、マグラ氏もあれを肴に一杯どうでござるか?」
「いらないよ、酒は飲まない」
「そんなにグリム氏が心配でござるか?もしかして好きなんでござるか?」
「馬鹿言え、それより大丈夫なのかよ」
「ふむ、こればかりは見るしかないでござるな」