EX3 グリムリーパー5
その後、トスは周囲の毒を物の見事に中和してみせ、里に帰っていった。一方その場に残されたグリムは毒に侵され苦しんでいた。
「……うぅ、あうぅ……がはっ、げえぇ!」
意識も絶え絶えでゴロゴロとのたうち回る。いつの間にかブラギリオンが見下ろしていた。
「負けたでござるな」
「師……匠……」
その表情は助けを求めるものだ、そこに強者の面影はない。
「助けてほしいでござるか」
「……」
ハッとして、歯を食いしばって首を左右に振る。身体を抱きしめ丸くなりギュッと耐えている。
(マジでいい子でござるな、魔王さまと全然似てないでござる)
ブラギリオンはグリムのすぐ側で胡座をかく。
「魔神と言っても、グリム氏は魔人と神のハーフでござるし、まだまだ幼体でござる。死ぬか生きるかは運次第でござるよ」
返事はないが、それでも淡々と語りかける。
「序列10位と言っても龍属だけの括りでござるから、この世界単位で見たらもっと順位は下がるでござるが、それでもグリム氏よりは格上でござったな」
「龍族は完全な力の世界でござる、特に10位までは明確な序列があり、拙者の記憶が正しければ数百年は入れ替わってないはずでござる」
「魔力生命体、大きく分けて2パターンあって、魔力に命が宿ったものと、魔法によってそうなったものがあるでござる。精神力の方が強いと精神体や霊体と呼ばれるでござるね」
「魔力生命体に生半可な物理攻撃は効果がないし魔法攻撃も暖簾に腕押しでござる。そして魔力生成で一方的に攻撃してくるから、対処法を知らないと一方的にやられる、一つの壁でござる。より高度なものとなれば生体も作れるでござる」
「基本魔力生命体は精霊系に多いでござる。精霊はクゥ氏も使役しているでござるね」
「対処法は教えないというか、拙者の場合は斬ればそれでお終いでござるから、参考にならないでござる」
「クゥ氏のことを知りたいって? クゥ氏は拙者がたまたま拾った子でござったかな。別の星から来た聖剣、月白の剣の適合者でござるよ。グリム氏と同じ歳の頃は……クゥ氏の方が強いでござるね。気合武装も気がつけばマスターしていたでござる」
「スカリーチェ氏でござるか、あれはもう出来上がっていたでござるから、フォームの修正と少しばかりの知識を与えたでござる、槍は不得手でござるが、剣はいい線いってるでござるよ」
「トゥルーファング氏は特定の条件下で力を発揮するタイプでござるから、気持ちのもっていき方とか教えたでござるね。3人とも共通しているのはーー」
「深刻な毒の攻撃を受けてしまった」
「ござ?」
グリムは立ち上がっていた。
「彼女に任せていたせいで、いや、我々のせいだ、我々のせいでお身体にこんなにも負担を掛けてしまった」
「……グリム氏?」
「ブラギリオンさま、力を貸してくれるか?」
「えー、お主は誰でござるか?」
グリムの口調があからさまに変化している。
「答えている時間がない」
「んー、さっきのグリム氏には手を貸さないと言ったでござるからな、龍の里に行けばそれなりの施設があるでござるよ」
「龍の里か」
蝙蝠の翼を生やして飛んでいってしまった。
「一体何が起きているでござるか、魔王さまはグリム氏に何をしたでござる」
龍の里。
高速で飛行するグリムは村外れの一軒の民家に降り立つ。龍族の少年が驚愕の声を上げる。
「お前、誰だ!」
「がはっ!」
吐血する。その血を見た少年は驚きの声を上げる。
「毒の血だ!」
グリムは家にはいる。少年が止める。
「そこは俺の家だ! 勝手に入るな!」
「……ッ」
ばたりと倒れてしまった。
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「……ぐぅ、う……」
目を覚ます。
「うぅ、あたま痛い。……ここは、どこですかぁ?」
「起きたか」
ムスッとした少年が隣に座っていた。
「……誰?」
「こっちのセリフだ、俺の家に勝手に上がり込んで、ぶっ倒れやがってよ!」
「ああ、そうか、私負けちゃったんだ……ごほごほ」
「それトスさまの毒だろ、峠は超えたけどよく人間が耐えられたな」
「君のおかげだね」
「お、俺はなんにもしてないぞ、ただ布団で寝かせてやっただけだ」
「そのおかげだよ、あ、毒へいき? 伝染らない?」
「平気だよ、トスさまの毒は俺たちには効かないように調合されてる」
「そっか、強かったなぁ、殺し合いになってたけど、約束通りトドメは刺さないでくれたんだ、いい人だねトスさまって」
「ああ、なんたってこの里の守護者だからな……ってトスさまと殺し合いだと!? よく生きてたなー」
「えへへ、恥ずかしながら手心を加えてもらいまして、この通りもう完治しちゃった!」
「元気か」
「うん!」
「元気なら出ていけよ」
「え、ヤだよ」
「なんでだよ」
「君、一人暮らしだよね」
「なんで分かるんだよ」
「他の人の気配しないし、キミ子供だよね、親は?」
「お前だってガキだろ。……家族はもういないよ」
「ふーん、私と同じだね」
「え?」
「私もお父さまがお母さま食べちゃって、そのあとお父さまもすごい強い人に倒されちゃった」
「マジかよ、うげー、人間って共食いするのか」
「しないよ、私、人じゃないもん」
「じゃあなんだよ」
「魔神だよ」
「魔神?そんな神さま聞いたことないぞ」
「私が初めてだもん。ねー、同じ孤児のよしみでさ、トスさま倒すまでここに住まわせてよー」
「……そんな物騒なこと言われて住まわせるわけがーー」
ドアがノックされる。
「マグラいるか、入るぞ」
「は、はい!」
門番が入ってきた。
「今しがたこっちの方に何かが飛んできたと報告が入った、それでこの辺りの家を見て回っているんだが何か変化はなかったか?」
「……いえ、何も」
「そうか、さっきもトスさまに喧嘩を売る大馬鹿者が現れたばかりだ。何か異常があったらすぐに知らせろ」
「……はい。分かりました」
ドアを閉める。グリムが布団から顔を出した。
「匿ってくれたんだね!マグラ!」
抱きつこうと抱きつこうとするが避けられた。
「かわすことないじゃん!」
「俺に抱きつくな、もうなんなんだよお前」
「私はグリム。よろしくね!」
「ふむ」
ブラギリオンは少し離れた場所からグリムの動向を観察していた。
「目を覚ませば元通りでござる、不確定要素が多いでござるが、暫くは様子をみるでござるか」