第13話 モノマ村2
3日後、俺たちは隣村にたどり着いく。魔物たちの追跡は村を出た途端にピタリと止まった、あの村がナワバリなのだろう。この村も魔物村である可能性を考えて、ジゼルが幻を見極める魔法、看破を使って村人を見て回る。一箇所に固まってもらえればまとめて魔法を掛けられるので、村長と村人たちには経緯を話して協力してもらった。
「これで最後。この村に魔物はいない」
この村は大丈夫のようだ、俺たちはやっと緊張から開放た、村の名前はジンニン村だ。この村で腰を下ろすことにした、皆疲弊している、休息が必要だ、本当に普通の村でよかった。
「少し休む」
「お疲れ様、ジゼルが調べてくれてる間に宿屋で部屋を借りておいたぞ、二部屋あるから一部屋丸々好きに使ってくれ」
「サンキュー······」
そのままジゼルは宿に篭った。逃走時に魔法をいくつも唱え、魔力が枯渇しているところをほとんど寝ずに3日間歩き続けたのだ。そして極めつけは看破の連発、一番疲弊しているのはジゼルだ。心配だが今はそっとしておいてやろう。
「皆も各自休んでくれ、俺は村長に詳しい話をしてくる」
「スーの面倒はミーが見ておくよ」
スーは疲れて眠ってしまっている、今はエリノアが背負っている。
「私はまだ大丈夫です!」
「わかった、アイナと俺で行ってくる」
俺はアイナの肩に飛び乗り村長に会いに行く、魔物村をあのまま放置したら一番最初に被害を受けるのはここだ。きちんと話しておかなければならない。大きなかまくらのような家に村長はいた。俺とアイナを見ると頭を下げて丁寧に挨拶をしてくれた、ファーストコンタクトは終わっている、俺たちも返した。
話はだいたいしてある、村長は心配そうに話し始めた。
「それで勇者様、私の村に魔物はいましたか?」
「いいや、皆ちゃんとした人間だ」
俺はパンだがな。
「そうですか、それはよかった」
村長は胸をなでおろしている、余程心配していたのだろう。村長の容姿は40代前半くらいの太い男だ、ジャ〇おじさん似の優しい顔をした、いわゆる愛されタイプだ。
「その魔物村についての話は聞かせていただけるのでしょうか?」
「もちろんだ、知っている情報は全て伝える」
「ありがとうございます」
「魔物村は、普通の村より小規模だった、なので魔物の数は1000頭ほどだと思う」
「1000頭も······」
逃走時に50頭は倒したが、楽観視されても困るので言わない方がいいだろう。
「村の外まで逃げると追跡の手が止まった、あの村が奴らのナワバリだ」
「では、村人たちにはそこに行かないように指示を出せばいいですかな?」
「ちっちっちっ、甘いぜ村長。集落の作り方を理解した個体がいる以上、村の数を増やそうと思い至るのも時間の問題だ。早急に手を打たなきゃ、魔物村は広がる一方だぞ」
「で、では、どうすれば?」
どうしようかな、今回の戦いは大規模すぎて、俺たちだけじゃどうしようもない。兵がいるな。
「皆で戦って魔物たちを倒しましょう!」
「アイナ、そうは言ってもな、ここの人たちは剣すら持ったことないぞ?」
「今から鍛えて決戦に備えるのです! 私が教えます! 私が鍛えます!」
アイナのやる気スイッチがフルスロットルだ(どんなスイッチだ)。俺ならオフにすることはできるが、これはこれでいい流れかもしれない。
「村長、ここら辺の地図はあるか? 他の村の位置がわかるような」
「ありますが、一体何をお考えで?」
「一心不乱の大戦争さ」
俺が提案したのは単純な事だ。近隣の村々から戦える者を集めて、総出で魔物村を叩く。
小細工は一切無しだ。力には力で、数には数で対抗する。
ジンニン村の村長が持ってきた地図はこの辺りの地形しか書いていない粗末なものだった。それでも各村の位置や危険地帯、美味しい山菜の取れる場所などは細かく書いてあり、現状を把握するには十分だ。美味しい山菜の場所はアイナにメモを取っておいてもらおう。
ふむ、魔物村のある辺りはここか、なるほど魔力濃度が元々高い場所なのか。そこに集まった魔物の中に賢い個体がいて、ああいう状態になった、それなら納得が行くな。
近隣の村は、コンダイ村、ボウゴ村、ブラカ村、マイモサツ村というのか。そしてこのジンニン村を含めて村は5つ。魔物村はその村々の中心に位置している。
「至急、各村に伝令を出してくれ」
「どのような?」
「『勇者が来た、魔物から故郷を護りたくばジンニン村に馳せ参じよ』ってな」
「で、ですが、それだけでは、各村の警備も必要だと思いますし······」
危機意識が低いな、不本意だがどれ発破をかけるか。
「俺は別に救わなくてもいいんだぜ? なんたって俺たちは国王直々に召集を受けている身なんだからな。急ぎ、なんだぜ? 早くしねぇと行ってしまうぞ?」
「あわわ」
「バーガー様! そんな言い方はひどいと思います!」
アイナの冷たい視線が突き刺さる。だよね、でもさ。これくらい言っておかないと他の村の奴らが動かないと思うんだよねー、現にここの村長も渋ってるし、俺はアイナを呼び耳元で囁く。
「もちろん嘘だよ。魔物村は潰す。でもそのためには彼らの協力が必要不可欠なんだ、ああやって言えば少しは必死になってくれるだろうって思ったんだ」
「なるほど! あの不遜な態度にはそんな意味が······バーガー様の意図が読めない私が未熟でした!」
ほほほ、こらこら、そんな大声を出さないの。
「と、まぁ、そんなわけだ村長。村を救いたければ、早急に伝令を飛ばし戦える奴らをできるだけ掻き集めてくれ」
「わ、わかりました! すぐに伝令を出しましょう!」
ふぅ、最善は尽くせているのかな。次は村人たちの様子でも見てみるか。
「では戦える者を集めてください! 私が鍛えてあげます!」
「アイナ、今日はもう休みなされ、疲れているだろう」
「はっ! そうでした、ヘトヘトです、バーガー様······」
アイナは途端にうとうととし出す、肉体の疲労を意識したことで、ドッと疲れが出たのだろう。というか俺の脳筋が伝染ってる気がする、大丈夫かなぁ。
ジンニン村に着いてから一週間が経過した。4つの村に伝令を送ったが援軍を連れて戻ってくるまでにはまだ時間がかかる事だろう。
俺はジゼルと宿屋の一室にいる。
各自戦闘への準備を続けている中、俺は具材を挟むだけで準備が終わるので皆の様子を見て回ったり、伝言係やったり、雑用をこなしている。勇者ってのは雑用係のようなものだな。
ジゼルは村についた翌日には回復しており、部屋にこもり魔法巻物を量産している。自前の紙はすぐに底をつき今は村からもらった紙に魔法陣を書き綴っている。
「紙は専用のものでなくていいのか?」
「いい。砦の屋上や。宿屋の床にも書いた。問題は紙でなく筆の方」
筆ね、筆とはいっても、床に書く時は青いチョークのようなもので書いていたな。今はそのチョークを砕いて水に溶かして墨汁のように使っている、あの青いチョークが重要なんだな。
「その青いのは何なんだ?」
「魔鉱石を砕いて再度固めたもの。魔鉱石は魔力の伝導率が高く。魔鉱石自体も魔力を宿している。魔法陣制作の必須アイテム」
「魔鉱石ってどこにあるんだ?」
「魔法陣に使えるような良質な魔鉱石は魔力濃度が高い場所でしか取れない。相場はまちまち。高価なのはどこも同じ」
誰でも魔法陣がほいほい書けないのはそこに原因があるのかな。金銭面的なことがまずあがるのか、それでも金のある奴ならやるだろう。
「魔導師しか書けないのはなんでだ? 写せばいいんじゃないのか?」
「写すそうとすると魔法陣が消える魔法が仕掛けてある」
「模写もダメなのか?」
「ダメ。呪いを得意とするダークエルフの王国魔導師が開発した呪い。概念にまで作用しているといわれている。模写をする意志を持ち実行した段階で呪いの魔法陣が発動する。その前に闇市で流通してた古い同種の魔法巻物にも作用して全部消えた」
「なにそれ凄い」
ダークエルフか、呪いが得意な排他的な種族だったな。
「ダークエルフは排他的な種族で人間の文化なんか嫌いなんだろ? その人はなんで王国魔道士をやってるんだ?」
「訳あり。人間社会に上手く順応している。それに種族で個人は縛れない」
「種族では縛れないか、そうだよな。その人のお陰で魔法巻物の技術漏洩が防がれているんだもんな、安心のセキュリティだ」
そういやエリノアはそんな大事な魔法巻物をグッドプライスで売ってましたねぇ。
「なあ、エリノアって魔法巻物売りさばいてたよな」
「魔導師が作って売るのは自由、私が許可したから大丈夫」
よかった、合法だ。と、話し込んでしまったな。
「んじゃ、俺は他の連中の様子を見てくる。なんか伝言あるか?」
「ある。エリノアを呼んで。そろそろ抱きたいって」
「だ、抱くッ?!」
おいおいおい、死んだわ俺。ここにキマシタワーをおっ立てようぜ兄弟。
「違う。抱き枕にちょうどいい」
え、それで否定してるつもりかな? むしろ堂々としてて男らしい。わかったよ、おじさん黙って伝言役を買いますよ、伝言だから黙れないけどな!
「任せておけ、勇者であるこの俺がエリノアを包装してお届けしますぜ!」
「そうだ。バーガー」
「なんだ?」
「また魔法陣を見せて。まだ5分の1も写せてない」
「イテキマース!」
「あ。待て」
昼下がりのジンニン村。俺は宿屋から飛び出してジゼルの伝言を伝えるためにエリノアを探す。
「こうです! シュバっと!」
広場からアイナの元気な声がする、村人が集められている、ラジオ体操でもしているのか?
「シュバッシュババ! ザザントスザザントス! リピートアフタミー!」
「「「シュバッシュババ! ザザントスザザントス!」」」
な、なんだこの異様な光景は、男どもが高台に立つ可憐な少女を真剣な眼差しで見つめいる、少女の剣の型を真似している。
「いい感じです! では次の型いきますよー!」
「お、おい、アイナ」
「あ、バーガー様! みなさん! いま教えた型を復習していてください」
アイナは嬉しそうに俺の元まで駆け寄ってくる。額の汗を拭い、はにかんだ笑みを見せる。一連の動作が美しい。
「バーガー様、どうしたんですか?」
「いや、声がしたから様子を見に来たんだ、何やってたの?」
「村人たちの特訓をしていました、付け焼き刃ですが、ないよりかはマシですから」
アイナーズブートキャンプってわけか。男衆は喜んで参加している、全員分の剣は無いので棍棒や鉈、農作業用の桑などを振るっている者が多い。魔物村の話を聞いた時は不安そうな顔をしていたのだが、アイナのお陰で村人たちも落ち着いたようだ。
「アイナ、ありがとうな。本当は勇者である俺が皆を励まさなければならなかったのに」
「バーガー様は知略を練ってらっしゃるのですから、これくらいやって当然です!」
「頼もしいよ、付け焼き刃でもいい訓練を続けてやってくれ、見たところ武器が足りないようだな、村長に武器の在庫がないか確認しておくよ」
「はい! ありがとうございます!」
アイナはペコリとお辞儀をして、男衆たちのところに戻っていく。村人が魔物と戦えるようになるのは難しいが、それでも3人でCランクの魔物一頭と戦えるようになってくれれば多少の融通も利くようになるだろう。
「お待たせしました! さ、いきますよー! ズバンズバン! ドーン! セーイ!」
「「「ズバンズバン! ドーン!」」」
「よくできましたね! さらにそこから体を捻ってズドッ!」
「「「ズドッ!」」」
さっきから擬音多くない!? 大阪の道案内かな、ここギュンとしてビューン的な、アイナは天才肌なんだな、弓も馬術も早々に極めたし、感覚で分かるんだろう。ただ、教えるのには適していないような······やはり理論的に教えてやらないと理解できない連中が出てくるはずだ。
「「「せい! やぁ! どりゃあ!」」」
「いいですよー! 素晴らしいです!」
あれれー、男衆の目がキラキラに光ってやがる。くそ! 奴らロリコンかよ! 気持ちはわかるぜ、可愛い子の前ではいいところ見せたいよな、アイナの無茶苦茶な指導に必死にくらいついている。うん、これはこれでありかも、ほっておこう。
エリノアはすぐに見つかった、たまたま居合わせた行商人と話し込んでいる。
「そうは言ってもな」
「そこをにゃんとかー」
「何を話しているんだ?」
「げ、バーガー」
おやおや? また隠れていけないことしてるのかなぁ?
「これは勇者様」
「お困りですか?」
「いえ、この娘が魔物の素材を譲って欲しいと······」
「いくらで?」
「タダで······我々も商売ですので、無償はちょっと」
「エリノア、なにふっかけてるんだよ、金ならあるだろ?」
「へへへ、あるっけ? あったっけかにゃあ?」
こいつ、値切ってたのか、いや、タダで寄越せとか値切るってレベルじゃねぇぞ。
「でもにゃ、バーガー、見てみろ、いい具材があるにゃ」
「どれぇ?」
俺は身を乗り出して、風呂敷の上にある並べられた素材を見る。見たことのないものがいくつかある。
「これは?」
「こちらは鋼鉄陸亀の甲羅の欠片です」
「にゃはは、バーガーも具材は欲しいよにゃ?」
「だからってな、金はあるんだから買っちゃえよ、なにも値切ることはないだろ」
「はぁ、これだからトーシローは、8ヶ月もミーの側にいてそんにゃ言葉が出てくるにゃんて、商人失格だよ?」
「いやいや俺商人じゃないし、勇者ですから、ほら、金あったろ? 大喧嘩祭の時の賞金、あれで買おう」
「ちぇー、じゃあ主人色々買うから色つけてね」
「はいはい、わかったよ、少しだけな」
俺が買ったのは、
鋼鉄陸亀の甲羅の破片。
殺人蜂の毒針。
鏡鳥の鏡羽。
どれもAクラスの魔物だ。
ふむ、なかなか渋い品揃えだ。少々高かったが、まぁ大したことないさ。さて挟むか。俺は具材を咥えて解析を開始する。俺の脳内に女神の録音ボイスが響く。
『鋼鉄陸亀から鋼鉄の体を検出、1回使用可能』
『殺人蜂から毒針を検出、1回使用可能』
『鏡鳥から鏡の盾を検出、1回使用可能』
ルフレオ図鑑によれば鋼鉄の体は硬化の上位互換だったな、硬化でも硬かったからこれは楽しみだ。
毒針か、先端から毒の出る針を魔力生成する魔法だったな。短剣と同じ要領で使えればいいが仲間に当てないようにしないとな。ジゼルが解毒を使えるとはいえ、フレンドリーファイヤーは避けるべきだ。
鏡の盾、鏡の性質を持つ盾を魔力生成する魔法だな、緊急時の障壁に使えそうだ。
あとは薬草と体力増量効果のあるパテを挟めば、中堅勇者バーガーになれるだろう。いい具材だ。
「エリノアはなんか買わないのか? 奢ってやるよ」
「マジ? そうだにゃあ、投げナイフでも見繕ってもらおうかにゃ」
「投げナイフか、いつもは使ってないよな」
「今回みたいに敵が多い時は重宝するからにゃ、いつもは軽量化のために軽装を心がけているんだけど、飛び道具はあったほうがいいからにゃ」
「何本にしますか?」
「それだけ薄ければ、あるだけ装備できそうだにゃ、全部もらうよ」
「おい」
「ミーは高くつくよ、勇者さま」
「あー、はいはい、まぁナイフだし大した値段しないだろ。いつも前衛、ご苦労さま」
「太っ腹!」
そのあとジゼルの伝言をエリノアに伝え、俺は村長のもとへ向かった。
「おお、勇者様、よくいらっしゃいました」
「ああ、村長、かしこまんなくていい、楽にしてくれ」
俺は立ち上がろうとした村長を座らせる、気を使われすぎるのも面倒だからな。って、スーがいるな。いないと思ったらここにいたのか。
「スー、そこで何してるんだ?」
「んー、バーガーなの、ぼくは今ひなたぼっこしてるの!」
日向ぼっこって······一人で人前に出られると不安なんどけどな。
「村長、スーはよくここに来るのか?」
「はい、ここは日当たりがいいので、スーさんがこのポイントを発見してからは昼のこの時間はいつもいらっしゃってますよ」
「そんちょー、おかし食べたいの!」
「はい、ただいま」
村長は箱からふ菓子のようなものを取り出す、スーが走りよって手ごとむしゃぶりつく、搾り取るようにスーの口が離れると村長の手にあったふ菓子が消えていた。かわりに粘液がべっとりと付いている。村長は慣れた手つきで唾液を拭き取った。
「村長すまん、うちのパーティメンバーが上がり込んでいるとも知らずに、あとで謝礼を払おう」
「いえいえ、そんな滅相もございません。村を救って頂けるのであれば、私はこの体を捧げる覚悟です······」
手をベトベトにされた村長のいう言葉には重みがあった、スーに食われてもいいという不動の覚悟を感じる。この人は村長になるような人格者なのだ。
「はは、そんな救うだなんて大袈裟な、これはただの魔物退治だ、集団狩猟と何ら変わらない」
「そう言っていただけると頼もしい限りです。それで一つ疑問なのですが」
「なんだ?」
「スーさんはパーティでどのようにご活躍されているのですか? その、失礼ですが私のような素人の目からは年相応の少······年? 失礼ですが性別は?」
「おとこ······男の娘です」
「男の子ですか、失礼しました。私の目からは年相応の男の子にしか見えませんが、やはり魔法使いなどなのでしょうか?」
「あー、そうですね、僧侶······みたいなものですね」
「おお、そうでしたか。魔術に長けているのですね」
「そーそーそんな感じ」
ふぅ、なんとかごまかせたか。
スーは神龍で、さらに魔力生命体、つまり不定形だ。魔王の弟と言われているが性別なんてそもそもないようなものだ。
種族に疑問を持たれていないのが幸いか、人に擬態する魔物が近くにいるのだ、このタイミングでスーの正体がバレれば、村人たちの不信感が高まってしまう。疑念を戦場に持ち込まれれば命取りになるだろう、知らせない方が上手くいくときもある。
「モーちゃん······」
そう言ってスーは寂しそうな視線を俺に送る、先ほどの様子とは打って変わってその表情は儚げだ。そんな顔をするなよ、俺だって話題には出さないものの、モーちゃんのことを忘れたことなんてないんだ、正直心配で仕方がない。
しかしどうしようもない状況だ。あたふたしてもモーちゃんが帰ってくるわけではない。魔物村についたら、まずはモーちゃんがいるであろう馬小屋に行こう、なに村に入ってすぐのところだ、10分で到達できる。
「モーちゃんは必ず救う」
「僕、やなの、また仲間がどっか行っちゃうのはやなの」
また、か、きっとスーの兄弟の事を言っているのだろう。
「ああ、モーちゃんを助ける、スーも家族の元に届ける。両方やるのが勇者の凄いところだ。安心してくれ、そんな悲しい顔をする必要はないさ」
「くすくす」
「なんだい、いきなり笑って」
「なんだかバーガー、レスみたい」
「レスってのはスーのお兄ちゃんのことか?」
「うん、世界で一番すごくて、世界で一番優しいの。早く会いたいの」
「ははは、楽しみは取っておこうな」
スーの頭を撫でてやりたいが、困ったことに俺に腕はない、なのでスーの頭に飛び乗る、バンズのヒールの底を波打たせる。
「ひゃっ! バーガーくすぐったいよー」
「むう、人の腕のように撫でるのは、この体では無理があるな」
「いまのなでてたつもりなのー? わかんないよーくすくす」
村長がコホンと咳払いした。
「えーっと、すいません勇者様、何か用があっていらしたのでは?」
「ああ、すまんすまん、アレだ、剣が足りない、武器はあるか?」
「それでしたら、予備の装備が武器庫にございます。武器庫とはいっても数も質も大したことはありません、それでよければお好きにお使いください」
「助かるよ」
「どこにお運びすれば?」
「広場でいいだろう。あそこでアイナがブートキャンプを開いているからな、彼女に渡してやってくれ」
「わかりました」
さてさて、やれることはやった、あとは他の村の反応しだいだ。最悪の場合、ここの村人たちでやるしかない、その時は覚悟を決めなければな、そう思っていると、若い村人が挨拶もなしに部屋に入ってきた。
「村長!」
「ノックもせずにどうしたんですか?」
「き、騎士団が! 王国聖騎士団がいらっしゃいました!」
「な、なんですと!」
王国聖騎士団だと! 俺は急いで外に飛び出した。




