EX2 オーバーライト21
「おおおお!!」
火属性魔力を噴射し続ける。大地が砕ける。このまま押し通すーー
「どっせい!!」
「ッ!?」
ファングは力づくで剣を振るう、そのまま地面に叩きつけられた。
「がっ!?」
「力の解放だ、サガオ。今度は俺のターンだな!」
ファングが跨り、剣を叩きつける。倒れたままサンザフラで防ぐ。足から炎属性魔力を噴射し地面を抉りながらスライド回避。ファングの剣が大地を割る、それだけに留まらず、地中に眠る膨大な魔力が光を放ち遅れて大爆発を起こす。
「大地に根を張る魔力の流れに俺の魔力が引火したか、む」
俺は左腕の隙間から漆黒線状魔力を発射してファングの体を捉える。
「まずは鞭のように使うか、だがもっと面白い使い方も出来るぞ、サガオ」
「わかっているのだ!」
拘束はすぐに解かれる、その間に準備をする。右腕にダリアが血液を送る。そして内部にコスモの漆黒線状魔力を詰め込み、ヒマリのマナーの加護で安定させる。
「筋繊維、血液、外皮、素晴らしいハーモニーだ、サガオ」
「おあああああ!!」
殴る。ファングの胴体にヒット。大地を砕きながら後退させる。
「お返しだ!」
踏ん張られ、手刀が俺の胸を貫く。
「ぐあ!」
「当たったということは当てられるということだ、サガオ。先に当たることによってその理を得たぞ」
「く……」
手刀はコックピット内部にまで達している。体を動かして皆に当たらないようにはしたが、危機一髪だった。
「ふ、サガオ。今ので内部構造を把握した、次は殺せるぞ」
引き抜きと同時に横蹴りがくる。肘と膝を使って挟んでガードする。サンザフラを手放す。
「勇者組手……」
「それも知っているぞ、サガオ」
「俺バージョン!」
ファングの頭を両手で掴み、膝蹴りを繰り出す。ファングはその鋭い牙で対抗する。ガキンと膝に食いつかれる。しかし軸足の足裏から魔力噴射、そのまま一回転してファングの頭を地面に叩きつける。その隙に両手を地につけてフォームを完成させる。
勇者組手ブレイクダンス。
「オリジナルに昇華させたか、サガオ!」
体の隅々から魔力を噴射することにより、元々変則的な動きをしていた俺のブレイクダンスバトルスタイルが劇的な変化をみせる。サンザフラも蹴りあげ乱舞に加える。
「旋風烈閃、武霊駆!」
上下左右前後。全体から責め立てる。……死線が見えない……!?
「がるぁ……」
嵐の乱舞の中、ファングが体勢を整えていく。慣れていっているのか、俺の技に!?
「こ、これほどとは!!」
「才能と血筋、そして弛まぬ努力だ、サガオ。俺たち獣人族は強き肉体を持つものが生き残る弱肉強食の世界。お前たちは見た目と精神面に重きを置いているが、強き肉体にこそ、強き精神は宿る、わかるか、サガオ!」
「ファングが背負っているのは獣人族の未来か!」
「背負っているという気構えはない、それが当然、世の理、獣人族は受け継がれた力を持って本能のままに生きていく!」
獣人族最強……、ふと人類最強のクゥを思い出す。彼女は静の最強だ。ファングは動の最強と言ったところか。しかし、俺は知っている!
「クロスケさまの『シゴキ』に比べれば!」
距離を取る。合体させていたサンザフラを双剣モードに切り替える。
「勇者斬か、いや」
「螺旋勇者斬!!」
双剣装備時のみ繰り出せる螺旋状の勇者斬だ。しかし悪しき心を持たない人の子であるファングにダメージはない、素通りしていく。
「眩しいだけだな、サガオ、む」
螺旋勇者斬はインフィニティ状になる。その中心目掛けて飛び上がる。
「装甲を解放!」
「まさか、取り込んでいるのか、サガオ!」
全身の装甲を開きエネルギーを再吸収する。
「勇気を振るうのが勇者、この一撃は、俺たち人類が恋い焦がれた、憧れの頂き!」
サンザフラを合体させ、エネルギーで満たす。溢れたエネルギーは魔力変換して刀身に変わる。山をも超える巨大な向日葵となる。
「勇者斬超光!!」
上段からの一撃、この規模なら回避は不可能。ファングは剣を咥えた。
「黒狼装甲、月下咆哮!」
剣がファングのフルフェイスと融合して牙となる。四肢を地につけて、爪を地面にくい込ませる。大口を開け、咆哮を放つ。咆哮だけではない魔力も照射している。初めて見る魔力反応だ。月属性魔力とでも名付けよう。
奇しくも太陽と月なのだな。
「押して通る! 俺の家族に指一本触れさせないのだ!!」
「がるあああああああああ!!」
拮抗。これだけの質量を上から叩きつけているのに。有利なはずなのに。なんたる力だ。これが最強の獣人の力。
「お、にぃ、ちゃん……ッ」
「サガオ……、うッ」
「主人……。これ以上は……機体が……」
「ぬ、ぬおおおおおお!!」
一歩でも引けば即死する。俺の中には家族の命。
「ここでやらなきゃ、勇者じゃない!!」
「がるああああああ!!」
「ぐ!! 照射がより強く!?」
「終わりだ、サガオ。お前たちはよくやった。俺の咆哮にここまで耐えたやつはそうはいない」
「まだだ!!」
「いいや、終わりだ。こうなっては家族諸共だ、共に逝け、サガオ」
「その必要はないわ」
背後から声がする。
「オディットか、今更何をしようが無駄だ。お前の水晶魔王砲の最大火力を持ってしても、俺の月下咆哮は止められないぞ。オディット」
「そうね、この角度からじゃ、本体を叩く時間もない。ジュの今の火力では無理ね」
「なら、そこで大人しくしているがいい、そうすれば殺さずにおいてやる。とりあえずはな! オディット!」
「ふふ、魔王候補を舐めないでくださらない?」
「これは……」
地響き。大地を突き破り、巨大なシルエットが。
「ヒッヒッヒッ!!」
八岐大蛇モードで八岐大蛇化したロイーズが現れた。
「ロイーズ!」
「ワンコが飲ませてくれた血で元気でたよー」
さらに竜巻を起こしながら崩壊した洞窟から飛び出してくる影が。
「ヤーは怒ったであります!! 敵の技で助けられるなんて許せねぇです! でも借りは返さねぇと気がすまねぇです!」
「アヴドキア!!」
ダリアが血を操作してこっそり助けてくれていたのか。
「ダリア、ありがとう」
「はっ!」
さらに大地を割ってカサカサと虫の大群が地面を埋め尽くす。
「今度は!?」
「……む、虫を集めてた」
「イリポーン!?」
欠損した体のパーツを虫で補い。巨大な虫に掴まれて飛んできた。
「魔王候補が勢揃いなのだ!」