EX2 オーバーライト17
「ダリア! 足場を作れ! ヒマリたちにもだ!」
「御意!」
ダリアは血液魔法で足場を作る。下を見れば洞窟が完全に崩壊していた。間一髪だ。
「ダリア、コスモが限界だ、預かってくれ」
「承知」
背中の装甲を開きコスモを出そうとする。しかしコスモは機内を掴んで抵抗する。
「コスモ!?」
「やだ、ここ、いる」
「ダメだ、これ以上は危険だ、これ以上はコスモの身体が勇者奥義に耐えられない!」
「やだ、やだ!」
ファングが瓦礫を吹き飛ばして現れる。無傷だ。
「サガオ、楽しいな。闘争は、これは本能だ、本能こそ、俺たちの体に刻まれた真実だ!」
認めよう、トゥルーファングは四騎士と同等の力を持っている。ここで止めなきゃならない。だが。
「死ぬつもりはない、この絶望的な状況下でも俺は死ぬつもりはない」
「一度死んだ者がよく言えたな、サガオ」
「それでもだ。俺はもう死なないし、お前を倒すのだ」
「本心だな、サガオ。やっと本心で語り出したな。しかし本心を聞いてわかったが、随分と強欲なヤツなんだな、サガオ」
「ああ、俺はわがままだ、強欲なのだ!我を通させてもらう!」
「今のお前なら俺と対等に戦うに値する」
「だから勝手に話を進めんじゃねぇです!!」
アウドキアが俺に突っ込んでくる。マズい、背中を締めなければ、く、間に合わない。
「ぎゃあ!?」
跳躍したファングがアウドキアの背中を斬っていた。
「対等に戦うと宣言したそばから邪魔をするんじゃない、小娘」
「ちくしょう!!」
落ちていった。
「さぁ、サガオ。コンディションは文句言ってくれるなよ」
「もちろんなのだ」
ファングのマントには飛行の魔法が宿っている。空中戦もお手の物とみた。
「サガオ、わたしも、いのち、かける」
「コスモ?」
コスモがコックピットの中にある俺の腕を強く握りしめる。力が湧いてくる……これは!?
「この魔力は!?」
「『にた』ひとたち、みたから、わかった」
そうかオディットはこのことに気づいていたんだな。あの目で。
「魔王の娘なんだな、コスモも」
「うん」
漆黒線状魔力が機体に張り巡らされていく。
「力が湧いてくるのだ……」
複雑な気持ちだ。勇者を目指すものが、魔王の魔力を纏っている。
「いまは、たたかって」
「ああ。行くぞ!ファング!!」
「来い、サガオ!」
俺は両方の腕からワイヤー状の漆黒線状魔力を発射する。ギュララララと弧を描く。
「それが初代魔王の特異魔力か、一番の強みはどんなものとも適合する適応力、勇者サイドともよく混ざる」
「はぁ!!」
発射したワイヤーからさらにワイヤーを枝分かれさせて連結させる。これで捉える。
「真実の牙!」
ファングはフルフェイスを被り、牙を魔力生成させる。
「大黒狼爪!」
腕ごと包む大きな爪が魔力生成される、今回は両足にもだ。さらにマントが伸びて、鬣と尻尾のような形態に変化する。
「まるで獣人、お前まさか」
「ふ、まだだ、サガオ。俺の真実は、こんなものじゃない」
咆哮が響き渡る。
「気合武装。『黒狼装甲』!」
「なに!?」
気合武装だと!? その域に達しているというのか!? ワイヤーがファングを雁字搦めにする。ファングの姿が見えなくなる。
「アオオオオオオオオオオオオオオ!!」
漆黒線状魔力が引きちぎられようとしている。ファングの体積が何倍にも膨らんでいく。
「オディット! ヒマリを返せ!」
「このタイミングで何を言っているのかしら?」
「パワーが足りない。ヒマリも俺の中に入れなきゃ勝てないぞ!」
「ダメよ、ヒマリを返したら、次はジュを殺すでしょう」
「殺さないのだ!」
「保険もなく貴方と取引するつもりはないわ」
「じゃあファングに皆殺しにされるのだ! 見てみろ、あれは紛れもない気合武装だ。気合武装には気合武装じゃなきゃ対抗できない」
「貴方、気合武装使えないじゃない」
「最大のパフォーマンスが発揮できれば可能性はあるのだ!」
「……ダメよ、せめてジュの逃げる時間を稼ぐことね」
「わからず屋さんめ!!」
ワイヤー状の漆黒線状魔力が完全に引きちぎられた。
「サガオ、なかなか苦労したぞ、さすがは魔王の魔力。まぁ本来のパワーは出ていなかったがな」
「その獰猛な姿で冷静な口調はやめるのだ」
「ふ、俺は俺の力を完全に支配している。獣化したていどで俺の理性が失われることはない」
「いま獣化って言ったな、やっぱり獣人なのだ」
「あ……まぁいい。そういうミスもある、しかしまだまだ真実は俺の中にある」
「それはどうだか」
「ッ!?」
ファングが慌てて振り返り空中で膝を着く。背後に誰かいる。
「ファング、帰りが遅いぞ」
「帝王さま!」
あれが帝王、ファングと同じ装備だ、マントで浮遊している。
「ってあれ……?」
帝王がフルフェイスを取る。あれは!!
「エリノア!?」
「サガオ、にゃんでここにいるの?」