EX2 オーバーライト15
「ヒマリ!」
「下手に動かないことね。ヒマリの命が惜しくばジュの下僕でいなさい」
「オディット、俺たちを騙していたんだな」
「そんなに驚くこと? 私は魔王よ。人類の敵の言葉を易々と信じる貴方が愚かなだけでしょう」
「ヤーを差し置いて、魔王を名乗るなです!」
並ぶ2人の様子を見るに同盟を結んだようだ。オディットはアヴドキアの協力を得に行っていたのか。ファングという強敵を排除するのが先決と判断したか。こっちはヒマリを人質に取られ、俺に乗るコスモは急成長の激痛に耐えている。……この変化は人の成長痛の比ではない、内部で刃物が生成されているような感じだ、治癒にも限界がある、命に関わる。
「おにぃちゃん……、逃げて」
「逃げてはダメよ、まずはそこの牙男と戦いなさい」
「だとよ、サガオ、俺たちから戦うらしいぞ」
「……ファングはそれでいいのか、魔王の娘たちを狙っているんだろう」
「守ったり煽ったり忙しいやつだな、サガオ。襲い掛かってくるというのなら殺すまでだ、当然の真実だろう、サガオ」
「く……」
距離を取る、下手に仕掛ければさっきの二の舞だ。それに今はコスモを庇いながら動かないといけない。アウドキアが笑った。
「ははは!オディットのほざいた通りです、本当にあのサガオが従っていやがるです!」
「言ったでしょう、人を支配するのは貴女だけの特権ではないと。人を動かすのにわざわざ能力なんて使うまでもないのよ」
「いちいち嫌味なやつです!それにヤーだって……」
「はいはい、今は高みの見物といきましょう。その後でジュたちは疲弊したファングを確実に始末するのよ」
「指図するなです、ロイーズ、いつまで倒れてやがるです!」
「うー、噛まれて力が出ないんだよー」
「……へぇ」
アウドキアはロイーズに鋭い視線を向ける。オディットが窘める。
「共通の敵を倒してからよ」
「いいや、ロイーズの漆黒線状魔力を奪うチャンスです!」
「どうして……」
「ヒマリとか言いやがりましたか、人質が口を挟むなです」
「どうして姉妹たちで争えるの!姉妹を全員殺したら世界で一人ぼっちになるんだよ!」
「知った口を聞くなです!」
「知ってるよ!」
「こいつ、立場を教えてやるです!」
「うっ!!」
アウドキアがヒマリのロープを掴んで宙ずりにする。
「やめろ!」
「やめてほしかったらさっさと戦えです! ジリジリしてないで突っ込んで隙を作れです!」
「くっ!!」
行くしかない、ファングを倒して、奴らに取り入ってヒマリを助け出す。そしてコスモの治療を……
……ダメだ、それでは間に合わない。
「だいじょうぶ、わたし、へいき」
「コスモ……」
ダメだ、コスモの体力が持たない。ここは一か八かだ。
「ファング」
「ん?」
「お前を殺す」
「来い、サガオ!」
「キラーキラーマークIIセカンド……W!!」
機体が再構成されていく。完全な人型になる。篭手から外れたサンザフラを握り直す。
「それがお前の最終形態か、サガオ」
「……走稲妻!」
サンを投擲する。ファングは身を僅かにずらし回避する。その奇跡に稲妻が走る!
「雷鳴炎刃!」
稲妻と化してサンまで超高速移動。実態化してサンを握り、背後から襲う。
「黒狼爪!」
漆黒の爪を模した魔力を腕に纏わせて防がれた。なんたる超反応だ。
「電属性魔力を見たら、高速の攻撃に警戒しろ、魔法戦の基本だぞ、サガオ。それに」
「きゃああーー!!」
「コスモ!!」
「お前の中のそれがお前の技にあと何発耐えられるかな」
「くっ!!」
「サガオ、やって、ヒマリを、たすけて」
「……地空烈断!」
聖剣サンを振り下ろし、聖剣フラを振り上げる。可視化された斬撃が空を裂き、大地を裂く。ファングを上と下から挟撃する。
「黒狼爪!」
両手でこじ開けてくる。アウドキアが叫んだ。
「く、地形が変わりやがります、退避するです!」
「いいえ、ダメよ」
「オディット、どうしてでありやがりますか!」
「ここで終わらせるからよ」
「な!?」
アウドキアを突き落とした。しかしアウドキアは腕を翼に変えて空中に留まった。
「馬鹿なんじゃねぇですか! 裏切るタイミングが少々早かったようですね!」
「いいえ、間違ってないわ」
「何を言ってーー」
「ダリア!」
「ヴァウ!!」
岩場から飛び出したのは間違いなくダリアだ。ダリアが一鳴きすると、周囲から血が集まる。予め血を染み込ませていたのだろう。それらが集まり濁流のように天井の空いた穴からアウドキアを押し込むようになだれ込む。
「ぐっ!! 計りやがりましたね!オディット!」
「貴女だって常にジュの首を狙っていたじゃない、この子がいなかったらジュがそうなっていたわ」
「畜生! こうなったら全員ヤってやるです!! 八咫烏モード!!」
3本目の足が漆黒線状魔力によって魔力生成される。洞窟が血で満たされる。