EX2 オーバーライト14
「その子を置いていくのだ」
「サガオ、聞いているのか? 耳は壊していないぞ」
「聞こえているのだ、ていうかそっちこそ聞くのだ、ロイーズを置いていくのだ」
「……サガオぉ? なんでぇー?」
「サガオ、お前は俺より先にここに来ていた。入口から出てきた魔人どもはお前のことには気づいていなかった、不思議か? なぜなら奴らに警戒心は感じられず、ロイーズの元を離れられたという安堵と、仕事を終えた達成感が大半を占めていたからだ。つまりサガオはロイーズの巣穴に忍び込んでいたということになる。ロイーズを暗殺しようとしていたんだよな。それが確固たる真実だ」
「うるさいくらいの洞察力なのだ」
「だから聞く、聞かねばならなくなった。自らの手でこの動けない魔王候補の首をとり手柄がほしいのか、それとも浅はかで短絡的な思考回路によって発生した一時の迷いか」
「どちらでもないのだ、俺の根底にある信念によって、今はロイーズを助けることにしたのだ」
「私情だからこそ発生するイレギュラーか。任務を受けて見定める俺と似ているな、サガオ」
「似てないのだ!?」
ファングはロイーズを落とした。
「どべっ、いたいなー」
「さて、俺はこの洞窟唯一の出入口に陣取るとしよう。抜け道はない、それくらいは風の動きで分かるだろう?」
ファングの言う通り、あの道しか出られない、無理やり穴を開けようものなら洞窟が崩れるかもしれない。
「なに、俺は飲まず食わずでも平気だ、足元に肉袋があるからな」
そういうとロイーズの胸を踏みつける。
「ふーむーなー!」
「やめろ!!」
「敵味方構わず、虐げられる者は見過ごせないか!」
「当たり前なのだ!」
篭手に収納しているサンザフラを展開する。このラビット型は手に持たないで篭手にサンザフラを融合させている。両手を自由にすることによって四足での動きを取り入れ、更なる機動力を確保する。また腰ベルト変わりのチビキラーキラーマークIIも体の動きを制御する役割を担っている。魔力のコスパを抑えつつも最大のポテンシャルを引き出すスタイルだ。弱点は装甲が薄いことだが、超直感とこの機動性重視の形態で活路を見出すのだ!
ロイーズを踏みつけたということは、あそこから動かないと言っているようなもの、ならば翻弄して一撃いれる、一発でも入ればそこから派生させられる。
「とか、考えているんだろう、サガオ」
「な!?」
ファングは剣をロイーズの胸に当てる。
「頭部は再生出来ても、心臓はできるのか?」
「……」
ロイーズは黙っている。
「サガオ、俺は真実が知りたいんだ、口先だけなのか、行動も伴っているのか、見極めさせてくれ」
振り上げ剣が迫る。見極めるだと、そんなもの決まっている!!
「ぐぅ!!」
「おお、サガオ!」
俺は間に入りサンザフラをクロスさせて剣を防いだ。
「サガオー……どうしてイッヒをそこまでして助けるのー」
「だからそれはさっき言ったのだ! もう助けると決めたのだ! 諦めてここは助けられるのだ!」
境地に変わりはない。ファングの力は凄まじい、少しでも気を抜けば引き裂かれる。しかしこれでもまだ本気を出していないのが超直感でわかる。
「せっかくの機動力を潰してまで助けに来るとは、真実だな、サガオ」
「生きて連れて帰るのが命令ではないのか? 俺を試すためだけにそれを破ろうというのか」
「ああ、破る」
「な」
意外と忠誠心は低いのか? 何か違和感があるのだ。
「俺は真実を突き詰める者であり、真実を問い質す者だ」
「俺の事を知りたいからって、そんなちょっとした好奇心で、命令違反など……」
「そんなことではない、重要な事だ、サガオ!」
なんと言う気迫だ。
「真実は美しいと思うか?」
「知らないのだ、ファングは美しいと思ってるからハマっているのか?」
「知らないで止めるな、考え続けろ。しかし教えてやる」
「教えてくれるのか……」
打開策を考えながら、少しでも時間を稼ぐのだ。
「真実とは時に残酷で、ときに美しい」
「よくある言葉なのだ」
「真実だからな。貧しいものが盗みを働き、止めたものを刺し殺した、それは真実だ。空の星の動きを見ろ、あれも真実だ」
上を指さされても、ここは洞窟なのだ……。
「拡大解釈なのだ。答えを求めていないのか?」
「答えを探すから迷う、答えとはある角度から見た正しさだ、傾ければまた違った側面が見えてくる、真実とはその全てを内包している」
「それが真実の牙の能力か」
「そうだ、理解できないか? だがそれも真実だ。そして時間稼ぎにも付き合ってやったが、何かいい真実は見つけられたか?」
「傾けてみるのだ!」
腹の一つ目からレーザー光線を放つ。今ならファングだけを狙える。
「なっ!?」
レーザー光線を素手で弾いた。弾かれた光線が天井に大穴を開ける。
「まだまだだ、サガオ」
俺の腹に手を当てる。くっ、こっちは剣に押しつぶされないように両手でガードしていて動けない。
「く、何を……」
「ふん!」
「……?」
なんともない、何をした?
「うああああ!!」
「コスモ!?」
機内のコスモが苦しみ出した。
「何をした!!」
「何をか、その中の娘に魔力を分けてやっただけだ」
「それだけでこんな苦しむはずが……はっ!?」
「ふ、放つ魔力から察するに、その娘は成長期なんだろ、成長期の子供に栄養を与えればどうなる?」
「マズい」
これ以上の急成長は命に関わる。
「ほら、力が緩んだぞ」
「しまった!」
そのとき、下にいたロイーズが俺を押し出した。
「ロイーズ!?」
「借りを作るのはいやなんだよねー」
「見事だ、ロイーズ」
「ファングやめろ!!」
「ふ!」
ファングが大きく飛び退いた。ファングのいたところに黒い羽根が突き刺さる。
「お前たちは!」
「ヤーの庭(魔界)で何してやがるです!」
アウドキアとオディット、そして縛られたヒマリがいた。
「結託したか、いい真実だ。行く手間が省けた」