EX2 オーバーライト10
一刻を争う、キラーキラーマークⅡの飛行形態では遅い。
「コスモ、ちよっとぴっちりするぞ! 変身!! キラーキラーマークⅡセカンド!!」
「……!?」
獣人(兎人)を模したこの形態は機動力に長けている。
「サガオ、ちかい」
「ごめん、がまんしてくれ」
「ううん、うれしい、いっしょに、なった、みたい」
「ふっ、俺たちは一心同体だ! ここからは陸路で行く!」
駆ける。駆ける。駆ける。音速を超えて移動する。
「うわ、すごい、はやい」
「凄いだろう、効率的な動きをすることでコスモの体にも負担のないように動いている」
「いたくない。どこにいく?」
「オディット、ヒマリ、ダリアの魂の反応も探しつつ、近いロイーズの魔王城に向かう」
連れ去られたヒマリ、成長期のコスモ、見つからないダリア、オディットの嘘、帝国の脅威、トゥルーファング、攫われたイリポーン、不穏な動きをする魔人たち。動きのないロイーズとアヴドキア。
「サガオ、ふるえてる」
「ああ、わるい」
こんな時なのに、ほんの少しこの逆境にワクワクしている。
「見えてきた、あれがロイーズの魔王城」
「おおきい、どうくつ?」
「ああ、どうやら奴はこの中にいるらしいのだ」
特に守りも攻めも固めてない大洞窟だ。この形態なら容易に近づける。慎重に洞窟に入る、ここからはゆっくり時間を掛けていく、どんな罠があるか分からないからな。
結局ダリアの気配は感じられない。しかしアヴドキアのことろに行く前に、可能であればロイーズと話がしたい。なんでもいい情報がほしい。最奥につく、罠は一つもなかった。
「ぐおおおーー」
「……寝ているのか」
洞窟の奥底で骨の山をベッドに腹を出して気持ちよさそうにロイーズが寝ている。
「マジか、こんな無防備で、護衛もつけずに」
堂々とし過ぎていて、毒気を抜かれる。
「ぐがーー」
俺が接近しても寝ている、どうしたものか、起きるまで待つか? そのときレーダーに反応あり、入口付近だ。咄嗟に岩の裏に隠れる。
「ロイーズ様、食料をお待ちしました!」
あれは翼の魔人に棍棒の魔人か。やつら、ロイーズに使えているのか。
「むにゃむにゃ」
「起きてください、活きのいいご馳走ですよ!」
「ひぃいいいい!!」
……あれは下位魔人たち、なるほど、ロイーズに献上するために下位魔人たちを探していたのか。
「サガオ、たすける?」
「ダメなのだ、今は動けない、もう少し様子を見るのだ」
あの魔人たちは上位魔人たちだ、危険度で言えばSクラスでも上位に位置する。それらと戦いながらロイーズを倒すとなるとこちらも命を掛けなくてはならなくなる。それはダメだ。俺はもうなにも失うつもりはない。優先すべきはいつだって家族なのだ。
「うーん、なぁに?」
「起きられましたか、ロイーズ様」
「うん、おはようー」
「おはようございます、お食事をお持ちしました」
「んー?」
ロイーズの混沌の瞳が下位魔人たちを見つめる。
「ヒヒヒ……じゅるり」
骨塚から飛び降りて下位魔人の一人に近づく。
「や、た、食べないでください!」
「手を出してー」
「え?」
「手を出して、ほらはやく」
「は、はい!」
「パクっ!」
「ッ!?」
大口を開けて咥えた、肘まで隠れるほどだ。
「じゅぷ、じょぼ、ぐちゅ」
「あああああ!! やだ! 死にたくない!」
飲み込まれていく、下位魔人が爪を立てようと、蹴飛ばそうと、そんなの関係なしにノーダメージで飲み込んでいく。
「ちゅる、ん、ごくん……はぁ、おいしー」
ロイーズが上位魔人を見る。
「はっ! ありがたきお言葉! まだまだございますので、どうぞ、お楽しみくださいませ!」
「うんー、ずりゅりゅー」
口に手を突っ込んで何かを引っ張り出す。……骨だ、もう消化したというのか。取り出した骨を骨塚に投げる。ああして作られているのか、あの骨塚、見掛け倒しじゃない。
「ひぃいいいいいい!! ぎゃあ!!」
今度は腹を食い破った。上半身と下半身がギリギリ繋がっている。あのペースだと下位魔人たちを食べ終えるのも時間の問題だ。
「では、私たちは、また下位魔人どもを探してきます」
「いってらっさーーい、ぱく、ぺき、めりっ、ぐじゅぐじゅ」
よし、上位魔人たちが去っていく。やるにしても話を聞くにしても今がチャンスだ。
「やい、ロイーズ!」
「んあー?」
ロイーズは下位魔人の腕を千切りながら首だけをグルンと動かしこっちを見る。
「だれー?」
「俺はサガオ・サンライト、海底神殿で会ったことがある」
というか、手合わせしたんだがな。
「ああ、姿が違うからわからなかったよー、ばりばり、くちゅ」
俺が出ても食事を辞めない。
「襲ってこないのか?」
「イッヒからやるわけないじゃん、先手くらいそっちにやらないと不公平でしょー?」
う、この余裕ぶり、ロイーズもオディットとは別のベクトルで魔王然としている。俺だって海底神殿で負けたわけじゃないというのに、結構いい戦いを繰り広げた俺を前にしてすら、あの余裕っぷり、そして自然と魔人たちを従えているカリスマ性。ロイーズも魔王たり得る存在、人類の脅威なのだ。