EX2 オーバーライト9
オディットの屋敷に戻る。
「……これは!?」
屋敷はもぬけの殻になっていた。
「オディット! どこなのだ!」
センサーを全開にする。ダメだ、オディットの反応はない。
「ヒマリ……」
オディットは嘘をついていた。何がしたいのだ。近くにいた魔族の使用人を捕まえる。
「オディットは、ヒマリはどこに行ったのだ!」
「し、知りません! オディット様がヒントを残していくと思いますか!?」
「くっ!」
ダメだ、2人の痕跡が追えるレベルのものではない。オディットが痕跡を消していったのだ。なぜだ、魔王になりたいのなら俺の帰りを待つはずなのだ。……まさか俺が負けたのを『見ていた』のか?あの目で。それでここに被害が及びそうになったから逃げたのか。使用人たちにすら何も告げずに。
「許さないのだ」
「サガオ」
「すまない、コスモ、驚かせた」
「ううん、これから、どうする?」
「もちろん2人を探すのだ」
使用人に詰め寄る。
「ロイーズとアヴドキアの居場所を教えるのだ!」
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魔界のどこか。カツンカツンと硬い床を鎧が闊歩する音が聞こえる。鼻歌交じりに歩くのはトゥルーファングだ。
「ふんふんふふふふん」
担いでいるのはイリポーンだ。頭は拘束用のフルフェイスを被され、四肢の筋は切断されておりほとんど動けないようにされている。
「俺は悩んでいる、お前を帝王様に見せた方がいいのか、こっそり殺した方がいいのか」
「……」
「帝王様はお優しいお方だ、だから俺が美しい世界を作らねばならない、そう思うよな、イリポーン」
「……」
「ああ、騒ぐからって殴って悪かった。決着着いてるのにいたぶるのは俺の悪い癖なんだ、というか口を塞いでるから話せないだけか」
フルフェイスを取る。
「っぷはぁ!! はぁ、はぁッ!」
「どっちがいい、オススメは今だ、俺は真実が好きだ、お前が気高き魔王候補として死んだと嘘をつく、という俺の選んだ道を真実にしてやってもいいぜ」
「ヌ、ヌーは、負けを認めます……死にたくないです」
「ふ、それも真実、虫系は生存本能に忠実だからな、まるでカラクリのように心無いヤツだ。着いたぞ、玉座の間だ」
「……ま、待ってください、口を塞がないで、むぐ」
口を布で縛ると、扉をノックする。
「帝国聖騎士部隊大隊長、トゥルーファング。ただいま帰還しました!」
「入れ」
「はっ!!」
中央まで進み跪く、乱雑にイリポーンを置く。
「うっ!」
帝王は跪くファングの頭に手を乗せ撫でる。
「て、帝王さま!」
「よく生け捕りにした、褒めてやる」
「はっ! ありがたきお言葉!!」
イリポーンは首を擡げて帝王を見る。目を見開く。
「はひほは!!」
「そうだ、帝王だよ」
イリポーンを抱き上げる。
「ははひへ!! ほは!!」
「欲しかった」
「おお、帝王さま。ならばどうぞお召し上がりください」
四肢を蠢かせるも帝王はガッチリと抱き寄せて離さない。
「あむ」
肩に噛み付いた。鋭く力強い。
「んんんんん!!」
「じゅるるるるるる!」
「んんっ!! フーフー!! ギググ!! んっ!!」
しばらく吸うと、パッと手放した。
「うむ、美味だ」
「いい飲みっぷりです!」
「ところでファング」
「はっ!」
「血を流しすぎだ、飲む分が減った」
「はっ!!それが脆すぎたため加減が難しく……ッ」
平手打ちされた。
「言い訳をするとは、帝王より偉いのか?」
「滅相もございません! 帝王さまこそ王の中の王! 他に並び立つものなどいるはずもございません!」
「機嫌を取るのが上手いやつだ」
「真実でござい……ッ」
平手打ち。
「口答え」
「失礼しました!」
「これ、まだ吸いたいから健康管理しっかりとしておけ、他のも出来れば捕獲しろ」
「はっ!!」
イリポーンは憎しみを込めた目で帝王を見ていた。帝王はそれを見下ろしてニヤリと笑った。




