EX2 オーバーライト8
ファングの言葉にコスモが僅かに肩を揺らす。
「ど、どういうことなのだ、どうしてその事を!」
「俺と対峙したご褒美はここまでだ、サガオ。1から10まで教えたらつまらないだろ、なぁ」
「まて!」
ファングが剣を突き刺し、蹴り飛ばされた、壁を突き破り落ちる。的確な一撃だ、今ので内蔵された魔法陣が傷ついてしまった、魔力制御ができない。変形も出来ない。飛べない。落ちていく。
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「……オ」
声がする。意識が覚醒する。
「サガオ!」
「コスモ……」
久しぶりに意識を失った、この体になってから眠ることはなくなったから。
「大丈夫か、ぐぅ」
起き上がろうにも腕がない。目も破壊されたままだ。自己修復機能が停止しているんだ。
「おきない、けが、してる」
「これくらい大丈夫なのだ。でも魔法陣が再生するまではじっとしてるのだ」
ここは城前の谷底か、かなり深いな。コスモがコックピットから出る。
「危ないぞ、中に入ってるのだ」
「おこす」
「無理だ、女の子の腕力で……おお!?」
倒れていた俺を起こした。そうか。
「コスモ、話がある」
「うん」
「オディットから聞いたんだが、コスモのその体は魔人細胞に侵されてそうなったと」
「ちがう、だれにも、なにも、されてない」
「どうしてオディットのところにいたんだ?」
「からだ、こうなって、いたくて、ダリア、しんぱいした、だから、あそこに、はこんで、そしたら、オディットに、つかまって」
助けを求めた先にオディットがいたのか。なんて運が悪い。
「ダリアが元凶の元に向かったというのも違うか?」
「ううん、ぜんぶはきけなかったけど、ダリア、オディットに、ここにいくように、ロイポーンを、たおす、めいれい、されてた。わたしが、つかまったから」
「ダリアはコスモを守ってくれたんだな」
オディットの話を無条件で信用して、コスモにその話を振らなかった俺のミスだ。ファングが魔人細胞のことを知っていたのはダリアが話したのか、話の流れで魔人細胞の話となり、ファングに真実を見抜かれたという感じか。あの短時間だがファングの言うことには説得力がある、オディットの話と擦り合わせて確信を得たかったのだろう。そしてファングがロイポーンを殺すと見越したダリアは別の場所に移動した? オディットからさらに命令されていたということか?
……魔人細胞とやらが嘘ならば、症状から見て子供から大人になる過程での変化に似ている。つまり生理現象だ。子供の頃は人と区別がつかないくらい似ていて、大人になると劇的に変態する種族の線が濃厚か。
「コスモの村にいた人は人間か? 大人たちの姿は人だったか?」
「うん」
「コスモだけか、たしかにコスモの体に合っている変化のように見える。これが正常なものだとすると、その痛みは成長痛のようなものなのかもしれない」
「せいちょうつう?」
「大人になる時に骨が伸びたりして痛くなることがある。コスモの変化はそれよりも激しいからそうなったんだろうな」
「サガオ」
「ん?」
「きらい、なる?」
「ならないとも、コスモがどんな姿になろうと、俺はお前の家族だ」
「サガオ、すき」
ひしっとくっついてくる。頭を撫でてやりたいが腕がない。
「それより、俺のことは平気か? 俺の話を聞いても反応薄かったが」
「サガオ、どんなすがたでも、すき」
「ははは、俺に似てきたな」
「でもだまって、でてった、かなしかった、さびしかった」
「すまなかった、それについてはこれから挽回させてほしい、いいか?」
「うん、もう、ずっと、いっしょ」
「ああ、もちろんだ、もう離さない」
「いま、て、ない」
「一本取られたのだ」
「ふ、ふふ」
「ははは」
「あはははは」
「はっはっはっはっは!」
魔法陣が回復してきた。早急に体を修理させる。割れた1つ目を新しい部品と取り替える。目に光が灯る。4本腕もずいっと生やす。握る。よし、元通りだ。
「まずはオディットのところに戻ろう」
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飛びながら考える。あのトゥルーファングという男。底知れぬ強さを感じた。そしてそれを従える帝王の存在。王国はどこまで情報を掴んでいるんだろうか。今の俺の行動は正しいのか。今の俺の行動は全て私情によるものだ。だが何よりも優先しなければならないこと。……この判断で起きるであろう被害の責任は家族を無事に王国に届けてから受けるのだ。
「サガオ、たくさん、かんがえてる」
「あ、そうだった、機内にいると思考が伝わってしまうんだった」
「わたし、たすけて、おこられる、わたしが、おこられる、ばつ、うける」
「だ、だ、大丈夫、大丈夫なのだ」
クゥ様の冷ややかな視線、好戦的なクロスケ様の軋み笑い、グレイブ様の般若フェイスを思い出す。
大先輩方、すいません。