EX2 オーバーライト7
いたるところに虫系魔物の死骸が転がっている。それに虫型魔人の死体もある。痕跡から見て争っていたことがわかる。
アヴドキアが来たならこうはならない。魔物を支配すれば戦わずに済むからだ。ならばロイーズか、龍族の血も引く彼女であれば火も使うだろう。巨大な虫の巣状の魔王城を外から飛び屋上に登る。中から激しい戦闘音が聞こえる。
「きゃあああああ!!」
叫び声に反応して城の窓口から中に飛び込む。
「いた!」
崩壊した玉座の間らしき場所にイリポーンがいた、すでに大百足モードになっている。それでも苦戦している。相手はーー
「誰だ……」
漆黒の鎧に身を包む騎士がいた。連想するのは最悪の展開。まさか……ブラギリオン。
その考えは否定された。漆黒騎士はフルフェイスを解除して背中に自動収納する。ブラギリオンは顔を出さない。幸いにも向こうから話しかけてきた。
「見間違えるはずもない、四騎士のサガオだ。こんなところで会えるとはな」
誰だ。
「俺は帝国軍の最高戦力が一人、真実の牙ことトゥルー・ファングだ」
「帝国軍?」
「ふっ、とんだ無知さんめ。魔王亡き今、人類が無理やり結束している必要もなくなった。帝国とは王国のやり方に異を唱えるもの達で作り上げた、まったく新しい人族の国だ」
「バカな、国になるほどの反乱分子がいるはずは」
「反乱分子と言ってくれるな。もともと押さえつけられていたに過ぎない」
不味い、この男の口ぶりからして王国が分裂しようとしている。
「っと、まずは目先の目的を果たさなきゃならない」
イリポーンに視線を戻す、剣を構える。
「やめるのだ!」
「サガオもやりに来たんだろ? 不安分子だからな」
俺はイリポーンを見る。切り刻まれた外骨格、怯える瞳、ガタガタと歯を揺らしている。魔王候補を倒す、ヒマリを救う。こんなとき、こんなとき。
「俺は」
4本の武器を構える。
「俺は勇者なのだ! か弱き者を守るのだ!」
「そう来るか、いいぞ、サガオ、迷いながらも剣を俺に向けるがいい」
ファングは剣を引き絞る。イリポーンを狙っている。
「だがそれとこれとは別。サガオ、殺戮を、力の解放を楽しもうぜ」
「やめろ!」
突き出された剣から魔力がほとばしる。イリポーンは角で迎え撃つ気だ。
「受けるな! 避けろ!!」
角が砕ける。胴体を大きく切り裂かれ、血が吹き出す。
「がっ、あ、ぁ」
「イリポーンの血は赤い、また一つ真実を暴いた」
「ファング!」
「サガオ、言ったろ、楽しめよ」
突っ込んで鍔迫り合い。これ以上やらせるわけにはいかない。
「エンジョイしろ、戦争を、闘争を、争いを、決闘を、死闘を思う存分に楽しめ。それだけの素質があるし、その資格がお前にはある」
「そんな資格要らないのだ!」
「ほー、それだけの武力を持ちながらもまだ日和れるのか、飼い慣らされた犬とはまさにこのこと。俺は心底ガッカリしたぞ、サガオ」
「旋風烈閃!」
超直感による、一撃一撃が全て会心の一撃の超回転連撃を喰らえ!
「時に聞くーー」
「ッ!?」
バカな4本とも全て弾かれた! 回転が止まる、マズいーー
「本当に四騎士なのか?」
キラーキラーマークⅡの一つ目を貫かれた。しまった。
「かすり傷をつけることすら不可能と言われる難攻不落のクゥ、どれだけ切り刻もうが立ち上がってくる不死身のクロスケ、全属性魔力を自在に操る怒髪天のグレイブ、本当に彼らと同じ『括り』なのか?そうだとしたら彼らが老いたか……悲しいな、サガオ。魔王討伐戦の時は控え室にでもいたか?」
「舐めるな!」
「舐めてなどいない、真実だ、サガオ」
4本の腕が切り飛ばされる。
「がっ!!」
「強いだろ、俺は」
的確に俺の戦力を削いでくる。これではレーザービームも撃てないし剣も握れない。
「さて」
イリポーンに近づいていく。頭を掴んで地面に叩きつけた。
「いぎゃッ!」
「ゆっくり首を切り落としてあげような」
「や、やめてください、ヌーはもう降伏します」
「そんなつれないこと言うなよ、殺せなくなるだろ、他に利用方法が出来ちまう、今のは聞かないでおいてやるから、な? 立派な魔王候補としてここで死んでた方がいいぞ」
「そ、そんなことない……生きたい、殺さないで、何でもするから、うっ、ぎぁあ……ッ」
首を締め、投げ捨てた。その僅かな隙で四肢を僅かに斬り、動けなくさせた。痛みで息の荒くなるイリポーンがファングを畏怖の表情で見つめる。
「フーッ! フーッ!」
「痛いか? でもな、半人前のお前が魔王になろうとしたから大勢の人が死んだんだ。国を作るってことはそういう事だ。その屍どもを背負えんのか、なぁ、イリポーン」
「せ、背負えません、だから、うぎゃっ!!」
倒れているイリポーンの背中に刃を突き立てた。貫通している。
「ごぼっ!!」
「生半可な気持ちで『王』という言葉を口にするな。王とは帝王のことを言う。王の中の王、帝王だ、覚えておけ」
「やめろ!! ファング!!」
「目を潰しても超直感で見えるのか、いや他にセンサーが生きているのか」
「ファング、お前はなんなのだ、飄々としていて、どこかに芯を持っている」
「俺は真実しか口にしない。そして嘘つきは暴いた上でこの牙で八つ裂きにする。それが俺の役目、わかったか、サガオ」
「なにもわからないのだ!」
「じゃあ最後に一つ、真実を教えてやろう」
こちらに近づいてくる。後ずさりする。壁に追い詰められる。
「魔人細胞なんてものはない。その娘は元から人ではないんだ」