EX2 オーバーライト6
「じゃあ、ヒマリちゃんはうちで預かるから、さっさと行ってきて」
「親戚のお姉さんみたいな言い方なんなのだ、めっちゃフランクになってないか?」
「今はまだ敵対するつもりもないし、その時までは仲良くしててもいいじゃない、ね、ヒマリちゃん」
と、言いつつも、それとなく肩を組みヒマリを逃がさないようにしている。強かなやつなのだ。
俺は慎重にコスモをコックピットに入れる。この中なら治癒魔法陣も組み込まれているから体力面は大丈夫なのだ。
「薬の効果はいつ切れるのだ」
「見た感じ、その中ならすぐに解けるわ。元々そんなに強いの使ってなかったしね」
オディットは地図を取り出す。
「ダリアが向かったのは、イリポーンの魔王城よ」
イリポーン、確か魔虫人の娘だったな。
「城の外観とか中がどうなっているとか、その目でわからないのか?」
「千里眼じゃないって言ったでしょ。他者よりも目がいいというだけ、目に見える情報を悪魔の脳みそで演算した結果を話しているに過ぎないわ」
「それにしては千里眼のようなのだ」
「それはそうよ。空気中に漂っている微弱な魔力すら見えるのよ、その僅かな動き、魔力の種類、波長から演算して動きを予測しているんだもの」
「改めて聞くと凄まじいのだ」
「これら全てを持っていたお父様と比べれば大したことないわ。わかったら、さくっと片付けてきてくれる」
「姉妹殺しを簡単に言うのだな……。わかったのだ、だから約束は必ず果たすのだぞ」
ヒマリを見る、力強く頷いてくれる。俺は飛び立った。ヒマリ待っていろ、必ず迎えに行くからな!
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キラーキラーマークⅡに戻り、飛行形態で飛んでいる。今はコスモを乗せているからそこまで速度は出していない。内蔵された治癒魔法陣と生産された治癒水薬を体に塗りこみ続ける。
「……ぁ、う」
「コスモ!起きたか!」
「……!?」
立ち上がろうとして天井に頭をぶつける。よろけた所を機内のアームで支えてやる。
「大丈夫か、痛いところはないか?」
「サ、ガオ……?」
「ああ! 迎えに来たぞ!」
「……どこ、いる?」
「あー、色々あってな、この機体が俺なのだ」
「ぁ、ああ……」
内部アームで抱きしめてやる。
「ああぁ……うああああ!!」
「怖かったろう、もう大丈夫なのだ」
抱きなだめてやる。
「……こんな、からだに、なった、ごめん、なさい」
「コスモのせいではないのだ」
コスモからすれば俺はいきなり消えたはずだ、それなのに一言の文句も言わずに、そんなことをいうなんて。
俺は事情を説明した。一から十まで。これまでのことを話した。
「ヒマリ、わたしの、かわりに、なった、それは、だめ」
「俺たちは家族なのだ、家族が家族を守るのは当たり前のことなのだ。そして家族全員を助けるのが大黒柱である俺の役目なのだ」
そうだ、俺がしっかりしないとダメなのだ。単騎で魔界に潜入した時、魔王討伐戦の時、それらを超える使命が今ここにあるのだ。
「全員救う、それだけが絶対の勝利条件なのだ」
バーガーは王国に向かう途中で魔物の軍勢と戦い、犠牲者0で勝ったという。不可能ではない、バーガーの行為が、俺に勇気をくれるのだ。
「そろそろイリポーンの魔王城に着くのだ、ダリアを見つけたら、すぐに保護するのだ」
「うん」
レーダーを確認する。イリポーンの住処がレーダーにのる。これは。
「強い魔力反応だ! 急ぐからしっかり捕まっているのだ!」
見えてきた。あれは!!
「燃えている」
魔虫属特有の土性の城から火の手が上がっている。まさかダリアか?いやダリアは血を使う、火は使わないはずだ、だとするとイリポーンたちか? しかし自らの城に火を放つなど。
「第三者か!」
そうだ、オディット以外にもアヴドキアとロイーズがいる。どちらかが攻めてきたとしてもおかしくはない。よつどもえの膠着状態かと思っていたが油断した。となるとオディットのところも安全とは言えない。……ええい! 焦るなサガオ! 俺は、ヒマリたちの勇者なのだ! 目の前のことに集中だ!
「現状を確認してくる。この辺りに魔物はいない。ここで待っててくれ」
「だめ、しぬときも、おなじ」
「……わかったのだ!見ているがいい、俺の勇姿を!」