EX2 オーバーライト4
ここが魔界なのを忘れさせるくらい美しい湖が広がっていた。この荒れ果てた天変地異が吹きすさぶ魔界にもこのような場所があるのか、まるで砂漠の中のオアシスなのだ。周りは森で、囲む樹木も生き生きとしている。王国の領土内ですらこんな場所はそうそうない。
畔に魔王城があった。しかし俺の思い描いていたものとは違った。
「魔王城と言うよりも貴族の屋敷だな」
それは別荘のような建物だ。まぁ別荘にしたら巨大だ。別荘以上、城未満といった感じなのだ。
「静かだね」
「ああ、中から気配がするが、とても穏やかな印象を受けるのだ」
俺は着陸すると正面から入ってみることにした。荒っぽくすれば荒っぽく返されるのは明白の理なのだ。
鉄の扉は俺たちが近づくと勝手に開いた。魔族の使用人たちが出てきた。みんな魔人ではなく魔族だ。名称は似ているが全くの別物。魔族は王国で言う人だ、魔人はあくまでも魔物が進化した生物であり完全に人外なのだ。それに魔人は一体一体が全く別の生物なのに対し、魔族は人のようにその血に長い歴史を持つのだ。魔族と人の違いは明確にはないが、体に悪魔的な特徴を持つものが多い。何よりも魔人のような人に対する本能的な殺意はない。話もしやすいだろう。
しかしあの翼の魔人や棍棒の魔人がここにいないとなると野良魔人だったのか、いや、あいつらは群れているような口ぶりだったからどこかに属しているはずなのだ。
俺が黙っていると、みんな不安そうにしている。
「いきなり来て驚かせてしまった、俺はサガオ・サンライト。ここの家主に用があってきた」
顔を見合わせている、突然の機械兵の来訪に驚くのは無理もないのだ。
「入りなさい」
屋敷の方から声が聞こえる。その一言で魔族たちは頭を垂れ、2つに割れて道を作る。屋敷に入ると、2階の吹き抜けから俺たちを見下ろす人がいた。
「ジュの屋敷にのこのこと何をしに来たのですか?」
「オディット、随分な挨拶なのだ」
そう、この屋敷の主は魔王候補が一人、オディット・ダークロード。魔人と人魚のハーフ、魔人魚だ。
「勇者パーティの盾役と次期魔王である私ですよ?一触即発もいいところでしょう」
「もう魔王になったつもりか」
「魔界を統べる気満々ですけど何か?」
階段を降りてくる。
「ジュは初代魔王イズクンゾ・ダークロードの娘、オディット・ダークロード。返答次第でどうなるかは、聡い貴方なら分かっているでしょう?」
凄い気迫なのだ。確かに魔王の素質を十二分に持っている。
「今は戦うつもりはない、人を探している」
「今は、ですか……まぁいいでしょう、人とは文字通り人のことですか」
「ああ、コスモと言う少女とダリアという大型魔犬だ」
俺の言葉にオディットは僅かに反応した。いや反応という反応はしていない、常人ならまったく気づかないくらい僅かな反応。俺も超直感がなければわからなかっただろう。
「やっぱり返答次第ではここで戦うことになるのだ」
「このタイミングで面倒なのが増えるなんて、これも試練の魔王に至る一環なのでしょうね。着いてきなさい」
黙って着いていく。向かう先は地下か。このままでは入れないので俺はキラーキラーマークⅡセカンド(兎人型)に変形する。倉庫や、詰所を通り過ぎ、更に地下へ進んでいく。
「魔物も魔人もいないのだな」
「……当たり前でしょう。さぁ、ついたわ。ジュが先に入るから呼んだら来てちょうだい」
「わかった」
ジュが部屋に入る、すぐに俺を呼ぶ声がした。何がしたいのだ?部屋に入る。俺は硬直した。
「動かないでくださると被害が少なくて済むのだけれど」
「コスモ!!」
コスモだ、布を被って全身を隠しているが間違いない。ジュはコスモの背後に立ち後ろ手に拘束している。
「オディット! コスモから離れるのだ!」
「いいこと、冷静さを欠かないように。さもなくばここで全員死ぬことになる」
布を取る。俺は言葉をなくした。
「……」
「コ……スモ……」
コスモは変異していた。まるで魔人のような姿に変貌していた。虚ろな瞳は虚空を見つめ続けている。
「ああ、うああ……おおお……」
「サガオ、それ以上近づけば『撃つ』わ」
「ぐうう、オディットオオオオ……ッ!!」
「おにぃちゃん!!」
「ヒマリ!?」
ヒマリがコックピットから飛び出して外に出る。
「危ないから戻るのだ!!」
「落ち着いて!」
ヒマリの行動に俺は頭を振って冷静さを取り戻す。
「……コスモに何があったのだ」