EX2 オーバーライト1
魔王討伐から3ヶ月後。
俺はサガオ・サンライト。色々あって機械兵の身体になり、コックピットに妹を乗せている。
一万年前『神々の制約』が執行されるまで続いたという神々の大戦争。一つだった大地は2つに割れ、片方の大陸では特に激しい戦いが繰り広げられた。神々が纏うナノ魔法陣に長時間晒された大地は荒れに荒れ、天変地異が吹き荒れる不毛の地となった。そうここは人の理が通用しない場所、魔界なのだ。
そんな魔界にも人は住んでいた、危険な天候はもちろんのこと、凶悪な魔物どもが跋扈するなかで、息を潜めて生きのびていた。だが魔王討伐戦にて四天王パロムが使用した邪悪なる全人類転移粉砕兵器の偽物を、創造神ビルディー様が、全人類転移防衛兵器に作り替え、文字通り全人類をその中に転移させ守りきった。そのため今の魔界に人はいない、全員王国に来たのだ。
しかし呼ばれなかった者がいる、俺の養子のコスモだ。魔界に単独潜入していたときに助けた元奴隷の少女を養子として引き取ったのだが、あのときは任務を優先して魔王軍に捕まりパロムに殺された。そのときこれまた魔界で仲間にした大型魔犬のダリアにコスモを守るように命じたが……まさか。最悪が頭をよぎる。
「おにぃちゃん……」
俺のコックピットに座る妹のヒマリが心配そうに呼ぶ。
「大丈夫だ、絶対にいるのだ」
「いつもの超直感?」
「違うのだ、これは……」
「ごめんね、おにぃちゃん、私の直感なら周囲の魂も感じ取れる、何か見つけたら教えるね」
「ああ、頼むのだ。ん?」
熱源反応だ。これはなんだ。
「はっはっはっはっ」
川沿いを魔人が走っている。全力疾走だ。顔は恐怖で引きつっている。背後からは羽を生やした魔人が迫ってきていた。
「そのまま隠れ里まで案内してもらおうか、止まれば殺す、走り続けな!」
「ひいぃ!!」
足がもつれる転けた。
「ありゃま。まぁいいか、ここら辺じゃこの川くらいしか安定した食料源がないから、この辺を抑えてじっくり探すことするぜ」
「た、助けてくれ!」
「それ言って助けてもらったやつを見たことがあるのか?」
「うわああああ!!」
俺は双子聖剣サンザフラのサンを投擲する。鋭利な嘴が男を突き殺す直前に2人の間に刺さる。
「誰だ!?」
「サンライトフラッシュ!」
「ぐ!」
聖剣自体から聖なる熱と光を発する技だが、今回は光のみだ。翼の魔人に真上から斬り掛かる。一刀両断。
「ぎゃあ!!」
む、肉は斬れたが骨を断つに至らないか、硬めだな、上級魔人か。
「レーザー光線!」
俺の一つ目から赤い光線を放つ。岩に激突させた。足元にいる怯えた魔人に視線を向ける。ビクリと肩を震わせた。
「これはどういうことなのだ?」
「こ、殺さないでくれ!」
「殺さないから事情を話すのだ」
「は、はい!」
話を聞けば簡単な事だ。魔界で人間のカーストは低い、底辺と言っていい。魔族に捕まればよくて奴隷、あとは嬲り殺される。それがいま魔界には人がほとんど居ない。それに今や魔界に来る人間は強者が多く、更には戦えない者は安全の確保された街にいるため迂闊に手が出せない。そのためカーストから人が消え、その上に位置している下位魔人が、今までの人の扱いを受け始めているのだ。
「なるほど、少しは人の気持ちがわかったか?」
「は、はい、分かりました!」
「じゃあ、逃げるのだ、俺の超直感でお前が人を殺していない魔人だと言うのはわかっている、次会った時に人を殺していたら、光線でじっくり炙ってやるのだ」
「はひぃ!!」
さて。
「生きているな。翼の魔人」
「クケーーー!!」
叫び声とともに空に飛び立つ、聖剣で斬られ、レーザー光線を受けても生きている。王都で猛威を奮ったカッパーでラッパーでリッパーな河童魔人ワッパークラスの魔人ということだ。
「魔人を狩ることによって、質が上がっている」
伝説山にいた棘型魔人のニードルハックは、魔物と魔人を食らい山を超えるほどに巨大化して強くなったと聞く。そしてその2頭は勇者パーティが討伐した。ならば。
「俺もやりたいのだ! ヒマリ、童話のネタメモを忘れるな」
「わかったよ、おにぃちゃん!」
翼の魔人がズカズカと接近してきた。
「物質系の魔物? なんなんだお前は」
「聞くのはこっちなのだ!」
4本の腕に武器を持つ。超直感を全開にする。
「クケーーー!!!」
「旋風烈閃!!」
高速横回転で4本の武器をぶん回す。超直感の副産物、全ての技が会心となる。翼の魔人をはじき飛ばし、そして追従、何度もはじき飛ばす。
「ぐええ!! つ、強い! これは報告せねば!」
弾かれたスピードを活かして逃走した。逃がさん!
「待て!」
「は、速い! この俺の速さについてくるとは!」
「このキラーキラーマークIIの機動力を舐めるな!」
「クソが!」
後方から爆発音。
「なんなのだ!」
翼の魔人がニヤける。
「ああ、仲間が下位魔人の隠れ里を見つけたんだろうよ、くそ、俺も狩りたかったのによ!」
どっちを取るか、なんて考えるまでもないのだ。
「魔人の隠れ里に行く! ヒマリ、やつの魂の反応を覚えておくのだ!」
「うん!」
種族じゃないのだ。虐げられるものに手を差し伸べるのが真の勇気なのだ!
「勇者ならそうするのだ!」
見つけにくい場所に里はあった、火の手が上がってなければ見つけられなかった。
「あんなに魔人がいるよ」
「でも彼らからは人殺しの雰囲気を感じない、魔界から人が消えた後に進化した魔人なのだ」
魔物も魔人も人を殺すとプラシーボ効果で強くなる。それが強くなる最短の道、それが無くなれば少しずつ魔力をためたり、共食いするしかない。あそこにいるのは食われる側の弱者なのだ。
「敵は……あそこか!!」
無数の死線が可視化される、潜り抜け急接近。今度は棍棒を持った魔人なのだ。剣と棍棒がぶつかり合う。
「誰だぁ!?」
「よく受けたのだ!お前もワッパークラスなのだな!」
「くっちゃくっちゃ、誰だお前はと聞いとるんだ! 狩りの邪魔ぁするな、ぺっ!」
棍棒の魔人なのだ。吐き捨てたのは魔人の肉。近くで横たわる小型の魔人が子供と被る。よし、殺す。