EX1 ギアの休日6
____________________________________________________________
3日後。豪華な会議室、立派な長テーブルがあり、それを囲むように各界の重鎮たちが席に着いている。ウィンドウの光が際立つように部屋は光量を落とし、暗くしているため、顔は正確には確認できない。腕時計を見ている男が言った。
「異世界の方々が来ていませんね」
「大御所が集まるこの会議に出席しないとは、誠意が足りませんな」
「ええ、そうですな」
「まぁ、そう言わずに待ちましょう」
「遅刻厳禁です、我々の1秒がいくらになるかご存知でしょう」
そう言う男たちの口角は上がっている。この会議室の中に仕掛け人が何人かいるのだ。
「おっしゃる通りです。皆々様、忙しいなかお集まりになっていま。予定通り会議を始めましょう」
「ええ、早急に話さねばならないことが山ほどあります、まず異世界についてですがーー」
その時、扉がバンと開かれる。現れたのはメアリーだ。
「邪魔するわ!!!!」
「会議中ですよ、それに警備の者はなにを」
「ぶっ倒してやったわ、それに招いたのはそっちじゃない! 椅子!」
気圧された警備が椅子を用意する。ドカリと座る。懐からメモを取りだした。
「社長からの言葉よ」
「いきなり過ぎやしませんか?」
「誰よあんた! こっちは異世界から来てやったのよ! 静かに聞くことも出来ないわけ! 帰るわ!」
メアリーが立ち上がると、別の男も立ち上がる。
「ま、まぁ。せ、せっかくいらしたんですから、ど、どうか続けてください」
「いいわ、特別よ!」
鼻を鳴らしてメアリーが席に戻る。メモを読み上げる。
「『この手紙をメアリーが読み上げてるってことはテストに合格したみたいだな。もしそれ以外の者がこれを読んでるならここから先は読まないで燃やしてくれていい、好きに取り決めだのなんだの決めてくれて構わない。俺はギア・メタルナイツだ。新世界人(お前ら)の事だからもう調べはついてるだろうから言うが、俺は異世界転生者だ、生前の名は廻谷鉄也、わからないだろ、お前らからすれば零細企業に務めてたしがないサラリーマンだ』」
ここまで読むとメアリーは全体の様子を見る、そして視線をメモに戻した。
「『俺たち絶望株式会社が取り扱っているのは絶望だ』」
「絶望だと?」
「『異世界でも選りすぐりの戦士たちを派遣する。戦争に使うもよし、慈善活動をさせるもよしだ、どんな内容でも報酬しだいで受けてやる。俺たちは訓練されている、どんな仕事でもそれに適応できる人材を派遣しよう』」
「どんな仕事でもだと!? それに戦争に参加するなんてたかが一企業がなにを」
「『使うか使わないかは任せるが、異世界と繋がっちまったんだから、否応なしに世界は変わる』以上よ!」
言い切るとメアリーは今度こそ席を立ち去って行った。
____________________________________________________________
外に出るとセギュラがいたわ。全身傷だらけね。私を見つけるとゆっくりと近づいてきたわ。
「……どうだった」
「完璧よ」
「そうか、それはよかった」
「そっちこそ、手酷くやられたじゃない」
「ああ、中々骨のある奴らだった」
「あいつは?」
「ここに」
付向が柱の影から出てきたわ。無傷ね。
「やるじゃない」
「ありがとうございます」
「帰るわよ、車を用意しなさい」
「はい、来ました」
「早いわね!」
____________________________________________________________
異世界。リゾート地。ここはギアたちが貸し切っている場所だ。そこから2キロ離れた地点にギアたちを監視している5人組がいた。
「本人が新世界に行けないとなれば、精鋭を送らざるを得ない。そして休むということは武装を解除して油断する」
「この異世界で休ませたのも油断させるため、まさか既に新世界から刺客が送られてきているなどとは思うまい」
「新世界に行った精鋭もいまごろ血祭りにされてるころだろう」
「こちらも始めるぞ、やつは歯車を依代にし魂を定着させている、ただそれを割ればいい、殺すより楽な仕事だ」
「我々の能力ならそれが出来る、では『行くぞ』……ッ!?」
5人の動きが突如止まる。
「な、んだ……こ、これは」
「くそ、体が動かない……」
「……これは異能による攻撃ではないぞッ!?」
「ど、どうなってんだ?」
「まさか、ギアが我々に気づいて……」
『あーあー、ようこそ異世界に』
「ッ!?」
背後から少女の声がした。刺客の顔が青ざめる。体は謎の力で硬直して振り返ることすら出来ない。
『いやー、困るんですよねー、ギアって頑固なので、休むって決めたら攻撃されても一切反撃しないと思うんですよー』
「誰だお前は!?」
『だからこそ、呪いの効果は十分に高まったんですけどね』
「呪いだと!?」
『安心してください、この呪いでは死にません。記憶を封印するだけです。ぜひ異世界を楽しんでいってください。あ、まずはチョウホウ街へ行くことをオススメしますよ、海岸沿いに進んでいけば港があるのでそこから道なりに進んでください、それじゃあ、さようなら』
「ふざけるな! や、やめろ!!」
____________________________________________________________
「ん?」
「ギア?」
「2キロ先で生体反応があるな、5人か」
「まぁ、それくらいいいじゃないですか」
「貸切なんだろ? 追い出してくる」
「いいですってばー、律儀なんですからー、ここからじゃよく見えないし別にいいですよ、それよりも夜はキャンプファイヤー、肝試し、カレー、BBQ、スイーツバイキングとやることてんこ盛りです、大忙しですよ」
「なかなかやりごたえがあるな」
「そうです、まずはキャンプファイヤー用の丸太を用意するところからですね」
「本格的だな、よし、やるぞ」
後ろでレイが「ラジカセって便利ですねー」って小声で言ってたが独り言だから無視した。