EX1 ギアの休日5
______________________________新世界______________________________
油分を含む湿度の高い室内によく分からないいい匂いが充満しているわ。
「いらっしゃああああああああせえええええええ!!!!」
入店と同時に店主が叫ぶ。ならば!
「いらっしゃってやったわあああああああああああ!!!!!」
負けじと声を張り上げてやったわ。ふん、私の勝ちね、何年アイドルやってると思ってるの、声帯を鍛え直してきなさい。セギュラが呆れた顔をして言った。
「なんで大声で返しているんだ……」
「やられたらやり返す、それが魔界のルールじゃない。それでここはなんの店なの?」
「なぁそろそろ勢い任せで入るのやめないか、付向に聞いてからでもいいだろ」
「外国に来たら1から10まで通訳に聞かなきゃならないって言うの? やっぱり貴方、魔王城に置いてきた方がよかったかしら?」
「……郷に入っては郷に従え、か。よし、わかった」
ドカりと椅子に座る。
「さぁ、店主よ。お主の火力を見せてもらおうか!」
「なんの店か知らないけど、一番いいやつを頼むわ!」
「いいね、お二人共、熱いね! おいちゃんの湯切り奥義、見せちゃうよ!」
店主はストトンと見事な手際で2杯の何かをスタタンと用意したわ。なるほど、これはラーメンね、ラーメン様と同じ形してるからわかったわ。
「ヘイお待ち! カニ味噌チャーシュー塩ラーメン!」
「いい匂いじゃない!」
スープを口に含んだ瞬間。
「しょっぱーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!」
塩!!!!!!!!!!!!!
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「……なんで異世界の食べ物って全部しょっぱいのよ!」
「ははは、見事に口から火を吹いていたな」
「笑い事じゃないわ、植物系の魔物が食べられるようにもっと工夫するべきよ!」
くやしいわ、結局セギュラに私の分も食べてもらったし、完全敗北だわ。
「この世界は人だらけだからな、というか、いつになったらメアリーは魔人になれるんだ、姿こそは人型をしているが」
「知らないわよ。でもアリス様の魔力だけを頂いて生きてきたんだもの、この体が正解なのは間違いないわ」
「そうだな、変なことを聞いた。だが素直に疑問なのだ、人も殺さず、魔物も食わず、よくそこまでやれるなと」
「人間なんてグロテスクなゲテモノだし、魔物は生臭いわ、というかどれも塩っぱそうじゃない、まぁ今は健康そのものよ」
「ならいいが」
「そっちこそ、翼が半分ないじゃない、負傷兵が人の心配してる場合?」
「それこそ愚問だ、片翼でも飛べるように訓練した、問題ない」
散策を楽しんでいると前方で黒スーツたちが道を塞いでいるわ。
「なによ、あれ、道を塞いじゃいけないって知らないの? とんだ無知さんね!」
後ろを静かに着いてきた荷物持ち(付向)が前に出るわ。
「お二人共、お下がりください、そしてそのままホテルまでお戻りください、あそこならドルエン商会に保護されます」
「は? 何あれ私たちを狙っているっていうの? 貴方はどうするのよ」
「私は彼らを抑えます。そのためにここにいます」
「ふふ、あはははは!!」
「メアリー様?」
セギュラがさらに前に出るわ。
「ふん! 付向、お主は誰を前にしてその言葉を吐いた」
「セギュラ様?」
「魔界じゃこんなの慣れっこなのよ。そして毒を食らわば、毒出した店ごとぶちのめすまでが魔界のやり方よ!」
付向は戸惑ったあと、隣に並んだ。
「失礼しました、対応に間違いがあったこと、謝罪します」
「構わんさ、隻翼小娘を見れば気遣うというもの。どれ、新世界の人間に『龍』を教えてやろうではないか!!」
「セギュラの武人スイッチが入ったわ! そこから踏み出すなら命を掛けなさい!」
構わずに黒スーツ達が向かってくる。黒光りするサングラスが冷酷な感情だけを突きつけてくる。セギュラは大きく息を吸い込んだ。
「|火炎の吐息(ファイヤーブレス!!)」
ショットガンの如き業火を放つ。黒スーツの一人が前に出て、両腕をクロスさせる。仲間を庇うつもり?でも魔力も纏ってない生身の人間じゃ盾にもならないわ。案の定直撃したわ。
「わはははは!! どうだ我が炎は!」
炎が消える。黒スーツは同じポーズのまま無傷で立っていた。
「ちょっと! 効いてないじゃない! 火加減してんじゃないわよ!」
「……面白い、汝を敵と認めよう」
「え、今のマジだったの」
付向が説明した。
「やはり『対策』済みですか」
「付向、どういうことだ」
「あれらは貴女方専門のチームです、狙われているのです。絶望株式会社は」
「ふ、やはり最高戦力を来させなかったのはそういう事か。誰だ、我々を恐れているのは、一度も立ち会わずに搦手を使うとは余程の臆病者とみた!」
「代理を倒して都合のいい約束を取り付けようって魂胆ね!」
「さすがはギア様の幹部たちですね」
「それでなんでセギュラの炎が効かないのよ、魔法も使えない人間が吐息を受けて無傷なのはおかしいわよ、ていうか服すら燃えてないわよ」
「説明は戦いながら、来ます」
セギュラは武器を置いてきたから拳を構えるわ。
「付向、お前は前衛か、後衛か?」
「どちらでも、合わせます」
「ふ、では共に行こうぞ!」
黒スーツは全部で5人。|前衛(3人)が来る。
「はっ!!」
セギュラが拳を繰り出す。さっきと同じ黒スーツが腕をクロスさせて防いだ。金属音。
「む、炎を防ぐだけじゃなく、とてつもなく硬いな」
「それは能力です」
「能力? 特異体質のことか、く、押してもビクともしないぞ」
「あなた方には『魔法』我々には『異能』があります」
「その異能とやらで私の炎と拳を防いだというのか」
「そうです、大方、決まったポーズをとっている間は物理的な干渉を受けないとか、そういった能力でしょう。対応できますか?」
「慣れてみせるさ!」
遅れて2人の黒スーツが来る。
「両方、私にお任せてください」
黒スーツが付向に触れると、ものすごい勢いで真上に吹き飛んだ。初速からトップスピードだった。しばらくして落ちてきた、ごちゃっと床が真っ赤に染まる。
「無反動で真上に、それも加速もなしにあんな高さまで飛ばすとは、一体何をした?」
「私の異能の応用です。ちなみにセギュラ様が相手にしている硬いのは小技が効くかもしれませんね」
「聞いたかメアリー、小細工を頼む」
「人の魔法を小細工呼ばわりすんじゃないわよ!麻痺花粉!」
風に乗せて花粉を飛ばす。セギュラが飛び退いき黒スーツだけに吸わせる。
「がっ、かっ!?」
「そのポーズのまま固まってるがいいわ!」
ふふん、どうよ、やっぱり私が最強じゃない!
「メアリー! 後ろだ!」
「え?」
後衛の黒スーツの一人が消えて、私の後ろに現れた。まさか転移?そんなはずは。
「痛!」
「ナイフで刺されてるぞ」
「みりゃわかるわよ!」
痛いで済ませた私を見て黒スーツは驚いてるわ、そんでもって刺したナイフをグリグリしてくるわ。
「さっきからレディの体に何すんのよ!」
思いっきり股間を蹴りあげてやったわ。2mくらい浮いたわね。最後の一人に目をやると。小箱? を口元に当ててボソボソと話し始めたわ。
「何してるのかしら」
「あれは携帯電話と言って……上を見てください、増援を呼ばれました」
ビルの上にズラリと黒スーツたちが並んでいるわ。数えるのも馬鹿らしいしわ。
「いいわ、来なさい!相手になってやるわ!」