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シンクロサウンド 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おー、つぶつぶ、まだ残ってたんだ。

 あんたも物好きだよねえ。学校の有志から成る、合唱のコンクールに出たいだなんて。

 音楽の先生のツテだかなんだかしらないけど、学校行事にはかかわらないって聞いたわよ。別につぶつぶがやらなくたって、誰かに任せておけばいいのに。

 ま、あんたのことだから、心底やりたいと思ってやってるんでしょ? これっぽっちでもやりたくないものは、徹底してやらない。昔からそういう男だもんね、あんたは。


 私たちも来年度の合唱コンクールが、この学校でできるラストなのよね。それどころか、これから歌う機会や、演奏の機会だって、みんなみんな最後になっていく。下手したら、これが学生生活での音楽関係、ラストって人もいるかも。

 私たちの必須科目のひとつとなっている音楽。こうして根づいている以上は、欠かしちゃならないことだって、教訓が残っていたりするんでしょうね。

 私、そのことに少し興味があって調べてみたら、音をめぐって少し不思議な話を聞いたの。

 つぶつぶ、この手の話が好きだったと思うけど、聞いてみない?


 

 私のおばさんの話になるんだけどね。

 おばさんは小さい頃によく、ある音を聞いて目が覚めていたんだって。

 響きは鐘に近いけど、それが耳元で何度も鳴っている。もちろん、周りにはそのような音を出すものは、一切ないのよ。

 聞こえてくる日は不定期的で、夢を見ている時でもその音が聞こえてくると、無理やり現実へ引き戻されてしまう。日はまちまちでも、いざ来る時には昼寝でもうたた寝でも、容赦なく響いてくる。

 おばさんはおばあちゃんにも相談して、耳鼻科で診てもらったけれど原因は分からず。ひとまずは安静にして様子を見ることになったけど、運動しようがしまいが、鐘の音は避けようがなかったわ。

 何をしてもおんなじだと、おばさんは開き直って普通に学校生活を送ることにしたの。


 この気味悪い話、おばさんがクラスメートにそれとなく振ってみると、友達のひとりもそっくりな体験をしていると聞いたの。

 もしかしたら音も共通しているかもと、音楽の時間があるとき、ピアノの鍵盤を一本ずつ触っていったけど、ソの半音上というのはぴったり。でも友達のほうが一オクターブ低かったって話よ。

「はやく、こんなの聞こえなくなったらいいね〜」と愚痴りながら下校するおばさんたち。その別れ際に、ふと友達の髪の毛から何かが落ちた。

 ふわりと漂ったそれは、ちょうどおばさんの足元へ転がっていく。とっさのことで反応できず、思わずおばさんはそれを踏んづけてしまったの。


 それはコーヒーに入れる角砂糖を思わせる、小さな立方体をしていたわ。おばさんが踏んづけたことで、胴体が半分以上崩れちゃっていた。

 同時に、音楽室で聞いたのと同じ音がおばさんの頭に叩き込まれる。足を伝い、身体を駆け上がり、内側から響いてくるのは音楽室で聞いたソのシャープ。おばさんのものより、一オクターブ低い、友達のもの。


 ――なにか、まずいことが起きるかも。


 おばさんはさっと顔をあげたけど、すでに角を曲がりかけている彼女の後ろ姿をみて、あっと思ったわ。



 彼女が歩くアスファルトの上から、さっと何かが盛り上がって、左から右へ走ってすぐに消えた。おばさんにはそれが、振り子をさかさまにしたような刃に見えたんだって。

 刃が通り抜けたとき、ちょうど歩いている友達の右足と重なったわ。その右足首が切れたように思えて、思わず悲鳴をあげちゃったらしいの。

 友達が振り返る。周りの人も何事かとおばさんの方を見る。おばさんが何度か目をしばたたかせたけど、友達の足にはなんの異状もなかったの。そして、自分が踏みつけたはずの角砂糖らしきものもなくなっている。

 それが分かると、注目を集めた恥ずかしさだけが残る。おばさんは顔を赤くしながら、足早にその場を後にするしかなかったわ。


 その晩のこと。おばさんがうとうとしていると、あのソのシャープの音。

「また来たか」と思ったけど、今度はいつもと違う。

 友達と聞いた一オクターブ差の音が交互に鳴ってくる。おばさんの音はきれいだけど、友達の音は壊れかけのラジオから流れてくるよう。「ザザア、ザザア」と雑音にまぎれて、友達のソのシャープと一緒に、話し声が聞こえてくる。

 

「だめだ、壊れちゃった。壊れちゃった」


「ああ、ひどいねこれ。どうやって直そう」


「もらうの。この持ち主からもらっていくの」


「でも足りる? もし足りなかったら、私のからも持っていってよ」


「本当? いいの?」


 そのあと、ノイズにまじって「わあ、わあ」と喜び合うような声が聞こえたとか。


 翌日。友達は学校に来たけれど、しきりに右足をかばうように歩いていたわ。話を聞いてみると、夢の中で突然降ってきたガレキに、右足を挟まれたんだって。

 はっとして目が覚めたけど、どういうことか足にはしっかり痛みが残っている。いまに至るまでずっと尾を引いていて、なかばびっこを引くしかなかったとか。

 おばさんの脳裏に、昨日のことがよぎる。他の子に見られない場所へ移って、昨日の話をしたところ、ものすごくびっくりされた。

 そして泣きつかれたわ。どうやれば、その恐ろしい事態から逃れられるのかってね。

 おばさんにもさっぱり分からない。どうにか情報を集めようということになっての帰り際。おばさんも自分の髪の毛から、何かがずるりと落ちていくのを感じたわ。

 それはまた、自分の目の前へ舞い降りてくる。とっさに飛び上がってかわしたけど、それは地面に着くと同時に砕け散ってしまう。

 そう。それもおばさんが昨日、踏んづけてしまった角砂糖にそっくりのしろものだったの。ちょっと目を離してしまった隙に、消えてしまったのもおんなじでね。


 その日から、おばさんも自分のソのシャープに、ノイズが走るようになったらしいの。友達のものと交互に鳴るのも同じ。そして見ていた夢がどんなものであろうと、突然、場面が変わって自分の身体を害されるのも。

 ガレキのこともあれば、あの時見たように、行き来する振り子で切られたこともあった。大きなはさみで胴や首をはさまれたこともあったわ。

 痛みは感じないけど、やられた瞬間に胸が「ひゅっ」と寒くなる。まるで血のめぐりをいっぺんに止めてしまったかのよう。

 その奇妙な感覚のあとで、あの声が響くの。

「これなら十分かな?」「いや、もう少し変えないと」としきりに相談している声が。そうして意識が途切れると、次の瞬間にはもう目覚めていたとか。


 おばさんたちは解決の手がかりを探したけど、ついに見つけることはできずに終わる。

 というのも、この奇妙なできごとは毎日とはいえ、10日で解決してしまったから。その10日目の晩に、あの声たちが「直った、直った」と大はしゃぎするのを聞いて、それっきりあの夢も音も聞かなくなっちゃったから。

 おばさんたちは、首をかしげながら学校生活を送り、やがては卒業していったのだけど、数十年ぶりの同窓会で奇妙な一致があったの。


 顔こそ合わせなかったけど、おばさんと友達は同じ高校、同じ大学に進学していた。更には病気になった時期、結婚のタイミング、そして連絡先を交換した時のアドレスも、一文字違いで他はまったく同じものだったとか。

 特に示し合わせたわけじゃない。でもSMSにあげようとしていた写真やメッセージさえ、同じ内容、同じタイミングでかぶったことがあったとか。

 あの時のことでお互いにどこかがつながっちゃったのかも、とおばさんは話している。

 ひょっとしたら、片方が命を落とす時、もう片方も危ないかもしれない。だから互いの下書きメッセージの中に、遺言メールを入れているとかなんとか。


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