第六十四話 装備談義
ダンストの装備品は武器、鎧、盾、靴、アクセサリー×2の6つの装備枠に当てはまるように分類されている。並びは武器・アクセサリー・鎧・靴・アクセサリー・盾の順番で表示されてるな。
中には鉄のメイスのような両手装備や双剣装備に分類される特殊な武器もあって盾の装備枠を削ってきたりもするが基本的には6つのタイプに分かれる。
アクセサリー装備は自由度が高く、投擲武器や鎧下の服に籠手や耳飾りといった感じで別分類の装備も含めて自由にカスタマイズ出来る。魔道具に由来するような物でも構わないのでアクセサリーにこそ本腰を入れて注力する冒険者も多い。
ただこれは生産職の仲間がいない冒険者に限った話で、店売り装備ではなくオーダーメイドが可能な冒険者はまた事情が違ってくる。
靴の装備枠にある兎の宝玉輪なんかを見て欲しい。鉄の輪っかに宝石をはめ込んだブレスレットがどういう思考を経たら靴に見えるだろうか。
これは佐渡が発見した仕様で足首に装着するならば靴装備の一種だと欺瞞することが可能なのだ。
勿論、普通のブレスレットを足首に嵌めても欺瞞することは不可能だ。作成する際にブレスレットを靴装備として作成するという制作者側の工夫が必要になる。
靴の形状に捕らわれない装備作成が可能になるから有用な情報なんだが市販品として売り出されることはないだろうな。
そういう装備アイテムだと分かってないと腕に嵌めても装備できない産廃扱いされる可能性がある。
他にも投擲武器は同一規格品なら装備枠を一つ使用するだけで大量に扱えるようになったりと追求していくと色んな情報が出てくる。投擲した後もアイテムボックスに同じ武器があるなら攻撃力の補正が残ったりと。これはアイテムボックス内部に存在しながら影響力を持つ装備もあるということだ。リスクもリターンも大きい話だな。以前、ダンストのアイテムボックスならSCPや呪いのアイテムを封じ込められるという話をしたことがあるが、本人自体にはバッチリと影響が及ぶと見ていいだろう。軽率に何でもアイテムボックスに放り込むのはやめておいた方がいいな。
「でも、そういう用途不明のアイテムを手に入れる機会ってダンストであるか?」
「ダンジョンのお約束である宝箱がダンストには実装されてないからなぁ」
「じゃあ伝説の神剣とかは何処から出てきたんだ?」
「元は神王トーラスの愛剣だよな。大した性能じゃない剣が神に使用されてる内に成長したとか、自力で生み出したとか、同じダンジョン核の制作品だったとかあたりじゃね?」
「時代的に別の世界由来じゃないからなぁ。数百年も鍛冶に人生を費やした名工でもいるんじゃねえかな」
「現実世界ですらも上位プレイヤーなんて化物がいたんだ。バグってる生産職がいても不思議じゃないだろ」
「そういうロマンを追求しに旅をするのも悪くないな……」
「各地にある伝説の装備を探ってのトレジャーハンターか。確かに面白そうだな」
先に上級冒険者となってオークション級装備の入手が必要だとは思うが、確かにロマンがあるな。
まだダンストには9年以上も滞在する予定なんだ。効率だけを追求するのも味気ない。
初心者冒険者の手引き,ダンスト編に詳しく書かれているのはゴブリン戦線までだから、どちらにしろ手探りで冒険しなきゃいけなかったし。
「その為にも、せめて名無しの店売り最高レベル装備くらいは手に入れないとな」
「剣は普通に買ったし、盾は名持ちの名店の奴で、靴はレア素材から作った奴だから残り三つか」
「靴装備は職業熟練度の成長前に作った物だからマイナス補正がついちゃったけどね」
「中級ダンジョンに潜ってみるか?」
「うーん、ゴブリン戦線でも際どいのに平気か?」
「金で素材を買うって手段もあるが……」
「却下。二十人分も揃えるとなると生産職がパーティにいる旨味がない。修理修繕も現物が手に入りにくいと困るし」
「ソルト街近郊にある中級ダンジョンって確か3つしかないよな」
「中級ダンジョンは上中下と綺麗に分かれてるから実質、選択肢は一つしかないな」
初心者ダンジョンは一種類のモンスターしか存在しないダンジョン災害が起きたことのないダンジョン核の支配領域だ。
そこから一度、ダンジョン災害が起きると初級ダンジョンと呼ばれ複数のモンスターが徘徊するようになる。
中級ダンジョンはそこから更にダンジョン災害が起きてモンスターの種類とレベルが大幅に上がったダンジョンを指す。
上級ダンジョンと呼ばれるにはダンジョンガーディアン、即ちダンジョンボスが上級モンスターの限界を超えて超級モンスターと呼ばれるに相応しい強さを得る必要があるので、ダンジョン災害の起きた数は中級ダンジョンだとダンジョン毎に異なる。
その為、中級ダンジョンは上中下と更に難易度によって細かく区分けされている。
ソルト街近郊の中級ダンジョンは下から牛モンスターとミノタウロスの組み合わせの猛牛牧場、水辺がダンジョンになっているリザードマン・シェルター、無数の虫モンスターが巨大化した昆虫王国だ。
中級ダンジョン昆虫王国は特に悪い意味で有名で、現状の武器だと傷一つ付けられないような巨大昆虫が群れとなって湧いてくるということで強さに関係なく避けられている。
出現する昆虫モンスターは固い甲殻や爪や歯を持っているので退治できるなら強力な武器の素材になるんだが、その退治する為の武器がないって状況だ。
それに普通にキショいからな。駄目な奴は本当に駄目らしい。上級冒険者さえも二の足を踏むダンジョンだ。
さっさとダンジョン核を砕いてくれとの懇願が絶えないらしい。
でも本当に砕いたら中にいるモンスターが一気に周辺に散らばる恐れがあるんだよな。しかも虫なんだから数は尋常じゃないだろうしフィールドに巣でも作ったらと考えると……。
ああ、身体に鳥肌が!
このダンジョンだけは貴族プレイヤーが設置したダンジョン核じゃなくて自然発生したダンジョンだってことを知らなきゃヘイトが凄まじいことになってただろうな。
でもそれでも正直、もっと早く対処して欲しかった。愚痴っても仕方ないが。
俺達が挑戦するとしたら中の下のダンジョン、猛牛牧場だろう。牛モンスターは牛乳に食肉に装備にと捨てるところのない金のなる木で牧場草原と同じく大量の冒険者が狙っている。ただ牛モンスターの進化先であるミノタウロスは神となるダンジョン核が存在しない為に職業こそ持っていないが、三メートルを超える巨躯で岩塊としか言いようのない棍棒を縦横無尽に振り回す凶悪なモンスターだ。
群れるタイプのモンスターじゃないし二十人掛かりなら倒せるとは思うんだが、タフだし誰か犠牲者が出る危険性もある。
いやでも魔法使いのデバフと僧侶のバフと回復を重ねれば思ったより楽に倒せるか? 初級冒険者ってまだ職業編成が偏っている奴らも多いよな。
「待て。以前、調査した結果通りならミノタウロスは手に負える存在じゃないぞ」
「そこまで強いのか? ゴブリン戦線で活躍したパーティが中級ダンジョンに活動の場を移すなんて珍しい話じゃないぞ」
「猛牛牧場で活動するパーティの職業内訳の情報を盗賊ギルドで買ったんだが、物の見事に盗賊職ばかりなんだよ」
「つまりミノタウロスと戦わずに隠密で牛モンスターを狙ってるのか。俺らが猪突荒野でやってたことじゃん」
「小山イノシシのダンジョンボスが補正込みで20メートルくらいの巨体だったから逃げられてたんだよ。3メートルしかないミノタウロスだと逃げられるほど遠距離からは発見できねえ」
「通常の小山イノシシが10メートルくらいなんだよな。もしかしてミノタウロスは3メートルなのに小山イノシシと同格のモンスター?」
「さすがにそこまでの情報はないが……」
小野から決まりかけていた結論に待ったが掛かった。
他の奴ならともかく、情報収集と目の付け所が秀逸な小野に止められると嫌な予感しかしないな。
「ダンジョンボスが複数徘徊してるようなもんか。それならまだ、ゴーレム工場を本格探索する方がマシだな」
「ああ。アイアンゴーレムか」
「鎧の製造に必要な分を確保する前に退散したんだっけ」
「ゴーレム追加装甲一式も突撃イノシシの鉄骨盾も表面に薄くコーティングしてるだけだから、素材はほぼブロンズゴーレムだぞ」
「それなら初級ダンジョンのゴーレム工場で決まりだな。もっと早く挑んでも良かったんじゃないか?」
「ゴーレムの反応がおかしいし、監視カメラと合わせると嫌な予感しかしなかったんだよな」
「屋根からの急襲は今なら簡単に対処できるぞ。飛行部隊があるし」
万一、ゴーレム工場のダンジョンボスが出てきても今なら対処できるか?
それは無理か。上級モンスターレベルの力量はあるだろうし、小山イノシシ程度にビビってるようじゃな。
でも、どちらにしろ勝ち目がないなら単体の方が良いのは確かか。
「それじゃ明日からゴーレム工場の再探索ってことで」
「さんせーい」
「うい、了解っと」
冒険者をやるなら命の保証なんて元からない。覚悟を決めていくか。




