第五十九話 半年間のリザルト
ウォーターマウンテンにクエストへ行って六週間。ダンストに来て半年くらいだろうか。
あれからも何度かクエストに挑戦して経験を積んだり初級ダンジョンを探索して資金調達をして過ごした。
ガードの秘伝書は商売に来た鬼族の一座から幾つかパーティメンバーが買い取ることに成功して飛行部隊を結成できた。
遠距離でのヒットアンドアウェイを徹底しているハーピーこそ討伐できていないが、首狩り兎は罠に嵌めて安全に狩ることが出来るようになった。
単価が高い首狩り兎はダンジョンの探索頻度を落としているにも関わらず以前よりも余裕のある暮らしを提供してくれる。
誘引香を開発してくれた生産班のおかげだな。餌に毒を混ぜても事前に気付かれてしまうから設置罠としては運用できないし。毒を上空からばらまくにしても、一ヶ所に固まってくれないと乱獲は無理。臆病だから普通の餌で釣ろうにも大量には寄ってこないんだよな。
モンスターの理性を蒸発させる誘引香が出来過ぎなくらいに効果がある。
他にも一部のプレイヤーが職業熟練度をランクアップさせて目に見えて強くなった。
俺達のパーティだと岩田と小野が弐ノ戦士に。よそのパーティだとハーレムパーティの上位層がほぼ全員、何らかの職業を得ている。
二人と軽く打ち合ってみたが笑えるくらい動きが違う。多少、ステータスが上回ったとしても勝てる気がしない。
それくらい職業には力があった。
でも、新しい装備込みでやると古い装備の二人に特技なしルールで何とか食らいつけたのを考えると。
職業≧装備=特技・呪文>ステータス=技能くらいの重要度だろうか。程度にもよるかもしれないけど。
特に今回の装備は今までの新装備の中でも一番、高価な奴だしな。10万ゴールドはさすがに高かった。
中島充希(1/8)ステータス
『Dungeon History』
・レベル19 ・職業 壱ノ戦士
HP65/65 MP35/35 攻撃98(28+70) 防御134(27+75+32)
筋力33 体力32 素早さ28(18+10) 器用23(13+10) 精神15 知識16
・呪文なし
・特技 スラッシュ(固30、消10)ダッシュ(固20、消1/10s)ブレイク(固30、消10)
気功(防+固体、貫通無効)クラッシュ(固50、消20)ガード(固20、消10)
・技能『採取』『察知』『解体』『隠密』『剣術』『護衛』『魔力感知』『魔力操作』『気力感知』『気力操作』『調息』『瞑想』
・装備『小波の剣(攻+70、自動修復)』『大狼マント(防+15、魔法適応)』『化物ヒツジの結界鎧(防+20、外付HP100)』
『兎の宝玉輪(防-5、早+10、器+10)』『ゴーレム追加装甲一式(防+20)』『突撃イノシシの鉄骨盾(防+25)』
・アイテムボックス(10×99)
買ったのは化物ヒツジの結界鎧に使われた結界魔道具だ。100もの外付けHPとしてバリアで攻撃を防いでくれる。これでも最下級クラスの魔道具なのが恐ろしい。
普通の結界発生器は500も攻撃を防いでくれるのに、100しか攻撃を防げないのを疑問に思ったが、とんでもない。
これは外付けHPなのだ。つまり防御力が反映される。
134の防御力を上回ってダメージとなった分を100HP分、本来のHP代わりに消費されるんだ。
強くなればなるほど500程度の結界発生器よりも役に立つだろう。しかも防具の更新をする際に魔道具を移し替えてくれるサービスもやってくれる。
10万ゴールドの価値はある。
魔道具に使用される魔石は数十回の使用で駄目になるから新しい魔石代とメンテナンス代はしっかりと取られるが。車の車検のようなもんだ。
一度でもこの装備の恩恵を味わうと生身で冒険するのはもう怖すぎて無理だ。只でさえ特技のリソースとしてHPは頻繁に消費するんだから、モンスターの攻撃でいつ死んだっておかしくない。被弾を極力しないように集団で身を守って慎重に行動してさえも何度か危ない場面はあったしな。
兎の宝玉輪は首狩り兎のレアアイテムの宝石を生産班がアクセサリー装備に加工してくれたものだ。ステータスの中でも重要な素早さと器用の補強をしてくれる。
ダッシュの全力稼働をすると素早さに40の加算がされて68のスピードになるんだが、これはマスクデータとして素早さの三倍以内でないと反射神経が追いつかない。
今の素早さを三倍すると84となって余裕を持って動けるはずだったんだが、最近になるまで動きが悪かった。
理由はおそらく器用のパラメーターの低さだ。今の器用を三倍すると69。68のスピードにやっと追いついたところだ。
特技の同時発動も三つまでなら硬直時間を発生させずに発動できるようになった。器用の十の位プラス1が同時発動できる限界なんだろう。
器用パラメーターの重要さがわかるな。
ここまでお膳立てが整ってようやくダッシュの全力稼働でも剣術技能の補正が乗るようになったのか、複雑な戦闘行動が可能になっている。
剣術技能の職業補正がない高橋が戦士職を近接戦闘で上回ることがあった理由がこれだ。今はさすがに完封できる。
盗賊職は一撃の重さが戦士を即死させるほどなのが戦士職の天敵たる理由であって、別に近接戦闘が戦士を上回るわけじゃないんだよな。
隠密技能と器用パラメーターの恩恵で戦士には盗賊に潜まれたら発見できないから何の救いにもならんが。
あと特筆すべきことは装備以外じゃステータスがモンスター肉のガチャで2ポイント、名持ちレストランの特殊メニューで3ポイント上昇してるくらいかな。
クエストで遠出する際に新しいモンスターを狩れるモンスター肉はともかくレストランの特殊メニューで既にトータル8ポイントの強化をしている。
1千ゴールドから7千ゴールドまでのメニューをしらみつぶしに頼んでいった成果だけど、次から1品1万ゴールドの世界か。
もっとステータスアップするならともかく1ポイント強化に過ぎないなら新しい秘伝書や装備に貯蓄した方がいいかな。迷うところだ。
最後にどうでもいい話を付け加えるなら。
「なぁ、どうだ? 名持ちの服屋『グッドルッキング』の最新作だぜ」
「日本の服飾も扱ってるダンストのブランド店だっけ?」
「何か特殊な効果でもあるのか?」
「いや、ただの服だ」
「え、幾らすんの、それ」
「ふふふ。三着で万は超えたな」
「馬鹿だこいつ」
「日本円で100万も服に注ぎ込んだかー」
「ひがむな、ひがむな。それじゃ俺は『デート!』だから出かけてくるぜ」
「ガチでうぜーな、こいつ」
「死ねばいいのに」
「はははっ。祝福をありがとう」
竹林に彼女が出来た。マジでどうでもいいな。




