第五十四話 選ばれし者
上野が目を覚まして程なく梨桜は現実世界へと帰還していった。
最後の最後まで誰にも救いを求める言葉を吐かなかった不器用な少女は、それでも一言。ありがとうと呟いた。
むしろ救われたのは上野の方だったんじゃないかと錯覚するような晴れやかな表情で上野も頷いた。
これで一段落、と思いたかったが、まだ上野の隠れキリシタン問題が残っている。
周囲にバレないように内密でパーティメンバーで話し合うことになった。
そこで明らかになった上位プレイヤーとの繋がりにさすがに驚いたが、今現在は偽聖女やキリスト教会とも距離を置いているらしく普通のプレイヤーとして扱って欲しいらしい。
布教する気もトーラス教に喧嘩を売る気もないようではあるが、偽聖女への未練はありそうだな。話している最中に十字架を握りしめているのに気づいていないんだろうか。
どっちかというと恋愛的な意味で執着しているように見える。話を聞いた栗原が不満そうなのを見て別の問題が発覚した気もするが、気にしないでおこう。
つくづく他人の恋愛に振り回される年だ。よくそんなに人を好きになれるな。
ちなみに上野が一撃でテンプルナイトを殴り倒せた強化原因と思われる十字架はハーレム先輩が見たところ只の市販品に過ぎないらしい。
何の効果も宿っておらず、特異なのは上位プレイヤー偽聖女に渡されたこと以外にはない。
それでも末端とはいえテンプルナイトを倒せたのは高レベルプレイヤーにも判別が付かない何かがあるのか、それともガチの神の祝福でもあったのからしい。
後者の可能性は高い。衰弱から立ち直った上野はハーレムパーティのメンバーもまだ成し遂げていない職業熟練度の向上が起こっていた。
普通は既存の職業を強化するか習得可能な新しい職業を得るかを選ぶ選択肢が出るんだが、それもなく気付いたら僧侶の職業を獲得していたのだとか。
ダンスト内のトーラス教ではなく、現実のキリスト教を信仰する僧侶。神が他の世界に影響を与えられることは知っていたが現実世界からゲーム世界へも可能だとは知らなかった。
「ただ気付かなかっただけで、救いの手はもうとっくの昔に差し出されていたのか……」
やはり信仰対象から直に気にかけて貰えたことが嬉しかったのか上野は静かに涙をこぼした。
そこに一抹の後悔が滲んで見えるのは偽聖女の顛末に思うところがあるからだろうな。
余りのスケールの大きさに宗教アレルギーとか宗教紛争に巻き込まれるとかパーティメンバーの頭から綺麗に飛んでいった。
いやだって、ガチで神に祝福された人間が目の前にいるんだぞ。ゲーム世界が広まる前なら聖人として歴史に残るレベルなんじゃないのか、これ。
ここで理不尽に追放するとか神罰が下りそうというか、ラノベでよくあるような、ざまぁ展開の前フリというか。
少なくとも職業を二つも持った格上のプレイヤーで仲間にするのが難しい僧侶職とか低姿勢で勧誘することはあっても追い出すなんてあり得ないだろ。
まあ、トーラス教に睨まれないよう内緒にする必要はあるけど、十字架さえ隠せば回復魔法を使っても異教徒だってバレないはず。
異世界の神に祝福されるなんて前例ないだろうし、別のゲーム世界由来の力だって可能性を考えるな俺だったら。
そういえばダンストの神様じゃなくても、僧侶職はダンストのゲームシステム由来だし呪文書を買わないと本領を発揮できないと思うんだが、教会所属じゃない僧侶って何処で呪文書を入手してるんだろうか。今回の上野みたいに野良僧侶が祝福を受けて僧侶職を手に入れること自体はあるみたいなんだが。
んー、ここは田中にそれとなく聞いておいてもらうか。現場レベルの情報で判明するだろ。
まさか賛否両論だったボランティア活動がここまで有益なものになるとは最初は想像もしなかったな。
ストリートチルドレンの保護もクラスメイトパーティの指導もゴブリン戦線に挑戦する為の重要な戦力になってるし、上野も今回の試練で著しい成長をしたし、誰かの為の行動がそのまま自分自身の利益に繋がっている。これは下手に意固地になって自分本位な行動をやっていたら逆に行き詰まっていたかもな。神様が実在するんだしカルマでもあるのかもしれん。
いや、その前に名持ちの店に入れなくなるだけで大損害か。
中島充希(1/8)ステータス
『Dungeon History』
・レベル17 ・職業 壱ノ戦士
HP65/65 MP30/30 攻撃93(23+70) 防御135(22+83+30)
筋力32 体力30 素早さ21(16+5) 器用16(11+5) 精神14 知識15
・呪文なし
・特技 スラッシュ(固30、消10)ダッシュ(固20、消1/10s)ブレイク(固30、消10)
気功(防+固体、貫通無効)クラッシュ(固50、消20)
・技能『採取』『察知』『解体』『隠密』『剣術』『護衛』『魔力感知』『魔力操作』『気力感知』『気力操作』『調息』『瞑想』
・装備『小波の剣(攻+70、自動修復)』『大狼マント(防+15、魔法適応)』『化物ヒツジの鎖帷子改(防+18)』
『隼兎の加速靴(防+5、早+5、器+5)』『ゴーレム追加装甲一式(防+20)』『突撃イノシシの鉄骨盾(防+25)』
・アイテムボックス(10×99)
初級ダンジョンで乱獲できるようになった結果、短期間でレベルアップして2ポイントのステータスアップ。
訓練の成果がようやく出て1ポイントのステータスアップ。
そして高級レストラン、ハニートーストで安い順にメニューを頼んでいって5ポイントのステータスアップをしてる。
3千ゴールドのメニューが4つに千ゴールドのメニューが1つで合計1万3千ゴールドの出費だ。
指導に時間を取られながらも初級ダンジョンにちょくちょく潜っているから大した金額じゃない。
ログアウトを覚悟していたから今のうちにステータスを出来るだけ上げておこうとハニートーストに通い詰めたが、やっぱ強化効率が違う。
一桁のレベルだと5レベルものポイントを飯を食うだけで手に入るんだからお得というしかない。
・アイテムボックス(10×99)
体力回復ポーション×25、状態異常回復ポーション×8、魔力回復ポーション×4、化物ヒツジの投げ網×5、誘引香の原液×3
大ネズミの食用リュック×5、大ネズミの武装リュック×7、大ネズミの財布×3、大ネズミの薬袋×32
薬草と治癒草は袋に詰めてスタックすることにした。100個以上のアイテム保持はアイテムボックスの枠を削減するので避けたい。
まさか袋に詰めてアイテムボックスに収納したら同一分類のアイテムにカウントされるとは思っていなかったが。
咄嗟に必要な時に大ネズミの薬袋を取り出しても、中身がどちらの草なのか外見からは判断できない状態になってしまった。
とりあえず袋の表面に色を付けて区別した上で予め必要な分は普通に所持することで解決策とした。
一目でわかるようにしてもアイテムボックスから取り出す際の目印にはなってくれなかったから場合によっては何度も出し入れする必要があるが。
最近ではケチらないで所持する薬草を消費したらポーションを使うようにしている。戦闘中にアイテムボックスの確認なんてしている余裕はないからな。
うん。ステータスに装備、アイテムもいい感じになってきたな。懸念事項も片付いて順調といっていい。
神の奇跡を目の当たりにして、考えることが職業熟練度が上がって羨ましいとか、隠しステータスにカルマでもあるのかと邪推するなんて我ながらどうかしてると思うが仕方ないんだ。
スケールが大きすぎて宗教に特に興味がないと自然とゲーム脳で物事を捉えてしまう。
オタクならわかると思うんだが、戒律とか思想とか別に興味はないけど神話だとか神器だとか宗教に出てくるファンタジー要素には興味しんしんになるんだよな。
上野みたいに家族毎、騒動に巻き込まれれば心境も全く違ってくるんだろうが、幸運なことにこれまで宗教でトラブルに巻き込まれた経験はない。
そうなるとサブカルの一種として宗教を捉えてしまう。ガチの信者を目にすると怪しいって防衛本能が先に出るが。
上野に対する感情もそういう忌避感から聖人に対する興味関心に変遷したように思う。パーティメンバーの大半がな。
残りのメンバーは宗教で何かトラブルでもあったのか、いや深入りするのはよそう。
誰もが心の中に踏み込んできて欲しいわけじゃない。時間だけが解決してくれるような問題もまたある。
俺達はこのファンタジーと化した世界を冒険者として生きていくための冒険仲間。命を掛けてお互いを助け合えるなら過去なんて些細なことに過ぎないんだ。
・栗原
TS主人公、日常系。
実は上野を誘ってゲーム世界にやって来たのは無意識の内に自分の性別に違和感を抱いていた為。
性転換を可能とするゲーム世界に運命に導かれるままやって来た。
運命力は覚醒(女体化)極振りで、今回のヒロインムーブで更に運命力の強化を果たしている。
ハッキリ言って主人公の皮を被ったヒロイン。




