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デスゲームが最近のブームな件  作者: 八虚空
ファーストログイン『Dungeon History』
52/66

第五十話 リアルの闇

「迷惑です。帰ってください」


 面会した元ハーレムパーティのシスターは一言で俺達の来訪を拒んだ。

 まあ、な。初対面だし信頼はマイナススタートでも仕方ない。

 でも上野が今も牢屋にいる以上、このまま帰る選択肢なんてないわけで。


「いや、そう言われてもこっちもパーティメンバーが不当に拘束されてるんだぞ。黙ってられないだろ」

「上野さんだったらもう解放されるはずです。そういう約束ですから」


 これは上層部が帰ってくる前に問題をうやむやにして被害者にそれとなく賠償したパターンか?

 上野が五体満足で解放されるなら痴話喧嘩に介入した勘違い野郎って風評がつくだけだから俺らにとっても問題はないんだよな。


「騙されてるぞ、アンタ」


 別の情報を持っているのか引こうとした俺の代わりに小野が前に出る。頼りになるな。最初に絡んできていたのが嘘のようだ。


「何を」

「最近、裏社会との繋がりを持つことに成功してな。アンタを襲ったテンプルナイトの素行調査をしてもらった」


 元ストリートチルドレンの情報にあった盗賊ギルドか。システム的な秘匿情報は金じゃ買えなかったと聞いたけど、そういう使い道もあるな。確かに。


「黒だ。身寄りのない子供なんかを不法逮捕しては奴隷商に売ってる。教会の権威を利用してな」

「何だと」


 田中、ステイ。俺らじゃ解決できない。ハーレム先輩に丸投げする案件だ。

 でも大規模犯罪組織の殲滅に巻き込まれてないあたり、単なる小悪党なんだろうな。

 以前のストリートチルドレンの様子を見るに誘拐なんてよくあることのようだし。弱肉強食がまかり通っている。


「うそ」

「何を約束したか知らないけど、守られるなんて期待するな。アンタも奴隷商に売り飛ばされるぞ」


 教会と教会騎士団の力関係が微妙にわからん。身内なんだろうけど、制御できてないんじゃないだろうか。

 武力を持った過激派といったところが実情だろうか。騎士団の上に教会があるんじゃなくて、独立した一派閥として教会騎士団があるっていう。


「そんな、嘘だ。だって困る……」


 へなへなと力が抜けたのか床に崩れ落ちるシスター。さりげなく田中が支えに行ったな。優しく声をかけている。

 飴と鞭で自白を促すのは警察もドラマでよくやっているが本当に効果が高いな。意図してやったんじゃないが。


「本当のことを教えて。友達のことが心配なんだ」


 栗原が最後に懇願するように頭を下げたことで向こうも折れたのか話し始めてくれた。



 元ハーレムパーティ所属のシスター、梨桜。彼女がゲーム世界にやって来たのは望んでじゃない。

 借金が理由だ。会社を経営していた父親が超常チェーンメール騒動の余波で危険な街金から金を借りるだけ借りて倒産させてしまったのだという。

 自己破産や夜逃げも試したが、相手はゲーム世界で鍛えたプレイヤーを擁していて浚われた挙げ句に奴隷の首輪をはめられてしまうことになる。

 借金の返済として要求されたのは売春や臓器なんかじゃなく寿命だったそうだ。

 ダンストでアイテムボックスを習得した後は他のゲーム世界に赴き、表社会では流通できないアイテムを運ぶ契約を結んでいるらしい。

 奴隷の首輪でその場の行動を強制し、別のゲームシステム由来の魔法契約を結ぶことでレベルアップしても抵抗できないように仕込む。

 嫌なシステムコンボを組んでくるな。よくそんな悪用方を思いつくもんだ。

 家族を人質にとって魔法契約を解除されても平気なように保険をかけていることといい、用意周到だ。

 それでもアイテムボックスを習得する期限がある程度あったこともあり、最初はハーレム先輩を誑かして現実の家族を助けようと思っていたらしい。

 結構な女傑だな。

 でも本命の娘が発覚したことと、伊藤にハーレム先輩が言った逆立ちしても共に現実世界へは行けないと発言したことを知って諦めたのだと。

 藁にも縋る思いで最終的に行き着いたのがトーラス教会だった。

 神王トーラスは現実世界にも影響力を持っている。神様なら、もしかしたら助けてくれるんじゃないかと祈りにも似た思いでやって来て、そして裏切られたのだ。


「神様が居ても何の救いもなかった。でも、今回の件をなかったことにする代わりに上層部に口利きしてやるって言われてさ。もしかしたらって」

「教会騎士団が今回の件を最も隠蔽したい相手は上層部だ。客観的に見て可能性なんてないぞ」

「そっか。そりゃそうか……」


 諦めることに慣れてしまったのか怒りすらしなかった。

 ファンタジーな世界に現実が変貌して、何か凄いことが起きるんじゃないかとワクワクしてた。閉塞感の漂う世界が開けたような気がしていた。

 でも、当たり前のように世界はどうしようもなく現実で。理不尽が平気でまかり通るように出来ている。

 何もかも解決してくれるヒーローなんて存在するはずもなく。


「やっと話してくれたね。待ってたよ」


 それでも、一人のお人好しが笑って立っていた。

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