第四十一話 基本三職
高速鳥亭を何とか脱出して、一息。今回も無事に生き延びれた。
何回か混乱に乗じて魔法を撃ち込まれたが気功特技のおかげで魔力操作の必要もなくなっていたので不意を打たれても防御貫通は発動しなかった。
それでも怪我は負ったから魔法班の魔法よりも威力が高かったような気がする。単に器用貧乏な人間よりも魔法に特化しているだけかもしれないけれど。
「確かに明らかに威力が変なんだよな。ハーピーは風属性魔法に特化してるからか?」
「いや、武器を属性縛りで強化してもそこまでの強化は見込めなかっただろ」
「モンスターだからな。首狩り兎と同じようなマイナス要素がある特化能力か?」
「そこまでハーピーって打たれ弱くないんだよな。何かを犠牲にしてるようにも見えないし」
他の奴らもハーピーの魔法には違和感を感じていたようで議論になった。特にこれといった解答が出るわけじゃなくても討論をすることで思わぬ副産物が生まれることもある。
秘匿情報を見つけることが強化要素に繋がるのがゲーム世界だ。疑問に思ったことはどんどん言葉にしていった方がいい。
「武器の性能差じゃないのかな。ハーピーが何かを持ってたのを見たよ」
「マジか。数百メートルも離れた人影とかよく視認できるな」
「え? 魔法班も射程範囲に入ったらバンバン魔法、撃ってただろ?」
「魔法は大まかな狙いが付けられれば追尾性能があるからな。視界に入ってりゃいいから完全に視認する必要はねえのよ」
「うっわ、ズルい!」
「高橋のショットも同じ感じ?」
「こっちは完全手動だよ。代わりに高器用と察知技能補正で五感が鋭いんだと思う」
「レーダー的な魔法か特技を習得できたらミサイルみたいに目標まで魔法を飛ばせそうだな」
「可能だぞ。戦争では高位の魔法使いは姿を現さないで遠距離から砲撃してくるからな」
「そこまで行くと最早パーティを組む必要すらなくなるな」
「素材回収が出来ないだろ」
「戦士職を極めたら前線で軍団をなぎ倒す無双状態になるから高レベル冒険者はヤバいが結論でいいよ」
「完全ステルスを決めた盗賊職によく暗殺されるらしいけどな」
「それ言ったら魔法職のレーダーで盗賊職はよく殺されてるだろ」
「そんで魔法職は戦士職が魔法を蹴散らして砦毎、殺されると」
「相性ゲーだな」
ゲーム時代から基本三職は相性によって有利不利が決まるようにバランスが取られてたからな。一つの職業に専念した方が強いのに専念したら詰むようになっている。
それにしても魔法は追尾性能があるのか。躱すのは困難だと防げるように対策を取ったのは大正解だったな。
運用の仕方を見ても魔法は現代兵器に分類される類の技術だ。ファンタジー的なシステムが採用されてるから戦士なんて前衛が抵抗できるが現実じゃ立場は逆転してるのかもな。
まあ、他のゲーム世界で魔法を学ぶことも出来るしダンストでは基本的に生存能力を高める方向性で行こう。
生存能力だけを考えるならHPを増加させる狂戦士の職業特技が欲しい。被ダメージが大きいほど攻撃力が増大する特技は防御力増加の気功特技と相性が悪いけど。
魔法班もMP増加に役立つ僧侶の職業特技が欲しいだろうな。教会勢力に取り込まれる危険さえなきゃ。
少なくとも初級に上がれるくらいの職業練度がないと話にならないけどな。あと金。
資金調達はレストランの特殊メニューもあるし重要だ。いくらあっても足りない。
他の冒険者との談合もあって初心者ダンジョンだと最高でも3千ゴールド。少ないと2千ゴールドくらいの稼ぎになる。
ダンジョンの広さの割に冒険者が多すぎて獲物が慢性的に足りないんだよな。魔力操作普及前ほどではないけど。
ソルトの都市人口は4万人くらいでプレイヤーも少なくとも数百人はいて冒険者は初心者冒険者が断トツに多いからな。初心者ダンジョンに人が集まるのも仕方ない話だ。
人口が少ないように見えるけど、中世にしてはソルトは大都市に分類される方でトーラス王国でも同じ規模の都市は20もあればいい方だろう。
貴族プレイヤーがダンジョン核を利用した町興しに成功したからな。続々と地方から人が集まり続けた成果だ。
日本だと地方都市でも数十万の人口がいるのは珍しくもないし東京だと1千万の人口を超すから比べ物にならないけど。
トーラス王国全体の人口だと1200万人くらいはいるらしいので村落に人口が散らばっていることになる。食料生産に従事する人間の総数がまだまだ多いってことだ。
この人口の偏りがそのままパワーバランスとなって中央集権が難しかったり税の取り立てが困難になって強硬策を取る理由になったりするんだよな。
トーラス王国の為政者はマジもんの神だから信仰心でそこら辺の問題は解決してるんだが。中世で神権政治をしたりと箔付けが重要だった理由がよくわかる。
と、話が逸れた。
今回の初級ダンジョンの稼ぎは影狼森林が8千ゴールド、生首畑が1万ゴールド、推測になるが高速鳥停が7千ゴールドくらいだ。
やっぱ本格的に探索できるようになると初級ダンジョンの稼ぎは初心者ダンジョンとは比べ物にならないな。思ったより高速鳥亭の稼ぎが伸びなかったが。
ハーピーが狩れないから量が稼げても単価が低すぎて儲からないのかもしれないな。影狼森林は果実類があるし、生首畑の首狩り兎は2千ゴールドもするし。
うーん、誘引香の劣化版を作成してもらって生首畑で使ってみるか? でも首狩り兎の群れは誰かが死にそうで怖いんだよな。
順繰りに初級ダンジョンを探索して全体のレベルアップを計るのが現実的か。他の冒険者はハーピーをどう狩っているんだろう。ハーピーの素材が出回っている以上、方法はあるはずだが。
良い方法を思いつくまでは順当な強化をするしかないな。俺もまずはレストランに行くか。金もそこそこはあるし。
ステータスを向上させる特殊メニューを出す店はソルト都市の中でも名持ちの名店になる。一見さんはお断りで紹介状を持っていないと入れない。
これまでは生産班の師匠に紹介状を一筆書いてもらってたらしいんだが、パーティ全員分となるとさすがに厚かましいな。
一日の稼ぎも大幅に上がったし、初心者の宿を出てもっとグレードの高い宿屋に泊まるか。普通はそこの宿で紹介状を書いてもらうのが一般的なんだ。
武器も名持ちの店じゃないと特注の上位武器は手に入らないっていうしな。風呂付の宿ならわざわざ銭湯へ行く必要もなくなる。
ああ、ちなみにプレイヤーが大量にやって来たからか風呂は男女別だ。内部でいかがわしい商売もやってない。倫理的な理由じゃなくて普通に不衛生だからな。
そういう商売は歓楽街に別物としてちゃんとある。性病も治癒草で治るらしいから特に禁止にする理由はないんだが、気功特技を習得するまで金銭をギリギリまで貯蓄していたから何となく憚られる雰囲気だった。
レストランに行くってだけで文句が出たくらいだったしな。余裕も出てきたし、これからはそういう娯楽も解禁されていくだろう。
俺も人助けに募金しようとするのを阻む銭ゲバみたいなことをやらなくて済むようになって助かる。金がないと品性まで下がっていくような気がするな。
善人でいるにもある程度の金が要るってんだから世の中は厳しいもんだ。




