第四十話 PK垂涎の品物
生産班の新兵器は誘引香というモンスターを引き寄せる消費アイテムだった。
材料は蜜林檎を使用しているが影狼森林に生っている果物なら何でも作れそうなのだとか。鳥モンスターのような一部のモンスターにしか効果がないらしいが十分に凄い。
他にもアルコールや油なんかも使用するらしいが少量で済むので価格も低いし。
ただ普通の果物では特殊な効果がない普通の香水になってしまうので、蜜林檎のような高価な特殊素材が必須ではあるんだが、俺達の場合は自分らで確保できる。
次々と隼と鷹が集まってきたし大成功と言って良かった。アイテムとしては。
「ハーピーが更に追加で来てるぞ。鷹以外は無視して戦闘班は対魔法防御に専念しろ!」
「結界が雑魚モンスターに集られてそろそろ限界だ! 生産班だけでも避難させるか!?」
「別行動したらもっと危ない! 魔法班以外はMPを魔道具に注ぎ込め!」
「網で捕獲とか言ってられるか。視界が塞がれる。広範囲ブレイクで雑魚を散らすぞ!」
「魔法班、ハーピーへの牽制魔法が薄い!」
「仕方ねえだろ! 戦闘班ほど人数がいねえんだから!」
「そろそろ魔力回復ポーションが尽きちゃう! 瞑想でMP消費を抑えたって限度があるよ!?」
簡単に言ってしまえば誘引香の効果がありすぎた。隼は前が見えないほど密集して集まってくるし鷹は群れで襲い掛かってきたし、ハーピーが五匹は魔法を放ってきている鉄火場になった。
この香水。原液で使用するものじゃなくて水で薄めて使うものなんじゃねえかな。それか蜜林檎を直接素材にするんじゃなくて一旦ジュースにしてから利用するとか。
今言っても仕方ないか。切り替えよう。
これがゲームなら隼の攻撃力ではダメージなんて負わないから無視して鷹とハーピーに専念できるんだが、現実だと防御力が弱い眼球なんかにくちばしを突き刺してきたりとノーダメージとはいかない。
それでも防御力が敵の攻撃力を上回っているから眼球を攻撃されたって3ダメージ以下で収まるし傷も負わないんだが、瞼の上から他人に指で目を押さえられた状態を想像して欲しい。
完全に無視をするのは無理だ。
結界魔道具のようにバリアを形成するか、防御力を更に高めて眼球のような急所だろうと無傷で済むようにならないと厳しい。
「モンスターが多すぎて逃げられないな。佐渡、まだ誘引香はあるか?」
「五つほどある」
「十分だ。高橋、ショットでなるべく遠距離にばら撒いてくれ」
「わかった」
「射線を通す必要があるな。竹林、ファイアーボールを俺に撃ってくれ」
「ハァ!? 正気かよ!」
「魔力混入ブレイクで広範囲にまき散らすだけだって」
「だあぁ、クソっ。手加減の訓練なんてしてねえからな。恨むなよ!」
「気功で大して効かねえよ。いいから全力で撃てって」
「魔法は威力が低いからって馬鹿にしやがって! うら、お望みのファイアーボールだ!」
迫りくる炎の玉が急速に迫ってくる。落ち着いて視認できるのは素早さパラメーターが一定以上あるのと精神パラメーターのおかげだな。
さすがに本番で試すのは初めてだが練習では何度も成功してたんだ。失敗してもちょっとダメージを負うだけだ。怖くはない。
魔力操作で盾に十分なMPを込めて炎を受け止める。全身に燃え移る前にブレイクで吹き飛ばして広範囲にまき散らすんだが、それでは射程が足りない。
ブレイクと同時にクラッシュを発動させることで更に長射程に被害を与える。魔力操作と合わせての三重発動。高橋が既にチャージ・ダッシュ・スラッシュで実現している、後追い技術だ。
身体が錆び付いたように重く感じるが発動自体は成功した。狙いと微妙に逸れているがパーティメンバーもいないし成功でいいだろう。
「チャージショット」
隙を窺ってた高橋が遠距離に投てきするために誘引香五つに同時にチャージとショットを発動させているのを見ると俺もまだまだだな。
もとから複数の対象に付与する特技だってこともあるんだろうが、器用パラメーターの高さだけじゃなくて事前の濃密な訓練の成果でもあるんだろう。淀みがない。
威力の増した香水瓶はそれなりの飛距離で放物線を描いていく。これでも魔法の射程距離には敵わないからハーピーの警戒は続ける必要があるな。
ガラスの割れた音を切っ掛けに飛行モンスターの群れの一部が離れていく。後は油断しないで撤退していけば何とかなるかな。
今回は散々な目にあったが、このアイテムを利用すればハーピーの素材も確保することが可能なんじゃないだろうか。
対冒険者用の罠アイテムとして非常に優秀だしな。原液版も常に用意してもらうようにしようか。




