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デスゲームが最近のブームな件  作者: 八虚空
ファーストログイン『Dungeon History』
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第三十九話 ヴィランの上位プレイヤー

 ガーディアンが直接干渉してきている疑いのあるゴーレム工場を除いた初級ダンジョンは4つ。

 一つはこちらと同等の特技に魔法を駆使してくるだろうゴブリン戦線。挑む時には数の差を埋める為にも他パーティと連合を組むのが必要なダンジョンだ。

 今の俺達なら戦力的にも参戦できるとは思うんだが、捨て駒にされないように信頼できるパーティを探すところから始めなければならない。

 ハーレムパーティに便乗させてもらうのが今のところ一番現実的な選択肢なのが情けないな。まあ、ストリートチルドレンの面倒を見てて忙しいから、どちらにせよ後の話だ。

 残りの三つが前回に挑んだ影狼森林・生首畑・高速鳥停だ。

 他のダンジョンはともかく生首畑は少し悩んだが、今の防御力なら死者はおそらく出ないだろうと挑戦してみることになった。

 盗賊タイプの魔物はゴブリン戦線にもいるし忌避して避けてはいられない。何とか封殺できるようにならないと未来はないのだ。


「高橋と模擬戦をしてて思ったけど盗賊職って優遇されてねえ? 一発も貰っちゃいけないとかハードルが高いぞ」

「代わりに攻撃を食らったら低HPだからマズいけどな。あと剣術に職業補正が付かないから高レベル帯で前衛をやるには戦士職も取る必要がある」

「こっちは毎回、ヒヤヒヤして攻撃を躱してるんだけどね」

「盗賊は射手職を取れば後衛になるよな。盗賊専門に鍛えていくと戦闘型じゃなくて探索型になるんかな」

「いや、隠密の性能が半端ないから暗殺者タイプになるな」

「町中で防具を外して油断してると簡単に殺されそう」

「笑い話じゃすまないぞ。スラム街で身元不明の遺体が何度も捨てられてたってガキ共が言ってただろ」

「あれ、死体を隠すためにスラム街に捨ててるんじゃなくて、半分喜捨のつもりでやってるらしいと聞いた時は驚いたよな」

「アイテムボックスで隠蔽するのは簡単だしね。死体を始末する手間賃代わりに衣服や小銭を残していくとか倫理観の隔たりを感じる……」

「人間の肉を食わないだけ良かったよ。中世とかだと人肉食とかの事例があったはずだから。中華だと薬として売られてる場合もあったんだぞ」

「そこはダンジョンと鑑定の恩恵だな。食糧は豊富だし効果のない迷信とかシステム的に否定できるから」

「ダンストじゃゲームに出てこなかったから、そういうのがないだけだろ。他のゲーム世界だとゲーム時代に忠実にアイテムとして実装されることあるぞ」

「共食いが有効な強化手段のゲーム世界とかマジで勘弁して欲しい」

「有名なヴィラン組織があったな、そういや。吸血鬼とか鬼とか人食いの専門の組織だっけ」

「俺はそういう種族柄、変質してしまった奴より人間のまま所属してるキチガイ共の方が怖い」

「諦めろ。ゲーム世界登場以前からそういう奴らはいた」

「血液嗜好症なんかを言ってるのか? そりゃ鬱病とかも関係するデリケートな問題だからガチの殺人鬼と一緒にするのは可哀そうだぞ」

「吸血鬼や鬼とか人食い種族でも人間と共存できてる奴らはいるじゃん。罪を犯したか犯してないか。そこだけを見てきゃいいだろ」

「共存できてる奴らも過去には人間を食ってたんだよな。今は食わないから許せってモヤっとするな」

「そこらは種族的な常識とか文化だしな。過去の英雄とかも現代に何人か来てるけど、あいつらも大量殺人はやってるんだぞ」

「そこはプレイヤーも同じ状況に陥るからな。現実だと正当防衛で殺しても非難されるかもしれないけど、ゲーム世界じゃ自分の身は自分で守るしかない」

「私は人殺しだけど被害者は蘇生させたので実際には誰も死んでませんとか法廷で証言しやがった『偽聖女』もいるしなぁ」

「日本の宗教への信頼を一人で貶めた大罪人だよ。あの女は」

「世にも珍しいヴィランの上位プレイヤーだから下手なことは言うな」

「基本ヒーローしか上位プレイヤーっていないよな。いや、単に姿を隠してるだけかもしれんが」

「そっちだろうな。殺し合いが成長に必要不可欠なゲーム世界のトップ層が善人しかいないなんてありえんだろう」


 たしかに偽聖女は倫理的にタブー扱いされる上位プレイヤーではあるが、ヴィランと言い切るには少し躊躇するんだよな。

 殺人に一切の抵抗がないのと常に笑顔全開だから蘇生は単に苦しむ時間を延ばす拷問の一種だと捉えられているが、現代社会の法律に曲がりなりにも従っているんだよな。

 有罪判決が出た後もちゃんと牢屋に入ってたし、脱獄はシンパによる暴走に近いと思うし。

 ヒーローが警察の要請で捕獲に来て死者が出ても両方の陣営を蘇生し続けてたしな。民間人の被害とか蘇生させるからって全く気にしてなかったけど。

 最終的に現実からの追放という形で収まって以来、カルト的な人気がある伝説的な犯罪者になった。

 でも、もうちょっと親身な理解者がいれば現代社会との橋渡しも可能だったんじゃないかと思う。他の上位プレイヤーも介入しようとはしなかったしな。

 全てが終わった後に口出ししても詮無い話か。切り替えよう。

 最初に挑む初級ダンジョンは影狼森林。装備補正でシャドウウルフの隠密を察知できるかと期待してたんだが、残念ながら高橋以外には見抜けず。

 気力感知で察知技能にはプラス補正があるはずなんだが、職業補正ほどの恩恵はないということか。まあ、目で見えないものを知覚する技能であってレーダーみたいに広範囲を探知してくれるわけじゃない。

 むしろ遠距離だと物理的に見えていようと気力操作の光はわからないから有効距離みたいなものでもあるんだろう。

 至近距離でも見えているはずのものを知覚できなくする隠密技能との相性は悪い。普通に誤魔化されてしまう。

 やはり戦士職では盗賊職に斥候関連で敵うことはないか。高レベルだと器用パラメーターのゴリ押しで見抜くことも可能なんだろうけど。

 シャドウウルフは一度に複数の数で侵入してくるから依然と同じく高橋が大まかな場所を指示して、周辺毎、更地にすることで退治している。

 本当は素材がボロボロになるから避けたい。余裕がある時は高橋が単独で相手をして綺麗な死体が残るんだが、もっと上手い方法はないだろうか。

 まあ、素材の心配を出来るくらいには影狼森林は楽に探索できている。気功特技のおかげでビッグウルフの攻撃以外はダメージにならないからな。

 逆に武器を新調したこともあり、こちらの攻撃は面白いくらいに決まる。ウルフはもう特技を使う必要もない。一撃で終わる。

 蜜林檎の他にもいくらかの果物も手に入っているし上々の成果だ。戦闘班じゃ手強いビッグウルフも高橋がチャージとダッシュを重ねたスラッシュを放つと簡単に倒れるし。

 高橋一人に負担を押し付ける形になってしまっているので、ビッグウルフ以外はシャドウウルフの位置を指摘するだけで休んで貰っている。

 影狼森林で探索をすると高橋一人だけが命の危機を感じる羽目になるんだよな。ビッグウルフを簡単に倒せる代わりに攻撃を受けると簡単に死ぬのが盗賊職だから。

 本人もあまり近接戦闘に意欲があるわけじゃないしな。次は射手職を取るって言ってることからも遠距離戦の方がいいんだろう。

 うーん、これは戦闘班の何人かは次に盗賊職を取る必要があるかもな。強制できることじゃないが。


「いよいよだな」

「帰って来たな生首畑に」

「即死はないと思うが魔法を中心に安全第一で行こうか」


 影狼森林の探索を早めに終えた翌日。とうとう首狩り兎に再挑戦することになった。

 見かけは兎がちらほらと草をかじっている初級ダンジョンとは思えないほど牧歌的な光景だが、俺らがダンスト世界で経験した中で一番の危険区域だ。

 魔法班が付近に散る兎モンスターを次々とアロー系魔法で狙撃していく。ボール系の範囲攻撃じゃないので大多数の兎モンスターが逃げ出していくが、そっちは放っておいていい。

 逃げ出すならそれは一角兎だ。大した脅威にもならないし、大した稼ぎにもならない。攻撃されて身構えるなら要注意。それは首狩り兎の可能性が高い。

 特技の発動光を発して遠距離から一部の兎が近づいてくる。新装備の恩恵で辛うじて俺でも姿を捉えることが出来た。数は5匹。

 3匹は進行先にボール系の範囲攻撃を叩き込まれたことで力尽きた。1匹は高橋の投げたダガーに仕留められた。残り1匹。

 運が悪いのか真っ直ぐに俺に向かって直進してくる。首狩り兎め。狙うんならどう考えても魔法班の方をターゲットにするだろ普通。


「オラァッッ!!」

「ギキャァ!」


 前回は容易く切り飛ばされた突撃イノシシの鉄骨盾でブレイク特技を放つ。威力が飛躍的に上がるクラッシュの同時発動でもっと広範囲に衝撃波を飛ばしたいんだが首狩り兎が早すぎて準備時間が足りない。

 進撃コースにギリギリのタイミングで発動されたブレイク特技は土砂を巻き込んで軽量の兎モンスターを空中に弾き飛ばす。体重が軽いせいか突撃イノシシのように軌道を逸らすどころか反対方向へと弾き飛ばされていく。

 一瞬だけ目が合った首狩り兎の眼光にヒヤリとしたがブレイクで吹き飛ぶ小さな身体は既に首があらぬ方向へ折れ曲がっているのが見えた。やはり防御力は低い。

 地に落ちた首狩り兎が再び動き出すこともなく、どうやらちゃんと討伐できたようだった。


「ふぅ……。死ぬかと思った」

「中島ナイス!」

「やっぱブレイクで対処は正解だったな」

「周囲に他の兎モンスターはいない。とりあえずは安全だ」

「前回よりも討伐数は少ないな。狙撃よりボール系の掃射で一掃した方がいいんじゃね?」

「いや、素材が痛むし逃げたのは一角兎だから稼ぎにそう影響しない。このまま行ってみよう」

「まだ攻撃力を確かめてないから防御が大丈夫か不安だわ」

「ロシアンルーレットをしてる気分だな」


 討伐した兎モンスターの亡骸をアイテムボックスに収納したら再びの探索に入る。

 ここでも森のように高価な採取素材が手に入るはずだから結界を敷いて拠点を作らないと。

 高橋に試して貰ったが結界は韋駄天特技を習得した盗賊のチャージダッシュスラッシュにも耐えた。首狩り兎に攻撃されても一撃なら耐えてくれるだろう。

 複数人で込めたMPがそのまま防護点のバリアになる感じだな。500MPまでは込められる。

 高橋のスラッシュの威力は(素早さ+器用)÷2+武器+(30固定ダメージ×職業熟練度)+韋駄天(素早さ+ダッシュ×2)となるはず。

 最初のステータス加算は職業の補正パラメーターが適用されるから盗賊職でスラッシュを放つと戦士職だと筋力と体力のところが素早さと器用で代用される。

 首狩り兎の特殊装備と疾風の剣のパラメーター補正で45あたりかな。そこに武器の70と固定ダメージ30に素早さ50にダッシュを気力操作で限界まで威力を高めて40。

 チャージの20を加算して合計255ダメージか。戦士職のクラッシュが150ダメージくらいと考えると韋駄天特技がやっぱ尋常じゃないな。

 今回はこの結界の仕様を利用して首狩り兎の攻撃力を確認するのも目的の一つだ。190ダメージを超えると気功特技を習得した戦士職だろうと一撃で死ぬからな。

 高橋の攻撃力でも上手く攻撃をいなせばHP全損することはないらしいんだが、こっちの反応速度を超える動きを予測して攻撃を防げるほどの職業練度はまだない。

 ステータスのゴリ押しで倒せるモンスターだけを相手にするのが初心者冒険者の心得だ。

 幸い首狩り兎の攻撃力はスピードの割に低く160くらいだった。無防備に受けても身体を切り飛ばされることはあっても即死することはない。

 ただHPの半分を削られる攻撃なら首を跳ね飛ばすことは可能だし、そうなったら部位破壊の継続ダメージで30HPなんて瞬く間になくなってしまう。

 頭部がなくなっても直ぐに首に繋げて体力回復ポーションをかければ生き残れるかもしれないってだけで破格の話なのも確かだけどな。


「結局、即死の恐怖からは逃げられないのか……」

「目で追えて防御できれば死なないってだけで十分だろ。基本、魔法で片づけるんだし」

「最悪の場合、首の代わりに腕を犠牲にすりゃいい。それくらいの体感時間はある」

「でも、ここも集中力が持たなくなると危ないから長時間の探索は難しいぞ。残るはモンスターが近寄ってこない高速鳥停だけだ」

「一応そっちも試してみて駄目だったら我慢するしかないな。レベル上げは初級ダンジョンの方がいいし、報酬も多少は上がるだろ」

「むしろ俺らが生き急ぎすぎてるんだろうな。一日の大半を探索に費やす冒険者なんて少ないんだぞ」

「ハーレムパーティがゴブリン戦線で何時から探索してると思ってるんだよ。しかも6人くらいで探索できるようにならないと自由に外出させて貰えないんだぞ。それだけ危険だってことだ」

「生まれてからずっとこの世界で生きてる現地人にそう簡単に追いつければ苦労しないよ。プレイヤーの成長速度が速いからって限度がある」

「いや、殺し合いをする鉄火場にそんなに幼少から参加してると思えん。俺らの年齢なら三年くらい冒険者やってればいい方だろ」

「個体差が激しいから現地人の成長速度はまちまちだからな。人外レベルの奴はプレイヤーより成長速度は速いぞ」

「ハーレムパーティも自己強化に熱心な奴と興味ない奴で二分化してきてるよな。下の方なら俺らとそこまでの違いはないように思う」

「言っとくけど、このパーティも滅茶苦茶なペースで強化していってるからな。普通は一年かけてゴブリン戦線に挑戦出来たら良い方だぞ」

「ああ、最初でつまづかなかったからか。恐喝とかで足止めされるものな」

「それだけじゃなくて、こんなに命懸けの冒険を休みもロクにせずに繰り返して、強化の為の資金貯蓄なんて普通は出来ないんだよ。どっちかは無理な場合がほとんどだ」

「なんでだ?」

「高度な教育を受けてなきゃ将来を見越した貯金なんてしねえし、高度な教育を受けた奴が奴隷のように働くかよ」

「せやな」

「納得しかない」

「プレイヤーだからゲームみたいにポンポンとレベルアップすることに違和感がなかったけど、俺らってマジで異物だな」

「気付いてないみたいだけど、嫉妬の視線が凄いからな。ここまで目立ってるとさっさと強化して突き抜けた方がいい」

「んー、でも金稼ぎがなぁ……」

「高速鳥停で金なら稼げると思う。上手くいったらだけど」

「お? 生産班から久しぶりな新兵器の提供が来たか?」

「消費アイテムだから費用対効果次第なとこあるけどな。まあ、過度な期待はしないでくれ」

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