第三十六話 ストリートチルドレン
昔は現代ほど農業などの食糧生産が洗練されていなかった故に貧困と戦争が頻繁に起こっていた。
保存技術も拙く簡単に腐って駄目になってしまうし、運送技術が未熟で豊作な地方で食糧が捨てられる傍ら不作な地方で餓死者が出る始末。
情報伝達の方法も噂という不確かなもので一部の商人は不作だというデマを信じて食糧を溜めこみ、高値で売りさばこうとした。
追い詰められた村人は旅人や商人を襲ってその場をしのごうと短気を起こし、なおさら流通が滞って情報伝達に齟齬が出た。
国は食糧や土地、人間を他国から奪って自国民を豊にしようと動き軍備にこそ最大限の力を費やした。
戦争に負けて滅びる国も多く、文明は後退し更なる貧困を呼び込んだ。一つの民族が滅びることも珍しくはない力こそが正義の時代。
英雄譚の影には無数の力なき民の骸があり倫理は時代が進むにつれてむしろ退化していった。
宗教という良心と祈りの結晶は信仰が広まるにつれて利権を生み、戦争の一因とまで成り果てた。
血の繋がりと生まれた土地による結束は余所者を排除する非寛容さを生み出し、時に国家にまで逆らう流れと成り得る。
支配には力と見せしめこそが有効で、寛容な政策は将来の敵を肥えさせる愚策と紙一重であった。
これが中世を忠実に再現しようとしたダンストの大まかな世界観だ。
アイテムボックスの存在で食糧の保存は現代以上に優れているしダンジョンからは食糧に出来るモンスターが尽きることはない。
が、アイテムボックスは所持する人間が死んだら中身も行方不明になって二度と戻ってこないから、リスクは高いんだよな。
それにレベルの存在で殺せば殺すほど強力になることが保障されてるから倫理はリアル中世よりも低いかもしれない。
奴隷階級は決して逆らうことが出来ない奴隷の首輪で行動を抑制されてるし、反逆することもないから社会階級は固定されて動かないし。
唯一、冒険者だけが例外で上級ダンジョンを攻略した一部の存在は下手な貴族より丁寧な扱いをされることもあるんだとか。
奴隷の首輪は精神パラメーターが一定以上あると効果を及ぼせないからな。そりゃモンスター以上の化物を冷遇とか出来ないだろう。
ソルトの町の貴族プレイヤーも元は冒険者だった。戦争で活躍して貴族階級に引き上げられた日本人だ。
女性蔑視の時代に男女平等な法律を施行したり、冒険者の遺児を引き取る孤児院を建てたりなど現代的な政策を実施している。
どうやらダンスト内部にいないで現代日本から代理人を派遣して指示を出してるらしいから即応性はないらしいが、まあ寿命の問題もあるしこれは仕方ない。
国の直轄地じゃない貴族の領地は支配する貴族が法だから大抵のことは通るしな。ダンジョン核も利用して商業的にも成功を収めている。
ただそうして豊になっていくと後ろ暗い奴らが集まってくるのも仕方がないことで、裏では大量の犯罪組織に奴隷商人がソルトの内部に蔓延っている。
ちなみにソルトの町で奴隷は違法じゃない。
奴隷禁止の条例を出そうにも国全体で行っている国家事業だしトーラス王国の神様も階級制度を否定していないんだよな。
下手に禁止だけして救済措置を出さないと口減らしに殺されるようになるだけだし逆にモンスターに親を殺されて行き場のなくなった子供も幾らでもいる。
福祉に予算を掛けすぎると破綻するしな。孤児院はコネを使って辛うじて入れるくらいの狭い門だし、トーラス教を信仰している比較的に倫理感のある僧侶や信者が炊き出しをしてもまだ足りない。
だからストリートチルドレンや浮浪者が多いからって行政の責任とするのは可哀そうだし、動かないハーレム先輩を責めるのも筋違いだ。
各地から続々と奴隷も冒険者志望者も集まってる中で何とかやっているソルトの官僚は優秀で、ハーレム先輩も同じプレイヤーを救おうと自腹で頑張っている。
だから現状を直訴して援助してもらおうとか考えてはいけない。現実でもスラムとか珍しくもないんだ。ちょっと日本がおかしいだけで。
「いや、そんな延々と言われなくてもわかってるよ」
「本当だな。俺らも別に裕福なわけじゃないからな。持ってる金を全額寄付して素寒貧になるとか止めろよ。今の金は秘伝書を買う為の貯蓄資金だぞ」
「ちょっと飯を奢るくらいなら問題ないんじゃね?」
「誰にだ。スラム街にいる奴ら全員とか素寒貧になっても足りないぞ。お腹を空かせた友達を連れてくるとか言っても断れよ」
「厳しいな中島」
「いや、中島は当たり前のことを言ってるだけだろ。俺らは教会とかと違って下手したら襲われて身包みを剥がされるんだぞ」
「小野はストリートチルドレンの情報を持ってるか。こいつら裏に犯罪組織とか絡んでいたり、スリの常習犯とかじゃないだろうな」
「ちょっとアンタね!」
「いやいいよ、アカリ姉ちゃん。実際、俺らが姉ちゃんに会った時もスリしようと近づいたのが切っ掛けだったろ」
「病気の子に治癒草を食べさせたいからって聞いたら怒れるわけないじゃないの」
「アイテムボックスがあんのにスリなんてリスクが高くてリターンが低い行為をよくやれたな」
協力しようとは思ってるんだが、パーティ仲間が呑気すぎてつい口を出してしまう。
自分でも陰険だとわかってるんだがな。ハーレム先輩と話して色々と自分のことを自覚できてもそう簡単に変われるんなら苦労はしない。
貧困問題とか、現代でもあれだけ寄付を募って改善する兆しが見えなかったからな。政治や宗教問題とも結びついてるから、ゲーム世界の影響で世界が一変しても何とかなる気がしない。
日本でも貧困ビジネスとかあったようにこういう場所には胡散臭い輩が搾取しようと待ち構えてるもんだ。
むしろ女性一人で迷い込んで無事だったことの方が驚きだ。戦力差を考慮に入れても年少パーティが善良なのはもう保証されているとは思う。
「あー、スリとかの軽犯罪ならともかく、ヤバい組織とかは心配しなくていいと思うぞ。ハーレム先輩達、高レベルプレイヤーが集まって掃除してるからな」
「そういや聞いたな」
「もしかして、お前らも搾取されてた被害者だったりする?」
「よく知ってるな。年長組みはずっとネズミの巣穴に潜ってたよ」
「でも、自由になれたんだろ? 治癒草くらい大ネズミを退治してたら買えるだろ」
「俺らが何人いると思ってんだよ。毎日の食事代でギリギリだよ。もっと年長のメンバーは巻き込まれて死んだしな」
「そっか」
「犯罪組織の検挙とか撲滅とか、そりゃ民間の犠牲者も出るよな」
「あのままだったら搾取されて普通に死んでただろうし、まだマシさ。兄ちゃん達も感謝してると思う」
「ダリス兄ちゃんとか喧嘩っ早かったしな。チャンスだと逆襲したんだろうなぁ」
「大人しくしてれば良かったのにな。プロの冒険者に民間人が敵うわけねえのに」
笑って受け流せるくらいにこの世界は死が身近だ。
冒険者をやるならパーティメンバーが死ぬことなんてありふれたことなのだろう。慣れたくはないな。
「それで明里は何でこいつらと一緒にいんの? スリで財布を盗まれそうになった時にはもう一人だったんでしょ?」
「おい、竹林。なんでアタシのこと呼び捨てなのよ。せめてさんを付けろ」
「明里ちゃん、それで何でボッチなの?」
「マジで死ね」
波長が合うのか竹林がずっと明里に話しかけ続けている。ナンパしてるようにしか見えないが、女子に率先して話しかけてくれて実は助かっている。
向こうが小野へ苦情を言っていた時や俺がストリートチルドレンの話をしてた時とか、周りの仲裁がなかったら軽い喧嘩になっていた気がするんだよな。
直情的な性格に見えるし、俺とは相性が悪いような気がする。元々、コミュ障で女子と話慣れていないし会話は他の奴に任せよう。
「本命がいたのよ」
「ん?」
「早間先輩に会いに現実から本命の娘がやって来たの」
ハーレムなんて序列が出来て当然だとは思うが、周りから見て一目瞭然に特別な相手がいるっていうのは意外だな。
少なくとも悟らせないように配慮すると思ってた。
「アタシ達は元から先輩のハーレムメンバーから誘われてダンストにやって来たり、冒険者ギルドで紹介されて一時的に身を寄せてただけだからさ。まだハーレムは許容できたのよ」
なるほど。キャバクラというよりファンクラブの集まりみたいな集団だったのか。
暴漢から身を守る為の自衛も含めた初心者支援活動団体ってとこが本質なのかもな。
「でも、あれはない。本命の娘と見つめ合って切なそうにしたりとかさ。ハーレムの一員ですらない、ただの仕事仲間だって言うのよ? 事情があるのかもしれないけどアタシ達が馬鹿みたいじゃない」
ハーレムメンバーの古参の先輩とかさ、本当に苦しそうな顔をしてた。
苦虫を噛み潰したような顔で明里はそう締めくくった。
これはショックだったのは失恋だけが原因ってわけじゃないな。女子達の間でも妙な絆めいたものが出来上がってて、その大前提となっていたものが揺らいだ動揺もあるのかも。
「本気で惚れてた娘とかログアウトしちゃったりとかしてさ。アタシもなんかムシャクシャして外に飛び出して」
それでスリをされかけてストリートチルドレンに出会ったのか。
「小野の事情を聞いた時はボロクソに言ったけどね、アタシもリアルで弟がいるんだ。こいつらくらいの。ちょうどホームシックになっててさ、気付いたら一緒に行動してた」
それでストリートチルドレンのアジトで寝起きをしてるのか。いま、俺らが向かってる目的地。
狩場を荒らした償いとして一部の突撃イノシシの肉を譲ることになったんだが、ハーレムパーティに事情説明するのにも居場所を知る必要はあるってことになって荷物持ちついでに一緒に帰っている。
ガキ共の方は相当警戒してたけどな。まあ、俺らが乱暴狼藉をしようものなら先輩にボコられるだろうし心配するな。もう全部の事情は知ってて様子見してる段階だと思うんだ。
「先輩はともかく他の女子は現状を知ってんのか?」
「たぶんログアウトしたと思われてるんだと思う。あれから会ってないし」
「何でだよ。先輩に会いたくなくても他の奴らに悪感情はないんだろ。素直に助けを求めればいいのに」
「中島が言ってたっしょ。別にアタシらは強くもなきゃ裕福でもないんだっつの。通常の店売り最強装備を買った以上、これからはコネがないと吹っ掛けられるし金は幾らあっても足りない」
確かに、浮遊盾の2万ゴールドは高いよな。浮くといっても防御力は5千ゴールドの鋼鉄の盾と変わらないし、希少性で値段を吊り上げられてるのか。
1万ゴールド以内が店売り装備の性能限界で以後はコネがないと入手するのも一苦労だ。手間賃が武器の値段に反映されるし、名工品はオークションで競り落とす必要すらあるだろう。
これは秘伝書も同じなんだよな。三万ゴールドの気功特技以上の高性能特技はいきなり十万ゴールドに値段が跳ね上がる。入手もし辛い。
魔法職のデバフ系呪文書こそ1万ゴールドと安く売ってるが、こっちは知識パラメーターが40はいるからなぁ。魔法班は最近やっと35を超えたと聞いたばかりだし厳しいだろう。
先に職業熟練度を上げて戦力向上を目指すしかないんだよな。それに手頃な相手がゴブリン戦線なわけで。初級冒険者、プロと呼ばれるのは金だけじゃ辿り着けない領域に行ったという意味もあるし。
「ダンストは只でさえ女は不利なのに危険なスラム街に来てくれなんて言えるわけないでしょ」
「そんなこと言ってる場合か? 魔力操作の情報を拡散しちゃったんだろ。変な奴が金と更なる情報を求めて擦り寄って来るぞ」
さすがに我慢できずに口を出してしまった。さっきから気力感知に反応があるんだが、物陰からこっちの様子を見てる人間が何人かいるんだよな。
「アンタ、さっきはずっと助けを求めるなとか肩入れするなとか言っといて……」
「スラム街を根本的にどうにかするのは現実的じゃないって言ってたんだ」
俺達の手には余る。いや、ハーレム先輩でも難しい次元の問題なのかもしれない。
高レベルプレイヤーが複数人でも根絶できない犯罪組織がある。前に話題に出た時は同じ高レベルプレイヤーがいるんだろうという結論になったがそうとは限らない。
上位プレイヤーを除き、一般のプレイヤーならば高レベルプレイヤーは最高峰の存在だ。この世界だけではなく複数のゲーム世界のシステム能力を持ち規格外のステータスと世界に存在すらしないアイテムを持つ。
だからプレイヤーに限定するなら最強格と言ってもいいだろう。でも、だから現地の存在が勝てないかというとまた話が違う。
プレイヤーは長くてもせいぜいが五十年そこらしか鍛える時間はなかった。超常チェーンメールが出回り始めたのがゲーム内時間でそれくらいだからな。少なくとも知っている限りはそうだ。
でもトーラス王国は少なくとも3千年は続いている。神王トーラスの年齢がそれくらいだって話だからな。この世界がゲームを元に作られたってんなら辻褄が合わないけれど。平行世界論が根強い理由にもなっている。
レベル制の世界で3千年間もの間、一つの国でトップに立ち続ける存在のレベルなんて想像も出来ない。少なくとも敬意を持って高レベルプレイヤーが話に出すくらいには規格外な存在だ。
更に言うと惑星の生まれた時間を考えると地球だって46億年は過ぎてるんだ。このダンストの惑星がどれくらい時間が過ぎてるか知らないが神話にだってトーラス神では勝目のないドラゴンなんて存在が出てきている。
人間の領域は狭く秘境では上級ダンジョンを超えて意思を持った神々が眷属を生み出し続けているという。トーラス神の結界に遮られて辛うじて生きているのが人類なのだ。
魔族のダンジョン核が神ではなく王と呼称されるのもトーラス神の結界に守られてるからだ。この結界が意思を持ったダンジョン核のダンジョン領域に当たる。
フィールドに高レベルのモンスターが少ない理由でもあるのかもな。本能的に自分達の住処じゃないとわかるんだろう。
魔王がダンジョン領域を広げて勢力を成長させるには人間の領域を侵食するしかない。こんな風に後からダンジョン内にダンジョン核が生まれることも意思を持つこともある。
生まれ故郷ともいえる格上ダンジョンの領域を自分の領域で上書きするには既存の生物を滅ぼすか隷属させる必要があって、自分の生み出した生物に戦争を吹っ掛けさせたりする。これをダンジョン核の下克上と呼ぶ。
トーラス王国と魔族の国が争った理由だな。ダンスト本編では人間と魔族は長年の交流で和解して、外の脅威に共に立ち向かおうという協定があったりした。
それにも関わらず最初の主人公が魔王を滅ぼしたから人間の神が追い詰められていったんだがな。最新作の予告情報では神が亡くなり、とうとう外の脅威が姿を現すってところで現実にゲーム世界が出現した。
諸々の余波でダンスト最新作も開発中止に追い込まれ外の脅威は設定上の存在でしかなくなった。
それでもレベル上限があったからな。魔王や神が倒れたように外のダンジョン核だろうと一定の強さしか持たなかったはず。打倒は可能だったろう。
だが、リアルにレベル上限なんて都合の良いものはない。寿命のない存在は何処までもレベルアップし続ける。
知性のないモンスターが溢れ出して人間や魔族が根絶した修羅界だって、テロで複数の高レベルダンジョンからモンスターが溢れ出したくらいじゃ滅びやしなかった。
問題だったのは溢れたモンスターのせいで人間の総数が減って結界が弱まったことだ。隠密の効果が消えた結界なんて役には立たない。
次々とやってくる外敵に神が滅ぼされてからは立て直すことなんて不可能だった。今じゃ高レベルプレイヤーの一部と上位プレイヤーの遊び場のようなもんだ。
こんな風に上を見ればキリがないが、結界内の普通の人間だって甘く見てはいけない。プレイヤーに上位プレイヤーなんて規格外が生まれるように現地人だって英雄はいる。
中には寿命を克服して魔法を極めようとするような奴もいるし、極まった肉体が時間経過による老いを克服したような奴だっている。
有名な犯罪結社にもこういう存在が稀にいるのだ。そりゃハーレム先輩だって守りを優先しても仕方ない話だ。
「お前が助けたいのは見知らぬそこらへんの浮浪者か? 違うだろ。だったら助けたい奴だけ連れて、とっとスラム街から逃げろ。食い物にされる前に」
これまで無事だったのは強力なプレイヤーが集まって周辺の犯罪組織を叩き潰した影響だと思う。でもそろそろ縄張り争いでこれまで以上の混乱が巻き起こるんじゃないかな。
ハーレム先輩が恐喝するような冒険者を見逃していたのは秩序だった理不尽は混沌とした騒乱よりも死者が少ないからだ。
現実のテロリストが横行する地域を見ろ。恐怖政治だろうと強力な指導者がいるのといないのとじゃ全然、違うだろ。
「まあ、確かに。明里ちゃんって社会を良くしたいとか思って政治活動とか宗教活動をしてるわけでもないんじゃないの?」
「そりゃま、そうだけど」
「だったら先輩に甘えちゃいなよ。精神的な苦痛を受けたんだ。正当な慰謝料だって」
竹林の援護射撃に明里は考え込む。ストリートチルドレンの年長組みは思わぬ展開に動揺しているが明里に任せることにしたのか静かだ。
「こいつらって犯罪組織の末端に搾取されてたんだろ? 牧場草原の被害者クランに加入できるかもしれないな。あそこは別にプレイヤー限定だってわけじゃない」
「小野。アタシ、アンタに酷いこと言ったのに」
「俺らも付け回したりとか色々とやったしな。お相子だろ。それに俺が話を通すと拗れるかもしれないから期待はしないでくれ」
「うん。でも、ありがとう……」
思わぬ優しい言葉に涙ぐんでいる明里。前に会った時と印象が全く違うな。
ストリートチルドレンの年長組も特に異論はないようで明里を気遣いはすれど不服そうにしてる奴はいない。
まだ会って一週間も経っていないと聞いたんだが、懐きすぎじゃないか?
確かに魔力操作なんて希少技能を教えて貰った上に冒険に必要な各種知識を教導してもらってるんだから恩に着るのはわかるんだが。
そんなちょっとした疑問はストリートチルドレンのアジトに寄って氷解した。
年少の子供がとにかく多い。小学生低学年から幼稚園に通ってそうな年齢の子供が年長組の倍近くいる。
親が死んで行く当てのなくなった子供や育てきれないとスラム街に子供を捨てていく大人が後を絶たないのか。
「ん? またちょっと人数が増えてるな。ラナ、他所から遊びにでも来てるのか?」
「そんなわけないじゃない。生活が苦しくてこっちに置き去りにして逃げたのよ。様子見に人をやっても、もぬけの殻だったわ」
「またか。俺らがそんなに裕福にでも見えるのかよ」
「毎日、ご飯を食べられてるからね。実際、裕福なのよ」
年長組みがアジトに残ってた留守番だろう中学生くらいの女の子と笑い合っている。
男手は全部、ダンジョン探索に回していたのか。スラム街という割に力のない女子供だけで留守番をさせるくらいには治安は高いな。単に余裕がなくて不用心になってるだけかもしれないが。
「明里ちゃん、早目に相談した方がいいってこれ。このままだと雪ダルマ式に扶養人数が増えてくよ?」
「アタシもそう思う……」
うん。後の事はハーレム先輩の家に連れて行って丸投げしよう。初心者プレイヤーの支援の内だってゴリ押しするんだ。
自分のハーレム管理に失敗してこんな事態になったんだ。文句は言っても最終的には許容せざるを得ないだろ。




