第三十二話 マネー・イコール・パワー
生首畑に行って死にかけてから首狩り兎の理不尽なまでの強さを考えてみた。
まずステータスは器用特化の一角兎の時代から素早さのみを成長させてきた盗賊ビルドだ。韋駄天に当たる特技も習得している。
これは逃走を続けた一角兎が長生きをすることで攻撃に脱兎の特技を用いるようになったという設定からも明確だ。
もともとウルフの襲撃を逃れられるほど素早さを上げられる脱兎の特技を高パラメーターの素早さで発動すればどうなるかという話か。
俺の素早さはまだ14だ。反応速度はダッシュの恩恵を受けられないから攻撃が見えもしないのはまあ理解できる。
ただ防御力90をあれほど簡単に突破されたのは不可解だ。ダメージを受けるくらいならともかく、二人分の防御力を突破して致命傷を与えるとか200以上の素早さになるぞ。
それは少なくとも高橋が反応できる素早さじゃないから、ないはずだ。
「おそらく脱兎とはまた別の特技による仕様だと思う」
宿の朝食で高橋に何か気付いたことはないかと尋ねてみた。
他の連中も興味深そうに耳を傾けている。
「ウルフが気力操作で防御力を無視してくるように、気を纏わない防具は意味をなさないってことかと」
「なるほど防御貫通か。魔法がそうなんだから特技に似た性質のものがあっても不思議じゃないな」
「昨日、高橋が首狩り兎を避けられないのに平気そうだったのは気力操作で防げると考えてたからか?」
「そうなるかな。全体が光る脱兎特技の使用後も、耳だけは光り続けていたから何かあるとは考えてた」
「微妙に不安になるニュアンスなんだが……」
俺の体力パラメーターは26。二人分の防御を抜いて致命傷を与えられた理由としては十分な説得力だ。
そうなると、今後はあの素早さを気力操作で防御する必要があるってことになるわけだが。無理じゃね?
見えもしない攻撃にクロスカウンターを決めろと言うようなもんだ。
「気功特技にマジックバリアの特技を習得するのが現実的な選択肢だよなぁ」
「ウルフの隠密攻撃も毎回、防げていたわけじゃないからな。どっちにしろ必要だろ」
「3万ゴールドか。とりあえず生首畑はしばらく行かないってことでいいよな?」
「異議なし」
「装備もギリギリ20人分用意できそうだしな」
「首狩り兎のレアアイテムとかあったら高橋に回してやってくれ。今回の功労者な上にビルド的に重要装備になるだろ」
「おう、わかった」
「え。いいのか?」
「あそこまで無理したの、首狩り兎が同じような戦闘スタイルだったからだろ。遠慮すんな」
「ありがとう。兎の素材に執着してたのってそういう理由だったのか。確かにそうだな」
「マジで、お前さ。話してて不安になってくるんだが大丈夫だよな?」
「何が?」
昨日から不安定だった精神が落ち着いていくのがわかる。
初級ダンジョンに即死トラップが仕掛けられることはあれど、手も出ない程に強力なモンスターが出現するわけじゃないってのは朗報だな。
金を稼いで装備に特技を揃えていけば大抵の障害は力技で乗り越えられるのがダンストのいいところだ。
下手に才能が物を言うゲーム世界だと途中で詰む可能性があるからな。金がないのが悪いと言い切ってくるダンストはある意味、公平だ。
まあ、レベルと職業熟練度があるから金さえあれば大丈夫ってわけでもないんだが。
マネーパワーこそが至高のゴールドキングダムってゲーム世界もあるけど、あれはあれで現実世界の資金に左右されすぎる不平等な世界だしな。
超常チェーンメールで前もって現実のお金を課金できる制度とかどう実現してるんだ。
資金力の差が実力の差を大きく覆すからゲーム世界の元ネタになるガードゲームとかほぼ機能していない。
カードは使い捨てに過ぎないから別のゲーム世界で無双できるとは限らないが、魔法・モンスター・トラップ・アイテム・配下・土地と何でもありなゲーム世界だ。
資本家に力が偏りすぎて現実の社会問題の一つとされているが、このゲーム世界のおかげで辛うじて社会秩序が維持されてるとも言われている。
ヴィランが力尽くで欲望を叶えようとしても資金力の差で国家に抹殺されるからな。潜伏するヴィランを警察が捜査してヒーローが対処するという現状になる。
でも貧富の差による国力差はますます広がるだろうな。超常チェーンメールが広がって半年に過ぎないから戦争に活用されていないが、カードが戦場に登場するのも時間の問題だろう。
ただでさえ現実の神話群に出てくる神々が登場するゲーム世界の影響で国家バランスが崩壊しているのに、経済による物理的な影響まで出てくるんだ。
第三次世界大戦が勃発しても不思議じゃない。核による抑止力が以前ほどの影響力がなくなった今、何処の国も密かに力を蓄えているだろう。
上位プレイヤーが戦争に参戦すると途端に先行きが見えなくなるから、簡単に戦争に踏み切ることも出来ないとは思うが。
実際、何処までの事が可能で、どれくらいの人数がいるんだろうか。事件概要から異名がついた上位プレイヤーだけじゃなく、完全潜伏してるのもいるだろうし。
それにプレイヤー組織はヴィランもヒーローもゲーム世界に数多く結成されている。こちらは宣伝を行うこともあるが、十年が一月弱に圧縮される影響で頻繁に生まれては消えていく。
現実からプレイヤー達の戦力を推し量るのは不可能だろう。
「それで次は初級ダンジョンの高速鳥停に行くってことでいいんだよな?」
「おう。魔力操作を忘れんなよ。魔法も防御貫通なのは同じだ」
「首狩り兎よりマシだろ。銃弾みたいに早いっつっても弾がデカくて距離が離れてるから十分に対処できる」
「飛行モンスターも初めて戦うんだから要注意な」
食事を終えたパーティメンバーが次々とダンジョン探索準備に部屋へ引き上げていく。
そうだな。初心者冒険者の立場に過ぎない自分が地球の未来を憂いたところで何が出来るでもなし。今は目の前の事だけを考えるとしよう。




