第三十一話 生首畑
生首畑は一見、普通の草原地帯にしか見えなかった。
出現する一角兎も初心者エリア、黄昏兎の草原との違いはなく薬草がちょっと多めに生えてるという程度の感想だ。
念のために遠距離から魔法で倒していっているが、今のところ危険だと思ったことはない。
倒した中に首狩り兎が混じっているなら大稼ぎだが一角兎しかいないなら効率が悪いなというのが正直なところだ。
「これってどうなの? 魔法が強すぎて首狩り兎が雑魚にしか見えてないだけ?」
「外見は一角兎と全く変わらないから判別できねえな」
「黒焦げになった奴とか、ちゃんと売れるんだろうか」
「それは俺らの食糧にしようか」
「鑑定でモンスター素材は判別できるらしいから冒険者ギルドで確認するしかないな」
「そういえば生産職だと鑑定特技を習得できるんだっけ。佐渡、何かわかるか?」
「いや、鑑定は高いから。10万ゴールドもするから手が出ない」
「ダンストにも鑑定があるってこっちに来てから知ったな。現実でも有用なシステム能力だよな」
「そうでもないぞ。鑑定はゲーム世界内のアイテム情報を入手するもんだからデータ設定がない現実世界の物品は鑑定できない」
「最初に作ってもらった大ネズミ製アイテムとか防具判定がされなかったけど、あれも鑑定じゃ何もわからないのか?」
「素材はダンスト世界の物だから鑑定できる。別のゲーム世界由来とか現実の物品とかがダンスト世界に来てたら無理」
「ん? 別のゲーム世界のアイテム情報が入手できないのはおかしくないか? データ設定ならあるはずだぞ」
「別のゲーム世界由来のアイテムは別のゲーム世界由来の鑑定が必要。鑑定がない場合はゲーム世界に訪れるだけで鑑定できるようになる場合と無理な場合でフィフティーフィフティー」
「面倒くせえ。え、何で鑑定だけそんなに厳しいんだ?」
「アイテム情報を入手ってつまりその世界のアカシックレコードに接続してるんじゃないか。見ただけで詳細がわかるとか普通はおかしいからな」
「そんなこと言ってたらステータスウィンドウとかどうなるんだよ。有り得ない筆頭だろ」
「ゲームシステムを取り込むとか一種の人体実験だからな。別の世界の法則で現実の身体を書き換えるとか何時バグが起こっても不思議じゃない」
「はい、そこまで。深く考えると発狂する話題は避けるように」
「まあそこに抵抗がある奴はそもそもゲーム世界に訪れないしな」
バグか。複数のゲームシステムを取り込んだって理由でおかしくなったという話は聞かないな。
いやでも、ダンストで疲労感を感じ取れなくなったのも悪影響に分類できるか。ゲーム世界に来て鍛えることもなくログアウトしたプレイヤーの愚痴ならよく耳にする。
ゲームシステムによくあるHPとかなくなると死ぬもんな。大怪我もしてないのに死ぬ危険性があるとか、よく考えたら異常だ。
複数のステータスを持っているとHPも複数になるから、どれかのゲームシステムでHPがゼロになっても平気だって話だが。
やはりゲームシステムは複数を取り込むことで相互作用する部分があるな。ここが正常に作用してないと一つのゲームシステムでHPゼロになった途端に死んだりしそうだ。
基本的に長所を寄せ集めるようにシステム能力は現実では作用してるけど、ゲーム世界内だと短所だろうとその世界のゲームシステムが優先される傾向にあるから気を付けないと。
「お、まだそこの兎、動いて」
近くにファイアーボールの余波で火傷を負った兎が見えた。他の兎が盾になって生き残ったらしい。
影になって見えなかったが緑の光を纏っている。地面の雑草がカモフラージュの役目も果たしていたのか。
猛烈に嫌な予感がして咄嗟にダッシュで突撃イノシシの鉄骨盾を前にいたプレイヤーの前に差し出した。
それで結論を言えば間に合ったが、それでも足りなかった。
「ギィガァッ」
聞いたこともない声を出して前に居たプレイヤーがうずくまる。首が半分以上、千切れかけている。
驚きで硬直してる間にこちらにも灼熱の痛みが襲い掛かった。左腕が切り飛ばされていたのだ。
地面に落下した突撃イノシシの頑丈な骨とあれほど苦戦したアイアンゴーレムの鉄で構成された盾が綺麗に二つに割れた。
信じられない思いで盾に目をやると途中に兎の赤い瞳が見えた。既に緑の光を纏ってる。
あ。俺、死んだ。
走馬灯を見る暇すらなくログアウトを試す思考すら浮かばず、ただそれだけが理解できた。
「ショット!!」
高橋の声と飛んできたダガーが止まっていた世界を動かした。
緑の気を纏っていた首狩り兎は身体に突き刺さったダガーにロクな抵抗も出来ずに弱弱しい鳴き声を上げたかと思うとあっさりと力尽きた。
「うわわっ。ぽ、ポーションを早く!」
「それより他に首狩り兎は生き残ってないか! 次は死人が出るぞ!」
「魔法班。素材が傷ついてもいい。ウィンドボールで周囲の亡骸を蹴散らせ!」
「マジかよ。攻撃が見えなかったぞ」
「文字通り即死攻撃だってアレ」
「俺はダッシュで来る方向さえわかれば避けられる。素材回収に行くから離れててくれ」
「いや、それは嘘だろ。動きが見えるだけで避けられないだろ。そこまで素早さは離れてない」
「……もう生首畑には来ないだろ。今のうちに首狩り兎の素材が出来るだけ欲しい」
「わかった。魔法班、アロー系の準備。光が見えたら撃てるようにしてくれ」
「マジか。マジで行くのか」
「おい、複数の指示を出すな。落ち着け」
「ボール系は撃たなくていい。近くにいたらブレイクで吹き飛ばす!」
「お、おう。戦闘班、了解!」
「魔法班、了解」
さすがに死にかけたショックでそれ以後は後方で見てることしか出来なかった。
素材を回収次第、初級ダンジョン生首畑から帰ったが、冒険者ギルドで鑑定結果を聞いて鳥肌が立った。
討伐した兎は53匹。うち21匹が首狩り兎だった。
慣れれば稼ぎは凄そうだが、正直な話、俺はもう二度と兎は見たくない。




