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デスゲームが最近のブームな件  作者: 八虚空
ファーストログイン『Dungeon History』
31/66

第三十話 影狼森林

 結界の魔道具を手に入れたことで生産班の安全が飛躍的に高まった。残念ながら結界の中から外への攻撃は不可能だったから防御陣地としてしか利用できないみたいだが。

 でもおかげで、これまでは不意打ちで殺されるかもしれないと避けていたゴーレム工場以外の初級ダンジョンも探索可能になった。

 最悪ゴブリン戦線に他のパーティと共同で挑むことになるんじゃないかと考えていただけに助かった。

 現地人の冒険者は小野の話を聞いてもわかるように油断がならないし、牧場草原の被害者クランと組むには色々と因縁がある。

 ハーレムパーティと組むには強さに差がありすぎて寄生にしかならない。そもそも先輩がいないと探索にも出ないしな。

 初級ダンジョンは初心者ダンジョンから一つ増えてソルト近郊に五つ設置してある。新しい狩場候補は三つ。

 一つ目が初心者エリアにも出現したウルフ系のモンスターが出現する初級ダンジョン、影狼森林。

 モンスターの報酬額はウルフ500ゴールド、ウルフリーダー800ゴールド、シャドウウルフ1500ゴールド、ビッグウルフ2700ゴールドだ。

 盗賊プレイヤーの高橋なら平気だろうが、俺だと隠密に特化したシャドウウルフどころかウルフリーダーに器用パラメーターで負けて見つけられないかもしれない。

 さすがにウルフなら発見できることは確認できている。まあ、防御力も高くなってきたし気力操作をミスらなければ不意打ちされても生きてるだろう。

 ここの問題はボスモンスターのビッグウルフがダンジョン内なら何処でも出現することだ。ゴーレムみたいに待ち構えてはくれない。

 ああ、群れのボスって意味でガーディアンではない。逆に群れに一匹しかいないから倒せるようになれば美味しいかな。

 二つ目が兎系のモンスターが出現する初級ダンジョン、生首畑だ。もう名前からして行きたくない。

 モンスターの報酬額は一角兎100ゴールド、首狩り兎2000ゴールド。

 ここじゃあ二種類のモンスターしか出てこない。でも見た目が全く同じだから見分けることは難しいのだとか。

 首狩り兎は盗賊職のモンスター版と考えれば概ね間違いない。チャージで一撃の威力を高めた後、脱兎の攻撃バージョンで首をはねに来る。

 雑魚の一角兎を楽に狩って油断してるところを首狩り兎にやられるというのが初心者冒険者のよくある死因なんだとか。

 三つ目が飛行モンスターが出現する初級ダンジョン、高速鳥停だ。

 モンスターの報酬額は隼300ゴールド、鷹500ゴールド。ハーピー2200ゴールド。

 岩石地帯の四方八方から飛行モンスターがヒットアンドアウェイで攻撃してきて、混乱したところにハーピーが遠距離から攻撃魔法をぶつけてくるとか。

 普通の初心者冒険者パーティなら魔法に当たるがイコールで死亡になるから危険かもしれないけど、魔力操作を覚えてる俺達なら楽に探索できるかもしれない。

 ゴーレム工場を探索してた時から候補に上がっていたが、生産班が魔力操作を使えないことから見送られてた。飛行モンスターに有効な攻撃手段もなかったし。

 今なら化物ヒツジの投げ網スラッシュで捕獲可能だ。あとは高橋のショットか。魔法は飛行されると照準が難しいという話だ。

 盗賊ほどの器用さが魔法職にはないからな。仕方ない。


「装備の素材集めも兼ねて一応は全部のダンジョンを回ろうぜ」

「生首畑もか? 即死系は危険じゃないかな」

「あれって盗賊の韋駄天特技のように素早さで攻撃力の水増しをしてるだけだろ。今の防御力で即死はさすがにしないんじゃないか」

「そもそもダッシュで攻撃を避ければいい話だぞ」

「いや、かもしれないで油断はしないでおこう。魔法で遠距離から片付ければいい」

「そういや生首畑は現地人の射手職が狩りによく行くって聞いたな」

「特殊派生職の弓使いか。盗賊の器用バージョン」

「武器の威力が飛躍的に向上するバーストとか覚えられるんだっけ。俺らのメンバーにはいないけど」

「遠距離戦闘で一定のレベル上昇をしなきゃいけなかったからな」

「あれ、高橋って条件を満たしてないか?」

「職業選択には出てきた」

「基本三職の盗賊じゃなくて、そっちを選べば良かったのに」

「射手職は武器を犠牲に活躍するから金がかかる。バーストを使わないならダッシュの補正が期待できる盗賊の方がいい」

「確かにな。もしかして次の職業に射手職を狙ってるのか」

「テロリストみたいなビルドだな」

「というか、ゴブリン戦線ってバーストで遠距離から絨毯爆撃されるのか。よく探索できるな」

「ゴブリンアーチャー対策にあの浮遊盾を買ったのかな。30くらいの防御力じゃ破壊されそうだけど」

「ああ。ちょっと話を聞いた感じだと浮遊盾を媒介に遠距離ブレイクを出来るんだとか。バーストを遠距離で爆発させて被害をゼロにしてるらしい」

「何それ、つっよ。じゃあ魔法はどうやって防いでるんだ?」

「普通に気功とマジックバリア。威力はバーストより低いから平気なんだとか。ああ、装備は魔法適応じゃないと破壊されやすいって聞くぞ」

「やっぱ魔法って火力が低いよな……」

「装備による威力上昇が渋いんだよな。知識パラメーターを上げて難しい呪文を習得するとまた威力が逆転するんだが」

「高威力の攻撃呪文よりデバフ呪文の方が先に覚えられるだろ。そっちを先に習得して戦場をコントロールしてくれ」

「僧侶職のバフ呪文と回復呪文も欲しい」

「ダンストの僧侶ってガチの宗教じゃん。パーティに入れたくない」

「でも体力回復ポーションじゃ高レベル帯になってくるとHP回復が追い付かないぞ」

「そんな先のことは後で考えよう。今は一回の使用でほぼ全快だ」


 特殊派生職っていうのはゲーム時代のダンストじゃ最初には選択できない職業のことだ。

 戦士・盗賊・魔法使い。レベル10に至ると自動で職業選択画面に出てくるこの三つの職業を基本三職と呼ぶ。

 現実になったダンスト世界だと基本三職といえど前提となる技能を二つは所持していないと職業選択画面には出てこないので特殊派生職との違いなんてない。

 習得できる特技や補正のつく技能でのみ選んだ高橋はよく考えている。珍しい職業だから強いとは限らない。

 金食い虫の射手。宗教に入信することが必須な僧侶。現地人から狂人として扱われる狂戦士。

 どれもサブ職に入れるならともかくメインで行こうとすると覚悟が問われる。

 まあ、隠密を駆使するウルフが主軸の影狼森林を探索しようとしてる今だけは射手職の方にいて欲しい気持ちもあるが。

 盗賊も察知技能に補正は入るんだが、射手職ほどではない。逆に射手職も盗賊ほど隠密技能に補正は入らない。


「森だ。初級ダンジョン、影狼森林で合ってるよな?」

「間違いない。看板がある」

「あー、ゴーレム工場とは別種の不安があるな」

「見えない敵と戦うようなもんだしな」

「中島は最初に出てきたウルフはどうやって見つけたんだ?」

「唸り声は聞こえたが、攻撃を受けて初めて気づいたぞ。薬草を最初から口に放り込んどけ」

「ダメージを受ける覚悟を最初から決めとこう。見つけることに気を取られて気力操作をミスる方が怖い」

「男探知か。冒険者を始めてから痛みに耐性が出来た気がするな」

「それレベルアップで精神パラメーターが上がってるだけだぞ。現実で耐えられると思わない方がいい」

「ステータスは持ち越しじゃん」

「レベルのあるゲームシステムはナーフされやすいからな」

「それ以前に現実で戦うなよ……」


 そもそも今を生き残らないと後の話なんて無意味になる。

 まだ昼間なのに背の高い樹木が生い茂っていて影狼森林は薄暗い。隠密技能と体毛の黒さが視覚でウルフを認識することを阻んでくる。

 幻影庭園とは真逆だな。あそこでは無音の中、白い霧と狐の体毛を必死で目で追った。深すぎる静けさに耳鳴りがして幻聴が聞こえてくるような気がしたほどだった。

 幻覚狐は隠密技能を持っていなかったから察知技能が強烈な違和感として仕事をしてくれたから見逃すことはなかったが、思い返すと寒気がするな。

 ウルフも無音で移動は出来ないから低レベル帯のモンスターだと完全隠密は無理なようにバランスを取っているのかもしれない。

 おそらくはダンジョン災害で格上のモンスターが出てくるようになると隠密技能を持った格上のモンスターが幻影庭園にも現れるんだろう。


「ん、あそこに蜜林檎があるぞ。ここに結界を作って陣地にしよう。せっかくなら採取したい」

「森だとこういう副収入があるからいいよな」

「売却額で200ゴールドくらいするよな。何か有用な効能があるんじゃないか」

「単体だと何の効果もないはずだが、モンスター肉の実例があるからな。錬金術の素材か、調理によるステータスアップ食品に化けるとか?」

「試しにウルフ肉と一緒に食ってみようぜ」

「焼き林檎にしたい」

「林檎はともかく犬肉には抵抗があるんだよな」

「ステータスアップのチャンスだぞ。モンスター肉は多少グロくても食えよ」

「そろそろ魚が恋しい。青野菜染みた薬草も肉三昧の飯も食い飽きた」

「お菓子が食いてえな」

「チョコレート、アイス、ケーキ」

「止めろテロだぞ。それは」

「マジで俺、泣きそうだ。たかが飯で何でこんなに」

「白米があるだけダンスト世界は恵まれてるんだぞ」

「休みに食いに行けばいいじゃん。高いけど、ちゃんと売ってるぞ」

「いや、一品300ゴールドは払えねえよ」

「そうか? 普段の飯やビールが安すぎるだけだと思うんだが」

「秘伝書の売買額を考えると3万円のケーキを食いに行くようなもんだぞ」

「うっわ、高」

「その計算だと俺達の日給が20万円くらいになるぞ」

「そこらに2万円の果物が生ってることになるな。テンション上がってきた」

「油断しすぎだってお前ら」


 本当だよ。もう結界の周囲はウルフに囲まれてるじゃねえか。

 まあ、最初からダンジョン入口付近に誘き寄せるつもりで動いていたんだが。


「俺にわかるのはウルフの7匹だけだな」

「そのうち2匹がウルフリーダーで、3匹のシャドウウルフが潜んでいる」

「お、ウルフリーダーまでは察知可能か。良かった」


 ひそひそと高橋と小声で言葉を交わす。職業補正があると数だけじゃなくて力量も見抜けるようになるらしい。

 方角を魔法班とも共有して戦闘準備をしておく。シャドウウルフはファイアーボールで範囲攻撃をする予定だ。

 森で火を放つのは普通なら問題視するんだろうが、それは乾燥した時期の普通の森の話だ。

 ただでさえ魔力の豊富なダンジョン産の木な上に湿気が一帯を覆っていて肌寒いほどだ。これでは火をつけようと思っても難しい。

 ちなみに樹木も持って帰ればそこそこの値段で売れるが、伐採してる間に森中のウルフが集まるから死にたくないなら狙わない方がいいということだ。


「ギャッガゥ」


 一歩、ウルフがこちら側に踏み込んできたので先制攻撃に高橋の狙撃が決まる。司令塔のウルフリーダーの胴体に風穴が空いた。

 ウルフの潜んでいる方角から動揺と殺気の気配が膨れ上がる。気力感知と魔力感知を習得してからこういう気配というものがわかるようになった。

 魔法班が予定通りに呪文を唱え始めたので壁になるように戦闘班はウルフの集団に対峙する。狼なんて今じゃそう怖くもない。


「ウォーーン!」


 ウルフリーダーが遠吠えを上げると他のウルフが一斉に襲い掛かってくる。まずいな。あれで他の群れにも侵入者が伝わったか。

 早く片付けようとダッシュの特技を駆使して間合いを詰める。ウルフ側も近づいてきているから瞬く間だ。魔力の塊と熱波が近くを通り抜けて奥へと進んでいった。

 悲鳴が聞こえたからファイアーボールは直撃したらしい。死んでいないのか、未だに姿は見えない。

 攻撃範囲にウルフが入ったから後ろ側の足を地面に打ち込んで急ブレーキをかける。ダッシュの効果はまだ残ってるからグンッと前のめりになりそうなところを前側の足で逸らしてスライドさせる。

 回転する身体に巻き込むように鋼の剣を振るうと、いともたやすくウルフは両断された。後続のウルフも切ろうと回転終わりにダッシュを発動しようとしたが、もう終わったらしい。

 目の前には切り捨てられたウルフしかいなかった。


「うし楽勝だったな」

「待った。シャドウウルフの死体が二匹しかない」

「げっ何処にいるんだ?」


 危機感に急いで周囲を見回すも気配は微塵も感じられない。


「すまん魔法を避けられたみたいだ」

「周囲にはもういない。逃げられたみたいだな」


 高橋が周囲を確認して痕跡を探すも見つけられなかったようだ。

 魔力操作を持っていないウルフだと直撃を食らえば一撃みたいだが、隠密技能で上回られているから避けられると二撃目が撃てなくなるな。

 さっきの遠吠えと合わせて次の群れが来るのも時間の問題か。


「生産班は結界内の蜜林檎の採取をしてくれ。血の匂いで誘き寄せるにはシャドウウルフがまだ不安だ」

「おう、わかった」


 この場で解体はせずにアイテムボックス内にウルフの死体を回収していく。切った際に流れた血は使い捨ての消臭アイテムで誤魔化す予定だ。

 が、先に次の群れが来る方が早かったな。俺でも迫ってくるのがわかる。


「ビッグウルフが群れの中にいる。さっきの遠吠えが原因かな」


 高橋の言葉に緊張が一気に高まる。久しぶりの同格モンスターだ。

 でもアイアンゴーレムも数にこそ圧されたが何体か討伐することは出来た。俺達の攻撃が通じないわけではないはずだ。


「いや、デカいウルフなんて見えねえぞ?」

「隠密技能だ。シャドウウルフと同じで高橋にしか発見できないんだろう」

「ガチか。魔法班、戦闘班じゃ相手に出来ない。遠距離で仕留めてくれ」

「もうアロー系を何発か撃ち込んでいる。早すぎて当てられないっ!」

「チャージショットでビッグウルフは対処する! 大まかな方向を言うからシャドウウルフに標的を切り替えてくれ!」

「ちっウルフがばらけた。戦闘班は魔法班を護衛するんだ!」


 遠距離で全てのシャドウウルフを仕留めることは出来なかったみたいでウルフとの乱戦の最中に急に牙を身体に突き立てられることになった。

 気力操作を発動できていれば防御力に阻まれて大してダメージも負わないんだが、戦闘中に常に防御に意識を割くことは難しい。

 結局は薬草を常に食べながらの泥仕合となった。


「ッシャア! ビッグウルフの捕獲成功!」

「投げ網で捕獲できてる間にボール系で仕留めてくれ!」

「おい、その距離だと巻き込まれるぞ!」

「魔力操作で防御するから早くしろ!」

「ええい。ファイアーボール!!」

「もう一発だ!」

「待て、誰かポーションを早くぶっかけてやれ!」


 魔力操作を使えないビックウルフは魔法には弱いはずなんだが、基本的にステータスが高いらしく仕留めるのはチャージショットと合わせて二発は撃ち込まないと行けなかった。

 さすがは群れのボスだけはある。

 こっちも結構なダメージを負ったこともあって今日は早めに退却することになった。

 売却すると報酬額は蜜林檎の採取と合わせても1500ゴールドくらいになるだろう。ゴーレム工場より報酬は下だけど、必要な時間を考えると影狼森林の方が稼げるのかな。

 せっかくの初めての素材は売らずに装備と食糧に回すことになった。あとは生活費とパーティ共通費を削ると500ゴールドの利益だな。

 苦戦した割に大した稼ぎじゃない気がする。まあ装備とステータスアップチャンスに化けたと考えよう。

 明日は生首畑だ。これまで以上に慎重に行かなくては。

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