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デスゲームが最近のブームな件  作者: 八虚空
ファーストログイン『Dungeon History』
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第二十六話 コミュ障あるある

 ダンストログイン50日目。薬草補充に初心者エリア黄昏兎の草原を探索したり休みを挟みつつもゴーレム工場へと向かう毎日だ。

 どうやら家の建築に使ったりするらしくマッドゴーレムとクレイゴーレムの素材を大量に持ち込んでも値崩れせずに売れ続けている。

 専門の生産職と魔力入りの資材を活用することで建築物に防御力を持たせたり特殊効果を込めたりと出来るらしい。

 そんなゲームシステムはあまり聞かないのでダンストの生産職は意外とレア職だったりするのかもしれない。

 俺達のパーティも盾を持てなくなった分、防御力を確保しようと生産班が頑張ってくれたから、その恩恵はよくわかる。


中島充希(1/8)ステータス

『Dungeon History』

・レベル13 ・職業 壱ノ戦士

HP55/55 MP25/25 攻撃66(16+50) 防御53(15+38)

筋力28 体力25 素早さ8(13-5) 器用12(9+3) 精神10 知識14

・呪文なし

・特技 スラッシュ(固30、消10)ダッシュ(固20、消1/10s)

・技能『採取』『察知』『解体』『隠密』『剣術』『護衛』

   『魔力感知』『魔力操作』『気力感知』『気力操作』

・装備『鉄のメイス(攻+50、早-5)』『滑らか毛皮のグローブ(防+5、器+3)』『化物ヒツジの鎖帷子改(防+18)』『幻覚狐の消音靴(防+5、隠密補正)』『クレイゴーレム追加装甲一式(防+10)』

・アイテムボックス(10×99)


 クレイゴーレムの硬い装甲を利用して、頭部と四肢に退魔の首飾りの代わりに防御力の高いプロテクターを取り付けた。

 他にもマッドゴーレム素材のレアドロップの粘土で、化物ヒツジの鎖帷子を補強することで防御力を高めている。そのおかげで盾がないにも関わらず防御力が上がっている。

 まあ、これは鉄のメイスが強力な攻撃力の代わりに、盾の装備枠削減どころか素早さにすら影響するから攻撃を避けられない故の苦肉の策って面もあるが。

 鋼の剣の方が同じ攻撃力で鉄の剣と同じ要領で扱えるから、そっちにしようかという話もあったんだが、ゴーレムには打撃武器の方が効くらしいという情報があったんでこのままになった。

 ゲームじゃ武器の分類による威力の変化なんて要素はなかったから、これも秘匿情報に入れてもいいかもしれない。詳しい補正の数値はわからないが。

 あと鋼の剣は破損した場合、高いしな。

 どうにか攻撃を避けられないかと金が貯まり次第、秘伝書を買いに走った。ダッシュの秘伝書だ。

 このダッシュの特技にある固定20は威力加算じゃない。これは気を使用して動きを早める、素早さ加算の数値だ。消費は10秒毎にHPが1減っていく計算になる。

 職業さえあれば、どの職業でも覚えられるダッシュ。この特技は本当なら盗賊が覚えることで本来の威力を発揮する。

 盗賊は戦士職の気功特技や魔法職のマジックバリアの特技のように防御力にステータス分の加算をする特技を習得できない。

 その代わり、盗賊だけは素早さを攻撃力に上乗せ出来る韋駄天の特技を習得できる。通常攻撃だけでなく、ちゃんと特技使用時にも加算されるのだ。

 これに練度の分だけ素早さの増すダッシュや、同じく一撃の威力を固定20上昇させるチャージが加わると手が付けられなくなる。

 盗賊職はもとから素早さと器用が高いのでHPが低い分、攻撃力と防御力が高い。短期決戦型のビルドだ。

 いかに盗賊がダッシュにより増した素早さで韋駄天で跳ね上がった威力のチャージスラッシュを戦士に打ち込むかが戦場の重要な要素になってるかといえば脅威がわかるだろう。

 ちなみに盗賊はHPが低いから発見され次第、魔法使いに殺される定めだ。近距離に近づかれた魔法使いが戦士に成すすべがないように盗賊も遠距離の魔法使いには手が出ない。

 この三すくみに陥らないように冒険者は大抵二つは職業を持つ。一つの職業に集中した方が強いのは歴然としてるんだが、小回りが利かないんだよな。

 それで実際に使用してみたダッシュは以外と不便だと最初は思った。

 使用してからの10秒間は一歩毎のスピードが明らかに上がる代わりローラースケートに乗っているように方向転換が出来ない。

 本物のローラースケートと違って効果を切って再び発動すればスムーズな動きが可能だが、切り替えをすると十秒カウントがストップするらしく新しくHPを消費し直せなければならない。

 接近戦では2,3秒間に1HPの間隔で消耗すると考えた方がいい。

 しかも切り替えに意識を持って行かれて明らかに動きが悪くなる。実戦に使うには難しい。

 と、そう思っていた。でもダッシュの使用者は自分だけじゃないからか次々と有用性が見つかった。

 まずローラースケートのように自由が利かなかったのは気力操作による調整で何とかなる。身体を動かすのと一緒に頭のイメージで動作を指示し続ければ身体はその通りに動く。

 次に十秒カウントによるHP消費だ。これも気力操作によって効果を弱めると長時間の発動が可能だし、逆に発動時間を犠牲に縮地めいた動作が可能になる。

 最後の切り替えによる動きの悪さも改善した。原因は発動→ストップ→発動と三つの工程を挟んでいたからだ。でも気力操作によって発動時間が操作できるようになるとストップする必要はなくなる。

 発動→効果切れ→発動と、こっちは発動することを意識していればいい。発動時間を短くすると動きも鋭くなるし、模擬戦ではダッシュ特技を持たない戦闘班を翻弄できた。

 逃げる際に重要なのは言うまでもないしダッシュはパーティ全員が習得予定だ。なんと生産職にすら習得できた。

 こういう基本特技は他にもまだあるかもしれない。もしかしたら知識が高ければ戦士職にも習得できる呪文なんてものもあるんだろうか。夢が広がる。

 戦力も強化できてるし、小野も心配してたような不和を起こしてはいないし上手く溶け込んでいる。

 不満なのはせいぜいレベルアップもパラメーター上昇も起こってないことくらいだ。流石に相手をするモンスターを変えただけで格下相手に短期間でレベルアップを続けるのは無理があったか。


「ガガガッガゴッガガガガガッ!」


 土塊同士が擦れて無理に稼働する音が響き渡る。クレイゴーレムはこの音で存在を主張してくれるのでマッドゴーレムと間違えることがなくてありがたい。

 周りにはマッド5クレイ1のゴーレムが包囲しようと囲んできている。ダッシュを覚える前だったらピンチだったかもしれない。

 最初は大ネズミの時と同じく戦列を作って一人にならないように戦っていたが、ダッシュで個別撃破できるようになると遊撃の方が活躍できるのでワザと突出するようになった。

 他にも何人かダッシュを覚えたプレイヤーがゴーレムの一部を本隊から切り離している。本隊は魔法で殲滅予定だが、魔法班もそれほど人数がいないので事前に削る必要があった。

 まずはマッドゴーレムを片付けるべく右足を踏み出すと同時にダッシュ特技を発動させる。効果時間を圧縮されたダッシュは数歩で二メートルは離れたマッドゴーレムに肉薄することが出来る。

 マッドゴーレムにぶつかる直前でターンして両腕に持った鉄のメイスを身体ごと回転させる。ターンする時にダッシュの効果時間が切れるように調節するとよりスムーズだ。

 気力操作で身体を動かすのは車の運転に近い。自分とは全く違う速さの物体を間接的に動かすのだから。まあ、免許を持ってないからゲーセンでのイメージだが。

 限界まで早まったメイスがマッドゴーレムに直撃する。この時の反動でHPが削られるのでダッシュ特技の2HP消費じゃ収まらないが、スラッシュを使った時よりはHPを節約できている。

 ドパッと鈍い音で泥が飛び散るとマッドゴーレムは崩れ落ちる。原型を保ってないのを一目、確認するとメイスを撃ち当てた反動を利用して次のマッドゴーレムに向かう。

 動きが鈍いゴーレムはこうなると只の的だ。最後に普通の打撃では倒せないクレイゴーレムにダッシュの加速を乗せたスラッシュを打ち込んで全てのゴーレムを倒した。


「おっし、ゴーレム三部隊目殲滅完了!」

「ホントにダッシュって有用だな。ブレイクより先に覚えれば良かった」

「いや、お前だって吹き飛ばし利用して空を飛び跳ねてるだろ」

「空中じゃ自由が利かないじゃん。一回、足を掴まれて地面に打ち付けられたぞ」

「防具の更新がなかったら危なかったかもな。こういう本来なら減衰できない攻撃も防御力がちゃんと防いでくれるからダンストは有り難い」

「他のゲーム世界に行ったら違いすぎて適応できないかもな。部位欠損が時間経過で治るとかダンストだけだからな。注意しろよ」

「俺はそれよりスタミナの項目があるゲームシステムを取り込んで疲労感を取り戻したい。疲れてるのに感じないとか未だに違和感が」

「スタミナが高くなるとそれはそれで疲労なんてしなくなるぞ」

「強くなった末に疲労しなくなるならいいんだよ。疲労してるのに自覚できないのがヤバいだけで」

「俺は動いたら息を荒くして疲れてるって身体に言い聞かせてるぞ。精神的にも疲労してるのがわかるようになってきた気がする」

「え、マジで?」

「訓練で克服可能なのか。俺もやってみようかな」

「ただの錯覚じゃないのか?」

「錯覚でもいいんだよ。そういう感覚が大事なんだから。HP低下の抑制も出来てると思う」

「それって新たな秘匿情報じゃない?」

「うーん、この程度だとな。せめて技能に昇格できれば」


 呼吸法がシステムで重要な要素になるゲームもあるよな。次は気力操作や魔力操作でマナを取り込めないか試してみるか。


「でもさ、レベルアップをマジでしなくなったよな」

「あー確かに。モンスター肉の効果もなくなった気がする」

「まだ不確定情報だけど、同じモンスターを食い続けてもステータスは向上しなくなるんだとか」

「俺はしたぞ?」

「何て言えばいいかな。何パーセントかの確率でモンスター肉はステータスを向上させる効果があって、当たっても外れても試行回数が増えるほど低確率になっていくといったイメージ」

「なるほど。高いモンスター肉があるのは、ステータス向上確率が高い肉ってことかね」

「考えてみると突撃イノシシと化物ヒツジでしかステータスアップしなかったな」

「あ、俺はイノシシで二回上がった」

「一角兎と幻覚狐でステータス上がった奴っている?」

「俺はレベルアップ以外で、未だにステータスアップをしたことがないんだけど……」

「リアルラックなさすぎ問題」

「お前ら、よくそんなステータスアップした時に食ってたモンスターとか憶えてるよな」

「自分達で狩ったモンスターばっか食うとそうなるんだよ」

「一角兎は宿で出されたのしか食ってないぞ」

「俺は幻覚狐で一回ステータスアップしたと思う。もしや鮮度が大事だとか?」

「可能性あるな」

「今後は注意するか。初めて食うモンスター肉は新鮮な内にアイテムボックスに入れよう」

「あ! アイテムボックスに収納した時に心臓だけ別換算されたのって部位毎に確率が違うとかあるんじゃない!?」

「でもアイテムボックスの仕分けって個人毎に違うじゃんか」

「あれって戦士職だけがアイテムボックスを習得してたから違いが微妙すぎてわからなかったけどさ、生産職と戦闘職だと明確に違うんだよな。知識・器用さで扱える素材が違うから分類も違ったんじゃね?」

「筋は通ってるな」

「じゃあ、モンスター肉は出来るだけ別種のを食う。新鮮なのを食う。色んな部位を食う。この三つでOK?」

「店売りだと新鮮か微妙だから、自分達で狩るまで新しいモンスター肉を食うのは控えた方がいいんじゃねえかな」

「安心しろ。そんな珍しいモンスター肉なんて高いから買えない」

「俺、一流の冒険者が高レベルモンスターを狩って、一流のシェフに調理させているって噂を聞いたことがある。単なるグルメとか金持ち自慢の話だと思ってたけど、意味があるんじゃ?」

「まさか調理師の生産職はステータスアップを意図的に引き起こせる力があるのか!」

「それか調理師によって調理されたモンスター肉は素材を普通に食ったのとは別換算でステータスアップの可能性がある?」

「事実かどうかで食にかける予算が全く違ってくるぞ」

「秘匿情報って一つでも知ることが出来たら、それまでとは全く異なる世界になるよな」

「ネットで情報拡散しろよ、マジで」

「でもお前、現実に帰ったら魔力操作とか気力操作とか書き込むか?」

「うーん迷うな」

「俺達はまだ先輩の好意で知ることが出来たけど普通は金を払うんだぜ」

「冗談じゃない。事前情報さえありゃ死人が減るってわかりきってるんだぞ」

「だから現実でも金で取引できる重大情報なんだよ」

「しかもネットに書き込まれても真実かどうか曖昧になるんだよな。気力操作は何回かネットで見た気がするぞ」

「コンピューター系の特殊能力を有するゲーム世界なんてのもあるからな。気を付けろよ。利益を損なうと判断されたら現実で因縁をつけられるかもしれん」

「ヴィランの本場って現実世界だからな」

「情報屋なんてのもいるからな。情報を拡散したいならゲーム世界に行くプレイヤーと直接対面して事前指導するのが一番いいんじゃないかな」

「一部の限られた人間しか救えないだろ、それじゃ」

「大勢を救いたいなら現実でヒーローやるか、高レベルプレイヤーになってゲーム世界でハーレム先輩の真似をするのが正解じゃね?」

「ハーレム先輩だって救う人間は選んでるからな。手当たり次第に助けるなよ。最悪、お前が助けたプレイヤーが現実でヴィランとして大災害を引き起こすぞ」

「うわ中島、性格わるっ」

「田中にはこれくらい言っとかないと何かの拍子に自滅しそうだからな」

「わからんでもない」

「ヒーローって損な立場だよな。助けた人間の悪事で責められるのか」

「さすがにそれは言い過ぎだと思うぞ。助けた人間が何をしたってヒーローに責任はないだろ」

「犯罪者が警察に捕まらないように匿ったら、そいつも共犯者だろ。何も未来永劫、助けた人間の未来を背負えって言ってるんじゃない。人を見る目を養えって言ってるんだ」

「中島、小野のこと実はまだ恨んでる?」

「小野は俺から見てもセーフだと思う。でも田中って救う人間を選り好みしないだろ」

「……嫌いだからって見捨てるような奴、ヒーローじゃねえだろ」

「誰をも救うことなんて出来ないんだぞ」

「あーあー、ここまで! ほら、次のゴーレムが来てるぞ!」

「おう。もう一踏ん張りすっぞ!」


 しくじった。言わなくてもいいことを偉そうに語ったかもしれない。

 くっそ俺、コミュ障にも程があるだろ。

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