第二十四話 スーパーマンが暴漢だという恐怖
小野の元パーティメンバーは予想通り、謝罪されても再びパーティに参加させることはなかった。
これは仕方ない。色々と引っ掻き回されただけじゃなく元リーダーなんていたら新しいリーダーが動きにくい。
現リーダーに不満を持つ不穏分子が小野を中心に結託してしまう可能性すらあるのだ。
それでも、不承不承だが、小野に応援の声をかけるくらいには思うところがあるらしかった。一部のプレイヤーは小野に支援金まで送っている。
この結果にハーレム先輩からはお礼の言葉を貰った。心配事のタネが一つ減ったと。
思えば最初からハーレム先輩は仲裁をすることはあっても小野を必要以上に責めたてるようなことはしなかった。
女性プレイヤーを付け回してストーカー紛いになっていたプレイヤーなんて普通は排除対象だ。女子に聞いたことがあるが実際に暴漢を殺したこともあるらしい。
心を読む力を持つ先輩には小野が助けを求めていることなんて、わかりきったことだったのかもしれない。
ただストーカーをされてパーティメンバーまで脱退させられた女子は辛辣だったが。
「マジでうちらに近付かないで。この家にも出入禁止だから」
謝罪に行った小野に女子は元パーティよりも厳しかった。親友の妹の件に関しても嘘じゃないかって疑っていたからな。
美里とか弥生がログアウトしたのにも関わらず大らかだったが、ほぼ関係ないはずの女子の方が色々と文句をつけてきた。
あれ、お前らって弥生とそこまで仲が良かったか? 朝練に参加してる間に話しかけていた姿を見たことがないんだが。
「ここ最近は早間先輩もこいつに掛かり切りでダンジョンに付いて来てくれないから困ってたのよ」
「ホント。危ないから外に出ることすら出来なかったつーの」
たしかにダンストで女性の人権は軽視されがちで法律的に保障されてるはずのD世界でも暴漢がよく出るのは知っている。
でも、それは夜に少人数で動くなって話で、ダンジョンに早間先輩抜きで行けないなんてことも聞いたことがない。
むしろ冒険者としてやっていくには保護者の同伴なんて何時までも続けるわけにはいかないはずなんだが。
お前らが腰に下げてる剣って1万ゴールドは超える火炎の剣だよな。攻撃力70で炎の追加攻撃がある魔法剣。
鎧も7千ゴールドの真空の鎧。防御力40に魔法適応。ゲームじゃ魔法にも防御力を持たせる効果があった。装備に備わった魔力操作のようなもんだ。
盾は2万ゴールドもする浮遊盾。防御力こそ30と低く5千ゴールドの鋼鉄の盾と変わらないが、どんなに早い攻撃だろうと自動で防いでくれる遠距離武装殺し。
しかも3万はする気功特技やマジックシールドの特技を覚えてるの知ってるんだぞ。
訓練で木の棒が当たっても痛いとも言わないじゃねーか。ゴブリン戦線でクラッシュを無防備に受けたとしても死なねえはずだろ。
「お前らってさ一月以上も先輩にお世話になってるんだよな。そんな装備を持ってるんだし……」
「ちょ中島、こっちに」
ダンジョンくらいお前らだけで行けよって言おうとしたら美里に阻止された。
どうやら禁句だったらしい。
「冒険に意欲的な娘だけじゃなくて、そうじゃない娘もいるの。早間先輩と仲良くなりたくてログアウトしてないってだけの娘も」
ハーレムパーティはハーレムパーティで色々とあるらしかった。
そもそも初級冒険者まで強くなれば初心者の頃のように何十人もの人数でダンジョン探索なんてしなくなるらしい。
気の合った数人の冒険者とダンジョンだけじゃなくてクエストを受けて遠方まで向かうようになる。そうして冒険者のプロと呼ばれるようになって初めてパーティ名を付けるのがダンストの流儀らしい。
美里も数人の女子とパーティを組んでゴブリン戦線に挑んでいるんだとか。
初心者冒険者なら圧倒できるだけの装備と特技・呪文を揃えても軍団規模で動くゴブリンは厄介なのだとか。
ハーレム先輩もゴブリン戦線を無事に探索できるようになったら、後は好きにして良いと言っているんだとか。少なくとも襲われてもログアウトする時間は稼げるようになるという判断らしい。
そこまで強くなっても時間稼ぎしか出来ないって暴漢、怖すぎない?
「只の浮浪者とか食い詰め者ならともかく、暴漢には同じ冒険者や傭兵団とかも含まれるから。ってそうじゃなくて」
デリケートな問題だから引っ掻き回すようなことはするなとクギを刺された。
まあ、他のパーティに口を出す真似は余計なお世話ってものか。小野の件は自業自得だし俺まで女子と敵対することもあるまい。
九話の会話を少し修正して、同行者設定で自分のログイン世界以外にも行けるようにしました。




