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デスゲームが最近のブームな件  作者: 八虚空
ファーストログイン『Dungeon History』
20/66

第十九話 寝取り疑惑

 詐欺騒動から五日が経過した。あれ以後は変な邪魔も入ることなく普通にダンジョン探索が出来ている。

 伊藤が習得してきた気力感知に気力操作もパーティ全員ではないにしろ浸透してきた。戦闘班は戦士タイプだからか早めに習得して全員が使えるようになっている。

 他にも魔法班と盗賊役のプレイヤーが目出度くレベル10を超え職業を得た。特に魔法班は何人か呪文書を買い、魔法が使えるようになってる。

 ただ幻覚狐は鉄の剣で切りつけた方がMP節約になるので魔法の出番は少ない。幻覚狐の収獲量は増えているが。

 生産班もあとちょっとで職業を得られそうなんだが、戦闘で経験値を増やすわけにもいかないので地道に頑張ってもらっている。

 最近の稼ぎは一日で一人1200ゴールド近くにもなる。このうち生活費200ゴールド、パーティ費用200ゴールドで、残りが貯金だ。

 パーティの共通費用は問題とならないようにしっかりと明記してある。諸経費は個人で出してる。そっちの方が計算が楽になっていい。

 200×5日×20人で2万ゴールドの予算。このうち、パーティ全員に状態異常回復ポーションを買って六千ゴールド。

 生産班や盗賊プレイヤーに魔法スクロールを十個。これで五千ゴールド。魔法班に魔力回復ポーションを十個、五千ゴールド。

 戦闘班に体力回復ポーション3つで他は1つ配って全体で40個。4千ゴールド。合計2万ゴールド。

 随分と奮発したなって思うが、全く足りない。もうスクロールは二個しか残ってないし、魔力回復ポーションもカツカツらしい。

 俺はまだ持ってるが状態異常回復ポーションも何人か使ったらしいし、余ってるのは薬草で代用できる体力回復ポーションくらいだろう。

 これも使わなくて余ってるというより緊急時の応急措置兼強敵用といった感じだ。薬草は食わなきゃいけないから即時使用って感じじゃないしな。食過ぎると吐き気がするし。

 薬草と治癒草の在庫はあるんだけどな。これもアイテムボックスの枠を削減してきて辛い。

 でも秘伝書を買うための貯金が半額溜まったのは達成感があった。1万ゴールドとか大金だと思っていたけど、よく考えたら大ネズミを退治していても三ヵ月くらいで溜まるよな。

 まあ二千ゴールドをすぐに使って貯金の大変さを実感したが。毎日、死ぬかもしれない戦いをしてる冒険者が地道に貯金するかって考えたら難しいんだろうな。

 俺達は無駄遣いをしたわけじゃないんだが、まだ酒も飲めないし。いや、ゲーム世界の法律なら飲もうと思えば飲めるのか。

 何に使ったかというとハーレム先輩に金を渡して指導してくれるように願ったのだ。一万が実は最低指導料だって聞いて知ってるけど、そこはほらね。同郷のよしみで。

 気力操作も魔力操作も教えて貰ってるし後は秘伝書を買えって言われたけど岩田が実戦稽古をしてくれって頼みこんだのだ。

 さすがリアル格闘技経験者、視点が違うぜ。そんなの絶対、職業熟練度が上がるでしょ。現地人の道場は効果があるかどうか半信半疑だったけど、高レベルプレイヤーの指導ならぜひ受けたい。

 ハーレム先輩は苦笑いだったけど指導してくれるようになった。今後2千ゴールドで指導してくれる人がいるって噂になったらすみませんね。

 スパルタじゃないが先に指導を受けていた女子にフルボッコにされて精神的に辛かったが、その価値はあった。

 なんと11に上がっていたレベルが指導で更にレベルアップしたのだ。一人での訓練だとステータスと熟練度が上がるかもしれないだけなんだが、稽古といえど対人戦を行うと経験値が貰えるらしい。

 朝の準備運動に軽く模擬戦をするだけでも効果があるらしい。木の棒に冒険者の服なら傷も薬草で簡単に治る割に、いい訓練になるからおススメだそうだ。

 秘匿情報をまた一つ知ることが出来て満足だったが、一回だけ小野達に出会った。俺達のパーティも指導を願ったのは一部だけだったから、ほぼ同数。

 険悪な空気になったが、お互いにいないものとしてすれ違って以降は見ていない。どうも魔力操作を習得して来なくなったらしい。

 これ以上、トラブルを起こすなと女子から苦情が来たが小野達に言ってくれ。君らもターゲットだったろ。

 五日間での主な出来事はこれくらいかな。


中島充希(1/8)ステータス

『Dungeon History』

・レベル12 ・職業 壱ノ戦士

HP55/55 MP25/25 攻撃47(17+30) 防御40(16+24)

筋力27 体力25 素早さ13 器用12(9+3) 精神10 知識13

・呪文なし ・特技なし

・技能『採取』『察知』『解体』『隠密』『剣術』『護衛』

   『魔力感知』『魔力操作』『気力感知』『気力操作』

・装備『鉄の剣(攻+30)』『滑らか毛皮のグローブ(防+3、器+3)』『化物ヒツジの鎖帷子(防+10)』『幻覚狐の消音靴(防+3、隠密補正)』『退魔の首飾り(魔法抵抗に補正)』『突撃イノシシの骨盾(防+8)』

・アイテムボックス(10×99)


 ステータスはレベルが10を超えたことでレベルアップ毎に2つのパラメータが成長するようになった。

 ゲームのステータスポイントって奴だ。でも知識以外全部1ポイントずつ増えて合計5ポイントだから訓練かモンスター肉の効果が出てるな。

 あとは技能が増えて装備を更新した。滑らか毛皮のグローブは生産班が現地人に教えて貰いながら専用の道具で作ってくれたものだ。材料は幻覚狐。

 退魔の首飾りは500ゴールドしかしないのに多少は魔法に抗えるって聞いて衝動買いした。すごいリーズナブルだと思う。

 消耗品とかの値段を考えたらハーレム先輩の揃えた初期装備って本当に最低限の装備なんだな。

 俺達は最初、村人と変わらない装備で頑張っていたようなものか。そりゃ狼が出たら死ぬし、ネズミ退治くらいしか出来ないわ。

 ちなみに前の装備で大ネズミの四肢カバーはアイテムボックスの武装リュックに入れたけど冒険者の服はまだ着てる。

 毎日、洗濯して使いまわすにはこれくらい廉価なのがいいし、頑丈だから冒険に出ても破れないんだよな。


・アイテムボックス(10×99)

薬草×43、治癒草×21、体力回復ポーション×2、状態異常回復ポーション×1

大ネズミの食用リュック×3、大ネズミの武装リュック×1、冒険者の服×4、大ネズミの財布×2


 アイテムボックスはモンスター素材の為に最低2枠は空けるようにしている。あとポーション系は咄嗟に使用するから直に保管する必要がある。

 冒険者の服は毎日着替えるから出しやすいように直に入れてるが、これもリュックに入れたら武装リュックに纏められるから何か荷物が増えたらそうしよう。

 こうして見ると最初に比べたら随分と成長したな。もうウルフが出ても死の覚悟をする必要はない。後手になっても素手で殴り殺せる。

 盗賊プレイヤーが職業補正のついた察知技能で見逃すこともないだろうしな。全体に体力回復ポーションが出回ったから万一の際にも安心だ。

 そろそろ初心者ダンジョンではなく、初級ダンジョンに挑戦してみるべきか。初心者エリア、黄昏兎の草原を通るから用心して偵察もしていなかったが。

 初級ダンジョンから出現モンスターが一種類ではなくRPGによくあるように複数のモンスターが出没するようになる。

 つまりそれはダンジョン災害が起こったダンジョンだということだ。この町で最も有名な初級ダンジョン、ゴブリン戦線でのモンスター内訳はこうだ。

 ゴブリン、ゴブリンファイター、ゴブリンメイジ、ゴブリンクレリック、ゴブリンアーチャー、ゴブリンアサシン、ゴブリンリーダー。

 鉄の剣と鎧を装備して、冒険者と同じように職業を持ち、統一された指揮系統で軍団規模で襲ってくる。これがゴブリン戦線だ。

 しかもレベルもバラバラ。人間の初心者冒険者の集団と戦うのと変わらないと言われている。

 ここをパーティかクランで探索できるようになって冒険者はようやく初心者から抜け出して初級、つまりプロの冒険者と認められる。

 つまり俺達が探索するのは論外というわけだ。初級ダンジョンでも最難関のダンジョンだ。

 装備が整っていないパーティが強力なパーティのおこぼれで参戦して装備を整えるというのも伝統だが、生産班がいる俺達には必要ないしな。

 他にもウルフ系統がいる隠密ダンジョンだとか首狩り兎がいる即死ダンジョンとか飛行モンスターがいる空襲ダンジョンとかあるが、俺達にはまだ無理だ。

 初級ダンジョンで俺達でも探索できそうなのは普通に物理的に強いゴーレム工場だな。

 注意しないといけないのはこいつらに魔力操作による防御貫通は通用しないということだ。特技の金剛体は人間の気功と同じ効果で防御力に体力のパラメータを足し合わせて全ての攻撃に作用する。

 生半可な攻撃では傷つけられないということだ。こっちも呪文か特技によるダメージを与えなければならない。

 ファイアーボールの呪文だと(精神+知識)÷2+(50固定ダメージ×職業熟練度)の計算式となる。消費MPは10で五回は撃てるかな。

 魔法使いの精神と知識は俺の筋力・体力のパラメータと同じぐらいのはずだから76ぐらいの威力となる。

 俺の防御力に体力のパラメータを加えると65だから、ギリギリで通るくらいか。しかも倒すには五回も撃たないといけない。

 うーん、まだ早いか? でも倒すと素材入手で装備更新が出来る……いや、生産班がレベル不足で素材そのものを扱えないかな。

 初心者ダンジョンの素材くらいなら弱体化で済むが初級ダンジョンの素材だと失敗扱いでゴミになりそうだな。ゲーム版ダンストの新人鍛冶師育成クエストで似たことがあった。

 行くとしたら魔法班のレベルアップで魔法を使える人材を増やして戦闘班が秘伝書を買って覚え、生産班が職業を手に入れた後になるか。

 そこまで見てもダンストログインから一月かそこらで挑めることになるな。それで行くか。

 ちなみに武器を使用する特技スラッシュとかだと計算式は(筋力+体力)÷2+武器+(30固定ダメージ×職業熟練度)くらいだ。

 呪文・特技において如何に職業熟練度が重要かわかるだろう。ああ、魔法の威力強化の装備もあるから魔法使いは不遇じゃないし、秘伝書も固定ダメージが高いのも勿論ある。

 盗賊は盗賊で素早さと器用で判定する秘伝書があるから、職業間による格差はない。

 ただ魔法使いは呪文を覚えるまで何も出来ないと思われてるから前衛を二回の呪文行使で殺せるようになると途端に立場が逆転するんだよな。

 秘伝書は呪文書よりも高いし、しばらくは低い立場に甘んじることになる。このパーティ間のカースト問題が一般パーティで魔法使いが少ない理由だ。

 冒険者はお互いに危険なダンジョンで背中を合わせるからな。下手に隔意があると誤射が怖い。

 貴族の場合はモンスターに近づかなくて遠くから呪文を撃てばいい魔法使いは大人気だ。護衛がいれば低レベル時の問題もない。

 しかも特技の場合は多くが溜め時間で気を使用してから技を放つから防御貫通は発動しないが、呪文は魔力を放つようなもんだから大抵の魔法は防御貫通だ。

 精神でしか防げない魔法は低レベルモンスターの多くを一方的に葬れる。あ、魔力操作を知らないなら前衛も一撃だな。広めないのはその為か。

 まあ、高レベルのダンジョンになってくるとモンスターも呪文を使ってくるし防御手段を持っている。

 結局は命がけの殺し合いになるから安全に慣れた貴族は一部の例外を除いてダンジョンに行かなくなるんだよな。

 こういう魔法使いの不足を魔法スクロールが埋めているんだが、使用に代償がない代わりファイアーボールとかでも威力が小さく30ダメージしかない。

 戦士型ビルドの突撃イノシシでも怯ませるくらいしか出来ない上に500ゴールドと高いからあまり使われず、魔法使いの過小評価に繋がってしまう。

 それに呪文を覚えた魔法使いの凶悪さがわかった途端に魔法使いも調子に乗るから一気に不穏な感じになるんだよな。

 ここら辺は魔女狩り世界が誕生したこともあってダンスト界隈では有名な話だ。現地人に不和をもたらさないように別ゲームの魔法とかプレイヤーが自粛してたりする。


「あー、ステータスは好きだけど休みの度にシステム周りの事だけを考えるのは不健康だな。どっか行くか」


 今日は久しぶりの休みだ。トラブルがあったこともあり少しでも早く強くなってやろうとダンジョンに潜る毎日だったがハーレム先輩に止められた。

 十年も時間はあるんだから急ぐことはない。むしろ無理をした分だけログアウトする可能性が大きくなって損なだけだ。

 当たり前のことを忙しい毎日が忘れさせる。娯楽がないから休みにそれほど執着しなくなったこともあるが。

 酒でも飲んでみようかな。それか掘り出し物がないか買い物でも。ああ、だけど秘伝書を買う貯金がなぁ。


「そういや伊藤は何処に行ったんだ? ハーレム先輩の朝練も今日は休みだろ?」

「中島は気付かなかったのか。伊藤ならデートだと思うぞ」

「は?」


 え、ちょ、は? デートって伊藤が接点のある女子はハーレムパーティのメンバーだけだったよな。

 つまりハーレムパーティのメンバーを先輩から寝取ったということに。


「真面目な話、それって大丈夫なのか。先輩は温厚だけど女癖は悪いぞ」

「少なくとも女子に無理強いをする人じゃない」

「田中、それと男に女を掻っ攫われたことは同じ話じゃない」


 ヒーローを目指してるだけあって田中は性善説で人間を見る。人の長所を捉えられるのは立派なことだと思うが、物事に対する危機感が薄いともいえる。

 俺は基本的にネガティブだ。性悪説で人間を見るから短所ばかりが目に付いて仕方がない。危機意識は高いが人を信頼して頼ることが苦手だ。

 自然と中庸的な考えが出来る岩田を主軸に議論することになる。こいつも修羅勢だから偏ってるんだよな。普段は伊藤がバランサーだ。


「恐らく先輩も既に気付いている。見逃してる以上、平気だとは思うが」

「ラブコメ段階なら許容できても肉体関係まで行ったら豹変するかもしれないぞ。ギャルゲーとエロゲーは別ジャンルだ」

「中島、真面目な顔でよくそんなことを言えるよな……」

「真面目にヤバいと思ってるからだよ!」


 あの先輩は魔眼でも持っているのか心の中まで見通す。好意も悪意も筒抜けで隠すことが出来ない。

 伊藤に邪な気持ちはないだろう。そうじゃなきゃ最初から指導したりはしない。

 でも実際に女子と付き合うことになって先輩に対して全く優越感を感じないか? ほんの少しでも、ほくそ笑むことはないか?

 自分すら気付かないような感情が先輩には伝わるんだぞ。

 それに装備を用意して一緒に暮らして熱心に指導して外敵から守って、それでも恋愛感情は全くないってことあるか?

 確かに複数の女性と付き合ってるだろうし、庇護下にいる何十人の女の子の一人にすぎないだろう。

 でも他の男に持って行かれそうになると途端に惜しくなるのが男ってものだ。


「このまま訓練を続けるのは難しいかもな。もとから無理やりな話だったし」


 岩田がうなだれる。まあ、今回のことがなくても2千ゴールド程度で高レベルプレイヤーを拘束しようってのが間違いだ。

 利益でしか考えないなら初心者プレイヤーに関わること事態が損だ。その時間があったら高レベルのダンジョンに潜った方が遥かに良い。

 それより問題はせっかく出来た高レベルプレイヤーとの縁がなくなってしまうことだ。ダンジョン内はともかく町でのトラブルで先輩が助けてくれるかもってのはこれ以上ない幸運だったのに。


「考えすぎな気がするけどな。先輩も伊藤も相手の女子も、誰も悪くないだろ」

「それはそうなんだけどな」


 時に理屈や道理を跳び越すのが感情ってものだ。

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