第一話 超常チェーンメール
チェーンメールに書き込まれた行先は『Dungeon History D-3』だ。
ダンジョンヒストリー、所謂ダンストはよくあるファンタジー物のゲームだ。確か6作目まで発売されてる。
このメールは発売元の会社とは一切関係ないらしのだが死者まで出た事件に関与してるとして会社は火の車らしい。いや、それはゲーム業界全体か。
この事件の全容はどんなにチートな帰還者プレイヤーでも掴めず、チェーンメールが出回ることも防げてない。最初にメールを貰った人間さえも判明しないのだ。
いっそスマホやパソコンなどのメール機能が付いたもの全般を規制してはどうかと意見も出たが、現在でも実地されてない。
下手に規制しては犯罪者だけが強力な力を付けていくだけになるという判断らしい。実際はゲーム世界から持ち帰られるアイテム目当てだという噂だが。
世界観が事前にわかるから、どのゲームに行くのかを知るのは大事だが、本当に重要なのは後者だ。
D-3。このDはオンラインゲームにおけるサーバーのようなものでD世界と呼称されている。ダンストの原作を無印世界と考えたら別世界線の話とも言える。
後ろの3は何期目かだ。プレイヤーがいつ頃、ゲーム世界に入ったかが判別できる。このチェーンメールは最新の奴なんで先輩方が2期いるってことだ。
ダンストは最初期から確認されてるゲーム世界で、A世界はもう6期目のチェーンメールが出回ってる。おそらくプレイヤー人口が多いほど世界が増殖するのだろうという噂だ。
このチェーンメールも普通じゃ考えられない。送った奴はB世界の4期だと言っていた。他者に送るだけで自動でリンク先が変わっている。
あと使用者の専用機能みたいなものもあるんだっけか。一度でもチェーンメールを送ったら、二度とこのリンクは消えない。
別のスマホに変えても何故かこのメールが届いている。親切設計だ。他の人間がリンクを押しても寿命も吸われないしゲーム世界にも行けない。
お前の寿命をよこせと言われてるようだとプレイヤーを引退した人間から大評判。
「ふぅ」
また溜息が出ていく。テレビでは人命に関わるとして、こういう失敗談の紹介が多い。英雄譚の負の側面として大々的に発表している。
そのくせプレイヤーが持ち帰ったアイテムが社会に大きな影響をもたらし経済に好影響を、とか。魔法技術と科学技術の融合による新時代とか。
最初にやらかして世間にデビューしたブラックファントムは中二病の人気芸能人として世を沸かせている。
まあ、マジで大した力もってないしな。早期リタイアして十年の寿命の代わりに芸能界に入れたと考えたら成功者だ。
「ふぅ……」
でも別に羨ましいとは思わない。本当に現実かと耳を疑うような成功者は本当に凄いのだ。
政府に協力してプレイヤー犯罪者を逮捕するヒーロー組合。企業と提携して最先端技術を研究する錬金ギルド。
モンスターを品種改良して民間人にもペット扱い出来るようにしようと動くテイマーの集い。
魔法の可能性を探り地球での伝承を調べる日本魔法連盟。
わずか半年だ。それだけの期間にこれだけの組織が結成された。いずれもファンタジーとしか考えられないような組織だ。
でも。
彼らはそれでも二流に過ぎない。
現実ではゲーム由来の能力は振るえても成長しない。既存のものと組み合わせて効果を大きくは出来ても基礎能力は伸びない。
それぞれのゲーム世界で、ゲーム由来の力を鍛える。それでしか成長はしないのだ。
半年。180日くらいか。これを百倍すると五十年。
その時間をずっとゲーム世界で鍛え続けている。それが上位プレイヤー。
そこまで行くと神話の世界だ。寿命の問題を解決してやっと認めてもらえる。個人情報すらロクにない。
でも、彼らも半年前は普通の人間だった。
自分がそうなれない理由ってなんだ? 漫画やアニメと現実がごっちゃになった世界で普通に生きることに意味はあるか?
リスクを考えるほどに欲求も大きくなる。ここまで危険を冒すんならリターンも大きいんじゃないか、と。
それで死者がシャレにならない数になってると知ってはいるが、それで我慢するなら宝くじとかが繁盛するわけがないわけで。
「ふっー。うっし、行くか!」
いつの間にか汗だくになった身体を起き上がらせてスマホを見る。予定時刻だ。
大丈夫だ。皆、行ってる。死ぬ前に帰れば死なない!
そう結論を出してスマホのリンクに指を延ばす。これまでの犠牲者と同じように。