第十五話 カツアゲ
一日の休日を設けてパーティ全体でリフレッシュ出来た。やっぱ休暇がないとむしろ仕事効率は落ちるな。
全体の動きが良くなってる気がする。時間は余ってるんだから一週間に一日は最低限、休もうか。
緊張の糸が切れたのか、もっと休暇の頻度を増やす提案もあったが呪文書・秘伝書を買うのに少しでもお金が欲しいということで却下となった。
たしかに冒険者の中には一月に一度くらい働いて酒を飲んで暮らしてる奴もいるが、あれは熟練冒険者が先を見据えないで自堕落に過ごしてるだけだからな。
さすがに休日にまで訓練をするほど勤勉になれとは言えないが。それはそれで真似できない。
訓練といえば岩田と田中の道場探しは上手くいかなかったようだ。やはりダンストは職業熟練度が増すにつれ自然と剣術も磨かれるからな。剣術だけを上達させようって発想はないか。
代わりに冒険者ギルドで各種職業の熟練度向上の教官依頼は出せるようだった。パーティで金を出して先輩冒険者に指導を乞う形らしい。
やっぱハーレム先輩と牧場草原の先輩ってすげえいい人だったんだな。金を貰って依頼で受けるようなことを無償で提供していたのか。
伊藤も本来なら金を払わないといけないことを知って少し動揺していた。まあ、最初に教えて貰おうとしてたのは同じ初心者プレイヤーだったしな。タカリのように思えても仕方ない。
魔法ビルドの伊藤は気力感知と気力操作の習得を少ないHPもあって苦労していたが、ようやく今回の休日で習得できたらしい。
これでパーティで技能を共有できればやっとウルフを怖がらないで済む。初心者エリアのレアモンスターを攻略するだけなのに長かったな、ホント。
あと休みの間に生産班が頑張って装備を作成してくれたらしい。技能補助の助力はあるが、それでも一日もしない内に装備を作成してくれる生産班には頭が下がる。
中島充希(1/8)ステータス
『Dungeon History』
・レベル10 ・職業 壱ノ戦士
HP50/50 MP25/25 攻撃45(15+30) 防御39(14+25)
筋力26 体力24 素早さ12 器用8 精神9 知識13
・呪文なし ・特技なし
・技能『採取』『察知』『解体』『隠密』『剣術』『護衛』
『魔力感知』『魔力操作』
・装備『鉄の剣(攻+30)』『冒険者の服(防+3)』『化物ヒツジの鎖帷子(防+10)』『幻覚狐の消音靴(防+3、隠密補正)』『大ネズミの四肢カバー(防+1)』『突撃イノシシの骨盾(防+8)』
・アイテムボックス(10×99)
モンスター毎に向いてる装備というものがあるらしく盾にするなら化物ヒツジより突撃イノシシ、靴にするなら幻覚狐らしい。
いい装備だと思うが、それでも職業を得てないから十分なポテンシャルを引き出せていないのだとか。
今回で生産班も8レベルといい感じにレベルアップしてきた。そろそろ魔法職も10レベルに到達するだろうし、装備分の素材も売るようになれば千ゴールドは稼げる。
フラグ臭いが順調といっていいんじゃないだろうか。
「どうやって突撃イノシシを一撃で殺しやがった、吐け!」
フラグ回収が早すぎる。
まずは元気な内に突撃イノシシを倒しておこうと初心者ダンジョン猪突荒野にやって来たんだが入口でプレイヤーが待ち伏せしていたのだ。
おそらく一昨日の目撃者から情報が行ったんだろう、牧場草原で見下してきたプレイヤー達だった。休みも挟んだんだが、ずっと待っていたんだろうか。
やっぱ想像通り魔力操作の件は先輩プレイヤーから教われなかったらしい。
どうするっとパーティ仲間を見回したが不快そうな表情を皆が浮かべているので秘匿する方向性で行くか。
「そういうのは先輩から教われよ。ずっと一緒に居たんだろ」
「あの野郎、探し回っても町の何処にいないんだよ! クソがっ!」
これまで世話になっておいて敬語すら使わないのか。しかも教えるのが当然といった態度。
「お前らな、せめて指導してもらったなら感謝くらいしろよ」
「女共と違って装備も自前、犠牲者が出た後にノコノコとやって来る、稼ぎも分けなきゃいけない。尊敬する要素なんてねえ!」
断言しやがった。え、その羅列した要素の何処が理不尽なんだよ。
装備はハーレムパーティの先輩が自分から払った施しのようなものだし、キャバクラに貢いだと言われれば納得できる。失礼かもしれんが。
少なくともクソ生意気な坊主に金をくれてやるより、よっぽど気分がいいのは否定できない。というかハーレム先輩、ダンジョン報酬すら受け取っていないのか。
牧場草原の先輩も稼ぎを分けるってことはパーティメンバーと同一額しか貰ってないのかよ。お前らの方が羨ましいよ。
「俺らが言えたことじゃないけど普通は金を払わないと指導なんてしてくれないんだぞ」
「つまりお前らも金を払ってないんだろ。さっさと教えろ」
うっわ、腹立つ。よくもまあ先輩はこんな奴らに十日以上も指導をしたな。尊敬する、マジで。
「じゃあ少なくとも、お前らが先輩に教わったことを全て話して貰おうか」
パーティメンバーに視線で確認を取る。額に青筋を浮かべてる奴も何人かいるが、無言で頷いて肯定してきた。
俺らは間接的にしか先輩の指導を受けていない。気に関しては伊藤から教えて貰えるが他にも知った方がいい秘匿情報や経験談は山ほどありそうだ。
大人になるんだ。ここでこいつらと争っても利益は全くない。情報を得て自分達の得にしないとストレスを感じただけ損だ。
「は? やだよ、指導は金になるんだろ?」
何だコイツ喧嘩を売ってんのか。
「それじゃ俺らも教えないがいいんだな?」
「駄目に決まってんだろ。お前らのちょっとした情報と俺らの血の流れた情報が等価なわけないだろ」
理解が出来ない。言葉は通じてるんだが、宇宙人と話してる気分だ。
こいつ本当に俺らと同じ日本人なのか。実は別の異世界から来たとか別の時代から来たとかいうオチじゃないよな?
「しょうがねえな。俺らの情報を教えてやるから金を払え。お前らの情報料を引いて2千ゴールドくらいでいいぞ」
「高い。そんな余裕があるわけないだろ」
「お前らが荒稼ぎしたのは知ってんだよ。こっちはお前らを待ってたせいで赤字なんだ、早く出せ」
一人100ゴールドか。大した金額じゃないが、金を催促する姿はもはやカツアゲそのものだな。しかも最悪なことに本人は正当性があると思ってやがる。信じられない。
相手のパーティを見ても笑って馬鹿にしてるだけだし似たような意見なんだろう。それか搾取するつもりで最初から来たか。
仲間に視線をやると既に腰の剣に手をかけてる奴すらいる。まて、現実で問題になるかもしれないから死人は出すな。
「やだね。お前らみたいに先輩におんぶにだっこの情報がそこまで価値あると思えない。むしろ俺らに金を払って欲しいくらいだ」
「あん? 喧嘩を売ってんのかテメェ」
「むしろお前、喧嘩を売っていなかったのか」
相手の様子に思わず困惑する。意図して喧嘩を売って金と情報を巻き上げるつもりじゃなくて素であの対応なのか。
こっちのパーティの装備は生産班の頑張りもあって攻撃力30防御力25もある。これはハーレムパーティの初期装備に匹敵する。
戦闘班は十レベルに至ってるし突撃イノシシを一撃で殺したことから戦闘力もある程度は知っているはずだ。
相手のパーティは女子を意識してるのかハーレムパーティの初期装備と全く同じ。一日に化物ヒツジを6匹程度しか狩らないならレベルもこっちと似たようなもののはず。
この状態でよく格下にするような対応を自然に出来るな。やっぱ現実でヤンキーだったんだろうか。それとも一種の虚勢?
「お前らの鎧なんて意味ないんだぞ、わかってんのか?」
「わかってるよ、気だろ。大した情報でもないことを御大層に」
「ああん!?」
遠回しに警告してきたからバッサリと核心をついてやったら意外なほど動揺している。こっちが知らないとでも思っていたんだろうか。
どうやって化物ヒツジを退治してたと思ってたんだろう。いや、気力感知でこっちが気を使わずに化物ヒツジを退治してるのは知っていたのか。
何らかの手段で化物ヒツジを退治しているが気は使わないから知らないだろうという推測か。自信の大元はそこだな。
自分達は相手の守りの上から無条件で攻撃を通せると思っている。こっちの攻撃を防げないと思わないのは想像力の欠如が理由だろうか。
あれか漫画の特殊能力のように気を使えるか使えないかで格差が出来ると思ってるのか。なら、その自信を砕いておこう。
「伊藤、見せてやれ」
「気の方でいいんだよな」
「おう」
伊藤に威嚇代わりに気を使用するように言うと相手のパーティメンバーにまで動揺が広がった。本当に気を必殺技レベルで信頼してるのか。
いや、これが地元民の初心者冒険者の感覚なのかもな。気の情報を知って使用できるようになれば普通は職業を得るまでレベルを上げられる。
イコールで気を知ってるかどうかが格差となる、と。不必要に魔力操作の情報を広めないで良かった。気でこれならどんな扱いをされているのやら。
まだ気力感知の技能を得ていない俺には何をしてるのか一切わからないが、相手が驚愕の声を出したからには伊藤が気を使用したんだろう。
こういう隠密性も気と魔力の厄介な所だ。情報を秘匿しやすく知ってる人間は知らない人間を一方的に嬲れる。
ハーレム先輩に感謝だな。伊藤に教えてくれなかったら知らずに大ネズミをひたすら倒す日々がいつまでも続いていただろう。
牧場草原の先輩が魔力操作を教えなかったのも、こいつらが他の人間から搾取するのを防ぐ為だろうか。気を教えたのはもう他の冒険者が搾取してるから防衛の為か。
まあ、こいつらも態度は最悪だが恐喝までしかしてないしな。思わず剣に手が伸びたこちら側のパーティを抑えることに意識を向けた方がいいかもしれん。
「どうやら、そっちの情報に価値はないな。お前らの提示した2千ゴールドを支払わないなら俺らの情報は渡さない」
「この野郎」
もはや怨嗟の籠った声で静かに呟くプレイヤー。名前は小野だったかな、憶えておこう。
じっとりとした目で見られながら初心者ダンジョン猪突荒野に入る。休暇明けなのにもうヘトヘトなんだが。




