第十一話 チート能力
朝方、同期がダンジョンに入る前に数匹の化物ヒツジを討伐して、昼からネズミの巣穴で金稼ぎをする。これがここ最近のパーティ行動だ。
化物ヒツジはダンジョンモンスターだから自然のマナさえあれば自動でダンジョンが補充してくれる。
ただ普通の羊のように交配で増えていくことも当然ある。人間や魔族もそうだから、ここは疑問の余地もない。
だから冒険者は狩りつくさないように化物ヒツジの群れ本体には手を出さないで放牧しているそうだ。
幸い初心者ダンジョン牧場草原は広く群れも多い。毎日、冒険者達が数匹のはぐれ羊を狩っても問題はないらしい。
「その理屈だとネズミの巣穴の大ネズミとか増えすぎてダンジョン災害が頻繁に起きるんじゃ」
「現実のネズミほど繁殖能力は高くないみたい。大型犬くらいはあるから、現実準拠だと餌が足りなくなるんでしょ」
「それに脅威が高すぎるとダンジョン核を砕くだろうしな」
現実のネズミのように増えて進化して、おまけに知能を持つようなダンジョンモンスターがいないとは言わない。
その最たる例が人間と魔族なわけだしな。別世界のダンストで駆逐されたのが信じられないくらいには種族として強い。
まあ、ダンジョンにはそれだけのポテンシャルがあって資源としても有用なのは明らかだ。
他のゲーム世界にダンジョン核を持ち込んで利用しているプレイヤーさえいる。ログアウトしている間にダンジョン災害が起きて核を砕かれたらしいけど。
ちなみに現実世界でやるとテロリストとして逮捕される。神様が託宣を下して防いでいるらしく現実にモンスターが溢れたことはまだない。
アイテムボックスに隠し持つことがギリギリで許されてるのが現状だろうか。他者がアイテムボックスの中身を知るすべは限られているし、ダンジョン核程度を問題にするには物騒なアイテムが多すぎる。
麻薬売買にもアイテムボックスが利用されていて社会問題の一つになってるらしいけど、プレイヤー関連の問題は多く手が回っていない。
プレイヤーはプレイヤーが対処する。これがヒーローとヴィランが現実になった地球の現状だ。
アイテムボックスといえばパーティでもまだ戦闘班の一部だが、ついにレベルが10に至って習得したプレイヤーが現れた。
生産職はまだ時間が必要だが、元採取班で魔法職志望の伊藤とか盗賊職志望の高橋なんかも高レベルになってきている。
やはり戦闘に貢献すると経験値が高い。他にも具体的な目標を目指して訓練した方が成長が早いと言われている。
アイテムボックスを手に入れて何が変わったかというと大ネズミの毛皮の一日の収獲量だ。これまでは捨てるか、嵩張る毛皮を纏めて持ち運ぶしかなかった。
それが荷物を背負わずに好きなだけ持ち運べる。アイテムボックスの仕様でリュック自体はまだ必要だが、いちいち町に補給に戻る必要もない。
腐る危険があるから薬草も使用するか町で売り払っていたが、アイテムボックスは内部の時間が止まるよくある仕様なので限界まで溜めこむことが出来る。
それだけじゃない。戦闘時間の増加は経験値の増加でもある。長時間の戦闘行為は大ネズミが相手だろうとキツイ。
疲労に弱った身体で大ネズミの相手をすると格下の敵でもそこそこの経験値になるようだ。
おかげで自分も無事に10レベルに到達することが出来た。
中島充希(1/8)ステータス
『Dungeon History』
・レベル10 ・職業 壱ノ戦士
HP24/50 MP8/25 攻撃45(15+30) 防御32(14+18)
筋力26 体力24 素早さ12 器用8 精神9 知識13
・呪文なし ・特技なし
・技能『採取』『察知』『解体』『隠密』『剣術』『護衛』
『魔力感知』『魔力操作』
・装備『鉄の剣(攻+30)』『冒険者の服(防+3)』『化物ヒツジの鎖帷子(防+10)』『大ネズミの靴(防+1)』『大ネズミの四肢カバー(防+1)』『木の盾(防+3)』
・アイテムボックス(10×99)
化物ヒツジを倒すために訓練を重ねていたら『魔力感知』『魔力操作』の技能を習得できた。
技能を複数習得していたから10レベルになる際、戦士だけじゃなく盗賊と魔法使いも選択肢に浮かんできたが、役割的に戦士一択だろう。
ちょっと魔法の魅力に揺れたが呪文書が高いし知識が足りない。もっと高レベルになって、複数職を得られるようになるまでは我慢だな。
職業は壱ノ戦士とあるように熟練度によって能力が高まっていく。次の位階になる時に弐の戦士となるか壱の盗賊か魔法使いを増やすか選べる。
特技や呪文は該当の職業を得なければ習得は出来ないから、壱だけでも職業を網羅するという選択肢もある。
ただそれでは職業の熟練度レベルによって特技や呪文は高威力となるから使えない器用貧乏になるという危険性もある。
あと職業補正によるステータス上昇は一律20アップだから、比較的に上昇しやすい壱の職業を網羅するとステータスだけは高くなるが何故か特技・呪文なしで戦っても高位階の職業には負けるんだよな。
マスクデータとなるが職業に対応する技能も強化されるらしく高位階の戦士の剣術などは次元が違うらしい。
たしかにステータスが上がっただけじゃなく剣の振りが鋭くなってるような気もする。感覚の話に過ぎないが。
壱ノ戦士になったことで筋力と体力が10上昇してHPが高くなっている。低レベルでは破格の強化だ。職業を持つ持たないで格差があるのもわかる。
職業補正を抜いても体力・素早さ・器用が一つ上がってるな。レベルアップによるステータス上昇は十の位の数プラス1だから余分に1ステータスが上がっている。
これはモンスターの肉を食べたからか、強いとそれだけでステータスを上げるチャンスも増えるのか。
モンスターを倒さずとも地道な訓練でステータスを上げることは出来る。技能習得にも職業の熟練度稼ぎにも有用だから推奨されてるが、それでもモンスターを倒してのレベル上げが如何に有効かは考えるまでもないな。
アイテムボックスは10種類のアイテムを99個まで時間が停止した異空間に保持できるという異能だ。
職業の合計熟練度レベル×10種類を99個まで収納できると決まっているアイテムボックスはこれといった設定はない。ゲームで出来たから出来るというゲームシステムによる恩恵だ。
生物以外は何でも収納できるから仲間が死亡した際にアイテムボックスに収納しておいて蘇生魔法を覚えたら復活させるという離れ業まで可能となる。
ダンスト内部ではあまり意識されないが、必ず覚えろと言われるほど有用なチート能力。維持や発動に魔力さえ必要としないダンストの代表的なシステムだ。
少なくとも10レベルになるまでは意地でもログアウトをしないと決めていたので無事に到達できてホッとした。
これで手に入れたゲーム世界のアイテムも現実に持ち帰ることが出来る。アイテムボックスを持ってないとゲーム世界に置き去りになるからな。
あとは皆の稼ぎを集めて買った鉄の剣の話くらいか。化物ヒツジの鎖帷子はもう全員が装備をしてるけど、鉄の剣は戦闘班と盗賊志望くらいにしか周ってない。
1000ゴールドもするし全員に同じだけの金を使うのは決まってるんだが元解体班、現生産班は剣よりも生産道具に金を掛けたいらしい。
それを聞いた魔法職志望者も呪文書を先に買いたいらしく、戦闘班が魔力操作を覚えたのもあって鉄の剣は戦闘班から貸すだけに留めた。
戦闘経験値も稼がないといけないのが魔法職の辛いところだ。
「呪文書3000ゴールドとか高すぎて笑う。なんで俺、魔法使い目指してるんだろ」
「いや、習得が難しい呪文書はまだ安いんだよ。戦士系の秘伝書とか簡単に覚えられるから最低1万ゴールドはすんだぞ」
「買える気がしねえ」
「まあ戦士は特技がなくても普通に戦えるから」
「この価格差のせいで魔法使いがいないパーティは途中で行き詰まるんだよな」
「それは生産職にぼったくられるせいなのでは」
「生産職もギルドに上納してるから考えてるほど儲からないぞ」
「そもそも呪文書と秘伝書とか何処から手に入れてるの?」
「高位階の職業になると自然と呪文や特技を覚えるんだと。そういう自分で覚えたものは他人に伝授できる」
「普通のゲームシステムだと、それが普通で本を買うとか余計な出費はないんだけどなぁ」
「でもダンストほど簡単に戦えるようにはならないぞ。技能による補助とかしてくれないから自力で頑張る羽目になる」
「技能補助が高いゲームだと特技や呪文習得がなかったりハードル高かったりするんだよな」
「ダンストは何だかんだいってバランスがいいんだよな。金がいるけど」
「致命的なバランス崩壊では?」
「他ゲーから来る奴は金を持ってるからダンストだと途端にヌルゲーになるらしい」
「そういう奴が秘伝書の価格を上げてるのか」
「騙されんな。ダンストは職業熟練度があるから十年しかいられない条件じゃ初心者以外にはメリットが少なかったりするぞ」
「半端ない成金なら希少な秘伝書を手に入れられるでしょ。勇者のススメとか」
「ダンストのどっかにいる一時代に二人の選ばれし者とか探す方が困難だよ」
「神様だけじゃなく魔王に選ばれた勇者もいるんだし、意思を持ったダンジョン核の数だけいると考えたら実は結構いるんじゃね?」
「ダンジョン核を守るガーディアンだしな勇者って」
「原作主人公はダンジョン核を破壊したけどな」
「別のダンジョンだからセーフ」
「神様は落胆してたぞ」
「これ以上は争いになる。やめるのだ」
「人間ってホントに馬鹿ね」
最後らへんはゲームのセリフだったかな。ダンスト、ログインする前にゲームとしてもプレイしておくべきだったな。
ネタがわからないと少し寂しい。




