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第9話 命と罪と断罪と

第9話 命と罪と断罪と


何時もの様に変身しステルスモードで闇に紛れて街を飛ぶ。もちろん索敵範囲を広げるために2機の虫型ドローンを展開する。

すると、街の北側が騒がしい事が判明した。

なんだ?かなり激しい戦闘なのか?虫の送る映像と音声を確認しながら近づいていく。

あれは・・・ヴァン!額から血を流しながら戦っている。相手は、イッキリーノ!

ヴァンだけじゃないな、リンシアもアンシーもいる。何方にしても攻撃がバリアによって阻まれていて、一方的に攻撃されている。

様子からすると魔術師であるヴァンが襲われ、そこにリンシアとアンシーが加わった感じか。しかし、リンシアに対しては多少大人しかったハズだが・・・。

虫が拾った音声から状況が把握できた。イッキリーノの奴、余裕があるからって喋り過ぎだな。

ようは、魔剣で強力な攻撃手段が出来た事と、街中では聖剣の力を解放すると関係ない人たちを巻き添えにするからリンシアは本気を出せないということらしい。

おや?イッキリーノに菱形のロックオンがでる。どうやら24マルチプルホーミングレーザーはホーミング性能が高い為にある程度の距離からなら虫の映像越しにロックオン出来る様だ。

丁度いい。よし、いけ!


「24マルチプルホーミングレーザー」


両手を合わせた48発全てをイッキリーノ一人にロックオンして放つ。勿論バリアで阻まれるが突然の光で目くらましぐらいにはなるだろうという予想は当たった。

どこぞの大佐の様に眼を押さえて叫んでいる。折角なら3分待ってくれると有り難いのだがな。しかし只の目くらましであれだけの悶え様、人をゴミの様に思ってる人間には丁度いい姿だ。

イッキリーノの視力が回復する頃には俺も丁度、戦闘現場上空にたどり着く。イッキリーノはレーザーを放った相手を探しているが索敵能力はさして無いのだろう。ステルスモードの俺を見つける事は出来ない。


「カタストロフィック・ファースト・ナックル!」


そこにあいさつ代わりの神速の拳を叩きつける。勿論バリアで阻まれるが流石の威力にイッキリーノが後ろに後退する。

そして、あのやっかいなバリアに僅かだが亀裂が入った事を確認した。どうやら完全な無敵では無いようだ。


「貴様ぁーーー!!何者だぁああ!変な姿しおって!」


怒りを露わにするイッキリーノ。


「貴様の様なクズに教える義理は無いが、お前を冥府へ導く者の名ぐらい冥土の土産に持って行かすのが世の情けという物。俺の名は・・・ルシフェル。堕天神(フォールンゴッド)ルシフェルだ。」


「カッコつけやがって!死ぬのはお前だー!!!」


イッキリーノは魔剣を振りかざし暗黒のオーラと共に切りかかって来るが、それを片手で受け止める。


「その程度で俺を殺す?面白い・・・シャイニングブラストボムズ!!!」


消費エネルギーを通常の3倍のフルパワーで掴んだ魔剣ごと、スキルを放つ。一瞬で魔剣は蒸発するがイッキリーノはバリアで守られる。

だが、俺は見逃さなかった。バリアのヒビが僅かに広がり、鎧にもヒビが入ったことを。

イッキリーノはエネルギー弾の爆発とバリアのぶつかる衝撃に耐えられず後ろに吹っ飛んで行き、起き上がると魔剣が柄の先からなくなってるのに気が付き慌てふためく。


「俺の、俺の魔剣がぁ!馬鹿な聖剣と打ち合っても平気な魔剣だぞ!」


俺はゆっくりと歩きながら近づいていく。


「ハッ!力を解放していない聖剣と比べても意味ないだろう。さぁ、もう懺悔の時間は僅かしかないぞ。いいのか祈らなくて?御祈りはまだ済んでいないのだろう?」


「ふざけるな。俺様にはこの女神の加護を受けた最強の鎧があるんだ、死ぬのはお前だ」


「そうか、じゃぁ、試してみる事にしよう」


スキル:ファイナル・アナイアレイティック・ストライク Lv1【消費1500~ EN 接近型・究極奥義 それ以上の説明はもういらない】


スキルをイメージして拳に力を溜める。手首のパーツがカタストロフィック・ファースト・ナックルの様に変形する。さらに背中の翼と腕のスラスターが甲高い唸りを上げて粒子をまき散らす。

背中が熱くなり、飛翔に使っていたブレードも青白く輝きだす。エネルギーが過剰に集まった両腕は原型がはっきりしない程に眩しく輝いている。


「な・・・なんなんだ!それはぁーーー!」


完全に怯えるイッキリーノ。だが容赦はしない。

俺は低く構えるとそのまま地面を蹴る。


「ファイナル・アナイアレイティック・ストライク!ライトナックル!!!」


全身が一陣の閃光となってイッキリーノを右拳でバリアごと殴りつける。バリアは耐えられずに音を立てていっきに蜘蛛の巣状にヒビを広げる。


「だがまだまだぁ!ファイナル・アナイアレイティック・ストライク!レフトナックル!!!」


今度は左拳でアッパーの要領でカチ上げる。バリアに守られてイッキリーノは空高く舞い上がるがその瞬間、まるでガラスが派手に割れるような大きな音を立ててバリアが砕け散る。


「これで終わりだ。せめて最後は華麗に散れ!シャイニングブラストボムズ!!!」


落ちてくる前にエネルギー弾をイッキリーノに向かって撃ち放つ。光弾が当たると激しく空で爆発し、その後、黒焦げになったイッキリーノがドサリと落ちてきて鎧も粉々に砕け散った。


「チッ、最期だというのにまったく、きたねぇ花火だ」


センサーが映す映像によると、イッキリーノはまだ生きているらしい。鎧が頑丈なだけでなく、本人もかなり頑丈であるようだ。こういうクズは生かしておくと後でロクでもない事をするフラグになる。

そう思い、俺が広げた手をイッキリーノに向けて跡形もなく消そうとエネルギーを収束させるとボロボロの姿のリンシアがその前に立つ。


「待って。もう鎧も壊れたよ、命まで奪う必要は無いよ。そうでしょ」


全く、お人よしの聖剣姫様だ。わかっちゃいねぇ。


「こういう奴は生かしておくと、後々とんでもない事を起こす。だからここでしっかりと始末した方がいい」


「そんな事は分からないよ。もし、そうだったとしても私が責任もって止めから」


「フン、今さっきもどうにも出来ずに一方的にボコられるだけだったのにか?」


そう言うと、強い意思を持っていたリンシアは一瞬、弱気になるが直ぐに意思を持ち直す。


「それでもです」


「ハッ!それで、この先、ソイツがアンタのいない所で悪事を働き無実の被害者が出てたらどうする?ソイツに、ソイツの家族にどんな面下げてどんな言葉をかけるんだ?それとも聖剣姫さんは、死者も蘇えらす程の全能なのか?」


そこまで言うと、リンシアは何も言えなくなり唇を噛みしめて俯いている。まぁいい、その後の被害なんて俺の知ったこっちゃないからな。とっととずらるか。


「まぁ、この様子じゃ、ほっとけば死ぬかもしれんしな。じゃぁな聖剣姫さん。あんたの望む未来が常に続くといいな」


そう最後に言って、何時もの様に空高く飛翔してから宿まで空間転移した。それからベッドに潜り込んだ気がしたが記憶が定かではない。

ただ、寝ている時の夢はロクでもない夢だった。

翌日、目が覚めた俺は見た夢を、いや・・・過去を思い出していた。

俺が、8つくらいだった時、親父は死んだ。交通事故だった。それも、飲酒運転をしている男の車に轢かれるという一方的な殺人だった。

その飲酒運転の男は少し前に既に飲酒運転の事故で、過失運転致死傷で刑事告訴されていた。だが多額の現金と有能な弁護士の力により、金の力と言う法の下、保釈されたのだ。

そして、その男は保釈中にもかかわらず、又、飲酒運転を繰り返し親父を殺したのだ。一体なんの為の刑罰なのか?法なのか?金という名の正義の法の下に無実の民がただただ悪党に喰われていく、ふざけた世界だ。

今でも忘れない。母親の泣き続けた日々を、一切反省なく自分の未来だけを心配する犯人を、己の所為ではないと言い訳をする法関係者達を。

・・・そうか・・・俺は・・・。そう思い、腕輪を撫でる。

あの時、言ったあのリンシアに言った言葉は、あの感情は、俺自身の深く心の奥にある怒り、悲しみ、絶望。

やはり、無理にでもあの野郎は殺っておくべきだったのだろうか。

貴族という、金持ちという、特権階級という正義がこの世界でも一方的に弱者に暴力を振るうなら・・・俺は・・・。

嗚呼・・・だからこそ、神に最も近い天使であったルシフェルは、神と言う正義にケンカを売り、ルシファーとして、サタンとして戦ったのだろうか?

ふぅ。わからねぇな。

まぁ、朝からいつまでも暗くなっていてもしゃーない。今日も、色々あるしな頑張るか。



時は少し遡って、昨夜ルシフェルが去ったすぐ後の戦場。

そこでリンシアは空から雪の様に降って来る光の粒子をぼんやり眺めていた。彼が残した不思議な光。


「姫様、大丈夫ですか?」


砕けた壁に穴の開いた地面、そんな空虚な世界に佇むリンシアに最初に声を掛けたのはアンシーだった。

彼女もまた、ピッシリと着こなしていたメイド服は破れ、すすだらけになりボロボロだった。


「うん・・・大丈夫」


「あの、男の言った事は気にしない方がいいですわ。しっかりとイッキリーノ様を監視し回復したら牢に入れればいいのです」


「ええ、そうだね・・・」


そう答えるリンシアは、いまだ心は上の空だった。

瓦礫が散らばり所々に火があがる現場は大忙しだった。イッキリーノも含め怪我人の治療や、巻き添えになった人たちの救出に兵士達の聴取。

そうしてルシフェルが去ってから小一時間は立っていた。

それでも、彼女には重くのしかかる。イッキリーノを止められなかった事。イッキリーノを生かすことが正しいのか?

瓦礫に座り彼女は思う。彼がどうしてそんな事を言うのか。


「姫さん。あんたのやったことは間違っちゃいねぇ。アイツは、陛下の前に立たせて法を以て断罪しなければならない。もちろん俺もあのルシフェルのいう事も分かるけどな」


そんな瓦礫の上でぼんやりするリンシアに声を掛けたのは頭に包帯を巻いたヴァンだった。


「ええ、そうだよね。全てを決めるのは陛下だよね・・・」


でも、そうではない。彼女はそんな返事よりも言いたいことがあるけれど、言えない言葉がある。

リンシアには見えているのだ。ルシフェルの人としての色を。あの輝く色は、他の誰一人として持ち合わせる者のいない優しい色、エージローと同じ色だった事を。

そして、そんなエージローから放たれた言葉だったから故に重いのだ。あんなに彼が放つ色も、光の粒子も優しくて明るいのに・・・。

どうして、そんなに暗くて深い決断をするの?そう思わずにはいられなかった。



一方その頃、アクト大陸のイシダンデーン神殿で一人ワナワナと震える女神がいた。


「如何しましたか?唯一神アクトキュルア様」


その震える女神の心配するように声をかける総主教マーニア


「壊れたのじゃ・・・あの、鎧が・・・壊れた・・・」


「鎧ですか・・・。まさか、聖鎧ムッテッキーバリアーンがですか?」


信じられないと言う顔で質問を返すマーニア。


「そうじゃ・・・あれは我が莫大な力を注ぎ造り上げた鎧、壊せる者など既にいない筈・・・」


「そんな・・・。まさか、堕神コートキュルアが蘇ったのですか?或いはビュートキュルアが・・・?」


「そんな筈はない。コートキュルアの存在は確認できないし、ビュートキュルアに至っては、奴の力は我が元にある」


「では・・・なぜ?アレを壊せるのはアクトキュルア様と同等の力を持つ者だけな筈です。何かの御間違いでは・・・?」


会話を進めれば進めるほど、その事実に両者は、驚きを隠せなくなっている。

そう、あのイッキリーノが装備していた鎧は確かにアクトキュルアが作った物であり、イッキリーノの元に届くよう仕組まれた物なのだ。

聖鎧ムッテッキーバリアーン。女神が心血注いで作った究極の鎧。それは、邪神を倒すのでも、世界の悪漢共を倒し民に正義を示す物でもない。

あれはロクでもない人間に渡し、内部から国を混乱させ、倒せない魔王をでっち上げて、アクトキュルア自らが倒す事により自らが唯一神だと知らしめる為だけの自作自演の道具。

それ故に自分以外には一切壊せないように全力で作り上げた鎧。それが壊された。言い換えれば、それは神すら傷つける事が出来るという証。

アクトキュルアは久々に恐怖した。この世界に己の敵など存在せず自らが至高であり究極になった筈なのに、どうしてだと叫びたかった。


「総主教、至急コート大陸に間諜を送るのじゃ!一体コート大陸で何が起こっているのかを調べるのじゃ」


「ははっ。畏まりました」


そして、イシダンデーン神殿のその様子を遠い場所から眺める者がいた。

その者がいる場所は、まるで人々が求める楽園の様な庭が広がる不思議な空間。草木が綺麗に並び、美しく咲く花々。白く綺麗な東屋に噴水。そこから広がる人工的な川。蝶が舞い鳥がさえずる美しき場所。

かつて、そこはコートキュルアの住まいであった別世界。だが今そこにいるのは金髪の白き女神コートキュルアではなく、黒い服に黒い髪の少女。プロテノアだ。

彼女は、かつて女神コートキュルアに力を貸す代わりに、この居住を自由に使える権利を報酬として臨んだのだ。

そしてコートキュルアが不在になった現在では、本来この空間は消失してる筈だった。だが彼女がコッソリと他の女神の目をごまかして存続させた。

理由は幾つかある。この場所が気に入ってたのもあるし、拠点も欲しかったのもある。だがそれよりも、ここからだとファボールの全てが見れるのだ。

コートキュルアが最期に残した遺言、それはファボールを守ってほしいと言う願い。それを叶えるにはこの場所が必要だった。

そんな女神の庭からプロテノアは机に置かれている鏡越しにその全てを見ていた。ルシフェルとイッキリーノの戦いを、イシダンデーン神殿で怯えるアクトキュルアを、そして馬車に乗せられる幼き奴隷の少女を。

彼女は優雅に紅茶をすすりながら思う。たった一人の異世界人が入っただけでここまで運命の歯車が回るものなのかと。

彼女は考える。果たしてこれは彼のユニークスキルの転移者の効果なのか、それともこの世界がそれを望んでいるのか?


「それともこれは貴方の仕業なの?」


そう言うと、硝子の球体を指でコツコツと叩く。硝子の球体の中には光の欠片が入っており、それはフワフワと浮きながら優しく光っている。

これがプロテノアがこの空間を維持してるもう一つの理由でもある。その光の欠片は、女神コートキュルアの残光である。本来ならすぐに消えて散ってしまうだけの儚い欠片なのだが、プロテノアが保護したのだ。

この欠片が女神コートキュルアとして戻るかどうかはプロテノアにも分からない。もしかするとそれは既に只の光であってプロテノアの個人的な感傷という名の残光なのかもしれない。

それでも、彼女はここにその光を置くのである。

そんな静かな空間に突如マッチョな巨漢が入って来る。


「お!おったおった」


「あら、ハーさん。どうしたの?」


彼の名は第一世代型半神(デミゴッド)・ハーキュリー。通称ハーさん。つまり完全な神と人間のハーフ、本物の半神である。


「いやー、今なオンドリャアっていう世界で仕事してるんやけどな。まぁ、ちょっとこれ、食うてみ?」


そう言って袋から取り出されて渡される謎のチップス。それをひょいっとつまみあげて食べてみるプロテノア。


「ん~~~~~!これは、溢れる海の香りを漂わせるのに、磯臭くなく芳醇な旨みが口いっぱいに溢れたかと思ったら余韻だけ残し本体は溶ける様に消えていく・・・これは・・・ウー マー イー ゾォー !」


口からオーラを放ちながら旨いと叫ぶプロテノア。


「せやろ、せやろ、うまいやろ?」


「うんうん、ナニコレ!ナニコレ!!」


プロテノアは目から星が飛び出しそうなほどキラキラした目でハーさんを見つめている。


「これはな、オンドリャアって世界で獲れる、クーテミンオレウマイデーっていう鯰を薄切りにしてから一日干した後に、ウマミンダラケーノっていう植物の油でサッと上げた、メチャウマチョスっていう料理なんや」


「メチャウマチョス!ハァーこれホントにおいしい。もしかしてオンドリャアって美味しい物いっぱいあるの?」


「ああ、俺もついたばかりなんやけど、大抵のものは旨いで」


「ちょっと、私も連れてってよ」


「そりゃ構わんけど、ノアやん、仕事大丈夫か?」


そう言われてちらりと鏡を除くプロテノア。


「あー・・・大丈夫ダイジョブ。運命がガチで交わるのはもう少し先よ。多分ね」


「さよか、ほな、行こうか―」


そう言うと美しい箱庭から消えていく2人。

鏡に映し出された映像には、奴隷の少女が馬車に揺られながらビーイルヴェン方面へ向かっていく様子が映し出されていた。



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